表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/63

第42話 非現実的《鬼ごっこ》②

 走る。


 ただひたすら、前を向いて。

 


 この世界に来るまでは病弱なあまり、こんな風に走ることさえ出来なかった私。





 だからこそ、私は今ここで叫びたい。








「っ……もう、走りたくない……!!!!」




「もう少しだ、アスカ!!

 この先に行けば撒けるはず……そしたら担ぐぜ!!!!」








 ナツが私の手を引っ張り、恐らく彼の全力であろう速度で一緒に走る。


 息が切れ、全身が焼けるように熱い。


 私を必死に引っ張ってくれているナツでさえ、額にうっすらと汗を滲ませている。



 開始数分でこんなにバテてしまった。


 その原因は全力で走っている私達の後ろにある。





 ポン、ポンと可愛らしい音を立ててバウンドながら迫ってくるゴムボールの……いや、《鬼》のせいだ。


 それも、常識外れと言えるほどの速さで。









「――――よしっ……しゃがめ、アスカ!!」


「う、うん!!!!」







 曲がり角をまがった瞬間、ナツにしゃがめと言われたのでその場にしゃがみ込む。


 ……どうしてしゃがまなきゃいけないのだろう?


 この僅かな時間でも、二頭身の外見だけは可愛らしい鬼が迫ってきているのに。




 ポン、ポンと音が近づいてくる。


 そして鬼が間近に見えた時、ナツが懐から何かを取り出す。



 あれは――――霧吹きスプレーだ。








「くらいやがれ!!!!」



「……っ」






 


 鬼がしゃがんだ私に触れる直前。


 ナツは霧吹きスプレーを鬼に向かって噴射する。

 

 すると鬼は地面でのたうち回りながら、必至に顔を擦り始めた。




 茫然とその様子を見ていると、ナツが急に私を抱えて走り出す。








「ナ、ナツ、大丈夫? 重くないかな?

 それにさっきの液体って……」


「さっきのは園芸用に使っている、酢と水を混ぜた物だ。

 ……とりあえず、隠れるか」


「酢っ!!?」



「あ? 酢でそんなに驚くのか?」








 暫く走り、ナツと彼に抱えられた私は近くにあった部屋へ入る。


 ――――そこはベッドとクローゼットしか置いていない、とても簡素な部屋だった。


 辺りを見渡すとあちこちが埃っぽいので、恐らく暫く使われていない部屋のはず。


 

 そっと扉を閉め、ナツが私を地面に降ろす。



 さすがに床に座る気にはなれなかったので、私とナツは立ちながら話をし始める。


 まずは、先程の「酢」の話題についてだ。








「だって、酢だよ?

 酸性だから、葉とか茎に悪いんじゃ……」


「酢の量が微かなら殺虫剤として活用できるんだぞ、覚えておけ」


「そ、そうなの?

 っていうか、攻撃してよかったの?」



「いつもこんな感じだ。

 それにジョーカーはルール説明の時に《攻撃するな》とは言っていないしな」








 当然のように答えるナツ。


 確かに、ジョーカーは鬼へ攻撃してはいけないと言っていない。


 けれど、これはルール以前の問題じゃ……



 






「とにかく、アスカ……他の鬼が来る前に現状をまとめるぞ」


「うん、分かった」



「まず、鬼の数はさっきの奴を入れて四体。

 他の三体は他の場所を回っているか……あるいは、馬鹿ハルト達を追っかけてるはずだ」








 

 そう、鬼の数は四体。


 鬼ごっこ開始前は、小さな鬼だったので油断していたが……たった一体でこんなにも疲れるのだから、四体まとめて来たら負けてしまうだろう。


 

 ……ナツなら大丈夫かもしれないが、私には無理だ。



 





「んで、ここは一階の空き部屋……近くに厨房があるから、そこで武器調達ができる。

 胡椒とか油は使えそうだな、足止めに」


「使えそうだけど……大丈夫なの?

 鬼族の方ってお客様じゃ…………」



「おう、大丈夫だ。

 アイツ等は賢い性格だから、これはゲームだって弁えているし仲間を殺さない限りは怒らない」







 

 一応、大丈夫のようだ。



 とりあえず、私達がやることは《厨房から武器を調達する》こと。


 ナツのお酢スプレー攻撃のような使い方をすれば、時間内に逃げ切れる可能性が高くなるのだ。









「でも、屋敷をかなり汚しちゃうよね……」


「修理や掃除はどうせ俺様やメイド達だから、遠慮なく使っていいぞ。

 んじゃ、さっさと取ってくる」


「え、私も行くよ?」



「アスカは無理せず休んでろ。

 過度な運動は駄目なんだし、ここは俺様に任せろよ」









 ……そうだ、下手に動いて体調が悪くなってしまったら、ナツに迷惑がかかってしまう。


 そう思い、私は頷いた。



 それを見たナツはもう一度「任せろ」と言いながら小さく笑みを浮かべ、扉にそっと耳を澄ます。


 


 ――――廊下に鬼が居ないか、確かめているようだ。









「…………よし、居ないな。

 すぐに戻ってくるから一歩も動くなよ!!!!」


「分かった、気を付けてね?」


「おう!!」







 音を立てないようにゆっくりと扉を開け、ナツが部屋から出て行く。


 残された私は、ただナツの帰りを待つだけだ。








「……まだ、全然時間が経ってないんだよね」







 

 時計が無いので分からないけれど、一時間は経っていないと思う。


 こんな調子で五時まで逃げ切れるのだろうか……






 そんな事を考えていると、ふと廊下から音が聞こえた。


 一瞬鬼かと思い身構えたが、それにしてはやけに音が大きい。




 多分、人の足音だ。


 それも、走っている。







「ナツ?」









 早すぎる気もするけれど、ナツが急いで来てくれた……のかもしれない。


 やがて、足音が扉の前で止まる。



 そして誰かが勢いよく部屋に入ってきた。



 入ってきたのは―――――










「――――ユキ?」



「…………っはあ……ア、アスカ……?」









 そう、ユキだった。


 肩を上下に動かして呼吸をし、何より顔色が優れない。








「ユキ、大丈夫……!!?」



「…………運動、苦手……

 走るの、嫌い……」








 扉にもたれかかり、怠そうな声でユキは言う。


 良かった……鬼じゃなかった。



 安心したのも束の間、ふとユキの顔色がさらに悪くなる。








「……ユ、ユキ?」


「…………二体、来る」


「二体!!?」


「逃げてた……ずっと」








 ユキが扉から離れたので、そっと扉に近づいて耳を傾ける。


 …………僅かだけど、鬼が跳ねている音が聴こえた。



 まずい、恐らく鬼はこちらへ向かっている。








「ど、どうしよう……逃げなきゃ……!!」



「……アスカ、待って。

 廊下、捕まる……だから……」








 そこまで言い、ユキが後ろから私の両肩を掴む。



 ……何故、両肩を掴まれたのだろうか。


 






「――――隠れる、こっち」


「え、ええっ……!!??」



「小さい……バレない、きっと」







 そのままぐいぐいと押され、クローゼットの前まで移動する。



 まさか、入れってこと……?









「ユ、ユキ、本当にクローゼットに……」



「……っ……来た」





「へ? わわっ……!!」









 ユキが肩を掴むのを止めてクローゼットを開け、強引に自身の身体ごと私を押し込んでクローゼットの扉を閉めた。


 

 ただでさえ狭いクローゼットに、私とユキが入っているのでマトモに身動きができない。





 …………まさか鬼が遠くに行くまで、ずっとこの状態……!!?








...to be continued...

一時期、流行っていたみたいですね……お酢で害虫駆除。


あ、人にスプレーをかけてはいけません。

ましてや顔には駄目です。絶対に。



ここまで読んで下さり、ありがとうございますっっ!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ