ミー助との再会
私は次の日、早朝に家を出て電車に乗り、そのまま会社へと向かった。ホームの売店で雑誌を買い、それを読みながら、始発電車が来るのを待った。珍しく欠伸も出ず、頭は冴え渡っていた。昨日ぐっすりと疲れを取って眠ったことが良かったのだろう。
私は文芸雑誌のページを捲り、流行作家の連載を読みながら、妙に清々しい気分を感じた。新しいスタートを切った所為か、心はとてもクリアで、仕事へのやる気が湧いてきた。
毎日悶々とした気持ちで過ごしていた私が、こんなに肩の重みを感じることなく、職場へと向かえることは本当に信じられないことだった。美代子と付き合っていた頃はそんな清々しい気分を感じることなど全くなかったのだ。
私は雑誌を仕舞い、サラリーマンの列の中程から周囲を見渡した。これから職場へ向かう人々で埋め尽くされていたが、それでもこれから来る電車が準急だった為、並んでいる列は長くはなかった。
そこでちょうどアナウンスが流れ、電車が到着するということだった。私は鞄を握り直し、乗車する準備を始める。程なくして電車がホームへと滑り込んできた。その刹那、何か黒い影がすっと電車に向かって歩き始めたのがわかった。
そこで電流が走るような感触があった。私は何故かその影を確認したいという衝動に襲われ、鞄を落として、その人影を目で追った。
その長身の影はそのまま線路へと飛び込もうとしていた。私はその焼けつくような感情に揺れ動かされ、咄嗟に地面を蹴って、その男の元へと駆け寄っていた。
電車がすぐ目前に突っ込んでくる。男の顔がちらりと見えた気がした。その角ばった顎や細長い額に、外国人を思わせる彫りの深い顔……。その目は血走っていて、唇は微笑みを浮かべていた。
私は何か声を上げながら彼の横へと飛び跳ねて、肩をつかみ、ホームの内側へと引っ張った。私と彼はもつれ合いながらホームに倒れ込み、私は必死の想いで彼を地面に押さえつけた。
「何するんだよ!」
彼が唾を撒き散らして、絶叫する。私はもがき続ける彼を必死に腕で抑えつけ、落ちつけよ! と叫んだ。
「おい、三和!」
私の言葉に、その男の身動きがすぐに止まった。彼は食い入るような目で私の顔を凝視し、そしてつぶやいた。
「お前……穂積、か?」
彼は目に薄らと涙を浮かべ、ボサボサになった長髪を揺らしながら、啜り泣き始めた。鼻筋を手でつかみ、涙を流れるままにして泣き続けた。
私は彼の背中に手を当てて、立てるか? と言った。三和はうなずき、ふらつきながらホームの隅へと移動した。




