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第10話 ユキの部屋にて

 そういえば、初日と食事の時以来……一度もユキを見ていない気がする。


 ハルトやナツは時折廊下ですれ違うが、彼はそのような出来事がない。



 


 普段の彼は、何をしているのだろうか?









「――――はい、こちらがユキ様の部屋ですよ」










 テトルフに連れられ、私は屋敷の端の方までやってきた。


 この辺りは何故か電球が全くなく、さらに窓も少ないため薄暗い。







「テトルフ、どうしてこの辺りはこんなに暗いの?」



「ユキ様は静かで暗い場所を好むようなので、わざわざ窓や電球を取り外したのですよ」








 わざわざ取り外すほど、暗い場所が好き…


 たしかに、ユキの印象からすると静かな場所は合っているのかもしれない。


 しかし、こんな暗い所で一体何をしているのだろうか……?




 そんなことを考えていると、横に立っていた執事はユキの部屋のドアをノックする。


 暫くすると、中から返事はなかったが――代わりにガチャリと音を立ててドアが開く。








「では、入りましょうか」



「う、うん…」









 テトルフが中に入り、それに続いて私も入る。





 そこには―――――――








「…………ん…ようこそ」



「……っ…こ、これは……?」








 中もやはり薄暗いが、何故かユキの姿がくっきりとよく見える。


 正確には、ユキの立つ床には奇妙な絵が描かれており、その絵が不気味な紫色の光を放っているため見えているのだ。


 その奇妙な絵は大きな丸の中心に、見たこともないような文字や記号が描かれている。




 ……これは…










「………これは魔方陣ですよ、アスカお嬢様」



「魔方…陣…」








 じっと床に描かれた奇妙な絵――――魔方陣を見ていた私に、横からテトルフが教えてくれた。



 魔方陣。


 ファンタジーなゲームではよく見るが、実物は初めてだ。



 しかし、それが何故ユキの部屋にあるのだろう?








「ユキ、この魔方陣は……」



「………ボク」



「え、ユキが……?」




「ユキ様は、幼い内に魔法の才能が開花し……

 今ではジョーカー様の次に優秀な魔法使いなのですよ」










 ユキが、魔法使い?


 


 それに《どんな願いも叶えられる》ジョーカーの次に優秀だなんて、本当に凄いのだろう。











「そんなに凄い魔法使いなんだ……」



「……違う……

 …まだ、弱い……」










 ユキはふるふると可愛らしく首を振り、私の言葉を否定した。



 首を振る度に、彼の深々と被った猫耳のフードが揺れる。



 じっとそれを見つめていた私は、思わず心の中で呟いていた言葉を無意識に発してしまう。







「………可愛い…」



「……………ボク…?」










 きょとんと首を傾げ、ユキが私をじっと見つめる。


 その表情は少し困って……




 いや、かなり困った様子だった。




 その動作で、ようやく私は自分の言った発言の内容に気が付く。





 ――――――いけない、つい言葉にしてしまった。




 出会って数日しか経ってない相手に、ましてや女に可愛いと言われるだなんて男としては複雑すぎるだろう。


 この微妙な空気をどうにかしたいと思い、横目でテトルフを見つめて救いの手を求めるが、執事は苦笑いしながら肩を竦めただけで何もしない。




 私がオロオロと落ち着きがない素振りをしていると、ユキが少し顔を逸らしながら自身の口元に服の袖を当てた。


 


 少し、肩が震えている。









「…………クスッ……アスカ、面白い…」



「え…?」




「……可愛いの…ボク、違う………アスカ、だよ?」



「へっ!!?」










 普段の無表情な顔とは一変、クスクスと楽しそうに笑うユキに対し、私は目を開いて驚いてしまう。



 ま、まさか、可愛いと言われたことを気にせず……ましてや、私にその言葉をお返ししてきただなんて……










「え、えっと…

 私は可愛くなんて…」



「……アスカ、可愛い…好き」










 口元に袖を当てるのを止め、私に手を伸ばそうとするユキ。



 しかし―――――――










「……では、ユキ様。

 ヒントのご支度をお願いします」




「…………む……」










 ユキが私に向かって伸ばした手は、二人の間にテトルフが割り込んだことで強制的に静止させられる。



 正面の執事でよく見えないが、ユキは少し頬を膨らませているのが分かった。










「………テト、嫌い…」



「嫌いになられては困ります…

 ただ、これ以上の夜更かしはアスカお嬢様の健康状態に大変良くないと思いますよ?」



「…まだ……十一時…

 つまり………全然、平気」



「いえ、アウトです。

 それともアスカお嬢様がご病気になられても良いのです?」



「………………テト…後で、お仕置き…」


「おやおや…お仕置きだなんて、男の方に言われると別の意味でゾクゾク致しますね」







「…………」










 ブツブツと小さな声のせいであまりよく聞こえないが、今分かるのは『微妙な空気』より複雑な空気だと言うことが分かる。



 唯一聞こえたのは、ユキがテトルフの事を「テト」と呼んでいたくらいだ。



 ……愛称、だろうか?










「…………じゃあ…ヒント………待ってて」









 テトルフの後ろにいる私にそう言い、ユキは自身の足元で不気味に光る魔法陣へ視線を向ける。


 そして彼がゆっくりと魔法陣に手をかざすと、そこから紙が一枚ひらりと舞い上がり、私の手元へゆっくりと落ちた。




 そこには大きな文字で《年間行事表》と書かれていて、中身は海水浴やら十五夜といった、ありきたりな行事やお客さんの来訪日がいくつか書いてあった。




 ……よく見ると、一番下に小さい文字で「この行事等を活かして一層仲良くなり、正直者探しの糧にしてね」と書かれている。




 まるで、攻略本の一ページのようだ。



 とにかく、行事予定は助かる。


 これをうまく活用すれば、死亡フラグは回避できる気がした。




 多分だけれど。









「ありがとう。

 これを参考にして、頑張る」



「……頑張れ…応援……ファイト」





「では、先にアスカお嬢様は自室へ戻り、お休みください。

 オレはユキ様からお説教がありますので」










 ユキやテトルフが手を振り、私はそれを見て振り返し、部屋を出た。



 しっかりと渡された紙を手に持ち、言われた通り自室へ向かおうと薄暗い廊下をゆっくり歩くと、私は前から来た人影にぶつかってしまう。



 少しよろけたが、ぶつかった相手はすぐに手を掴んで私の体制を戻してくれたおかげで、転ばずには済んだ。








「……あ、あら…

 暗いせいでぶつかってしまいました…大丈夫ですか?」



「…あ、ありがとうございます……大丈夫です」



「安心しました……

 では、私は仕事がございますので失礼しますね」










 どうやら、メイドとぶつかってしまったらしい。


 メイドは私の一礼した後、少し急ぎ足で私の後ろへ去って行った。



 彼女は急いでいたのにぶつかってしまい、そのせいで仕事に支障が出るのかと思い、少し申し訳ない気持ちになりながら私は自室へと戻る。











 しかし、この時の私は気づいていなかった。







 先程ユキから貰った紙が………私の手から、消えていることに。







...to be continued...

次からは【ACT.2】を始めます。

…ジョーカーさんは、もう少し後……でしたね…orz


以上、ここまで読んで下さりありがとうございます!!!

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