第41話 非現実的《鬼ごっこ》①
「……では、改めてルールの説明をしよう」
玄関ホールへ集まった私達。
――――今日、ついに《鬼ごっこ》が開催される。
それもただの鬼ごっこではない。
本物の鬼から逃げ回る、私の世界じゃありえないような鬼ごっこだ。
「まず、これはチーム戦だ。
ペアのどちらかが鬼に触れられたら、連帯責任としてそのペアは失格だよ」
「アスカ、極力守ってやるから頑張ろうぜ」
「うん、ナツ……頑張るよ」
「無いとは思うが、相手チームを助ける行為をした場合も失格。
全員逃げ切るか、あるいはどちらのチームが失格になった時点でイベントは終了する」
さらにジョーカーは「屋敷より外へ出ても失格だ」と言う。
私はナツと話しながら、相手チーム――――ハルトとユキを見る。
「よーしっ!!!!
ユキ、頑張って勝つよ!!」
「…………勝つ、頑張る」
「俺様達も負けられねえ……絶対に勝つぞ!!」
ハルトが黄色、ナツが青、ユキが白。
色以外は全く同じジャージを着ている三人。
ナツはよくジャージ姿を見かけるが、ハルトやユキは初めてなので新鮮だ。
特にユキはいつもフードを被っているので、余計に新鮮な感じがする。
そして、私はこの前執事と一緒に買った……いや、勝手に買われていた蛍光ピンクのポロシャツとホットパンツだ。
正直、自身の服の蛍光カラーのせいで目が痛い。
「――お嬢様、まもなく鬼族の方々が到着する時間帯ですよ。
もしも身体に何かしらの異変がありましたら、すぐに棄権をなさってくださいね?」
「……ありがとう。
でも、出来る限り頑張ってみるよ」
「はい、応援しています」
「おや、来たようだ……」
ジョーカーが玄関の扉を見て、目を細めながら呟く。
……いよいよ、鬼と対面する。
鬼はどのくらいの大きさなのだろう。
普通の言葉は喋れるのだろうか。
数えきれないほど、疑問が浮かぶ。
そして、ついに扉が開いた。
そこに居たのは――――
「…………え」
「ようこそ、鬼族の皆様。
今日はジョーカー様主催のイベントにご協力、ありがとうございます」
テトルフが扉の前で跪き、笑顔で《地面》に向かって言う。
いや、正確には地面に置いてある小さな人形に向かって言ったのだ。
大きさは見た限り、みかんと同じくらいだと思う。
まさか、これが……
「……鬼?」
「そうだよ、アスカ。
彼等は立派な鬼族だ」
目を凝らして、地面に置いてある人形を見つめる。
――よく見ると人形ではなく、二頭身の小さな鬼だった。
ちょこんと小さなツノが頭から生えている。
服も虎柄。
こんなに小さな鬼と、鬼ごっこをするのだろうか?
酷い言い方だが、この鬼達から逃げるのは簡単そうだ。
しかし、テトルフは《ハード》と言った。
どの辺りがハードだろう?
「やってみれば分かるさ。
それでは早速開始しよう……開始五分後に鬼が動き始めるから、それまでに遠くへ走ると良い」
「アスカ、疲れたら俺様が抱えるからいつでも言ってくれよな。
無理だけはすんじゃねえぞ?」
「無理はしないよ。
でも、ピンチになったらよろしくね?」
「おう、任せとけ!!」
力強く頷きながら、ナツは私に笑顔を向ける。
……頑張ろう、この笑顔に応えるために。
「――――では、これより鬼ごっこを開催する。
制限時間は五時まで……健闘を祈ろう」
ジョーカーの言葉を合図に、私達四人はそれぞれ走り出した。
...to be continued...