第33話 約束
――あれから、もう一週間が経った。
つまり、今日……ローズと話し合う事になる。
「あー……やっと、アンタの間抜け顔を見なくて済むんだね」
「ま、間抜け?」
「そう、間抜け。
確かに慣れろって言ったけど……もうちょっと危機感持ちなよ」
朝食を終えた私とノエルは、自室でおしゃべりをしている。
今日は良い天気だから外で話をしたかったが、ノエルが「アタシ、部屋でダラダラしたーい」と言ったので室内だ。
そういえば、明日でノエルとお別れ。
……長いようで短かったなあ……。
部屋にノエルが居る事に慣れてしまったので、少し寂しい。
「ちょっと、アンタ聞いてる?」
「え? ……ごめん、少しぼーっとしてた」
「それだよ、それ。
ノエルはそれが一番しんぱ――――ウザいのっ!!!!」
「ウザ……ええっ!!??」
「つか、アンタは何も思わないわけ?」
ノエルが腕を組み、眉間にしわを寄せながら私に言う。
……思う? 何を?
今の私が思う事と言えば、ノエルに言われた様々な暴言だが……
「何を思うの?」
「っ……明日!!!
明日でノエル、居なくなっちゃうんだよ!!?」
「う、うん……そうだよね。
明日って思うと少し寂しい」
「だよね、厄介払いできて嬉し―――――へ?」
目を大きく開き、そのままピクリとも動かないノエル。
私、何かまずいことを言ってしまったのだろうか?
暫く沈黙が続く。
とりあえず、話しかけた方がいい。
「ノ、ノエル?」
「……」
「私何か変な事、言った?」
「言った。
他の男なら勘違いするようなセリフをね」
「嘘……どこで?」
「男と離れる時に《寂しい》って言わないで。
ノエルだから大丈夫だけど、他の……特にテトルフさんには禁止!!」
……なるほど、寂しいって発言は駄目なのね。
じゃあ、こういう時どうすれば………
ところで、どうしてノエルはテトルフをこんなにも敵対しているのだろう?
吸血鬼なテトルフとウサギなノエル。
……別に犬と猿でもないし、喧嘩はしない気が……
「ま、まあ……とにかく。
アンタが寂しすぎて苦しいって事は、よーく分かったよ」
「苦しくはないけど……」
「うるさい。
アンタがそんなに苦しいって状態だとノエルが困るから、特別にマフィアのアジトの場所を教えてあげる」
そう言って、ノエルは私に小さな紙切れを渡す。
紙切れには地図が描かれていて、端に『街の本屋の裏道を歩いて三分』とメモされている。
…………本屋?
恐らく、街の中央にある本屋だろう。
つまりマフィアのアジトがあそこから近かったのなら、さらに近くの喫茶店でマフィア同士の抗争が起こってもおかしくなかったということだ。
「普段は関係者以外立ち入り禁止だけど、《ノエルに会いに来た》って言えば良いから。
シーヴァやボスに伝えとくし」
「誰を連れてってもいいの?」
「はあ? 勿論アンタ一人で――――
……あー……そっか、誰でもいいけど?」
何かを言おうとしていたノエルだが、私の外出制限を思い出して言うのを止めた。
……マフィアのアジトに行くのなら、誰が良いのだろう?
やはり、ライムとユウムと仲良しなユキが一番妥当な気がする。
「それとノエルが暇だったら、こっちに遊びに来る。
ジョーカーさんもノエルなら警戒緩いしね」
「そういえば、どうしてジョーカーはノエルが男だって気づいてないの?
心が読めるんじゃ……」
「物心ついた時から《女の子》なノエルを舐めないでよ。
ジョーカーさんは凄い魔法使いだけど、神様じゃないんだから」
自信満々に言い、ふと私に小指を差し出してきた。
……何だろう?
「とにかく、これからも会うって約束して。
ちなみに嘘ついたら……弾丸千発だからよろしく」
「千発……わ、分かった」
差し出された小指に自身の小指を絡め、二人で指切りをする。
弾丸千発は冗談だろうけど、もしも破った時には一発くらい叩かれそうだ。
……あの可愛らしい黒いウサギの耳で叩かれるのなら、歓迎するが。
そんな事を考えていたら、ノエルが若干身震いをする。
――――野生の勘?
「今、寒気が……まあ、いっか。
それじゃあノエル、出かけてくるね」
「どこに行くの?」
「シーヴァとハルトさんの三人で買い物。
ハルトさんだけでも大丈夫だけど、もしも他のマフィアに遭遇したら困るし」
「なるほど……」
「今日の夕飯、シーヴァが作るみたいだから期待して良いよ?
すっごーく美味しいから」
そう言ってヒラヒラと手を振り、ノエルは部屋から出て行った。
……シーヴァが作る……ノエルが美味しいと言うのだから、きっとすごいのだろう。
うん、どんなメニューが出てくるのか楽しみだなー……。
...to be continued...
素直になれないノエル。
……はい、ノエルが大好きです。
けれど苦労人のシーヴァがもっと好きでs((