第34話 話し合い
「……こんばんは、ジョーカー」
「待ってたよ、アスカ。
さあ、早く中へ入ろうか」
夜、九時。
私は言われた通り、ローズの部屋へ向かってジョーカーと合流した。
ちなみに今日の夕飯のメニューは海老が大量に入った『ジャンバラヤ』と言う炒飯みたいな物だ。
普段はおかわりだなんてしない私だが、一杯だけおかわりをしてしまうほど美味しかった。
それにナツと双子で早食い勝負もやっていたらしく、料理を作ったシーヴァもどことなく誇らしげだった。
ハルトが小さな声で「……ライバル?」なんてブツブツと呟きながら、不満そうな表情で食べていたことが気になるけど。
まあ、夕飯の話はこれくらいにしよう。
私はローズと話し合わなきゃいけないんだ。
一度深呼吸をし、私はローズの部屋の扉を開けて中へ入る。
「………っ……」
「ローズ、アスカを連れてきたよ」
思わず、私は息を呑む。
何故ならローズは両肩に包帯を巻き、生気が全く感じられない目で私達を見つめたからだ。
包帯に滲んだ血が、やけに生々しい。
けれど、私が息を呑んだ理由は他にもある。
……それは、両肩に傷があるからだ。
テトルフが右肩を撃ったのは知っているが、左は……?
「左もテトルフが撃ったよ。
本当は殺したかったのだろうが……彼はよく耐えた」
「……テトルフが……」
「………、…………!!!!」
私とジョーカーが話していると、ローズが私達を見つめたまま口をパクパクと動かす。
……しかし、声は全く聞こえなかった。
私の耳は悪くないはずだが、本当に何も聞こえない。
「……ローズ?」
「そうそう、彼女は一時的に声を失ってしまったらしい。
私達の言葉は聞こえているけれど、彼女は答えられないよ」
「そんな……じゃあ、話し合いは……」
「出来るだろう?
彼女は声も出せないし手も動かせないけれど、首は動くのだから」
そう言って、ジョーカーはローズに「そうだろう?」と聞く。
すると、ローズは暫く動きを見せなかったが、やがて小さく頷いた。
……つまり、私から質問をして……イエスかノーしか教えてもらえないってこと?
質問の内容を具体的にし、答えやすくしなきゃいけない。
それなら、まずは――――
「私のこと、嫌い?」
「………」
すぐにローズは頷いた。
……あまりに一瞬で頷かれたため、少し苦笑いを浮かべてしまう。
「じ、じゃあ、まだ始末したいって思ってる?」
「……」
「えっと……本当に?」
「…………」
「どうしても、その気持ちは変わらない?」
「……」
結果、全てイエスだった。
私が考えていた話し合いとは全く別物すぎて、もう頭が回りそうにない……
とりあえず、ローズはまだまだ私が嫌いで殺したくて……治ってなかったら一発殴られたかもしれないのだ。
次にどの質問をしようか悩んでいたら、ジョーカーがローズの元へ近寄り、額に人差し指を当てた。
――――その指先は、ほんのりと青白い光を放っている。
「もう話し合いはおしまいにしよう。
アスカ、君も飽きただろう?」
「何をする気……?」
「彼女の記憶を消去する。
――本当なら、彼女のイベントは九月だったのに」
「…………え?」
……イベント? 九月?
一体どういう意味だろうと首を傾げていると、ジョーカーは無表情で私を見つめた。
「本来、主人公とメイド長が修羅場になるのは九月。
しかし、君のせいでバグってしまったようだね」
「……私のせい……?」
「アスカ、彼等――ライムとユウムの初登場は交流会が最初なんだ。
けれど君は……もう彼等と会ってしまい、ましてや懐かれてしまった。
これが、ゲームのシナリオを狂わせてしまったんだよ」
ゲームのシナリオ。
恐らく、今ジョーカーが言っているゲームとは……【Joker†Would】のことだ。
私がシナリオを狂わせてしまったから、ローズはこんな目に?
「いいや、ローズは本当のシナリオでは九月に死んでしまう。
君がローズを助けた……もっと、誇ればいい」
「そう……」
「アスカ、やはり私は君とゲームをして正解だ。
こんなにも面白いと感じたのは初めてだよ」
指先の光が強まると、ローズの目にだんだん生気が戻ってきた。
しかし、戻ったのとほぼ同時にローズは眠ってしまう。
……気絶をしたのだろうか?
「彼女の設定を新しく《主人公とは口喧嘩はするが、同じ女性として影ながら応援している》……と、変えておいた」
「これで、バグはなくなったの?」
「いいや、そもそもこんな設定自体がバグだ。
それに他のキャラにもバグが――――」
ふと、ジョーカーは私を……
正確には私の後ろの扉を見て、小さく目を細める。
「どうしたの?」
「いいや、また新たなバグを見つけてしまったようだ。
とにかく、明日から《新しいローズ》は元気にお仕事をする予定だから、君はいつも通り接してくれ」
「…………分かった」
「では、私はそろそろ失礼する」
言うや否や、ジョーカーはローズの部屋から出て行く。
残された私は、とりあえずローズの状態を見ることにした。
ジョーカーはローズの記憶を消したと言っていたが、この傷はどう説明を――――
「…………あれ?」
包帯に、血が滲んでいない。
というより、包帯がまるで新品のように真っ白だった。
………さっき、ジョーカーが記憶を消した時に傷を治したのだろう。
やはり、彼は良い人だと思う。
死ぬかもしれないけれど、私にチャンスをくれて……さっきだって少しだけど【Joker†Would】のゲームの事を教えてくれたり、ローズの設定だって私に危害がないようにしてくれた。
まだ少し不安だけれど、頑張ろう。
ローズの規則正しい寝息を聞きながら、私は心の中で決心をした。
...to be continued...
キャラ紹介のページのローズの項目は変わっていません。
ノエルと同じく、【ACT.4】の最初に書く予定です。