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第8話 買い物に行きましょう

「俺様と買い物に行くぞ、アスカ」


「………買い物?」



「服が欲しいんだろ? 菓子のお礼に買ってやる」


「え、どうしてそれを……」


「テトルフから聞いた。

 何より気分転換っつーと……やっぱ、外だろ?」

 





 朝食を食べ終えて自室へ戻ろうとした時、ナツが私に買い物の誘いをしてきた。


 結局、昨日は妙な胸騒ぎのせいで食事と入浴以外は自室に籠っていて、マフィンについてはテトルフが私の代わりに配ってくれたのだ。



 恐らく、目の前の彼は昨日の私を気にしてくれているらしい。


 ……やはり、彼は気遣い力が高いと思う。




 そしてテトルフと約束していた《ヒント》については、今日教えてくれると言っていたのだが……朝から姿が見えない。




 まさか逃げたのだろうか?




 もしそうであるなら、私は彼を一生恨むつもりだ。



 とりあえず、ナツの気遣いは受け取るべき。


 了承しよう。









「分かった、ありがとう」



「おう、そうと決まればさっさと街に行くぞ」










 ナツが私の腕を引っ張り、歩き出す。



 そういえば、この世界の街とはどんな所だろう。


 ファンタジックな映画のように、人や物が宙を行き来するだろうか?


 魔法が存在する世界だし、きっと普通の街ではないはず。



 とても楽しみだ。







*  *  *  *  *









 ――――そんな風に考えていた、少し前の私へ。


 もっと、よく頭を使って考えた方が良い。




 この世界には、魔法以外に沢山存在するものがあったでしょうが…







「……ナツ、ここが街?」



「見りゃ分かるだろ? 服屋はもう少し先だ」


「そ、そう……」


「死体に躓いて転ばないように、足元には気を付けろよ?」




「……うん…」









 『街』とは、いかにもなマフィアや怪しい集団がウロウロ徘徊し、地面にはいくつもの死体が無造作に置いてある怪奇な場所だったのだ。


 これが腐敗臭というやつだろうか?



 ……もう、二度と外出なんてしたくない。



 何故、あの時の私は変なメルヘン思考をしていたのだろうか?


 反省したい、すごく。



 だけど……だけど、私だって夢を見たいのだ。


 病室以外の世界に憧れを抱いていただけあって、この仕打ちは酷い。









「―――――ほら、着いたぞ…

 って、顔色悪ぃけど大丈夫か?」








 屈んで、下からじっと私の顔を覗き込むナツ。


 ……顔色が悪くならないあなたの方が凄いよ。




 それとも――――死体に慣れている、とか?




 まさか、ナツは【嘘つき】なのだろうか?


 この行為は私を油断させる作戦?









「だ、大丈夫。

 大丈夫だから……」


「……嘘つくんじゃねえ。

 あからさまに顔色が悪ぃじゃん」



「本当に、平気……」



「…………」






 ナツへの疑心が募り、私は顔を合わせるのも耐え切れなくなってしまい、俯く。


 暫くするとナツは私の顔を覗き込むのをやめ、黙り込んだ。




 ……怒らせてしまった?










「………」


「……あ、あの…」



「…ちょっと待ってろ、俺様が来るまでに一歩でも動いたら許さないぞ」



「へ?」









 暫く黙っていたナツが私にそう言い、どこかへ走っていく。


 ……何をする気だろう…



 まさか、私の思考がバレて……始末をする気かもしれない。


 ここで死んでも、街を徘徊している集団のせいにしてしまえば、彼は何も悪くなくなる。



 ……逃げたい……だが、動いてしまえば確実に全てが終わる気がする。


 助けを呼ぶ手段も無い。




 まさに絶体絶命。







 そんなことを考えていたら、急に私の頬に冷たい物が触れた。








「――――っ!!!??」









 驚いて咄嗟に顔を上げる。



 そこには、ナツが残酷な笑みで笑いながら私の頬に凶器を突きつけ―――――








「お、おい……なんで、そんなに驚いてんだ?」


「…………」



「なあ、やっぱりあったかい方が良かったのか…!!?」







 ―――――――突きつけて、いなかった。


 私の頬に触れたのは、『オレンジジュース』と書かれた冷たい缶。



 そしてナツは私が過剰に反応しすぎたせいで、不安げに私を見つめる。



 しかし私は、まだ彼への疑心で胸がいっぱいだった。







「ど、どうしてこれを……?」



「………が……ろ?」


「……?」




「……身体が弱いんだろ?

 いくらジョーカーの魔法でマシになったとしても……慣れない環境じゃ、身体の負担はでかい」





「………あ…」





「俺様は魔法なんて使えないから、こんな風にしかできねぇけど……これ飲んで元気出せ」










 ………私は、何て事を考えてしまったのだろう。


 泣きたい。


 けれど、泣いてしまうと益々ナツに迷惑をかけてしまうから駄目だ。



 大した証拠や確証もなく、ただの思い込みだけでここまで最低なことをしてしまった。


 少なくとも、こんなに人を気遣えるナツを……



 ――――現状では疑うことはできない。






 そう思った私は、彼が差し出す缶に手を伸ばして受け取った。


 ここまでしてくれた彼に、お礼を言おう。




 勿論、本当に申し訳ない気持ちと感謝を込めて、精一杯の笑顔で。








「ナツ、ありがとう…!!!」



「――――っ!!!??///」






 私がお礼を言うと、ナツは大きく目を開いのたと同時に背を向けてしまった。


 な、何かマズいことをしてしまったのだろうか…










「ナ、ナツ? 

 大丈夫……?」



「だっ…大丈夫だ!!

 こ、この程度で俺様は落ちないぞ!!!」



「……落ちる?」








 私が声をかけると背を向けるのをやめ、バッと勢いよく体をこちらに反転させた。


 というか、何を言っているのかよく分からない…


 落ちる? 何がだろう?









「ナツ、落ちるって何が――――」



「うるせえええええ!!!

 さっさと飲み物飲んで、買い物に行くぞ!!!///」




「へ?

 あ…ちょっと待って…!!」







 気になったので質問をしてみたが、ナツは顔を真っ赤にさせるほど怒り、早歩きで先に行ってしまった。



 慌てて追いかけようとしたが、少し歩いた先で私のことを待っていてくれるようで、一度立ち止まって缶のプルタブを開けてからゆっくりと進んだ。





 その後、無事に服屋に着いたのだが…………



 彼は私の服の好みを聞くなり、条件に合う服を何着も購入しようとした。


 流石にそれは申し訳なかったので、最低でも二着までにしてもらい、本日の買い物は無事に終わりを告げた。





 屋敷へ戻った頃には、日が沈みはじめた時間帯。



 色々とあったので疲れていた私は、屋敷へ着くなり自室へと向かう。












 そこで私の目に入ったのは、自身の服にベットリとついた血を恍惚な表情で見つめながら佇む執事の姿だった。






...to be continued...

ナツのフラグを立たせようの巻。

俺様って自分一番みたいなイメージだけど、気遣うことのできる俺様はとても魅力的だと思う。


ここまでお付き合いしてくださり、ありがとうございますっっ!!

次も頑張りますね!!

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