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第47話 仕返しは×××で

「ふんふふーん……♪」


「あ、あの……ハルト、本当に《それ》を渡すの?」


「もっちろん★

 きっとナツも喜ぶよ、大丈夫!!!!」







 ナツの部屋の前に立つ、怖いくらい笑顔なハルトと引きつった笑みの私。


 私の視線の先にあるのは、ハルトが持っているお皿だ。


 お皿の上には、様々な色のチョコがたっぷりとかけられたクッキー。


 盛り付け方が上手なので、一層美味しそうに見える。




 しかし、私の笑みは引きつったままだ。




 何故、そんな反応しかできないのか。


 その原因は、今から二時間前に私とハルトでお菓子作りをした時の出来事にある。





*  *  *  *  *





「それじゃ、今日はクッキーにかけるチョコレートを作ってもらおうかな!!!!」


「……」


「まず、普通のチョコと白いチョコ……ん?

 何? アスカちゃん、どーしたの?」



「……え、えっと……何でもない」





 

 ――――朝早くから厨房へ呼び出された私。


 今日は約束通り、ハルトとお菓子を作る事になっているのだが……



 そこには、いつも通りのハルトが居た。


 にこにこと楽しそうに笑い、怒っている雰囲気なんて一切無いのだ。



 

 まさか、テトルフの言った事は嘘なのだろうか?






「ハルト、怒ってないの?」


「怒る? 俺がアスカちゃんに?」



「違う、私じゃなくて」









 「ナツに」と言おうとした瞬間、ハルトの方からバキッと大きな音がした。


 驚いた拍子にハルトと目が合う。



 ハルトは笑顔だ。


 しかし、その笑顔が怖い……先程と変わらない笑顔なのだが、オーラが違う。




 私は何となくこれ以上目を合わせたくなかったので、視線を下へ向ける。



 ――――そして床で粉々に割れている、クッキー「だった」ものを見つけた。


 




「…………あーあ、落としちゃった★

 ほら、それよりも説明するから作ろうよ!!」



「う、うん」







 どこからか取り出したティッシュで、床に落ちたクッキーをハルトが拾った。


 ……落ちただけでこんな音がするのだろうか?


 いや、絶対にしないはず。



 料理中のハルトとは違った怖さに、思わず少しだけ身震いをしてしまう。







「んー? 寒い?

 夏だから暖房はいらないと思ったんだけど……」



「ううん、大丈夫。

 それよりも早く作ろう?」


「分かった!!

 それじゃ、レシピの説明はっじめるよー!!!!」








 ……早く終わらせて、部屋へ戻ろう。


 そう心に決めた私は、ハルトが教えてくれるレシピに従ってチョコレートを作り始めた。





 まず、今回私が作るのは《チョコレート》だ。


 そして私が作ったチョコレートを、事前にハルトが作ったクッキーへかけるらしい。


 

 用意された物は、茶色とピンク色の板チョコレートがそれぞれ二枚。


 それから白い板チョコレートが……およそ十枚。


 三つの色のチョコレートの周りには、ボウルが五つ。


 ボウルは何も入っていない物と、粉や液体が入った物の二種類ある。


 黒い色の粉、緑色の粉、そして濁ったオレンジ色の液体。



 ……この粉や液体は何だろう。







「ハルト、このボウルの中に入っている粉は何?」


「黒いのはゴマをすりつぶしたやつで、緑色は抹茶だよ!!

 全部で五種類の色のチョコレートを作ってほしいんだっ!!!!」



「五種類も作れるの?」


「そーだよ☆

 例えば抹茶の粉と白いチョコを合わせると、ほんのり緑色な抹茶味のチョコレートが出来るんだ」


「そうなんだ……じゃあ、このオレンジ色の液体も?」


「オレンジ色の液体はナツ専用だよ」


「――――ナツ、専用?」








 その言葉が引っかかり、私はオレンジ色の液体の入ったボウルを手に取る。


 匂いは甘い香りがする。



 見た目がオレンジ色で、こんな甘い香りがするということは……






「そのまま、オレンジ?」


「匂いはオレンジだよ? そういうエッセンスを入れたんだ」


「え、じゃあ……これは……?」



「それはね、










 にんじんをペースト状にしたものだよ」




「にんじん!!?」








 驚いてボウルを落としそうになるが、何とか耐えた。



 ――――このオレンジ色は、にんじん。


 ハルトが「味見してみる?」とスプーンを差し出しながら言ったので、受け取って液体を少しだけ掬って口に入れてみる。


 





「…………うっ……苦い」


「どう? 俺特製のにんじんペースト」



「本当に、にんじんの味しかしないね……」








 にんじん独特の味とオレンジの甘い香りが口の中で混ざり合って、絶妙に不味い。


 私はあまりの不味さに顔をしかめた。



 ……これが、ナツ専用……。








「ちなみに、にんじんチョコの完成形はこれだよ★」


「…………オレンジ色だね、すごく」


「こっちも試食してみる?

 白いチョコの風味とオレンジの匂いと、味付け一切無しのにんじんペーストが混ざり合ったやつ。

 しかもクッキーだってナツ専用だよ?」


「い、いらない……!!!!

 っていうかクッキーには何を入れたの……?」



「知りたい?

 それなら、食べてみた方が早いよ☆」




「え、いや、もがっ……!!!?」







 オレンジ色でコーティングされたチョコレートクッキー。

 

 そんなクッキーをハルトが私の口に押し付けてきたので、渋々食べることになった。







 そして、すぐに後悔することになる。








「あ、甘くて、苦くて……にんじんの味で……

 何より、辛い……!!!」






「クッキー生地にたっぷり、タバスコをかけちゃった★

 はい、お水どーぞ」








 テトルフに負けないくらいの笑顔で微笑みながら、そう言ったハルト。


 口の中で様々な味や匂いが同時に混ざり、舌が麻痺しそうだ。


 いや、もう麻痺しているのかもしれない。




 私はハルトが水の入ったコップを差し出してきたので、すぐに受け取って飲み干した。


 ……まだ口の中がおかしい気がする。暫くこの感覚は消えなさそうだ。






「それじゃ、今の不味さで目が覚めただろうし……始めよっか!!!!」


「……うん……」







*  *  *  *  *







 ……そして、今に至るのだ。


 






「ハルトって、もしかして根に持つタイプ……?」



「んー……どうだろう?

 でもさ、目には目を……料理には料理を、だよね!!!!」






 

 つまり、このお菓子は仕返しなのだ。


 ナツが《お料理コンテスト》を中止にした怒りを、このクッキーで晴らすらしい。



 





「いつも優しいお兄様だって怒ると怖いんだよ?

 覚えておいてね、アスカちゃん♪」



「味も含めて忘れることは……多分、一生出来ないかも」








 ――――そして、私達はナツの部屋に入ってクッキーを渡し、何事も無かったかのように部屋を出た。




 数分後、ナツの叫び声とハルトへの罵声が聞こえたのは……気のせいだと信じたい。

 




...to be continued...

何となく作ったのは「ハルト」だと分かっているナツさん。

いつか仕返しに来るのは分かっていたけれど、まさか主人公を連れて……とは思っていなかったらしいです。

もしハルト一人で渡しに行ったら、ナツは絶対に食べてくれなさそうですね。

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