第24話 『ノエル』②
―――――――マフィアとの交流会から、一週間が経つ。
最初の何日かは緊張をしたけれど、今ではすっかり慣れてしまった。
思っていたよりも早く慣れてしまったのは、ノエルが《親しみやすい》からだ。
彼女の話はとても面白いし、私の知らない場所やノエルのマフィア体験談などなど興味深いものばかり。
……ノエルが一緒の部屋で良かったと、すごく思う。
「でさ、その時のシーヴァったら泣きすぎて敵からドン引きされて……
あれは面白かったわ!!!」
「シーヴァって常に泣いてるのね……」
「寧ろ、泣いてないシーヴァなんて想像できないよっ!!」
夜の十時頃、夕飯を終えた私達は自室のベッドで横になりながらお喋りをしている。
ちなみに私達は同じベッドで寝ている。
この部屋のベッドはやたら大きいので、二人でも余裕だ。
そして、話の内容は【シーヴァ大活躍事件】。
ノエルの話によると、シーヴァは銃すら持てないほど臆病だけれどかなりの強運を持っているらしい。
例えば、敵に挟まれた状態で銃殺されそうになった時、恐怖のあまりにしゃがみ込んだら敵が相討ちで全滅した……という事件が数々あるようだ。
その運を少しだけ分けてほしい。
「………あ、そういえばアンタってジョーカーさんとゲームしてるんでしょ? 負けたら死んじゃうやつ」
「うん、そうだよ。
三人の中から《正直者》を当てるゲームをしてるんだ」
「三人? 三人って誰?」
「えっと、ハルトとナツとユキ……この屋敷の三兄弟だよ」
私の言葉に、ノエルがきょとんと首を傾げている。
……説明は間違っていないと思う。
「お屋敷のメイドさんやテトルフさんとかは?」
「ううん。ジョーカーが《執事やメイド達は対象外だ》って言っていたから関係ないよ。
後、私もね」
「…………ふーん……つまり、執事やメイドやアンタ以外は対象者ってこと?」
「そうだね。
だから、三人の中から選ぶんだよ」
「その正直者は《いない》って可能性は無いの?」
「絶対にいるって言っていたから、大丈夫だと思う」
「……うーん…アンタの力になってやりたいけど、分からないわ……」
頭を抱え、唸るノエル。
私もそれにつられ、同じ様に頭を抱える。
暫く二人で考えていたが、やがてノエルが小さくため息を吐いて肩を竦めた。
「………まっ、期間はまだまだあるんだし、頑張りなさいな!!」
「うん、死にたくないし……頑張るよ」
「ここに居る間、何か困ったことがあったら力になるわ」
「ありがとう、ノエル」
「どういたしまして。
それじゃ、ノエルはお風呂入ってこようかなー……すぐ戻ってくるね!!!!」
そう言って、ノエルは部屋から出て行った。
いつもは一人が当たり前なのに、今では何となく一人だと落ち着かない。
ノエルは一人で風呂に入るのが好きらしい。
この屋敷のお風呂はまるで銭湯のように、男女で分かれている。
風呂自体も大きいが、脱衣所もなかなかの大きさだ。
だから、大人数でもお風呂に入れる。
しかし、彼女は他の女性――――私やメイド達が入っていない時を選んで風呂へ行っている。
ちなみに、私はもうお風呂を済ませたので、特に何もすることが無いし……
のんびりとノエルを待つことにした。
………いや、待とうとしていた。
「……あれは、ノエルの櫛?」
先程ノエルが横になっていた場所に、可愛らしい花柄の櫛が落ちていた。
彼女は髪の手入れには力を入れているらしく、櫛は肌身欠かさず持っているのだと言っていたのだが……
………横になった時、懐から落ちてしまったのだろうか?
だとしたら、ノエルは困っているかもしれない。
「よし、届けに行こうかな……」
最近、何かを届けに行くと良からぬ事が多々起きるけれど……まあ、何もないだろう。
私はノエルの忘れてた櫛を持って、部屋を後にした。
「………空いてると良いんだけど…」
階段を降り、一階の風呂場へたどり着く。
ここの風呂場の扉は内側から鍵をかけるタイプなので、空いていなかったらここへ来た意味が無くなってしまう。
……もし空いていなかったら、ここで待ってノエルに渡そうかな。
そう思いながら、私は扉に手をかけた。
「あ、空いてる」
良かった、空いていた。
……いや、本来なら閉まってなくては不用心なのだが…まあ空いていた方がすぐに渡せる。
そして、そのままゆっくりと扉を開ける。
「ノエル、櫛忘れ――――――――――――っ…!!!?」
「!!!???」
中へ入り、とりあえず鍵を閉めた後に辺りを見渡した時、奥の方で人影が見えたのでノエルだと思い、声をかけた。
………しかし、その人影と目が合った時……私の言葉は詰まってしまう。
その居たのは――――――――《ウサギ》だ。
いや、正しく言うと真っ黒なウサギの耳を頭に付けた《男》だった。
ショートパンツは穿いているが、それ以外は何も着ていない。
遠くからでは詳しくは見えないけれど、今までこの屋敷でこんな男性を見たことがないので不審者だということは分かった。
というより、ウサギの耳を付けた半裸の男なんて、不審者以外にあり得ない。
「ひっ………!!!!!」
助けを呼ぼうと思い、扉の鍵を開けようとした途端………
後ろから大きな手で口を塞がれ、脱衣所の奥の方へと引きずり込まれてしまった。
...to be continued...