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fh02 1975年の選手名鑑について

 プロ野球も明治安田生命Jリーグも開幕は三月でもうちょっと間がある。もっともプロ野球の春季キャンプは二月一日から解禁となるし、サッカーの場合は新加入選手や新ユニフォーム、あるいは今年のスローガンなどが発表される新体制発表会見が次々と行われ、すでに始動開始しているクラブもある。冬の寒さは今こそ本番だがこうして新たな春を迎えるための準備は着実に進んでいるのだ。


「ふっふっふ、オフにはなかなかネタが生えてこないから話題に乏しかったけどいいものが見つかったわ」


「おはよう、ゆうちゃん。今日も元気だね」


「ええ、そうよ。ところでとみお君、ちょっとこれを見て」


「むうっ、これはベースボールマガジン社発行サッカーマガジン5月号別冊付録日本リーグ1部全選手写真名鑑! で、いつの? 写真の色合いや文字のフォントを見るに結構古そうだけど」


「ちょうど今から四十年前、一九七五年のものよ。日本リーグってのはJリーグが発足する前に全国展開されていた日本のサッカーリーグよ。まずはこれの説明からいきましょうか」


「うん。僕らの生まれるはるか前の話だからどこまでついていけるか分からないけど」


「とは言うもののどの辺から始めるべきかちょっと悩むわね。戦前のベルリンオリンピックでスウェーデン代表に勝った事とか直接的にはあまり関わってこないし、とりあえず五十年代あたりから行きましょう。まず日本におけるサッカーはマイナーだったけど当然それを愛好する人も大勢いたわ」


「そりゃあそうでしょ」


「でも弱くて、ただ東京オリンピックが一九六四年に開かれる事になったので全敗とかだったらみっともないから強化を始めたのよ。そこで招聘されたのがデットマール・クラマーというドイツ人の指導者で、東京オリンピックではアルゼンチンに勝利という成果を上げたの」


「へえ、凄いじゃない。今ではオリンピックやワールドカップには出て当然みたいな感じだけど当時は全然そうじゃなかったんでしょ?」


「まあこの時は開催国だから予選もなかったんだけど。それはともかく、このクラマーの提言の中に『サッカーを強くするにはリーグ戦を作るといい』というものがあって、一九六五年にそれを実行せんと発足したのが日本サッカーリーグ、通称JSLだけど大抵日本リーグと呼ばれていたみたい」


「今からちょうど五十年前か」


「そして一九六八年のメキシコオリンピックではアジア予選を突破して出場し、銅メダルを獲得。これでサッカー人気もかなり高まって日本リーグも観客は多く盛り上がったそうよ。そして銅メダル獲得に貢献した選手たち、いわゆるメキシコ組は今でも知名度が高い人物もいるわ」


「釜本邦茂とかでしょ?」


「おおっ、よく知ってるわね」


「と言うか釜本しか知らないけど。他に古い選手は、ラモスとか木村和司とか?」


「その辺は八十年代にバリバリだった選手だから、もっともっと前の選手よ。そもそもラモスが所属してたのが読売クラブ、今で言う東京ヴェルディで木村は日産自動車、今で言う横浜Fマリノスだけど、そういうプロ志向の強いチームが日本リーグ一部に昇格したのは七十年代後半の話で今回は直接関係してこないわ。ちょうどこの時代のスターと言うと八重樫茂生とか杉山隆一とか小城得達とか宮本輝紀とか」


「ああ、ごめん。正直誰も」


「まあそうよねえ。でもその熱狂も長くは続かなかったわ。結局ワールドカップにも出られなかったし。そうこうしているうちにメキシコ組の選手たちは次々と表舞台から退いていったわ。でもそれも元々は六十年代をかけた一大プロジェクトだったんだから当然の話。東京オリンピックで代表に選出された十八人中十四人がメキシコでも継続という固定された選手による極めて限定的なピークだったと言えるわ。メキシコでの銅メダルは一つの偉大な到達点となったけど、土台がしっかりしてるわけじゃなかったから彼らの力が衰えると同時に日本代表の力も落ちるばかり。そして一九七五年よ」


「全盛期から十年ほど経ってる時期だからそりゃあ衰えもするか。それでラモスとか木村和司あたりもまだいないっていう過渡期」


「悪い言い方すると世代交代失敗って奴よね。だから掲載されている選手がちょっと地味だなってのは正直な感想。そもそも当時はプロサッカーチームなんて日本には存在してなくて、全部社会人のチームだからJリーグとは前提からして違うのにも留意しないとね。まず基本的に移籍はない。そして引退もやけにあっさりしている。代表クラスの選手でも現役は二十代までで三十代からは社業に専念ってパターンも多いわ」


「プロならもっと粘るであろうところだけど、他に選択肢はなかっただろうから仕方ないのかな」


「ただ特別に著名な選手は三十代後半までプレーするケースもあるわ。それこそ釜本なんかはね。一口にメキシコ組とは言うけど、その中でも長くプレーした選手もいればあっさり身を引いた選手もいる。この名鑑にはメキシコ組の中でも比較的若くて、かつ長くプレーした選手は何人か掲載されているわ。ああ、一応補足しておくけど今のオリンピックは二十三歳以下という条件があるけどこの当時はアマチュアであれば年齢制限はなかったの。日本にプロは存在しないから当然全員アマチュアの身分。ゆえに当時三十代の選手も出場していたわ。そういう選手はさすがにもう引退してるわけよね」


「例えばメキシコ当時に三十歳の場合一九七五年には三十七歳とかだから、それは仕方ないか」


「とりあえず時代の説明はこのぐらいにしてさっさと本編に突入しましょう。表紙はカラーで選手八人の写真が載ってあるけど、正直誰が誰だか分からないわ。それもこれも表紙には釜本がいないから。でも一枚めくって、目次となるページには白黒ながらもでかでかと釜本の写真が使われてるわ」


「目次にはチーム名が書かれてて、順番で言うとヤンマーディーゼル、三菱重工、日立製作所、古河電工、新日本製鉄、東洋工業、日本鋼管、藤和不動産、永大産業、トヨタ自工ってなってるね」


「それが前シーズンの順位よ。そしてページの構成としては一チームに四ページずつ。最初のページの右側にはチーム名とエンブレム、それに住所や部長とかコーチ、ドクターと言った情報。そしてチームの寸評と予想フォーメーションが書かれていて、後は延々と選手紹介。ニページ目は選手紹介とサッカーショップの広告。三ページ目も選手紹介で、スペースが余れば主力選手がプレーしている姿の写真。そして四ページ目は親会社の広告が入っているという形になってるわ」


「親会社の広告ってあたりがアマチュアリーグだねえ。今じゃあ親会社のないクラブチームも普通にあるからそういうやり方だと難しくなりそう」


「アマチュアリズムの時代よね。まず前年の首位はヤンマー、今のセレッソ大阪の母体となったチームよ」


「ああ、よりによってセレッソかあ。昔は優勝、今は降格なんてねえ。それにしてもヤン坊マー坊がサッカーしてるエンブレムかわいいね」


「かわいくて強いんだから素晴らしい話よね。ただユニフォームには楯状で白赤白に塗り分けられた、全然違うエンブレムが飾られていたようだけど。そしてヤンマーと言えば釜本邦茂、というわけで前年度得点王でもあるストライカー背番号9釜本が一番有名だけど、さすが優勝チームなだけあって他にも有名な名前は多いわ。例えば監督の鬼武健二は後にJリーグのチェアマンとなった人物だし、ブラジルから来た日本サッカーリーグ初の外国人選手だったネルソン吉村も有名選手よ。当時はすでに帰化していて吉村大志郎という名前になっていたけどこの名鑑ではネルソン吉村という名義で載ってるわね」


「他にもジョージ小林とかジュリオ上田なんてのもいたんだね。ジュリオは長髪にバタ臭い顔つきでかなり美形に見えるなあ。やっぱりこの人達も日系ブラジル人?」


「無論よ。ジョージなんか帰化してないのに日本代表に選出されて実際試合にも出場した事があるらしくて、今なら問題となってたでしょうね。他には、後に川崎フロンターレの監督となった堀井美晴はオーバーオールを着てフォークソングでも歌ってそうな髪型。と言うかヤンマーの選手は全体的に髪の長い選手が多いのが印象的。モンスターそのものって顔してる釜本やチーム最古参の浜頭昌宏も耳が隠れてるし。今村博治はカープの今村と同じ名字だからって訳じゃないでしょうけどどこか似ている目つき。それとリーグ随一の男前松村雄志も所属してるわ」


「ああ、確かに松村はきりりとした目つきの濃い顔で男前って表現がぴったりのルックスだね。背番号4で、ポジションFB。どこ?」


「FBはフルバック、今で言うディフェンダーよ。選手寸評や予想メンバーから見るにセンターバックを務めていたようね。その横にいるジョージやネルソンはHBってあるけどこれはハーフバック、今でいるミッドフィールダーよ。概ね八十年代には今のDFやMFに取って代わられたようね。それとついでにここで年齢計算の手順もざっと見ておきましょう。例えば松村を例に出すと、生年月日は23・10・7とあるわ。これは昭和二十三年十月七日生まれって事。じゃあ一九七五年における年齢はどうなるか」


「えっと、昭和二十三年を西暦で換算すると……」


「昭和と西暦は下の桁が二十五ずれている。だから例えば終戦の年は一九四五年昭和二十年とか、一つ軸を作ってそれを起点に計算すれば楽よ。昭和二十三年は一九四五年プラス三年って事で一九四八年となる。いわゆる団塊の世代よね。そして一九七五年は昭和五十年だから」


「松村は二十六歳から十月で二十七歳になるってところか。浦和市高から日大を経て大卒五年目。顔に似合わず中堅どころなんだね」


「ただ当時は引退が早かったから。ヤンマーの場合は登録選手二十五人のうち最年長が昭和十九年生まれの釜本だけど、昭和十年代生まれの現役選手は他のチームを見ても本当に一握りの代表クラスだけが許された特権みたいに見えるわ。それと昭和二十年二月生まれのGK西片信次郎が当時三十歳で他は二十代や十代。そういう中で二十六歳の松村はすでに一定の実績を残しているベテランよりの中堅って印象よね。と言うか鬼武監督からして昭和十四年生まれ、当時三十五歳なんだから皆本当に若いのよね」


「三十五歳って嘘でしょ? こんな白髪交じりなのに」


「今じゃ真っ白だからむしろ若々しい写真よ。そしてヤンマーの広告は、上半分はエンジンにスポットライトが当たっている写真に『ヤンマーの歩む道』というコピー。その下には『最近ディーゼルエンジンが注目されてるけど私達は昔からポリシー持ってディーゼルやってきました』みたいな長文。そして燃料報国という創業以来の理念も添えられているわ。ちなみにヤンマーは一九七五年も優勝で連覇達成、釜本も連続得点王だから本当にいい時代だったのよね。それが今年はJ2なんだから諸行無常」


 このような事を話していると敵襲を告げるサイレンが室内をつんざいた。「ああっ、これからが本番なのに!」という悠宇の嘆きを聞き届けてくれる敵ではない。仕方ないので二人は変身して敵の出現したポイントへと向かった。


「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のハイイロオオカミ男だ! この星を喰らい尽くしてやる」


 気付いたら小雨に濡れていたアスファルトの上に出現したのは丁寧な男である。これでもしうっかり狼男だと言ってたらまたちょっと意味合いが変わっていただろうから。オオカミ少女とオオカミ少年の意味合いの違いとか、微妙なニュアンスを多分に含むオオカミという存在は恐れられつつも愛されし存在であったと言えるだろう。


「また出たなグラゲ軍! しかもよりによってこんな日に」


「今日は本当に許さないわよ。せっかくいいところだったのにたった一チームしか紹介できないなんて」


「何を言ってるのかまったく分からんが貴様らを殺すのが俺の任務だ。やれ、雑兵ども!」


 ぞろぞろと湧き出てきた雑兵たちを自慢の拳で葬り、残ったのは渡海雄と悠宇、それにハイイロオオカミ男だけとなった。


「よし、後はお前だけだなハイイロオオカミ男!」


「占いCO。あなたみたいな狼男はさっさと吊らないとね」


「何だこいつは。まあいい、お前たちはどうせ死ぬ運命なのだ。この俺によってな!」


 そう言うとハイイロオオカミ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。渡海雄と悠宇もそれに対抗するために合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 ハイイロオオカミロボットの鋭い攻撃は脅威だったが悠宇はどうにか耐えつつ、カウンターパンチを顔面にヒットさせた。やはり守備はまずいらしい。ヤンマーも寸評によると釜本らによる攻撃は強力だが守備は不安定って事らしく、やっぱりそういう事なんだろう。ともかく、これでハイイロオオカミロボットの動きが止まった。


「よし、今がチャンスよとみお君!」


「うん。メルティングフィストで勝負だ!」


 渡海雄はすかさず朱色のボタンを押した。プラズマ超高熱線によってヒートアップした右拳が敵の胴体を貫く。それは機体を大破させるのに十分な威力を持っていた。


「むうっ、ここまでか。残念な話だが撤退するしかない」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置に乗せられてハイイロオオカミ男は地球から去っていった。ところで今日と明日はセンター試験。受験生はまず今日はお疲れ様、そして明日もまた頑張ってください。と思ったけど真面目な受験生がリアルタイムでこんなところ見てるわけないからどうでもいいか。


 選手名鑑のお話は本当はもっとコンパクトに行きたかったけどどうやら三回は使ってしまいそうだ。次回は丸の内御三家編、その次はその他編となるはず。それと本当に必要な情報は実物の画像なのは明らかだが、著作権的なアレもあるしここでは自重せざるを得ないと思う。どうせカメラも携帯ぐらいしかないし、技量不足だからうまく撮れないし。

今回のまとめ

・前提となる説明が想像以上に長引いてしまった

・ヤンマーはエンブレムがかわいいしルックスのいい選手が多い

・個人技をベースにした攻撃的チームだったらしいが今も同じようなものか

・セレッソはJ2で戦うけどチームを団結させられれば大丈夫

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