第13話 小さな不安
時刻は午後七時。
夕食時の時間だ。
私は今、自分の部屋のベッドの上で今日の出来事を振り返っている。
あの後は、目が覚めると私はナツの部屋ではなく…自室のベッドで寝ていた。
ちなみにナツの話によると、どうやらテトルフが彼の部屋を掃除しに行った際に私を見つけ、強制的に私の部屋へ移動させたらしい。
言われるまではあまり意識していなかったが、年頃の男性のベッドで寝るだなんて不謹慎にもほどがある。
今後はそのようなことなぞしない。絶対に。
「……テトルフ、怒ってたなぁ…」
彼の部屋で寝ていたことを、何故かテトルフは激怒していた。
私が起きるなり、有無を言わさず説教だ。
素直に理由を話したら、少しは機嫌が治ったようだが……
しかし、私は何故彼があそこまで激怒していたのか理由が分からない。
確かに私の行動は不謹慎だったが、流石に二時間の説教は長すぎだろう…。
分からないので首を傾げていると、ふとドアが軽い音を立ててノックされる。
ガチャリと扉が開き、私の部屋に入ってきたのは先ほど思い浮かべていた人物―――テトルフだった。
「体調は良好ですか、お嬢様?」
「う、うん…今は平気……」
じっと私を見つめるテトルフ。
どうやら、私の言葉が真意かどうか確かめているようだ。
やがて執事は小さくため息をつくと、部屋のドアを開ける。
中に入ってきたのは、ステンレスワゴンを押すメイドと軽やかな足取りのハルトだ。
「こーんばんは!!身体は平気っ?」
「ハルト……うん、大丈夫だよ」
「……一応、メイドにお粥を作らせましたので食べてくださいね」
「ありがとう、テトルフ。
わざわざごめんね?」
「本当は俺がお粥を作ろうと思ったんだけど、気づいたらメイドの方が先に完成しちゃってさー…超悔しい!!!!」
地団駄を踏み、悔しいと連呼するハルト。
――――それを見たメイドが苦笑いしている。
「あはは……
でも、本当に嬉しい。皆ありがとう」
「いえ、お嬢様のためですから……
もしもアスカお嬢様が喜ぶのであれば、あーんもしますよ?」
ワゴンに乗っている小さな土鍋……恐らく、お粥が入っているのだろう。
その土鍋をスプーンと一緒にメイドから受け取り、テトルフは私の前までやってくる。
……ご丁寧に、爽やかな笑みを浮かべて「あーん」と言いながらだ。
それを見たハルトは慌てた様子で、テトルフから土鍋を奪う。
「ちょ、それは俺がやるの!!!
俺の方がアスカちゃんは喜ぶだろ? なっ?」
「……え? えっと、別に私は――――」
「ほら、喜ぶってさ☆
……良いだろ? テトルフ?」
「…………仕方ないですね…
一回だけですよ? 後はオレですから」
「一回っっ!!?鬼だろ……」
困ったように笑いながら、ハルトは土鍋のフタを開けた。
見た限りが中身は黄色なので、卵粥なのだろうか……
湯気がもくもくと天井まで届く。
「美味しそう……!!」
「卵粥ですか…オレ、結構好きです」
「…………」
私とテトルフが少し笑みを浮かべながら、思い思いに感想を口にする中、ハルトは黙ったままだった。
ただ黙ったまま、自身の持つ卵粥を見つめている。
「………ハルト? どうしたの?」
明らかに様子がおかしい。
何故、こんなに黙り込んでいるのか分からないけれど、嫌な予感がする。
少し経ち、ハルトは私とテトルフを見つめてにっこりと笑った。
「やっぱ俺がお粥を作るよ!!
アスカちゃんには俺の手料理を食べてもらいたいしさっ!!!」
「え……?」
先程の状況など全て無かったかのように、ウインクをしながらそう言ったハルト。
……さっきのは、気のせいだったのだろうか?
土鍋のフタを閉め、彼はメイドの手を掴む。
「じゃ、美味しーお粥が出来るまで……
テトルフはアスカちゃんの看病お願いしまーっす!!!!」
そう言って、ハルトとメイドは部屋から出ていった。
嵐のように去って行った二人に、思わず苦笑いしてしまう。
「…食べたかったなあ…あの卵粥……」
「―――――いえ、あれは食べてはいけないみたいですね」
「……どういうこと?」
執事は目を細めながら、二人が去って行った扉を見つめている。
彼は何を知ったのだろうか?
やはり、あのハルトの異変は気のせいではなかった……?
「……詳しくは知りませんが、あの様子だと…
お粥に何らかのミスがあったようですね」
「ミス?」
「………そんな不安そうな顔をしないでください…
恐らく、卵の殻が入っていたとかそういう感じですよ」
「本当?」
「…はい、本当です」
私にそう言ったテトルフ。
少し、不安になった気持ちが和らいだ。
「では、オレも少々失礼しますね?」
「どこに行くの?」
「もうすぐ、使用人たちのミーティングなのですよ。
寂しかったら呼んでください。放棄してでもすぐに駆けつけますから」
「う、ううん…大丈夫……」
本気でしそうだから、全力で拒否をしたい。
流石にそれは迷惑だろう。
というか、執事はこの前も「お嬢様と買い物に行くためなら、どんな仕事も放棄しますよ」とか言っていた。
………本当、この執事の考えていることはよくわからない……。
「それでは、数分で終わらせてきます」
「いってらっしゃい…
でも、大事な内容なら数分は駄目」
「…………はい、かしこまりました」
そういって、テトルフは私の部屋から出ていく。
何だ、さっきのやけに長い間は……
「……まあ、いっか…とにかく今はお粥が来るのを待とう」
急に静かになった部屋で、私は小さくため息をついた。
...to be continued...
……うん、次回で体調不良の原因が分かるって言ったのは、気のせいでした…
こ、この次なんです……はい、この次です…!!orz
そういえば、キャラ紹介を色々と加筆しました。
初期のキャラ紹介よりは明確になってますね…外見とか台詞サンプルもありますよ!!(*´ω`)
……私に画力があれば、イメージイラストが描けるのですがね…残念ながら、私に画力は無いのです…orz