夜の公園、涼しい風
私の携帯に、その夜ミー助からの着信があった。私は仕事帰りで疲れていたものの、彼からの電話があったことに少なからず安堵した。もし何の連絡もなかったら、心配で夜も眠れなくなっていたかもしれない。
彼は一言、会いたい、と私に言ってきた。
私は彼を自宅まで迎えに行くことにした。幸い彼の現在の住所はそう離れている訳ではなく、車で三十分あれば着く距離にあった。
ミー助は公園のブランコで一人ぼんやりと座っていた。宙を見上げて、何かをずっと考えているようだった。その表情は蛍光灯の明かりによって浮かび上がり、どこか青ざめていた。しかし、ホームで見た表情よりかはまだ救いがあるような気がした。
「ミー助。来たよ」
私が手を上げて合図すると、ミー助はぼんやりとした顔のまま、少しだけ微笑んだ。
「悪いな。こんな遅くに呼び出したりして。仕事で疲れてるだろ?」
「大丈夫だ。昨日ゆっくり休息を取ったし、ミー助と話せるのは嬉しいからな」
そう言って私はミー助の目の前に立ち、缶コーヒーを差し出した。ミー助はサンキュ、と受け取りながらうなずき、プルトップを開いた。私は缶コーヒーを一口飲みながら、改めてミー助の顔をじっと見た。
彼の顔は少しだけ青白さが消え、慟哭しているような表情から感情を出し切って楽になったような微笑みへと変わっていた。ミー助はボサボサになっている頭を掻き、宙を見上げて大きな息を吐いた。
彼の視線は空の上で輝く月へと向けられており、色々なことを思い返しているようだった。
「喫茶店に行こう。私の行きつけのところがあるんだ」
私がそう言って歩き出すと、ミー助は立ち上がって、私の半歩後ろを歩き出した。
「昔もこうして一緒に夜道を歩いたことがあったよな」
私は住宅街の片隅にある小さな公園を見回しながら、涼しい風が木々の葉を揺らす音を聞き、ふっと頬を緩めた。
「そうだな。今でも覚えているよ。穂積が俺を立ち直らせてくれたんだよな。今でも感謝しているから」
ミー助はそう言って、よれよれのスーツのポケットに手を入れて、そこで初めて屈託ない笑顔を見せた。
「俺が他の生徒に顔殴られて泣いてた時に、連絡先だけ渡してきたんだよな。いつでも俺を頼っていいからって。初対面なのになんでだろうって思ったけど、なんかそれで俺も泣くのをやめたんだ」
ミー助は細長いその体を折って笑い、缶を煽った。
「それから俺もお前に誘われて文芸部に入って、本当に楽しい学生生活を送ったよ」
ミー助はそこまで語り終えると、ふと立ち止まって、私へと体を向けた。
「少しだけ待っていてくれるか?」
私は小さくうなずいて、彼に背中を向けた。すると、彼が顔を腕で擦っている音が聞こえた。鼻を啜っているようだったが、数十秒で「もういいよ」と声が聞こえた。
「さて、行くか。そう言えばお前と飲むのは初めてだったな」
ミー助はそんなことを言って、歯を覗かせて笑った。その表情はミー助がよく高校時代に見せていたやんちゃなガキのそれだったので、私は思わず笑ってしまった。
そうして私達はレクサス・RXのレッドに乗って、夜の街を突っ切っていった。




