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第17話 青い薔薇

 屋敷へ着いてジョーカーの元へ行き、頼まれていた本と引き換えに約束していた年間行事表を貰うことができた。


 その後、自室へ戻る途中に吸血鬼な執事がやけに私に執着していたが…アレは一体なんだったのだろうか?



 恐らく、私の服に血の臭いがついていたのだろうけれど……事情を話せば長くなりそうなので止めた。


 それでもまだ食いついてくる執事に、若干苦笑しながら一日は終わった。




 ―――――そんな『ローズとのおつかい』から、数日が経ったある日。






 私は今、ナツに中庭にある彼の薔薇園へ(強制的に)連れてこられている。



 いや、別に嫌な気はしないのだが………










「……んあ? どうした、眠いのか?」


「う、うん……すごく眠い……」



「しゃあねぇな……まあ、頑張って慣れろよ」










 ……朝四時前の起床に、慣れろと?



 改めて、私は今……ナツが「どうしても見せたい物がある」と言うことで、この薔薇園に強制連行されています。


 太陽の光は無く、さらに薔薇園の中は電球が一つしかないため薄暗い。



 ちなみに以前の、ハルトとの《地獄のお菓子教室》の時には五時で僅かに太陽は出ていた。



 この二人は早起きすぎだろう………


 同じ兄弟である、ユキも早起きだと考えるとゾッとする。



 それとも、私の起床時間が問題なのだろうか…



 いや、七時は一般的なはずだ。










「寒くねぇか?

 やばかったら、そこにホットミルクあるから飲め」



「ありがとう……でも、まだ大丈夫だよ」


「無理はすんなよ……?」










 屈んで私の顔色を伺いながら、じっと心配そうな目で見つめる。



 そんなに心配するなら、この時間に起こさないでほしい……だなんて言えない。










「……ところで、見せたい物って?」


「おう、それはもう少し待てば分かるぞ」


「そう…」



「とりあえず、それまでの間は雑談しようぜ」










 ぐいっと手を引かれ、ベンチのようなところに座らせられる。


 そして私の隣にナツが腰掛けた。



 雑談と言っても何を話せばいいのか分からず、少し困惑した。


 それに気づいたらしいナツが、私より先に口を開く。










「そーいや……

 もう、この屋敷には慣れたか?」



「んー……まだ少し…でも、だいぶ慣れたよ」


「どの辺りが慣れてないんだ?」


「例えば、訪問者が物騒な人だったり………」



「アレ、か……アレはジョーカーの魔法目当てに来てる奴等だ」


「ジョーカーの?」



「おう、ジョーカーはこの世界でも指折りの大魔法使いだからな……

 あちこちの街から資産家や大富豪が、ジョーカーの力を求めてやってくるんだぜ?」










 ……まあ、どんな願いも叶えられるだなんて…魅力的だしね。


 ということは、あのライムとユウムのいる組織もジョーカーの力を求めてやってきたのだろうか?










「依頼内容は様々。

 永遠の命や最強の力、相手の心が読めるようになりてぇとか……」



「相手の、心……」










 ジョーカーは人の心を読むことができる。


 それもきっと、魔法の力なのだろう。



 ふと、私は『魔法』というキーワードを話す時のナツの表情に違和感を感じた。


 薄暗くて確認は出来ないが、少し気になってしまったので聞いてみることにする。










「ナツは魔法が――――――――」





「大っ嫌いだ」










 質問をしようとしていた内容を、答えで遮られた。



 先程まで正面を向いていたナツだが、すぐに私の方を見つめる。










「魔法なんて、俺様は大嫌いだ」



「どうして?」




「―――――分からねえのか?」


「っ…!!!」









 凄まじい勢いで肩を掴まれ、鼻が触れそうなほど至近距離で私に問いかけるナツ。


 近くだからこそ分かるが、今の彼の瞳に光は宿っていなかった。



 ……何故、こんなにも怒っているのだろうか…?










「確かに魔法は便利だ。

 怪我してもすぐに治せるし、遠い所も一瞬で行き来できる」


「……」


「けどよ、そんなんじゃダメだろ?

 何でも魔法に頼ってたら生きていけねえ」


「うん…」



「それに――――――ほら、見ろ」










 ナツが私から離れ、まっすぐ正面を指さす。


 そこには……いつの間にか出ていた太陽の光に照らされ、キラキラと色鮮やかに輝く幾つもの薔薇があった。


 まるで宝石箱をひっくり返したように、とても綺麗な薔薇で視界は埋め尽くされる。



 真紅の赤、ほんのりと色づいた愛らしい桃色、穢れのない純白…


 知識がない私でさえ、どの薔薇も一つ一つが丁寧に育てられているのが分かった。









「綺麗っ…!!!」


「だろ?

 ……人の手じゃなきゃ、こんな綺麗な物は作れねぇんだ」










 ナツはベンチから立ち上がり、ある一定の場所まで歩くと私に手招きをした。


 来いと言うことだろうか?



 とりあえず、私も立ち上がって彼の元へ向かう。










「どうしたの?」


「お前に見せたかったのは、コレだ」



「コレ? ……あ…!!!!」










 青。


 無数の赤色や桃色の薔薇が咲き誇る中に、たった一つだけ咲いている青い薔薇。


 その薔薇は他と比べて少し小さいが、美しさはどの薔薇にも劣っていなかった。










「青い薔薇……初めて見た……!!」



「昨日の夜中に咲いてさ、どうしても一番にお前に見せたかったんだ」


「…どうして?」



「俺様は、その……誰よりもお前にこの花を見せたかった………

 長年育ててた青い薔薇が、初めて成功したからさ……///」










 そういって、嬉しそうに笑うナツ。


 …そんなに薔薇が好きなんだ……


 まだ眠たいせいか少し頭が回転しないけれど、彼の熱意がとても伝わる。



 思わず、私も頬を緩ませて笑った。










「ありがとう、ナツ」


「お、おう……別に、俺様は…っ……」



「本当に薔薇が好きなんだね?」





「………………はあ?」









 ……あれ?


 私、何か間違ったのだろうか…?



 ナツの顔が見る見る内に、笑顔が怒りの表情に変わっていく。




 そして、盛大にため息をついた。










「――――――――――さっきの羞恥心を返せ…っ…!!!」



「え?」



「う、うるせええええ!!別に何でもねぇよ!!」










 よく聞こえなかったので聞き返したら、ナツはそっぽを向いてしまった。



 暫く首を傾げていたが、私の視線はこの綺麗な青い薔薇へと向かう。




 魔法では容易く作れてしまうかもしれない、青い薔薇。


 しかし力に頼っていては、この感動は絶対に味わえないのだろう……




 彼の魔法を嫌う理由が、改めて理解できた気がした。







...to be continued...

青い薔薇の花言葉、『奇跡』『神様の祝福』。

魔法では簡単に作れてしまうけど、それだと奇跡じゃない……

今回はそんなお話でした。

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