初恋の人
その日の夜、私は本当に奇妙な心持ちで、その駅を訪れたのだった。周囲にはカップルや家族連れの姿で溢れ返っていて、それは街に押し寄せる洪水のようだった。それほどまでに賑やかな声が終始飛び交っていて、私は少し船酔いした気分でその駅前広場へとやって来た。
三角錐のモニュメントが中央にそびえ立ち、その周りにベンチが点在していた。どこも人々で埋まっていて、私は順に見て回ったが、そこでふと、見知った姿に気付いた。野坂だ。
「おい、野坂。お前、早いんだな」
そう言って苦笑しながら近づいていったが、その瞬間――私の心臓が飛び跳ねかけた。
そこに座っている一人の女性。ふわふわの栗色の髪は長く、カールを巻いていて、彼女の上品な雰囲気と良く合っている。今時の女性らしい可愛らしい服装をしていて、フレアスカートから覗いた足は折れてしまいそうに細かった。
どこか儚げな印象さえ抱かせるそのすらりと細い肢体を見つめていると、私は持っていた鞄を振り落しそうになってしまった。
「みすず、り……」
思わず掠れた声が零れ出る。野坂がすぐに気付き、「遅かったじゃない!」と三十分前に到着した私に向けて、荒々しく怒鳴った。そうしてその人がゆっくりと振り向いた。
そこに浮かんだ表情は、懐かしそうな、慈しみに溢れたものだった。彼女はすぐににっこりと笑い、軽く頭を下げてきた。
「久しぶりだね、穂積君」




