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vm01 東アジアカップについて

 夏休みなので、悠宇は渡海雄を誘ってプールに行った。日差しがきらめくクールスポット。魚になった気分で飛び込めばゴーグルがずれてわやになる。太陽を背に受け、かれこれ小一時間ほど水と戯れた後でプールサイドに腰を落ち着けた。


「ふう、泳いだ泳いだ。指がもうしわしわだよ」


「私も。そろそろ目が真っ赤になっちゃいそうね。そう言えば、先週やってたサッカーの東アジアカップ見た?」


「まあ大体ね。男子は優勝してたよね」


「そう。しかもメンバーは普段代表に呼ばれていないJリーグの選手中心で。代表メンバーが固定化されていると言われて久しい中、まだまだこれだけの選手が存在しているんだとアピールになった選手もいたわね」


「韓国戦で二ゴールの柿谷とか?」


「そうね。柿谷は昔から天才、ジニアスなんて言われてたものがその素質に溺れて不真面目だったけど、今は心を入れ替えてその才能を開花させつつあるの。彼も彼とてそのうち海外組になるんじゃないかしら」


「そう言えば今の監督は海外組ばかり重用して国内組は扱いが悪いみたいに言われてるけど、あれはどうなの?」


「そこは単純には言えないわ。結局実力があるから海外からお呼びがかかって海外組になるって一面もあるんだし。ただ監督はそれまでに積み重ねてきた組織とかコンビネーションを大事にするから。実際いくらいい選手が揃っても戦術も何もない寄せ集めではそう簡単に結果を出せないものよ。今回の中国戦とかそうだったでしょ」


「うん。あれは何かもっとこう、うまく繋がらないかなあって感じだったね」


「傑出した個人さえいればどうにかなるってスポーツじゃないから。例えば優れたストライカーがいたとしてもそのストライカーまでボールが届かなければゴールを決めようがないように、チーム全体としての流れをしっかりしないと勝てはしないものよ」


「難しいものだねえ」


「チームスポーツなんだからそんなもんよ。ましてや代表はその存在自体が基本的に寄せ集めなんだから、監督の考えをよく理解している人を重視するのも一つのやり方よ。もちろんそれだけじゃ難しいから新しい才能も見つけて、そこから本番である来年のワールドカップまでにうまくそれまでのチームに馴染ませる事が可能かってのも見ないといけないし。何より誰からも不満のない選考なんて絶対にありえないから大変なお仕事よ」


「そうだね。じゃあJリーグは今どんな感じなの?」


「うん。今ちょうどシーズンの半分にあたる十七節まで終わってて、首位はサンフレッチェ広島。ずっとトップだったのに前節で広島に抜かれて二位に後退したのが大宮アルディージャ。三位は横浜Fマリノスとなっているわ」


「へえ、こっちの広島は強いんだ」


「近年はね。広島に関してはまずやりたいサッカーが明確で、そのための選手が揃っているのがいい所ね。俗に言うペトロヴィッチのサッカー。まあ細かい説明は省くけどこのサッカーをベースに現監督である森保一が守備もしっかりまとめて安定した力を出せるチームを作ったわ。その結果去年は優勝、Jリーグで最強の座を手に入れたの。そして今年も今のところ首位。何も連覇は望まないけど強いってのはいい事よ」


「本当だね。代表でも広島の選手が何人も呼ばれてたよね」


「大抵が初選出だったけどね、広島にとっては欠かせない選手ばかりよ。まずはGKの西川。彼に限っては代表の常連でもあって、ここに関しては『広島はJリーグでトップの実力を誇るGKを擁している』と言ってもあながち間違いじゃないくらいの安定感があるわ。それにシュートを止める以外の仕事もよく出来るし。例えばキックの精度やボール回しに参加できる技術とかね」


「ふうん。いい選手がいたもんだね」


「元々は大分にいたのよね。今はまたJ1に上がって苦戦してるけどその前はもっと強くて優秀な選手がいっぱいいてタイトルも獲得したけど経営難が発覚したの。それで今はドイツいいる清武や金崎、この間の大会にも呼ばれた森重とかそれ以外にも大量の選手を放出する羽目に陥って、西川もここで移籍となったの。その頃すでに代表レベルだったから引く手数多だったはずだけど、うまく獲得できたものよね」


「それとディフェンダーの千葉って選手も呼ばれてたよね」


「ええ。でも正直代表って選手じゃないと思っていたからびっくりしたわ。ディフェンス能力そのものより足元の巧みさとかパスの上手さとか、まさに広島のサッカーに合った人物というイメージね。ディフェンダーとしての強さがあって攻め上がりも積極的な水本、それに去年途中に大宮や清水との争奪戦を制して水戸から獲得して現在成長中の塩谷のほうが代表に近いと思っていたわ。まあ、みんないい選手よ。怪我人が出ると代わりはそんなにいないし一気に厳しくなる気がするけど」


「広島はあんまりお金を持ってるイメージないよね」


「実際裕福で欲しいと思えば獲得できるようなクラブでは決してないわ。でもまったくないわけでもないの。限られた予算の中で的確な補強が出来ているわね。例えば今私が名前を挙げた四人、彼らは全員移籍選手なの」


「へえ、そうなんだ」


「しかも西川は前述ののっぴきならない事情があっての移籍だし、水本は元々代表にも呼ばれてたけど移籍失敗やチームの降格で評価が下がってたタイミングで体よく獲得出来たニュアンス。千葉は新潟にいたけど決して代表とかそんなレベルじゃなかったし、塩谷もJ2の注目選手という感じだったから。派手は補強はそれが可能なクラブに任せて、広島はその片隅で静かに力を蓄えた感じね」


「上手い具合にやれたものだね。ところで生え抜き選手は?」


「中盤は割と生え抜きが多いわ。まず中盤の後ろのほう、ボランチにはこの間代表に呼ばれた青山とユースから広島一筋の森崎和幸が組んでいるわ。青山はまだしも、森崎だって本来なら代表レベルの実力があるのに病気や年齢からきっと縁がないのね。でもその分広島では絶対的な存在と言えるわ。通ぶりたいなら『やっぱりカズが効いてるよね』とか言ったらもう一発よ。世間一般でカズと言えば三浦さんだけど、それを承知で『俺たちにとってカズと言えば当然森崎和幸の事だから』みたいなのを言外に匂わせてね」


「ふふっ、そうだね」


「そしてサイドには、右にはミキッチって外国人がいて、これがまた凄いドリブルとかうまくて攻守に欠かせない存在なの。左は、去年は清水って若い選手だったけど今年は怪我もあって山岸という移籍経験も豊富なベテランが基本かしらね。ここは絶対的に固定という感じでもないわね」


「そこはウィークポイントになってる感じ?」


「一概には言えないわ。メンバーがあまりに固定化されると逆に脆くなるから、適切な争いも必要ではあるし。素質があるからと言って固定させればいいって話じゃないものよ。どこの誰とは言わないけど、打率二割ギリギリのサードとかね。そりゃあたまに見せる逆方向へのホームランなんかは素晴らしいけど対抗馬すら存在しないってどういう事よ編成の怠慢よ」


「ゆ、ゆうちゃんちょっと怖いよ」


「あらごめんなさい。じゃあ次は前線ね。広島は俗にワントップツーシャドーと言われるポジションとなっているわ。ワントップはもはや言うまでもない男、去年の得点王でMVPでその他色々表彰した不世出の点取り屋佐藤寿人」


「ああ、知ってる。なかなか代表に呼ばれない人でしょ」


「そうね。呼ばれない理由は色々考え付くけど、代表だけがサッカーじゃないわ。とにかく彼がいれば確実に二桁得点は取ってくれるという素晴らしいストライカーよ。無論、それは仲間に支えられての事ではあるけど、常に活躍し続けるなんてそう出来るもんじゃないわ。そしてツーシャドーには、今は高萩と石原が多いわね。ゲームを作ったり、いきなり最前線に顔を出して点を取ったりするのがシャドーの仕事よ。高萩はこの間の大会にも呼ばれたけど、当分は広島に専念できそうね。大体このメンバーで去年は優勝して、今年も途中で何かあった気がするけどそれは除いてよく戦っているわ」


「ふうん。それ以外にはどんな選手がいるの?」


「まずは野津田という選手がいいわね。若いけど将来の主力になる可能性は大いにあるわ。後は、韓国人のファン・ソッコとか。怪我で離脱中の森崎浩司は森崎和幸の双子の弟で顔も似てるわ。彼と名前が同じ中島って選手も地味にいい選手だし。浅野って新人もいるけど、まあこれは将来に期待って枠。それと、後は、まあ選手層はそれほど厚くない上に若手を気前良くJ2に期限付き移籍させるからなおさらね。とりあえずJリーグならJリーグに一点集中させないと難しい程度の力をうまく使いこなせているという感じね」


「ところで広島のライバルみたいなのはどこになるの?」


「ライバルって言い方ならそうじゃないチームなんてないわ。ただ今年に関して、直接順位を争っているのはまず大宮ね。東アジアカップの直前にあった第十七節の前までは首位だったし。ここもそれほど派手なチームじゃないけどしっかり補強して力を蓄えていたはずなの。でもリーグの順位は毎年下位で、しかし降格はしないという微妙なところをうろついていたからある意味力を過小評価されていたチームと言えるかしらね」


「それがどうして今年は好調なの?」


「まあ去年の途中からよく勝っていたから前兆はあったの。でも私も『降格しそうになったら本気だすいつもの流れか』ぐらいにしか思っていなかったわ。でも違ったようなの。特にズラタン、ノヴァコヴィッチの外国人が良かったわ。でもその二人が怪我で出られなくなったせいか七月が苦戦して広島に抜かれたの。そんな広島と大宮が今日、七月三十一日に戦うというハードコアな日程! いやあ、やってくれるわ」


「じゃあやっぱり優勝はこのどっちかになるの?」


「まだたったの半分よ。まあ、これから例えば広島や大宮が降格はしないでしょうけど優勝なんて、何も決まっていないわ。面白いのは川崎フロンターレの勢いね。ベテランが多い横浜Fマリノスも虎視眈々と上位を狙っているし、資金力豊富な浦和は元々広島を率いて独特なサッカーを展開したペトロヴィッチ監督の下で頑張っているわ。退団しても優秀ならこんな風にオファーがあるものよね。元広島の選手も柏木、槙野、森脇と山盛りだしスタイルも当然似通っているわ。ユース出身でもある彼らの移籍がまたプロレス的な対抗意識を煽ってるのよね」


「じゃあ浦和がライバル?」


「ライバルかと言われるとそれもまた違うように思うわ。まあ基本的に浦和を敵だと思うサポーターは広島に限らず多いけどそれも金を持つ者の宿命よ。でも金の割に成績が物足りないのは問題ね。後は結果よ。でもペトロヴィッチは守備の整備をする気がないタイプだから広島が森保に監督交代して戦術をブラッシュアップさせたようにちょっとしたスパイスを加える必要があるのよね」


「スパイス、ねえ」


「守備を整備しないといきなりエアポケットに入ったような大量失点で何もできず敗戦したりするから、少なくともそこはどうにかしないと。まあ監督との別れは円満だったしスタイルも似通ってるし、浦和が勝つんならそれでもいいと思ってるの、内心ではね。とにかく守備よ。槙野とかこの間の大会でも攻め上がるのはいいけど守備では穴になってたから、韓国戦とか途中交代で槙野が消えたら内容も良くなったみたいだったし。あんな体たらく、広島を出た意味がないじゃない」


 ここで腕に巻きつけておいたキーホルダーの目が輝いた。こんなタイミングにも敵が襲ってきたのだ。そろそろ泳いで消費された体力も戻った頃合だしちょうどいいとばかりに、二人はプールの死角に潜り込んだ。


「私はグラゲ軍攻撃部隊のハネアリ女よ。このプールを私の姿で埋め尽くしてやるわ!」


 朝起きると網戸やプールに大量の死骸が横たわっているハネアリの姿を模した顔を持つ敵将は不敵な笑みを浮かべながらプールサイドに降り立った。


「市民の憩いの場所を破壊しようだなんて、絶対に許さないぞ!」


「やるならもっと他の場所でやりなさいよ。八千代高原とか涼しいしいいわよ!」


「ふん。何かと思えば我々グラゲ軍の邪魔をする二人か。ここがお前たちの墓場となるのだ。ものども、かかれ!」


 ハネアリ女が右手の人差し指を二人に向けた瞬間、水柱とともにプールの中から雑兵が出現してプールサイドに降り立とうとしたが着地する前に強烈なパンチキックを浴びて多くがプールサイドにたどり着く前に戦闘不能となった。かろうじて着地できた数名の雑兵もすぐさま同じ運命を辿った。


「後はお前を駆除すれば平和は戻るな、ハネアリ女!」


「即刻お家に帰らないとその命が代償になるわよ!」


「ふはは、笑わせてくれるわ。その命、落とすのは私ではなく貴様らのほうだ!」


 そう言うとハネアリ女は懐からスイッチを取り出して巨大化した。ここで暴れられたらプール崩壊待ったなしなので二人は高原のほうまで逃げた。ハネアリロボットは自慢の羽根を空に滑らせて追ってきたが、これもまた狙いの内であった。


「よし、ここらでいいか。合体しよう!」


「待ってました! さあ、行くわよ!」


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 真夏の草原を駆け抜ける風よりも早く、二人は一つになった。そしてハネアリロボットを迎え撃った。


「これでも食らえ! スプリングミサイル!」


 渡海雄は直進してくるハネアリロボットをロックオンしてからオレンジ色のスイッチを押した。すると左ひざの部分が開いてそこからシャープな形状のミサイルが発射された。ミサイルは一撃で敵の機体を貫いた。


「むうっ、さすがの力! やはり逆臣ネイは討たねばならぬと再認識したわ。しかし今は暫しの安楽を貪るがよい!」


 ロボットが大破する前に脱出装置が作動したので敵も命を落とさなかった。そして地球人類もまた、今回の戦闘において命を落とす事はなかった。しかしその幸運がいつまで続くかは分からない。渡海雄と悠宇は戦い終えて、改めて髪と目をきれいに洗い直した。

今回のまとめ

・東アジアカップ優勝おめでとう

・でも代表ではアレだったとしても帰るべきクラブがあるんだ

・七月からかなりタイトな日程が続いているがここが踏ん張りどころ

・サンフレッチェが連覇とかしたら見事だけどさすがに他が不甲斐ないような

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