第32話 裁縫上手な彼
「――――で、ぐっすり寝ちゃったってこと?」
「…………双子、集中力……ゼロ」
開始数分も経たず、双子はぐっすりと寝ていた。
……さらに私は何度やっても失敗し、今は休憩中だ。
私も双子も、集中力が少なすぎる。
「……ここ、違う……」
「え?」
「縫い方、違う……
………これだと、糸……見えるから駄目、だよ?」
一方、ユキは慣れた手つきで私の失敗した人形を直している。
時々間違っている箇所を教えてくれるのだが、正直初心者の私にはさっぱりだ。
ふと、近くに置いてあった羊の人形を手に取る。
毛の部分がモコモコしていて柔らかい。
――――何より、とても可愛いのだ。
「ユキって凄いよね。
魔法も使えて、裁縫も出来て……」
「……ううん……全然。
………それに……」
「それに?」
「………………何でも、ない」
何かを言おうとしていたが、首を振って否定するユキ。
……何だろう?
考えても分からなかったので、とりあえず羊の人形の背中を撫でることにする。
少しだけ羊を撫でていると、いつの間にか人形を直すのを止めたユキが私に顔を近づけていた。
――――――近い。
「ユキ?」
「…………ボク、裁縫……好き。
切ったり、縫ったり…………楽しい」
「うん、ユキが裁縫を好きだってことは部屋を見れば分かるけれど……
それがどうしたの?」
「……でも……裁縫、女々しい……嫌われる、から………」
声がだんだん小さくなり、最後の方はよく聞こえなかった。
……裁縫が女々しい?
どうして女々しいのか理解できず、首を傾げる。
「どうして裁縫が女々しいの?」
「………普通、男……しないから」
「そう?
でも、手先器用な男の人って素敵じゃないかな?」
「っ……!!!」
私はさっきやった通り、全然手先が器用な方ではないから失敗ばかり。
けれど、ユキはスイスイとやっていて凄いと思った。
寧ろ、もっと伸ばすべきだと思う。
「得意な物に性別なんて関係ないよ。
そんなこと言ったら、家事が得意なハルトは女々しいっていうか……お母さんだし」
「………本当?
アスカ……ボク、やっていい…………?」
「うん、良いと思うよ?
それにユキの作った人形、可愛くて好きだから」
私が持っている、この羊の人形。
他にもあちこちにイルカやキリン、ライオンまで可愛く作られている。
地面が小さな動物園化しているけれど、すごく良いと思う。
………私だけ?
ふと、ユキが何も答えなくなってしまったので彼の方を見る。
しかしフードを深く被り、顔を完全に隠しているので表情は見えなかった。
最初は笑っているのかと思ったが、肩が震えていないので違うようだ。
それに小さな声で何かを呟いている。
「――――――こんなの、初めて………」
「……初めて?」
「…ん……何でも、ない……///」
フードで顔を隠すのを止めたが、代わりに服の袖で隠してしまった。
僅かな隙間から見えたが……耳や頬が真っ赤に染まっている。
寒いのだろうか?
――いや、震えてはいないからきっと寒くないはず。
じゃあ、何故………分からない。
暫くユキを見つめていると、ちらちらと彼と目が合う。
「……………アスカ……好きな動物、教えて?」
「動物?」
顔を隠すのを止めたユキ。
……けれど顔は全然赤くないので、先程見たのは気のせいだと分かった。
そんな彼は私に好きな動物を聞いてきた。
好きな動物?
好きな動物……動物……
「――――――猫、とか?」
「………猫?
アスカ、猫……好き?」
動物と聞いて最初に浮かんだのはノエルだったが、ノエルは人間も交じっているので違う。
次に浮かんだのは――――目の前のユキ。
正確には、彼の服の猫耳フードだ。
猫と聞いたユキは、嬉しそうに微笑む。
「…………ボクも、猫……好き。
じゃあ、猫の人形……アスカのために、作るね?」
「え、嬉しいけど……どうして?」
「好きだから。
……アスカが、好き……でも、今……大好き」
「っわ……!!」
そう言って、目の前のユキは私をそっと抱きしめた。
驚いた勢いで後ろへ倒れそうだったが、ユキが支えてくれる。
近い。
ユキはどちらかというと可愛い方だけれど、こんなにも近いと恥ずかしい。
……もしも、ユキが《正直者》だったら。
私は、彼の言葉に答えるのだろうか?
否、答えられるのだろうか?
私は元の世界へ帰らなくてはいけない。
それに相手が好きだとしても、私が……違う場合もあるかもしれないのだ。
――――――まだ、分からないから深くは考えない。
実は嘘つきで、これは私を陥れるための罠だって可能性もある。
嘘つきにとって、それが楽しみらしいから。
それから双子が起きるまでの間、私はずっとユキに抱きしめられたままだった。
...to be continued...