第2話 いざ行かん、屋敷へ
……そういえば、最近「トリップ系」とか「転生」とかっていう小説を見たことがある。
もしかして、今の私の現状は…先ほど挙げた言葉のどちらかなのだろうか?
「……貴女は、お客様なのですか?」
私を抱きしめていた男がそわそわとしながら、私に恐る恐る問う。
正直、私がジョーカーの言う『お客様』なのかは分からないが、ここで否定すればまた死の危険が迫ってくるような気がしたので、黙って頷く。
それを見た男はすんなりと私を解放して立ち上がり、深々とジョーカーに向かって頭を下げる。
「………ジョーカー様、申し訳ございません。
てっきり不審者かと思いましたよ……最近は物騒ですからね」
「頭をあげてくれ、テトルフ」
――――そうだ、思いだした。
私を抱きしめていた男の名前は、テトルフ。
この男もまた、ゲームのパッケージに写っていたはず。
たしか公式サイトの情報だと、紳士的な外見とは裏腹で妖艶に主人公を言葉で責めてくる……なんて書いてあった気がする。
やはり、ここは『ゲームの世界』らしい。
しかも、私が多分死ぬ前にやろうとしていた……
「アスカ…まだ、君は死んでいない」
「…え……また、声に出てた…?」
「いや、違う…表情に出てるよ」
どんな表情だ、私。
というか、何故ジョーカーは私の名前を知っている?
………まあ、とにかくまだ死んでいないと分かり、ホッと少しだけ安心する。
「……それでジョーカー様、このお嬢様は何の御用で来たのです?
見たこともない服装ですし……」
テトルフが私の制服を、食い入るように見つめる。
その目や表情からは、先ほどのような狂気を感じず……寧ろ好奇心やら興味といったものを感じた。
やがてジョーカーがテトルフに向かい、小さく笑った。
「彼女はプレイヤー。つまり《ゲーム開始》を意味しているんだ」
「……プレイヤ…!!!
……これはこれは……ですから、銃一つであんなに怯えていたのですね」
テトルフはジョーカーの言葉に一瞬目を丸くした様子だが、すぐににっこりと笑って私の前に跪く。
「お初にお目にかかります。
オレは、あちらに見える屋敷の執事であるテトルフでございます」
「え、えと……私は、波川飛鳥」
「アスカお嬢様ですね。これからよろしくお願いいたします」
跪いたまま、律儀に挨拶をするテトルフ。
イケメンに跪かれるだなんて、何て美味しい展開だろうか。
……い、いや、ちょっとだけ落ち着こうか私。
知らなかったとはいえ、テトルフは私を殺そうとしていたのだ。
いくらイケメンだからって、油断大敵だ。
「……さて、アスカ……早く屋敷へ行こう。
私は早く君とゲームがしたい」
ジョーカーが私にそう言い、背を向けてあの大きな建物へと向かう。
どうやら、あれが屋敷らしい。
さらに、私は《ゲーム》をしなくてはいけないようだ。
恐らく――――推理ゲームを。
「ご案内いたしますよ、アスカお嬢様」
「あ、ありがとう」
いつの間にか立ち上がっていたテトルフが、私の手を優しく引っ張って歩き出す。
「………」
「………」
私の一歩前を歩くテトルフを、黙ったままじっと見つめる。
否、テトルフの髪を見つめている。
ゆらゆらと歩く毎に揺れる、まさに尻尾のような髪。
「………オレの背中に惚れました?」
「いいえ」
歩きながら、ちらりとテトルフが私を見る。
その動作で、さらに彼の尻尾のような髪は揺れる。
ゆらゆら、ゆらゆらと。
「……では、どうして見つめるのです?」
「……髪の毛を…」
「あぁ……そういうことですか。
オレ、こう見えて髪の手入れには力を入れていますからね。髪はある内に美しく……」
「引っ張りたい」
「………はい?」
テトルフの唖然とした声が聞こえたが、私は既に彼の尻尾のような髪をガシっと掴んでいた。
流石に引いているのか、笑みを引きつらせながらテトルフは私と手を交互に見る。
「あ、えと……アスカお嬢様?
一体何をなさ………」
「この手触り……!!!
すごい、すごいわ!!!」
「い、いや、ですから手入れには力を入れ……っと、引っ張らないでください!!」
歩いているからそう感じただけで、私はそこまで引っ張ってはいない。
それにしても、この髪の毛は本当に尻尾のように柔らかくてさらさらだ。
まるで女の子のよう……
「さ、先ほどの殺害未遂の件でお怒りでしたなら、本当に申し訳ないと思っています……
ですから、手を放してくださいませんか……?」
「…分かったわよ…」
名残惜しいが、テトルフがあまりにも必死なので仕方がなく手を放す。
正直、残念だ。
「テトルフ、また触らせてね?」
「…引っ張らないのであれば……
それにしても、ここまでオレが防戦になるとは初めてですね………」
どことなく疲れ切った口調で言っているせいか、私はあまり聞き取れなかった。
とりあえず、引っ張らなければ可能ということが分かったので、今度触らせてもらおう。
* * * * *
「アスカお嬢様……はい、着きましたよ」
「…っ……大きい……!!!」
暫くすると、屋敷の入り口までたどり着いた。
やはり大きい。
ここでゲームが始まるのか。
「さあ、お入りくださいませ。中でジョーカー様がお待ちしています」
「テトルフは来ないの?」
「オレはまだ仕事が残っていますので、終わり次第行きますよ」
「そう……」
「おや、寂しいのですか?
――――やはり可愛いですね」
クスッとテトルフが笑みをこぼし、私を見つめる。
いや、別に寂しくないのだが。
とりあえず、私は屋敷の門をくぐり、中へと進んでいく。
この時点で、私が彼等のゲームに参加することは義務付けられた。
それは私の記憶が正しければ……《生と死を賭けることになる危険なゲーム》。
少々躊躇いはあるが、私はジョーカーと会って詳しい話が聞きたい。
それに、本当にどんな願いでも叶うのであれば、私は――――
「……ゲーム開始、ですね」
私の背中を見つめながら、小さな声で執事は呟いた。
...to be continued...
素晴らしい位に執事贔屓な気がしますね←
つ、次こそはメインが出てきますよ!!!はい!!
最後まで読んでくださり、ありがとうございましたー!!!