第3話 三兄弟
「いらっしゃい、アスカ」
屋敷の中へ入ると、まず大きな玄関ホールと二階へ続く広い階段。
そこにはジョーカーがいた。
「さて、ゲームのルールを説明する前に……一応、私は自己紹介をしよう」
「ジョーカー………意味は道化師?」
「そう、私は魔法使いだけどね。
あ、そして君をこの世界に連れてきたのも私だ」
やはり、彼が連れてきたのか……
え、連れてきた?
ということは、私は死んでるってこと……?
「だから君は死んでないよ。
今の君は簡単に言えば……そう、魂の状態」
「魂?」
「そうだよ。
君の身体が死んでしまう前に、私が君の世界の時間を止めて魂だけを持ってきたんだ」
「じゃあ、身体は……」
「あっちの世界だ」
……今の私は魂…
じゃあ、幽霊ということだろうか?
「大体合ってる。でも本物の幽霊ように透けたり浮いたりは出来ない」
なるほどね。
さっきテトルフに触れられた時に貫通はしていないから、何となく分かっていた。
というか、ジョーカーは確実に人の心が読める。
私は多分声に出して話していないし、何よりあの笑顔がそれを証明してる。
たしか、彼の設定は…どんな願いも叶えることができる魔法使い。
…………私の世界の時間を止めて、さらに魂だけを持ってきた…
彼は紛れもない、本物の魔法使いだ。
「……そして君に、私からオプションをプレゼントしたんだよ」
「オプション?」
「目覚めてから、君は一度も倒れていないよね?」
「……あ…」
そうだ、このゲームの世界に来てから――――私は一度も倒れていない。
いつもの私であれば、倒れていてもおかしくはないはず。
「……過剰な運動はできないが、《普通の生活に支障がない》。
これが私のプレゼントだ」
「普通の生活……」
「病室の君を見て、私は深く哀しんだ……
だから、チャンスを与えるためにこの世界へ連れてきたんだよ」
チャンス。
それは、彼が作った『犯人当てゲーム』のことだろう。
「そう。
ただ死ぬよりも、チャンスがあって死ぬ方が楽しいだろ?」
「……結局、死ぬかもしれないのね」
「それは君次第さ。
……さあ、ゲームのルールを説明しよう」
ジョーカーが、パチンと指を鳴らす。
同時に、三人の青年が目の前の広い階段に現れた。
一人は何故かフライパンを片手に上機嫌に笑う。
一人は可愛らしい猫耳のフードを深く被りながら読書をしている。
一人は仁王立ちで私をまるで獲物のように見つめてくる。
たしか、彼等もパッケージに写っていた。
しかも大きく写っていたはず……つまり、重要キャラクター。
そして、そんなバラバラの三人の青年が音もなく現れるなんて………
――――これも魔法、だろうか?
「まず、君にはこの中から《正直者》を当ててほしい」
「正直者ね……」
「期限は一年。正解すれば私がどんな願いも叶えるよ」
「外れたら何があるの?」
「死ぬ。
正直者以外は殺戮が大好きで、異世界からやってきた君を殺したがっているからね」
「殺人鬼?」
「この世界では、日常茶飯事さ。
人を殺めても法律には影響がない」
……日常茶飯事…。
つまり、あの三人の内の誰かが正直者で、残りはただの殺人鬼?
「ここで君が死んでしまったら、あちらの世界の君も死ぬからね」
「……ふーん…」
「ちなみに嘘つき達の性格も歪んでいて、相手が友人や恋人レベルまで親しくなった時に殺すのが好きらしい」
「……悪趣味」
「それが嘘つき達の一種の娯楽」
親しくなった人を殺めるだなんて、悪趣味すぎて怖い。
きっと信じていた相手に殺され、悲しみに歪んだ表情を見るのが好きなんだろう……。
「あぁ、執事やメイド達……これから住むことになる君はゲームの対象外だから、間違っても選んではダメだよ」
つまり、テトルフは無関係ってこと。
……正直でもいい、嘘をついてもいい…
それなら、テトルフが私に言っていた「可愛い」等の発言は嘘かな。
というか、嘘に決まってる。
「……さあ、それはどうだろう?
それじゃあ三兄弟に自己紹介をしてもらおうか」
チラりとジョーカーが、階段に立つ三人を見る。
三人は互いの顔を見つめ、誰が先に言おうか話し合っているようだ。
そして、ある青年が階段から軽やかなステップで降り、私の前にやってきた。
――――――フライパンの青年だ。
「はっじめましてー!!
俺はハルトって名前で、趣味は料理で好きな言葉はタイムセールと大バーゲン!!!!」
「は、はあ……」
「美味しいご飯とキミへの愛で、これから毎日キミの胃を潤してあげるよ!!!」
「キラッ☆」と効果音が出そうな勢いで、フライパン青年――――ハルトが決めポーズを決める。
……イケメンはフライパンさえも演出道具にしてしまうのか。
ハルトはポーズを決めたまま、爛々と目を輝かせながら私を見つめる。
「どうどう?
俺に惚れた?」
「……いや、えっと…」
はっきり言うと、ドン引きしてます……
しかし、そんな私の気持ちに気づかないハルトは、私にぐいぐい詰めよってくる。
「なあなあ、惚れた?
惚れたよな?」
「いや、だから……」
「ドン引きしてんだろうがよ、馬鹿ハルト」
「うおっ!!?」
……ハスキーボイスと共に、私の前にいたハルトが横に倒れる。
私の気持ちを代弁してくれたのは、先程のガン見された青年だ。
「痛ってて……ナツ痛い!!
素敵なお兄様への暴力反対!!!!」
「素敵……ハッ」
若干青ざめながら震えるハルト。
そんなハルトを見ながら嘲笑う――――ナツ。
そうだ、彼は俗に言う《俺様系》ナツだ。
俺様系というと仕事をせずに命令ばかり……なんて印象はあるけれど、彼の場合は『仕事をする俺様』だった気がする。
私がじっと見ていると、ナツは鋭い目のまま私の方へ視線を向けた。
「……っつーことで、俺様はナツ。
お前は黙って俺様の女になりやがれ」
ビシッとナツが私を指をさす。
いや、何でそんな結論になった。
「ちなみに拒否権はない。
良かったな、俺様が一生可愛がってやるよ」
「拒否権無しだなんて……ん?」
「………………」
ふと、服を引っ張られる感覚がしたのでその方へ振り向く。
そこには、私の服の端を少しだけ引っ張る猫耳フードの青年がいた。
……可愛い。
「……ユキ…………好き、よろしく」
「うん、よろしく!!」
服を引っ張るのを止めた猫耳フードの青年――――ユキが単語だけの言葉を告げ、柔らかく微笑む。
それにつられ、思わず私も微笑んだ。
…彼は可愛い……
彼なら仲良くなれそうな気がする…!!
「あー!!!!
抜け駆けしないでよ、ユキ!!」
「…………うっさい…ハルト兄さん」
「今のうちに吠えてやがれ。
アイツはもう俺様の女だからな」
……大声でハルトが叫び、それを邪険するユキ。
どや顔のナツが、私的には腹が立つのだが……
「……さて、あの子達の喧嘩はまだまだ続くから、その間に君の部屋に案内する」
「…………うん、お願い」
三人の横を通り抜け、階段を登るジョーカーについて行く。
……さて、誰が正直者だろうか?
今の時点では選べないが、仮説を立てる必要がある。
とりあえず、部屋に着いたら考えよう。
...to be continued...