すべてを忘れて、スクリーンの中へ
野崎はそう言って、どこか自慢げにふんと鼻を鳴らした。私はそれ以上ツッコミを入れるのをやめ、映画のスクリーンへと視線を移した。
「あたしさ、あんたが今どうしてるのか、少し気になってたんだよ」
野崎が私の顔をおかしげにじっと見つめて、ふと言った。
「あんたって、同窓会にも顔出さないしさ、いつもいつも一人でいることが多いんじゃないかって思ってたんだ。今でもずっと孤独感じてるのかなって」
「失礼なこと言うなよ。私にだって、恋人ぐらいいるよ」
言ってからあの手紙の内容を思い出して唇を引き結び、俯いてしまう。今の私にはもう本音をぶつけ合う友達も、常に一緒にいることができる恋人もいないのだ。本当に、“孤独”なのだ。
「はあ……あんた、もうその彼女と別れたの?」
「悪いか? お前にそれを言われる筋合いはないだろ」
私はそう言って拳を握り、膝の上に叩きつけるようにして置いた。私だって、好きで彼女と別れた訳じゃない。相手が別れを切り出している以上、私が何かを言って関係を続けても、意味がないと思ったからだ。
でも、本当にそれでよかったのか?
「馬鹿だね、あんたは。痩せ我慢して、自分を苦しめてさ。そんなに意地張る必要もないのに」
私はうるさい、と言葉を零そうとしたが、そこで野崎が私の拳を握って、指の一本一本を開かせてただの掌に戻した。
「もう終わったことじゃない。さっさと嫌なこと忘れて、黒澤先生の恩恵に預かりなさい」
彼女はそう言って、思いっきり背中を叩いてきた。私は激しく咳き込みながら、なんだよ、と毒づく。
野崎は私へとじっと穏やかな笑みを向けていた。その心を包み込んでくるような優しい表情に、私の固く凝り固まっていた心が溶けていくのがわかった。
こいつ、こんなに顔一杯で笑う奴だったっけ?
ふとそんなことを思ってしまうほど、彼女の笑顔は優しさに満ちていた。
「ほら、映画始まるわよ。目をこじ開けて、偉大な巨匠の作品を見るのよ」
シアターが暗くなっていき、彼女の横顔だけがライトに照らされて、浮かび上がっていた。そこには高校時代には一度だって見せたことのない、彼女の本当の顔が現れていた。
何だよ、こういう奴だったなら、さっさと素直に心を開けばいいだろうが。
私は少し悔しい気持ちと、ほっとした気持ちを抱きながら、ふと笑い、スクリーンへと視線を向けた。
幕が開き、そこから新たな物語が始まる。私と野崎はその中へと否応なく吸い込まれていく。
運命は、回り出した。




