第44話 ジョーカーからのプレゼント
《鬼ごっこ》が終わって一週間が経ち、そろそろジョーカーからプレゼントが貰えるかなと思っていた……その日の夜。
私はジョーカー呼ばれ、部屋へと向かった。
多分、心の中を読まれたんだと思う。
「やあ、こんばんはアスカ。
呼ばれた理由は……君が一番理解しているんだろう?」
「プレゼント、だよね?」
「そうだ、プレゼントだよ。
きっと正直者探しの役に立つはずだ」
椅子に座って、ジョーカーが淹れてくれたコーヒーを飲む。
……うん、とても美味しい。
「それで何をくれるの?」
「君は、私が何をあげると思うかい?」
「え……正直者探しに役立つ物なら、ヒントが書かれた紙とか?」
「いや、《物》ではなく《情報》さ。
まずはこれを見てもらおう」
ジョーカーがパチンと指を鳴らす。
すると、テーブルの上に音もなく四角い箱が現れた。
そっと箱を手に取り、まじまじと見つめる。
「……ゲームの箱……しかも、これ……!!!!」
箱を持つ手が、小刻みに震えた。
ゲームのパッケージには、五人の男性の絵が描かれている。
三人は中心で目立つように大きく描かれ、残りの二人はちらりと横顔だけ。
その男性の下に、ゲームのタイトル。
そのタイトルは――――
「【Joker†Would】だよね、これ……」
「そうだよ、アスカ。
この世界の元となったゲームだ」
そう、【Joker†Would】。
私が死ぬ寸前にプレイしようとしていた、あの推理系乙女ゲーム。
先程言った大きく描かれた三人は、ハルトとナツとユキの三兄弟。
横顔だけの二人はテトルフとジョーカーだ。
……でも、どうしてこんなものを私に見せるのだろうか?
「もう一度言うけれど、私からのプレゼントは《情報》。
その情報とは……このゲームについての話だよ」
「良いの?」
「勝者には、それに相応しいプレゼントを……君はこのゲームを知らなすぎだから、丁度良いと思ったんだ」
小さく口元だけ微笑み、ジョーカーが私に「箱を開けてごらん」と言う。
言われた通りに開けると、中にはゲームのディスクと説明書。
ゲーム機本体が無いのでプレイすることは出来ない。
恐らく、ジョーカーはこの説明書を見てほしいのだろう。
そう思った私は説明書を取り出し、パラパラとめくる。
「【Joker†Would】とは、君が今体験しているように……命の危険にさらされながら、屋敷の住人達と一年を過ごすという内容だよ」
「実際のゲームだと、どうやって正直者を探すの?」
「キャラクターと会話し、好感度が上がる選択肢とイベントをいくつか繰り返す。
そして一定量の好感度が溜まると、正直者に関するヒントが得られ……最終的には正直者が判明する」
「そうなんだ……それが、これなの?」
「あぁ、そうだ」
パラパラと説明書をめくっていると、ふとゲーム画面のスクリーンショットが写ったページを見つけた。
そこには《ヒント》と書かれた、空欄ばかりの画面。
それから、デフォルメされたキャラクター達の横に小さな星印が描かれた奇妙な画面。
「先程言った特殊なイベントを見ると、ヒントページにイベント中に分かったヒントが追加される。
このヒントが全て埋まり、さらにその星印が五つ揃えば……キャラクターと幸せなハッピーエンドが迎えられるよ」
「…………どちらかが足りなかったら、どうなるの?」
「好感度が足りなければノーマルエンド……つまり、普通に魔法で夢を叶えて終了。
逆にヒントが足りない場合、ほとんどがバッドエンドだ」
「ほとんど?
じゃあ、バッドエンド以外もあるの?」
私の問いに、ジョーカーは無言で頷いた。
そもそも、このゲームのエンディング数はいくつなのだろう。
三兄弟のハッピーエンドだけで、三つあるのは分かるが……。
「エンディング数は全部で十四個。
三兄弟とテトルフにハッピーとバッドを一つずつ、それから《屋敷ハーレムエンド》と《ノーマルエンド》……双子とシーヴァにも一つずつエンディングがある」
「……あれ? それだと十二個だよね?
その、ジョーカーとのエンディングは……」
「残念だが、私との個別なエンディングは無いんだ」
「そう……じゃあ、後は?」
「隠しエンドとして、ノエルには《友情エンド》と《真相エンド》があるよ。
恐らく、ノエルの真相エンドに関しては女性同士の恋愛が繰り広げられているのだろう」
…………ジョーカーの言葉に、思わず目を大きく開いてしまった。
どうやら、本当にジョーカーはノエルの秘密を知らないらしい。
「――――私からのプレゼントは以上。
そうだ、君に報告があるよ」
「報告?」
再びジョーカーが指をパチンと鳴らすと、私の手元にあったゲームと説明書が消える。
……さて、報告とは何だろうか。
私は小さく首を傾げた後、もうすっかりぬるくなってしまったコーヒーを一口だけ飲む。
「まず、今月のイベントの一つである《お料理コンテスト》が中止になった」
「え、どうして?」
「ナツがそう言ったんだよ。
私はナツへのプレゼントに、何でも叶えると約束したからね」
「そうなんだ……」
ナツがイベントを中止にした理由は分からないが、私は少しだけ安心した。
イベント名から察するに、料理をするはず。
私はハルトとお菓子を作った以降、実は一度も料理を作っていない。
つまり、自信がないのだ。
それに、もしかしたらこの前ハルトとナツと買い物へ行った際に買った……あの恐ろしいかき氷が出てくるのかもしれない。
そう考えると、イベントが中止になって良かったと思う。
「ふむ……アスカ、そろそろ寝た方が良い時間だ」
「あっ、もうこんな時間なんだ……。
おやすみなさい、ジョーカー」
「あぁ、ゆっくり休んでくれ」
私はもう一度ジョーカーに「おやすみなさい」と言った後、部屋を出て自室へと向かい、ベッドに寝転がる。
しかし、コーヒーを飲んだせいか……眠れない。
どうしよう。
「コーヒー、飲まない方が良かったかな…………ん?」
コーヒーを飲んだことに少し後悔していると、ふと窓の方からカタンと小さな音が聞こえた……ような気がする。
少し気になったので、私はベッドで寝転がるのを止めて窓の方へと向かう。
ゆっくりとカーテンを開け、音の原因を探すために辺りを見渡した。
すると――――
...to be continued...