ナイトショー、かつての同級生と
私はシアターへの入場が始まると、烏龍茶のペットボトルと小さなパンフレットを持って中へと入った。なかなか観客の数も多く、賑わっていた。盛んな話し声が響き、七人の侍の劇中で使われている音楽がずっと流れていた。私は一番前の端の席に腰を下ろし、右上のスクリーンをじっと見つめた。
周囲へと視線を向けると、年配の人や家族連れが多く、若いカップルもちらほらと見受けられた。彼らは一様に笑顔で話し合っていて、年配の人々には興奮した表情が浮かんでいた。おそらく昔の懐かしい思い出を頭に思い浮かべて心を弾ませているのだろう。
私はパンフレットを取り出してそれを眺めた。そこには支配人の映画に対する大きな情熱が惜しみなく籠められていた。映画の簡単なあらすじ、見どころなど、私の興味を惹く内容が書かれていた。菊千代の巨体が写真一杯に載っており、それを眺めていると、久しぶりに映画を楽しめそうな気がした。
シアターには通路が二つあり、席が三つに区切られていた。スクリーンはそれほど大きくないが、それでも音響がとても良かった。シートは古かったが、それでも座り心地はなかなか悪くなかった。
私は早く始まらないだろうかとパンフレットを何度も読み返していたが、そこで背後から誰かが通路を降りてくる小さな足音が聞こえた。私は何気なく振り向き、その女性を見つめた。彼女は左右へと顔を振り向け、どこへ座ろうかと考えているようだった。
私はその細面の顔を見て、あっと声を上げそうになる。鋭い角度で曲がったその細い眉、ぱっちりと水晶のようにきらきらした瞳、ざくろの色をした鮮やかな唇……頭の後ろで一括りにした長い茶髪や、モデルかと見間違うようなその容姿……。
それほどまでに見た目が可憐であるのに対し、彼女の纏う雰囲気はどこか荒んでいた。服装も派手で、豹柄の服がどこか、野生の虎を想像させた。
私は唇を噛み、慌てて顔を反対側へと振り向けた。しかし、その仕草があまりにもわざとらしかった。そこでその女性がこちらに振り向くのが気配でわかった。その瞬間、「あーーっ!」と仰天したような声が上がった。
「穂積じゃない! どうしてこんなところにいるの!?」
女性はそう言って私の隣へと駆け寄ってきて、顔を覗きこんできた。私は頭を掻き毟りたい衝動を堪えつつ、そっと女性へと振り向き、「えっと、どちら様ですか?」と首を傾げた。
「とぼけるんじゃないわよ。ほら、高校で同じ文芸部だった野坂よ! 覚えているでしょ?」
「野坂、野坂……いや、ちょっと覚えていないなあ」
私が腕を組み、顔をしかめて唸るような声を上げると、野坂が眉を吊り上げ怒ったような顔をし、私の手首を捻り上げた。私は悲鳴を上げて、「嘘です、ごめんなさい」と叫んだ。久しぶりに会ったのに、手を捻り上げる女がどこにいるんだよ。
「あんた今、久しぶりに会ったのに腕を捻り上げる女がどこにいるんだよ、って思わなかった?」
「思ってない、思ってない! 馬鹿、いい加減離せよ、“野坂”!」
すると、野坂はどこか満足そうにうなずいて、私の隣に腰を下ろした。勝手に私の烏龍茶のペットボトルを取り上げて、それをぐいぐいと飲んだ。
「相変わらずだな、お前は」
私が嘆息しながらその飄々とした横顔を見つめると、野坂は何故か上機嫌な様子でペットボトルを戻し、久しぶりね、と囁いた。
「あんたこそ、相変わらずね。見た目も平凡だし、個性というものが全く感じられない」
「お前の個性が強すぎるんだよ」
「今、なんか言った?」
言ってない、とすかさず答えて、彼女から身を引かせた。
「なんでまた、七人の侍を観に来たんだよ。まだこの辺に住んでいるのか?」
「あんたはどうなの?」
野坂はすかさずそれに問いを返してきた。私は自分がこの近辺のマンションに一人で住んでいることを話した。
「あっそう。私も割とここから近くに住んでるんだけど、今日一人でぶらぶらしてたら、私の好みの映画がやってるから、それで来たの。悪い?」
「お前、そういう趣味があったのか? あんだけ学校で暴れて、それなのに芸術にのめりこんでたりしてたのかよ」
「だって私、奏といつも一緒にいたじゃん。あの子から色んな映画のDVD渡されて、見てたんだから」




