第0話 プロローグ
――私は、波川 飛鳥。
この名前は、『大空を自由に飛ぶ鳥のように、寛大で健やかに生きてほしい』という願いを込めているらしい。
しかし、私の現状は『飛ぶ鳥』ではなく『飛べない鳥』だ。
え? 理由?
……ただ、人よりも生まれつき身体が弱いだけ。
ちょっと走れば酸欠で倒れ、何もしなくても貧血になるというスペシャルなオプションのせいで、私は病室から出ることを禁じられて学校にすら通えない。
本当なら私は、現役の華の女子高生として明るくキラキラした学校生活を送っているというのに。
そんな私の唯一の楽しみは、『ゲーム』。
最初は病室生活の気晴らしに遊んでいたが、今ではどのジャンルもできる自信がある。
そして今日、私はとあるゲームをプレイしようとしている。
タイトルは【Joker†Would】。
発売前から大反響で、予約が殺到している。
ジャンルは推理系乙女ゲーム、とても新鮮な響きだ。
内容は異世界モノで、主人公は屋敷に迷いこんでしまったらしく、住人に見つかって半ば強制的に『生死を賭けた推理ゲーム』に参加させられる。
主人公は自分を殺すかもしれない狂気染みたキャラクター達に囲まれながら、時には信じたり疑ったりを繰り返していき、最終的には答えを決めるらしい。
……え? 乙女ゲームのような甘い要素がないって?
いや、この生死を賭けた推理ゲームにこそ、甘い要素があるんだよ。
実はこの推理ゲーム、犯人当てのような感じで「嘘つきの中から正直者を探す」という内容。
さて、何を基準に『嘘か正直か』を見破るかというと……
なんと、キャラクターが主人公に愛の言葉を囁くんだよ!!
それを基準にして、誰が正直者かを当てるために毎日を共に過ごす……みたいな内容なんだ。
殺戮表現があるせいか、若干年齢指定付きなのが気になるところだけど、楽しみなものは仕方がない。
……こんなことを話している内に、私の目の前にゲームが届いた。
今にも鼻歌を歌い出しそうなほど、上機嫌に段ボールを開ける。
まずは誰から攻略しよう。
発売してまだ数時間もたっていないから、正直者とやらの情報はネットで探しても全くない。
…………よし、電源を入れた。
小さな画面に映像が映る。もうすぐでタイトル画面だ。
しかしタイトルが表示される瞬間、大事なゲーム機が真っ赤に染まる。
――――――あれ、口の中が苦い。これは鉄の味だろうか。
そんなことを考えている内に、私の意識はプツリと途切れてしまった。
...to be continued...