青春、記憶の断片、微かな予感
私が高校生だった頃、当時夢中になっていた女の子が文芸部に在籍していることを知り、迷わず入部した。結局、その人に告白できなかったけれど、それでも放課後、読書しながら雑談などをし、だらだら過ごす時間は本当に満ち足りたものだった。
彼女の名前は美硯奏と言って、才色兼備の注目の優等生だった。いつも明るく誰に対しても気さくに接し、男女関係なく言葉を投げかけてくれる人だった。
そんな彼女を慕って、クラスでは一目置かれる存在だったし、憧れることがあったとしても、近づくことなどできないと思っていた。だが、元々入ろうと思っていた文芸部に彼女が入部したと知った瞬間、私は彼女と時間を共にしたいという欲求に駆られたのだ。
退屈な毎日に何か熱い情熱のようなものを混ぜて、何か違った自分になりたいと考えたのだ。それで思い切って入部届を出した。
美硯奏は見た目通りのとても心優しい少女で、口数の少ない私に対しても他の人と同じように接し、私が部室で一人本を読んでいると、必ず一人にはしないように話しかけてきてくれた。
私はそんな彼女の優しさに、一層彼女への憧れが強まり、同時に少しだけ疎外感が大きくなったのを感じた。私は結局彼女にとってただの同級生で、同じ部員であるというだけで、他に特別な感情など全く抱くはずなどなかったのだ。
私は彼女と話しながら、そんな想いをいつも抱きながら、高校生活を送っていた。しかし、私は単に臆病になって、彼女にアプローチをかけることができずにいた訳ではなく、彼女の周りにはいつも、ある五月蠅い(・・・・ ) 女がついていたからだ。
野坂美由紀という女子生徒で、一言でいえば、不良だった。髪を金色に染め、いつも周囲へガンを飛ばしている。そんな彼女が文芸部に所属する理由は、美硯奏がいる、ただそれだけだ。彼女は美硯のことを愛玩動物か、妹、もしくは恋人とさえも思っていたからもしれない。
いつもいつも彼女は私が美硯と話していると、側にぴったりと付き、私のことをからかってくる。私は鬱陶しかったが、彼女とトラブルになるのも嫌だったので、適当に相槌を打ってその場をやり過ごしていた。
そんなどうでもいい青春生活を送ったのだが、今でも美硯とその不良、野坂のことは印象に残っている。今、どうしているのだろう、と思うが、きっと美硯は大手企業のOLに、そして野坂は番長ぐらいにはなっているだろう。
そんなことを考えながら、私は文庫本を閉じ、七人の侍を観賞することにした。




