【全て正直に話す】
自室へ着くと、既に部屋にはテトルフが居た。
テーブルの上に二人分のカップがあり、テトルフは床に正座をして私を待っている。
「丁度良いタイミングですね。
たった今、紅茶の支度が整いましたよ」
「テトルフ、もう来てたの?」
「はい、そうですよ。
それではお嬢様、テーブルの前にお座りくださいませ」
言われるがまま、私も床に座った。
テトルフは慣れた手つきで紅茶を飲んでおり、私もカップに手を伸ばす。
ベージュ色の紅茶がカップに入っている。
ミルクティーだろうか?
じっとカップの中身を見つめていると、テトルフが口を開いた。
「本日はシーズンであるアッサムティーにミルクを加え、少し甘いミルクティーを作りました。
ちなみにオレが厳選した茶葉ですよ」
「美味しそうだね」
「この時期のアッサムとミルクの組み合わせは、とても美味しいのです。
お話をしながら、ゆっくりと飲んでくださいませ」
にっこりと微笑むテトルフ。
――正直に話そう。
嘘をついたってバレてしまいそうだし……何より、テトルフに嘘をついてはいけない気がする。
紅茶を一口飲み、私はテトルフを見つめた。
「まず、あの場所は――――」
全部話した。
本物そっくりの手が無数に飾られた空間、ユキの隠していた趣味……そして、ユキが《嘘つき》だと知った事も。
私の話をテトルフは真剣に聞いてくれた。
時々、驚いたように目を開いたが……話している最中は決して口を挟まなかった。
ようやく話し終わり、私は一息つく。
「とても驚きました。
未だに、頭の中で整理が出来ていませんが……」
「私も知った時、凄く驚いたよ」
「ユキ様の趣味にも驚きましたが、何よりも自身から言ってしまった事に驚いています」
「やっぱり、言っちゃ駄目な事なんだよね?」
「当然ですよ。
ゲームのルールで説明されなかったとはいえ、タブーですね」
小さくため息をついて、テトルフは紅茶を少し飲む。
――タブーと言う事は、ユキに何か罰があるのだろうか?
「テトルフ、ユキに何かするの?」
「…………オレ自身はユキ様に何もしません。
しかし、オレがジョーカー様にこの話を伝えてしまうと、恐らくユキ様……いや、お嬢様も含めて……」
それ以上は言わなかったが、何となくその先は分かる。
きっと、始末されてしまうのだろう。
……そんなのは嫌だ。
「やっぱり、こんな内容じゃ見逃せない……?」
「……少し……数分ほど、考えさせて下さい。
いくらお嬢様やユキ様が大切な方であっても、オレの雇い主はジョーカー様で……」
テトルフは顔に手を当て、何かを考えるようにブツブツと口を動かす。
私はただ、テトルフがどんな結論をするのか待つだけだ。
それから数分後、顔に当てていた手を自身のジャケットの内ポケットへ移動させた。
たしか、そこには拳銃があったはず。
――――――まさか、この場で……?
「こ、ここでするの……!!?」
「……おや、オレが何をしようとしているのか知っているようですね。
そうですよ、ここでします」
にっこりと微笑み、内ポケットからゆっくりと手を引き抜く。
そして、テトルフの手には拳銃が――――
「………………何、それ?」
――――拳銃は握られていなかった。
それどころか、もっと可愛らしい物を握っていたのだ。
あれは……飴玉の包み紙、だろうか?
唖然としていると、テトルフは首を傾げる。
「……何故、そのような顔をされているのです?
まさかオレが何をしようとしているのか、知らないのですか?」
「いや、てっきり拳銃で私を……」
「そんな事はしませんよ。
もっと簡潔な方法を思いつきましたから」
ビリッと音を立て、包み紙を破る。
そこから桃色の飴玉を取り出し、テーブルの上に置く。
この飴玉が、テトルフの言う《簡潔な方法》?
「こちらはお菓子の飴玉……そっくりの薬ですね」
「薬?」
「はい、これを食べた者は記憶を失くす事ができます」
「記憶を失くす……そんな薬をどうして持ってるの?」
「お嬢様の世界の事は知りませんが、こちらでは普通に売られていますよ」
飴玉を見つめながら、テトルフは「まあ、少々値段が張りますけれど」と付け足した。
私が聞きたかったのは、どうしてそんな物をテトルフが持っていたのかと言う事だが……もしかして、聞かない方が良いのだろうか?
「その薬って、どれくらい記憶を失うの?」
「摂取量によって違います。
全部食べると、全部の記憶が失われますね」
「そんなに強力なんだ……」
「はい、そんな強力な薬をオレが飲みますよ」
「――――――テトルフが……?」
何故、私ではなくテトルフが飲むのだろう?
理由が分からない。
そうこうしている内に、テトルフは飴玉を手で粉々に割り始めた。
「――――よく聞いてくださいね、お嬢様」
「……何?」
「ユキ様は昔から《子供らしくない子供》でした。
自分が欲しいと思っても決して口に出さず、周囲の目や反応を窺っていて……自身の感情のままに行動した事は僅かしかありません」
「……」
「そんなユキ様が、お嬢様に生きてほしいと……何より、ユキ様自身の事を知ってほしいと思ったから、危険を承知で行動したのです。
それなのにお嬢様が忘れてしまっては、本末転倒ですよ?」
「そう、だね……」
「ですので、オレはそんなユキ様の勇気を――踏みにじる事は絶対にしたくありません」
粉々になった飴玉を僅かだけ手に乗せ、テトルフはハッキリと言った。
「これを食べた後、恐らくオレはユキ様の部屋へ向かう前の事以外、忘れてしまいます。
その場合、オレがお嬢様の部屋へ居る理由を尋ねたら《一緒に紅茶を飲もうと誘った》とでも言ってください」
「分かった。
……その、ごめんね?」
「いえ、気にしないでください。
それでは――――」
その後、テトルフの予想通り……自身が私の部屋へ居ることを驚いていた。
理由を聞かれたので、ちゃんと言われた通りに言うと、首を傾げていたが最後は頷いてくれた。
――――多分、自身の目の前にミルクティーがあったからだろう。
疑われなくてよかった。
そして、あっという間に何日か過ぎ……
気付けば六月が終わり、七月になっていた。
...to be continued...
選択肢成功です。
次章へ行けますよ!!!
……こんな感じに[Select Episode]をやっていきます。