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sk01 2013年参議院選挙について

 南郷宇宙研究所には広大なスペースがある。そこを利用して渡海雄と悠宇はグラゲ軍との戦いに向けてのトレーニングを日々積み重ねている。体術の研鑽はもちろんの事、訓練の最後には毎回合体してメガロボットの操縦テクニックを高めるべく努力している。


 熱気迸る夏。特殊スーツのお陰でこれを装着している間は暑さを感じなくていいのだが、それでも汗はかくものである。自分たちの敗北はすなわち地球の最期。そう考えると責任感が体内の熱気となり、発汗を誘発するのだ。ゆえに、訓練が終わったら肌がベトベトになっているのが常である。


「ふわあ終わった終わった! ああ疲れたわ」


「うん、今日は凄くきつかったね」


 本日のトレーニングにおけるすべての日程が終了したので変身を解除した二人は疲れを癒すため、研究所の敷地内にある温泉へと足を向けた。


「汗でもうビショビショね。じゃあお風呂入ってすっきりしましょう!」


「そうだね。それじゃ、行こうか!」


 温泉は当然の如く男女で分かれているのだが年齢から鑑みると男湯でも女湯でもどっちでも入ることは可能であって、基本的にはイニシアチブを握っている悠宇の言われるがまま女湯に入っている。渡海雄としてはどうせ入るんだから男でも女でもどっちがいいとか特にこだわりはない様だ。


「はあん、くうっ、やっぱりお風呂って最高ね。特にこんなに暑い夏だもの。いらないものを洗い流してくれるみたい」


「うん、僕もお風呂は大好き。それにここはお湯の熱さがちょうどいいし。家ではおばあちゃんが入れるけどあれは熱すぎるんだよね」


「羹に懲りて膾を吹くじゃないけど、初めて入るお風呂だと暑すぎないかとかは確かに警戒しちゃうわよね。そういえばこの間行われた参議院選挙では民主党という羹に懲りた有権者が山ほどいたわね」


「んんっ、突然何言ってるの?」


「参議院選挙よ参議院選挙。そりゃあ私たちはまだ選挙権ないけど、それでも日本に住む私の事なんだから少しはお勉強しようかなって思ったのよ。それで色々見たけど、民主党は相当信頼を失ってると言う他はないわね」


「ふうん。民主党は何で信頼を失ったの?」


「まず去年の冬、十二月の選挙までは総理大臣が民主党の人だったでしょう。だから国の政治を民主党のやりたいように運営できたのよ。でも民主党のやり方は大多数の国民が民主党にやってほしかった姿とかけ離れていたから『民主党には絶対入れない』って人が増えたのよね。それで自民党が勝ったの。この自民党も数年前は同じように信頼を失って『自民党には絶対入れない』となって民主党を試してみたけど、まあ落第に終わったってわけね」


「そんな一回ごとにころころ支持する政党を変えちゃっていいの? 何となく無責任じゃない?」


「有権者も人だし政治家も人だから、いつでも正しい判断を下せるわけじゃないわ。『自分の判断は間違っていた』と後悔したら次は後悔しないように投票すればいいんだし、そもそも有権者に手のひらを返させるような、『絶対入れない』と思わせるような運営をするほうが悪いのよ。そのチャンスがあるなら活用しなきゃ嘘だし、民主党にしても公正に選挙で選ばれてやりたい事をやって、その結果として選挙で選ばれなかったんだから何も不思議な部分はないわ。民主主義の本懐よ」


「そう言えば自民党はどうやって復活したの? 嫌われてたんだよね」


「まず民主党があまりにも評判が悪かったので『まだ自民党のほうがましだろう』と思われたのもあるけど、つまりはアベノミクスという新たな政策を打ち出して『今までの自民党とは違う。何かを変えてくれそうな気がする』という期待感をうまく煽る事ができたのも良かったんじゃないかしら。民主党だって政権交代した時はそういう期待感があったものが瞬く間に失望に変わったけど、今回の安倍晋三内閣は株価が上がったりして今のところはよくやっているように見えるわ。だから『安倍総理を支持しよう』と思う人や『もう少し今のままで様子を見てみよう』と考える人がはっきりと反対する人より多いの。そもそもここ数年は短期間で総理大臣が変わりすぎたから、そんな現状にもいい加減懲りてるのよね。ベイスターズですら監督交代は二年に一回なのに日本は毎年だもの」


「まあトップが替わると方針も変わるし、そこはある程度の期間を設けて任せないと実際のところは分からないもんね」


「民主党だって三年以上も任されたんだから安倍総理だってね。これからは期待感とかだけじゃなくて本格的に結果を残す段階に入ると思うけど、それが成功したら自民党政権が続くし、失敗して国民の大多数から『やっぱり自民党じゃ駄目だ』と思われたら政権を失うわ。それを選挙で決めるのがつまりは民主主義ってものだから。ただ自民党が次に負けたとして、その時の勝者がどこになるやらってのは正直あるわね。民主党は信頼を失いすぎているわ。例えば鳩山って人がどうしようもない発言を繰り返してるんだけど、この人は元々民主党の総理大臣だった人なの。一応議員としてはもう引退していて民主党も離党しているけど印象としては未だに『民主党の鳩山』だからこの人が放言するたびに民主党がダメージを受けるという状況になってるの。次の総理大臣の菅も評判が悪くて、しかも今回の東京選挙区では民主党としての戦略をボロボロにしたんだから酷い話よ。重鎮にすらなれず害悪ばかり撒き散らすなんてね」


「菅って人は何をしたの?」


「まず今回の選挙において人口の多い東京は五人当選するってルールが、これはもう最初から決まっているの。その中で元々都市部に強いという定評があったように民主党は今まで二人当選させる事が出来ていたのよ。でもここ最近吹き荒れる民主党に対する逆風、もっと言うと『民主党には絶対投票しない』と思わせる嫌悪感が高まっていたお陰でどうやら二人当選は出来そうもないと判明していたの。今回の参議院選挙の前に東京都議会選挙があったけど、この時も自民党が大勝して、自民党に反対の勢力としては共産党が躍進した中で民主党の候補が次々と落選したし」


「それじゃ、民主党はどうしたらいいの?」


「まあ基本的には候補一本化の必要があったわね。それまでいた二人の議員がこのままでは数少なくなった民主党支持の票を分け合った結果、一人が得られる得票数がそれこそ共産党以下になってしまう恐れがある。だからどっちか一人には涙を飲んでいただき、どっちか一人だけでも当選させるのが結局民主党にとっては一番いいやり方だったの。それで民主党は鈴木って人に一本化したかったけど菅たちは大河原って人を推薦して、民主党の公認を得られなかった大河原は無所属で立候補しちゃったの。これがいわゆる分裂選挙って奴で、そうは言っても元々はどちらも民主党の人だったから民主党に入れるって人はどっちに投票すべきか迷うわよね。その結果見事に共倒れしちゃいましたと。二人とも落選。しかも長らく一議席しか取れなかった自民党が二議席獲得したり、都議会の流れでやっぱり共産党の候補が当選したりと最悪の戦略だったわね。と言うか基本的に民主党ってこういうテクニックが下手なのよね。公明党なんかは母体が宗教だから支持する人は絶対支持、しない人は絶対しないから何票入るかが計算しやすいからうまく立ち回ってるけど。維新含めて新しいから基盤が弱いのかしらね。それか元々政権交代を目標に結成されたから色々な考えの人が潜んでいる、悪い言い方をすると烏合の衆だから団結力に欠けるのが悪いのかしら」


「ふうん。そういえば事務の笠岡さんが言ってたけど今回の選挙は共産党が躍進したんでしょ。これは何で?」


「共産党はね、まあこれはこれで宗教みたいなものだから、過去や世界情勢の事を鑑みて投票しない人は名前を見ただけで拒否反応を示すタイプの政党ではあるの。ただもはや死亡寸前な社民党よりは勢力があるし基本的に党としての主張はしっかりしてるから。憲法改正とか増税には反対して脱原発、それにTPP反対なんかはまあ自民党の反対って感じだけど、それに加えて今回はブラック企業との対決を訴えたのは新味になっていた気がするわ。全国各地の選挙区で当選した共産党の人は東京、大阪、京都の三人。ホームページや政策を見てもブラック企業に対して言及している部分が多くて、実際そういう会社に対して思うところがある人は多いから『ブラック企業と戦っている共産党に投票しよう』と考える人も出てきたようなの。京都の倉林のホームページにある『ブラックジャックによろしく』をコラした漫画とかちょっと笑ったけど」


「ねえ、ところで普通に使われてるけどそのブラック企業って何?」


「平たく言うと働く人の事をろくに考えてない企業の事ね。例えば決められた仕事時間ではとうていこなせない量の仕事を押し付けると当然時間内では処理しようがないから残業をせざるを得なくなるわね。でも残業したら本来はもらえるはずの給料を色々理由つけて払わなかったり、休日も全部潰して仕事をさせたり。しかもそれが法律違反だったりするのよ。そこで働いている人は心身ともに削られて退職を決意するしかなくなったり病気になったり、最悪なパターンとしては命を落とす事さえあるの。そしてお誂え向きにも今回、自民党はブラック企業の代表格として有名な会社の社長を立候補させたのよ。ここ十数年は『自民党か民主党か』という感じで共産党含めた他の政党はちょっと埋没してたけど、今回は『自民党と対決する共産党』みたいな軸を作れた部分もあるわね。まあ戦前から自民党の圧勝は目に見えていたし、とにかく民主党に対する不信感は凄まじかったから共産党に限らず『民主党じゃなければどこでもいいや』みたいな投票もあったわ。まあ投票率から見てもすっかり諦めた人もいっぱいいたみたいだけど。そうなると固定客の多い共産党が相対的に浮上、みたいなね」


「ふうん。でもブラック企業って僕らの事みたいだね。敵が来たら休みもなくて給料もなくて、しかも命の危険を伴う内容で」


「あっ……。そ、それはね、まあ、アレだけど。でもでも、休みはそれなりに多いし訴えたら多分要求ぐらい通るはずだから。ブラック企業はそもそもそれすら出来なかったりするし。じゃあ私たちも訴える? 金払えって」


「いやあ、別に有名になりたいとか金のために地球を守ってるわけじゃないし」


「そうね。まあブラック企業なんて私たちの手に余る敵だし、その対決は偉い人に任せるしかないわ。私たちに出来る事はそんな人たちが暮らしてる地球を守る事ぐらいだけど、こっちはこっちで頑張らなくっちゃね」


「って何そのまとめは!? まるで神無月の」


 ここで敵襲を知らせる警報音が鳴り響いた。二人はようやく洗った体がまた戦いで汚れるのかと思うと少しだけ気が重くなったがこの戦いは自分たちだけの戦いではない。裸のまま立ち上がると走りながら変身して敵の出現した地点へ向かった。


「わはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のウナギ男だ! この星を絡め取ってやるぜ!」


「いい加減にしろよグラゲ軍! 人の安らぎを邪魔する不埒者はただちに成敗してやる!」


「さっさとかかってきなさい! 一瞬でのしてやるわ!」


 夕暮れ時の草原に数十のシルエットが出現した。しかしものの数分もすればシルエットは三つに減った。


「さあ雑兵は駆除し終えたぞ。後はお前だけだ!」


「もうちょっと安くなりなさい!」


「ふん、猪口才な。これで蹴散らしてくれるわ!」


 ウナギ男は懐から取り出したスイッチを押し、元の数十倍に巨大化した影を草原に映した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 そしてシルエットは二つへと減り、間もなく一つだけになった。殴り合いを演じた結果ウナギロボットが顔面にパンチを受けてふらついた隙を二人は見逃さなかったのだ。


「とどめだ! メガロソード!!」


 叫びつつ渡海雄は赤いボタンを押した。それと時を同じくして召喚された剣を投げつけるとウナギロボットの胴体に風穴が開いた。


「くっ、噂には聞いていたが確かに強いな。もはや撤退するしかないとは!!」


 爆発大破炎上する直前に作動した脱出装置はウナギ男を本拠地へと送った。今日もまた地球を守る事には成功した二人であった。


「ふわあ疲れたもう。またお風呂に入り直さないとね」


「でも良かった。またお風呂には入れるんだから。二回目のお風呂も気持ちいいものだしね。そうだ、今度は男湯に入らない?」


「うん、いいわよ」


 一面には自民圧勝、自公圧勝などと威勢のいい言葉が並ぶ新聞の片隅にも掲載されない戦いが今日もまた繰り広げられた。政界の明日が分からぬように世界の明日が訪れるかさえも分からない日々。しかし何も特筆すべきニュースがない日が一番幸福なのだから、そんな日が一日でも多く訪れればいいとだけ二人は思っているのだ。

今回のまとめ

・やはり投票する以上その候補者が勝てば嬉しい

・石破黒化した成果もあってか安倍内閣はとりあえず信任

・民主党は信頼回復可能なのだろうか

・スーパーで見たけど土用丑の日だからってさすがにうなぎ高すぎ

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