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第9話 血塗れたプレゼント

「―――――おや、お帰りなさいませ」



「………」








 私の部屋に、血まみれの執事が一人。


 さらにその執事は吸血鬼で、自分の服についた血に何故かうっとりとしている。





 これは、夢だろうか?



 私は自分の頬をそっとつねってみるが、やはり痛い。




 暫く私がこの状況に理解できず黙っていると、何を勘違いしたのか執事が「大丈夫ですよ」と言ってきた。









「そんなに心配しないでください。

 これはオレの怪我ではありません、相手の血ですよ」



「は、はあ……」




「ですので、アスカお嬢様……

 仕事に一切支障はありませんので、安心してくださいね?」










 正直、私は目の前の執事よりも被害者を心配している。


 何をどうしたらこのような惨事になるというのだ。









「大体、あの方が悪いのです。

 オレが買おうとしていたものを横取りしたのですから」



「テトルフ、どういうこと?」



「実はですね……オレ、今日は朝から最寄りの街に買い物に行ってたのですよ。

 その時に集団の男性方に横取りされまして、奪い返すために殺しました」









 満悦の笑みで《街》やら《殺す》という単語を発したテトルフ。



 ……まさか…あの地面に転がっていた死体の数々は…




 何となく想像はできたが、私は一応確認をすることにした。










「もしかして、街に転がっていた死体はテトルフが……?」



「えぇ、そうですが………

 その状況を知っているということは、お嬢様も買い物に行ったということですよね?」



「…う、うん……行ったけど」








 目の前の執事は、じりじりと距離をつめて近寄る。


 それと同速度で私も後ろへ後ずさりしたが、ついには壁に追い込まれてしまう。


 彼の服から、血の臭いが漂っている。



 ……何故だろう…この血が原因かは分からないけど、寒気がする。



 複雑な心境の私に、間近まで顔を近づけてテトルフが私を見つめた。






 その目は、氷のように冷たくて光がない。




 やがて発せられた丁寧な言葉にも、いつもの温かみはなくなっていた。









「―――――――どなたと、買い物に行ったのですか?」



「っ…ナツとだけど…」




「……ナツ様、ですか…」



「…………」









 眉を寄せ、何となくだが苛立っている雰囲気を漂わせるテトルフ。


 何故が怒っているのかは分からないが、普段ヘラヘラしている彼がこんな表情をするとは思いもしなかったので、私は黙ってしまった。






 そのまま少し経った後、間近の執事は私から離れて小さくため息をつく。


 完全に怒ってしまったのだろうか……と不安になったが、その目や表情にはもう氷のような冷たさは無かった。









「……脳まで筋肉なナツ様ではなく、華麗で優秀なオレを誘ってくだされば良かったのに…」



「…脳まで…って、酷い言い様ね……」









 ……というか、誘ったのはナツだし…


 何より、朝からテトルフは居なかっただろう。










「とにかく、次はオレを誘ってくださいね? 約束ですよ?」



「わ、分かった……次は誘うね」



「はい、是非誘ってください。

 お嬢様のお誘いならどんな仕事だろうと放棄してでも行きますよ」










 ……仕事放棄…


 それは、他の方に迷惑だからやめてほしい…切実に。



 とにかく、いつも通りで安心した。



 後は血で汚れている服を替えてほしい。


 



 そういえば、テトルフが人を殺めてまで買いたかった物とは何だろうか?










「ねえ、ところでテトルフは何を買おうとして――――」



「その前に、ナツ様との買い物で何を得たのか教えてください」




「…え…服だけど……」




「服……

 どんな服です?」










 じっとテトルフが私の持っていた袋を見る。



 とりあえず、私はナツが買ってくれた服を袋から取り出した。




 それは控えめな黒いリボンのついた白いワンピースと、水色のレースのブラウスだ。



 ワンピースは大丈夫だが、ブラウスに関してはスカートやズボンがないと着ることはできない。


 今度、買いに行きたいな。




 瞬きすることなく見つめていた執事は、ゆっくりと私に手を伸ばす。


 否、私の持っているブラウスに向かって手を伸ばした。



 ――――そんなに気になるのだろうか?




 テトルフの意図は分からなかったが、私はブラウスを渡した。










「この服がどうしたの?」



「……ワンピースの方はオレ好みなのですが…この服は、気に入りません」



「え?」




「よって、執事権限で処分しますね」









 言っている意味がよく分からない。


 しかし「処分」と聞いて黙らずには居られない。

 


 慌てて止めようとするが、テトルフが服を持っていない方でパチンと指を鳴らすと、ブラウスは忽然と消えてしまった。










「消えた……!!?」



「吸血鬼は、初歩的な魔法であれば使用できます。

 ちなみに今のは移動魔法ですね」



「移動?」


「はい、焼却炉の方に移動させました」









 ………彼の今の発言は犯罪者染みているが、その時の笑みは全国の執事萌えの女性を悩殺するであろう至極の笑顔だった。



 というか、プレゼントを燃やされてしまうだなんて…




 後でナツに何て言えば良いのだろうか……








「……さて、ナツ様のプレゼントは服ということが分かりましたし……

 では、オレのプレゼントを受け取ってください」



「…プレゼント?」



「はい、朝からお嬢様のためにコレを買いに行ってたのですよ」










 テトルフが懐から取り出したのは、血塗れた小さな箱。


 恐る恐る受け取り、中を開けると…





 銀色の、薔薇をモチーフにした綺麗なブローチが入っていた。











「……わあ…!!」



「やはり、アスカお嬢様は薔薇がお好きなのですね?」



「……どういうこと?」



「この前、お嬢様は薔薇園の事を気にしていましたから…

 その形にしたのです」









 …実際、薔薇は嫌いではない方だが、そこまで好きというわけでもない。


 しかし、目の前の執事は私の事を考えてくれていた……









「そのワンピースなら、ブローチが似合いそうですね……安心しましたよ」


「あ、ありがとう……!!」



「いえ、オレこそ美味しいお菓子をありがとうございました。

 では、約束を果たしましょうかね」











 約束とは、この『正直者』を当てるために重要な《ヒント》を教えてくれるという内容だ。



 正直、ジョーカーが許可している範囲のヒントだなんて役に立つかは不安だが、無いよりは遥かに安心する。




 私が彼の言葉を待っていると、彼はゆっくりと自身の口元に人差し指を当ててにっこりと笑った。









「約束を果たすために、夕飯を食べた後……

 少し移動しましょうか」



「移動?

 …どこに行くの?」








 私の質問に、執事はさらに微笑んだ。


 ……その笑顔が逆に怖い。









「ユキ様の部屋ですよ」





「ユキの…部屋………?」










 何故、約束を果たすためにユキの部屋へ行くのだろうか?



 まさか、ユキは正直者?






 それとも…………







...to be continued...

次回は、深夜に無口なユキくんの部屋へ突撃の巻です。

それが終わったら、懐かしのジョーカーの回…だと思います、はい。


ここまでありがとうございましたーっ!!!

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