第48話 二十日
――ついに、この日が来た。
「……二十日……」
自室のベッドの上に座り、今日の日付を呟く。
六月二十日。
今日は、ユキと会う約束をしている日だ。
時間帯はいつでも大丈夫らしいが……何時に行こう……。
首を傾げながら考えていると、扉が控えめにノックされた。
……テトルフだろうか?
「テトルフ?」
「ふふっ、私はローズですわ」
「あれ、ローズ……?」
部屋に入ってきたのは、ローズだった。
手には紙とペンを持っている。
……何の用だろう?
「ごめんなさい、ローズ。
いつもはテトルフだったから……」
「あら、何も伝えられていませんの?
今日……テトルフ様とジョーカー様は外出なさってますわよ?」
「え、そうなの?」
「そうですわ。
バンブーツリーの下見に行ってますの」
「バンブーツリー?」
「ふふっ、言い方を変えますわね。
二人は七夕で使う笹を下見に行ってますわ」
七夕の笹の事をバンブーツリーと言うらしい。
ローズは少し困ったように笑い、私に説明してくれた。
――――それにしても、今日はジョーカーもテトルフも居ないだなんて……。
「六月になってすぐ、ナツ様が《今年は本物じゃなきゃ駄目だ》とジョーカー様に言いましたの」
「六月に……?
一ヶ月前から言ってたってこと?」
「えぇ、そうですわ。
そしてナツ様の意見に、ハルト様もユキ様も賛成したので……《二十日に下見をしてくる》とジョーカー様とテトルフ様が仰いましたのよ」
「……六月の、二十日?」
「今日の事ですわね。
それがどうかしましたの? お嬢様?」
ローズが私の顔をじっと見つめて、首を傾げる。
目が合ったので、私は首を横に振った。
――――偶然だろうか?
ユキが指定した日に、ジョーカーもテトルフも居ない。
そして誰にも聞かれてはいけない、大事な話。
やはり、それは正直者に関する情報なのだろうか?
暫く無言だったが、ローズが何かを思い出したかのようにポンと両手を叩く。
「……あら、そうでしたわ……。
お嬢様、急に話が変わりますけれどメロンはお好きでございます?」
「普通だけど……どうして?」
「先程ジョーカー様が取引をしている相手から、メロンが送られましたの。
私は、お嬢様がメロンを食べられるのかを聞きに来ましたのよ」
そう言いながら、ローズは紙に小さく丸印を書いた。
「では、後でメロンを切り分けて持ってきますわね」
「ありがとう、ローズ」
「ふふっ、どういたしまして……ですわ。
ちなみに長時間部屋から出る予定はございますか?」
「え、あ……ううん、無いよ」
一瞬、ユキの部屋に行くことを伝えかけたが……何とか耐えた。
ローズはにこにこと微笑みながら、ゆっくりと頷く。
「安心しましたわ……肝心のお嬢様が部屋に居なかったら、切り分けた一部のメロンが痛んでしまうかもしれませんもの。
さて、私はそろそろ失礼致しますわね」
「うん、また後でね」
「えぇ、また後で会いましょう」
そう言って、ローズは部屋から出て行った。
――ユキの部屋へ行くのは、メロンを食べ終わってからにしよう。
もしも食べる前にユキの部屋へ行き、すれ違いでローズが部屋に来てしまったら駄目だ。
そして私は、ローズがまたここへ来るのを待つことに決めた。
...to be continued...
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次回は極力、早めに更新しますっ。