表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/63

第45話 待ちぼうけ

「……どういう事?」









 窓ガラス越しには、何もなかった。


 

 そもそも、ここは大きな屋敷の二階。


 普通の家の数倍の高さはある。


 ……この高さなら不審者は登れるはずがない。




 たとえ登れたとしても、私の部屋にはバルコニーがないので侵入は無理だと思う。



 つまり、さっきの音は《風》ということだ。


 思い切って窓を開けてみたが、外は生ぬるい夜風が吹いているだけで何もなかった。




 物音が一つしただけで、こんなに反応するなんて……








「…………ちょっと、警戒しすぎてるかな」






「普通、窓を閉め終わるまで警戒は解かないからね?」




「っ!!??」








 誰かに囁かれたと感じた瞬間――――目の前に黒い《何か》が通り、背中に痛みが走る。








「な、何……!!??」



「そんなに驚かないでよ……まるで、アタシが不審者みたいじゃん?」


「へ……ノエル?」








 突然の出来事に混乱している私の顔を、恐らく黒い《何か》の正体――ノエルが上から覗きこんでくる。


 ツインテールが私の耳を掠め、少しくすぐったい。








「ノエル、どうしてこんな時間に……」


「ノエルへの質問の前に、アンタは自分の状況を理解してる?

 それとも、ノエルがこの姿だから警戒しないの?」



「警戒って……あ……」








 ――――ノエルに言われ、ようやく自分の状況が理解できた。


 まず、背中の痛みは部屋の床にぶつかったせい。


 その原因はノエルが私の上に跨ったからだ。


 しかも、今は夜中。



 そこまで夜遅くではないが、この時点で色々とマズい状況だ。




 ましてや、目の前のノエルは『女性の姿』だが……









「ノエルが男ってこと、いくら鈍感なアンタだからって忘れてないよね?」


「わ、忘れてないけど、急な展開で混乱しちゃって……。

 一体、どうやってここに……?」



「はあ? そんなの、普通分かるでしょ?

 木と壁を使って、アンタの部屋まで跳んで来たの」








 普通、分かるはずがない。



 それに私が気になるのは……何故、わざわざ「外」から私の部屋へ来たのかということ。


 理由は分からないが、用事があったなら玄関から来ればいいはず。



 なのに、どうしてノエルは外から来たのだろうか?









「じゃあ、どうしてこんな時間に外から来たの?」


「…………ア、アンタが日々、危機感を持って生活しているのかチェックしたかっただけよ!!

 それ以外、絶対に何もないからね!!!!」


「本当に?」


「っ……と、とにかく、変な音がしたからって窓は絶対に開けないこと!!!!

 もしも不審者だったら、こんな風に侵入してくるからね!!?」







 ようやくノエルは私の上から退き、腕組みをしながらやけに早口でそう言った。


 ……この様子からして、他に理由があるはずだが……これ以上聞いたら怒られそうなので止めておく。




 私は立ち上がり、とりあえずベッドの上に腰を下ろす。









「ノエル、改めて久しぶりだね」



「うん、久しぶり。

 久しぶりにアンタの間抜け顔を見ると、思わずため息したくなるよ」


「間抜けって……私って、そんなに酷い顔?」


「そんなの可愛いに決ま――――っ、酷い!!!!

 ものすごーく酷い!!ずっとスッピンとかありえない!!!!」


「ええっ!!??」



「ア、アンタ、もう少しオシャレしなよ。

 それじゃ、誰も寄ってこないから」


「……誰も寄ってこない……」


「まあ、アンタがどうしてもって言うならノエルが考えても……って、そんなに落ち込まないでよ!!!!」







 私の容姿は平均……いや、この世界の女性は皆可愛いので、自分はかなり下の方な気はしていた。


 しかし、改めて言われると――――少し落ち込んでしまう。


 ましてや、ノエルは男性。


 男性相手に言われてしまえば、誰だって落ち込むはずだ。



 私は小さくため息をつく。








「落ち込むよ……たしかに、私はノエルより可愛くないけどさ」


「……あー……なんだ、そっちで落ち込んでたの?」


「そっちって、他に落ち込む要素あった?」



「充分、あったから。

 まあアンタが鈍感で助かったよ」








 ノエルが私よりも大きなため息をつき、こちらへ寄ってくる。


 やがて、こちらへ手を伸ばし――――そっと頭を撫でてきた。









「さっきのは……その、ちょっとだけ言いすぎた」


「いいよ、別に……事実だし」


「アンタが良くても、ノエルが駄目なの!!

 落ち込まないでよ……アンタが落ち込んでると、なんか嫌」





 


 複雑そうな表情のノエル。


 私はノエルの言葉の意味がよく分からず、じっとノエルを見つめながら考えていると……ふと、目が合う。


 

 するとノエルは一度ため息をつき、膝立ちになって私と目線を合わせた。









「だ、大体ノエルは男だし、可愛いとか嬉しくないし!!!!

 可愛いってのは、ノエルじゃなく……」


「……?」




「……あぁ、もう……可愛いのはアンタ、アンタに決まってるでしょ!!!??

 寧ろ可愛いって自覚を持ってよ、馬鹿アスカ!!」


「え、えぇっ!!??」







 褒められたと同時に貶され、思わず顔が引きつってしまう。


 一方のノエルは撫でるのを止め、私から顔を逸らす。



 ……何となくだけど、その顔は何故か赤くなっていた気がした。








「馬鹿!!鈍感!!!!

 もう当日まで教えないから!!」


「そんなに……って、何を教えないの!?」


「教えない、絶対に。

 アンタは当日、ぽかんとした顔でノエルを迎えればいいのよ」



「は、はあ……」









 迎える? 一体、どういう意味だろう?


 首を傾げていると、ノエルが立ち上がって私にビシっと人差し指を向けてきた。







「今日来た本当の理由は、《暇だったら遊びに来い》って約束したのに来なかった怒りをぶつけにきたの!!!!

 それと、今度二人で行きたい場所があったからだよ!!」


「約束については……うん、ごめんなさい。

 けど、二人って無理じゃ……?」



「無理じゃないかを確かめるために、こうして外から侵入してきたの!!」


「……えっと、全然分からないんだけど……」



「とにかくっ!!!!!

 遊びに来なかった事は許してあげるけど、出掛ける日はいつなのか教えないから、アンタはいつでも出掛けられるように対策すること!!」








 そう言って、ノエルは窓を開けて飛び降りる。


 驚いて咄嗟に窓からノエルを探したが、もうノエルの姿は無かった。









「まるで嵐みたい……びっくりした」








 怒られて、貶され……褒められた。


 ノエルの言動は、私を振り回す。



 さっきだって落ち込んでいたけれど、ノエルの「可愛い」の一言で気持ちが晴れたのだ。


 それに今だって――――








「……出掛けられる準備……気を付けよう」







 

 窓を閉め、私は自分自身に言い聞かせるようにそう呟いた。







...to be continued...

ずっとアスカが遊びに来るのを待っていて、ついに我慢できなくなったノエルの回。

きっと我慢の限界まで来なかった理由は、ノエルのツンデレのツンが邪魔をしていたからだと思う。


「自分から行くだなんて、まるでノエルがすごくアンタに会いたいみたいじゃん」……って言って、いつまでも来ない主人公を待ちながらマフィアのアジトでふてくされてたら、最高に可愛いと思うのは私だけですか?



求む、共感者!!←

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ