ng03 二位薮田記念 2014年ドラフト会議について
秋雨がしとしとと街を濡らす十月二十二日の放課後、今日の平穏を喜びつつ渡海雄と悠宇は未来の話をしていた。
「いよいよ明日ね、ドラフト」
「そうだね。気付いたらもうあれから一年になるんだなあ。去年見事に引き当てた大瀬良は防御率四点台だったものの二桁勝利には到達。大きな戦力となってくれたね」
「九里も一年目としては及第点だしオフの鍛錬によっては来年以降面白いという手応えは見せてくれた。田中もショートのレギュラーになってくれた。ここまでは成功と言っていいわね」
「ただCSは、点が取れなかったねえ。大瀬良はナイスピッチだったけど」
「野村監督も退任したし。ただこれは去年の段階で体調不良のため退任なんて話もあったし、既定路線と言えるわ。そして就任した緒方監督! ああ、緒方監督! 選手時代、若い頃はなかなかレギュラーに定着出来なかったもののひとたび定着すると盗塁王常連に。足が衰えると打撃が伸びて三割を安定して打つ盤石のセンターとして活躍したわ。人間的にはかなり熱いというか男らしいというか、いかにも九州男児らしいタイプと認識しているわ」
「新監督就任でもっと強くなるといいよね」
「今年はシーズン勝ち越し、去年以上の成績を残したけど実感としては『もっと行けたはずなのに』と思うファンが多かったはず。いい傾向よ。実際もっと上に行けたもの、間違いなく。しかしそうならなかった理由は、やっぱり投手よねえ。CSの二試合では休日があったからか復活してたけど、シーズン終盤は完全に枯渇していたもの」
「特にリリーフが酷かった印象だけど先発陣もよく見ると前田とヒース以外は防御率四点台ばっかり。ヒースも途中入団だし残留するって事だけど来年はどうなるか」
「もちろん既存の戦力を強化するのは大事よね。でももっと戦力を加えないとね。まず左腕のリリーフ候補ザガースキーの獲得が発表されたわ。しっかし凄い、デブ。マイナーの数字は奪三振と四球が多いといういつものパターン。ボールも違うしコントロール矯正に成功すれば左かつリリーフ、どちらも足りない投手陣を支えてくれるはずよ。で、ドラフトだけどカープは早くも早稲田大学の有原投手指名を明言してるわ」
「去年の大瀬良は明言まではしてなかったよね?」
「多分大瀬良だろうって雰囲気は濃厚だったけどね。有原は地元広島県出身で、怪我してるって話もあるけど投手としてのパワーは大瀬良以上と評判の大型右腕よ」
「地元かあ。獲れたらいいね」
「ただ競合は確実よ。阪神も有原らしいし他も何球団来るか。他の有力候補では高校生の安楽は怪我したけどまあ一位指名はあるでしょ。それに山崎康晃って大学生右腕もいるし、打者では高校生大砲候補の岡本も指名確実の情勢ね。元々評価が高かった山崎福也と石田の大学生左腕二人は今年の成績が悲惨なので評価を落としているともっぱらだけど、貴重な左だからね」
「他に広島が指名しそうな選手は誰かいるかな?」
「有原以外は事前報道がいつもより少ない印象だから読めないわね。他球団もね、外れや二位で誰が残っているやら。逆に考えると『ああ、この選手を狙ってたんだ!』という前向きな意味でのサプライズがきっとあるはず。石田とか残ってれば指名してもいいと思うけどね。広島出身だからってだけじゃなくて、言われてるほど駄目じゃないと思うんだけどなあ。外国人も獲ったし当面はこっちを使いつつ鍛えるって手もあるし。まあ、私達よりはるかに選手を見て真剣に検討を重ねているスカウトの集大成を明日披露してくれるはずだから期待して見守りましょう」
「うん! じゃあ明日はまたゆうちゃんの家でね」
こうして二人は帰路についた。そしてドラフト会議当日の十月二十三日は秋らしい穏やかな晴れ間に包まれた穏やかな一日だった。渡海雄は予定通り悠宇の家にお邪魔して、テレビ中継を見る事にした。時は午後十七時である。
「そろそろ始まるか……」
「自分の事でもないのに緊張するものよね。カープはやはり有原として、それ以外には小野という高校生右腕の名前も浮上するなどしてるけど、本当にどうなるのかしらね。それとクリス・ジョンソンなるこれまた左腕の先発型外国人を獲得という噂も聞いたわ。これを見ると当面の左は外国人で賄うのかなって思うけど」
「でも左を二人戦力外にしてるからなあ。そろそろ補充って意味でも必要だろうし」
「そうよね。本番まではもうちょっと時間かかりそう」
「ああ、喉が渇くなあ。お茶いただきます」
「どうぞどうぞ」
ドラフト後には追加の戦力外もあるだろうし、そこも気になるところである。いよいよ球団代表たちが入場し、十数分後には一位指名となる。司会は相変わらずヴォー石達也の人だ。
「まず安楽が抽選か。でも二球団って少ないなあ」
「怪我の様子がどうかよね。ああっ、楽天!」
「これはワクワクする指名確定。さて、有原は四球団だけど……」
「籤引きはまずDeNAで広島、日本ハム、最後に阪神か」
二人の期待に反して、有原を引き当てたのは日本ハムだった。
「おおーっ……」
「ああ、ハムかあ」
「まあいいわ。パリーグだし。んっ、今何って言った?」
「『なまら嬉しい』? 北海道の方言だっけ。すごく嬉しいとかそんな感じ?」
そして単独指名は高橋光成が西武、野村が中日、中村がロッテ、山崎福也がオリックス、岡本が巨人、松本がソフトバンク。と言う事で、ヤクルト、DeNA、広島、阪神が外れ一位指名に臨む事となった。その結果、広島は野間を指名した。
「ああっ、野間!」
「野間! ごめん誰?」
「外野手よ外野手。岐阜県だかの、菊池が大学時代に所属していたリーグで活躍している選手。足が速くて身体能力抜群との事でそれこそ外野版の菊池ともっぱらの評判よ。なるほどね。確かにやたらと初期から名前が出ていたと思ったら、ここまで高評価だったのね」
また、ヤクルトは竹下を指名。DeNAと阪神で競合した山崎康晃はDeNAが引き当て、阪神は横山を指名した。これで一位指名は終わった。中部学院大の野間峻祥。まずは名前の読み方は「のま・たかよし」であると正確に覚えるところから始めたい。
そして一位指名から二位指名の間に休憩がある。ここがどうにも長く感じるものだ。TBSはこの間に中継を終えてしまうし。やはりドラフト見るならskyA一択だ。
「テンポ悪いなあ。さっさと始まればいいのに」
「まあ監督や選手のインタビュー時間でもあるしある程度は必要なんでしょ。あっ、ほら、再開したわ」
十八時も近づいた頃に二位指名がスタート。ヤクルト風張、楽天小野、DeNA石田、西武佐野泰雄、中日浜田、ロッテ京大田中と指名が続いた。
「噂の小野とか石田とか、有力な投手は軒並み行かれた印象だけど、さて誰になるかしら」
「しっかし、ロッテの田中京都大学なのかあ。凄いなあ」
「文武両道の鑑よね。ええっ、ああっ、や、薮田を!? そんな」
「えっ、誰それは?」
「むむむ、やってくれたわね。広島出身、亜細亜大学の投手だけど大学でもあまり投げていないまさに素材型と言える投手よ。恵まれた体格から豪球を放つもコントロールがまずいなどという評判もあるけど、ううむ、これは……」
「まずい指名なの?」
「現時点では正直、ねえ。よく分からないわ。素材を買ったにしても二位はいくら何でも高すぎるような。でもまあスカウト陣が必死に考えて指名したんだから素材ではあるでしょうし……。とにかく今後を見守りましょう」
薮田和樹。この男が本当に二位に値するのか現時点では見えない事が多すぎる。リーグ戦で全然投げていない投手をこの順位とはあまりにもリスキーな選択に見えるがスカウトの見た光景はまた違うのだろうと信じるしかない。
以降、日本ハムは清水浅間、阪神は石崎江越、オリックスは宗佐野皓大、巨人は戸根高木勇人、ソフトバンクは栗原古澤を指名した。そして広島三位は高松北の塹江を指名した。
「ああ……」
「どうしたのゆうちゃん、みるみる力が抜けていくけど」
「この塹江も素材型よ。高校生左腕でね、でもまだまだ未完成なタイプだしきちんと完成するかも怪しい。ギャンブル的な指名ね。相当ノーコンなんだって。可能な限り即戦力を追求してほしかったんだけど、これじゃ投手陣の負担は一切軽減されないわ」
「ううん、でも数年後のエースを目指して、頑張ってくれたらいいじゃない?」
「それは、そうだけど……」
塹江敦哉。これで「ほりえ・あつや」と読むようだ。こういうタイプはたいてい失敗するものだが大化けする可能性もあるだろう。いや、化けなくてもそこそこやってくれる投手のほうが必要だったのだがこうなった以上は化けてもらうのに期待するしかないか。
以降ロッテは岩下寺嶋、中日は友永石川駿、西武は外崎玉村、DeNAは倉本福地、楽天は福田ルシアノ、ヤクルトは山川寺田を指名した。
「ああっ、噂の山川も指名されたね。広島じゃないのは残念だけど同じ苗字として頑張ってほしいな。それとルシアノ・フェルナンドってのも凄いね」
「日系ブラジル人の大砲候補だそうね。しかしキャッチャーは誰か指名するのかしらね。寺嶋も指名されたし」
「藤井って投手を指名した。おかやま山陽!?」
「ああ、これも名前は聞いた事あるわ。素材を評価されてる選手ではあるけど、即戦力ではないはず。岡山出身で地元にも近いとか、そんな事も考慮したのかしらね」
「良かったゆうちゃん落ち着いた」
「もう慣れたから大丈夫よ」
藤井皓哉。まさにプロという荒野に放り込まれる若武者の奮闘に期待したい。やはりあんまり即戦力とかバッテリーとか、そんな事は考えていないのだろうか。と言うかこれは来年優勝を目指す指名とは思えないがどうなんだろうか。いつまでも前田がいるものでもないのに。
その後、日本ハムは石川直也瀬川、阪神は守屋植田、オリックスは高木伴斎藤、巨人は田中大輝、ソフトバンクは笠谷島袋を指名した。
「巨人は四人で終了か」
「まあそろそろ指名終了を検討し始める頃よね。それと日本ハムの瀬川もかなり年齢の高い候補で、異色って言い方がなされるかもね」
「さて広島は、桑原内野手って人か」
「これは静岡の高校生で、静岡ローカルの新聞か何かでは広島に評価されているって記事も掲載されていたそうだからある意味予想通りの指名ね。打撃もいいともっぱらよ」
「大型ショート候補になるのかな?」
「多分ね」
桑原樹。本当は桑って字がちょっと違うけど気にしない。他にも静岡県にはドラフト候補と目されている高校生が何人か控えているが彼らにも指名はあるのだろうか。
以降ロッテは香月宮崎、中日は加藤井領、西武は山田、DeNAは山下百瀬、楽天は入野加藤正志、ヤクルトは中元土肥を指名した。
「おお中元。竹原市出身竹原高校出身!」
「この間行ったところか。なんかヤクルトに頑張ってほしい選手がいっぱい行ってる気がするなあ」
「それと宮崎も広島ゆかりよね。おっ、飯田哲矢! 田中と同じJR東日本所属の左投手よ。即戦力候補も一応は狙ってたのね。球速はそれほどでもないけど、リリーフとして安定感ありそうなタイプ。他が他だし飯田選手には本当に奮闘してほしいわ」
飯田哲矢。かつてヤクルトの名センターに飯田哲也っていたのだが彼とは関係ない。さらに関係ないけど私と誕生日が同じらしい。これは応援するしかない。
以降、日本ハムは立田高濱、オリックスは坂寄西野を指名した。
「随分少なくなったね。広島も指名あるの? そろそろ終わり?」
「あるみたいね。多田。鳴門渦潮って、美間の後輩にあたる大型キャッチャーよ。これもまた素材型と言えるけどまあ下位指名のキャッチャーだしそれでいいのよ」
多田大輔。似た名前のサッカー選手がいる事はあまり知られていないと思う。身長190cm近くある大柄な体格が一軍で躍動する日は来るのだろうか。
まだ指名するところは指名する。ロッテは脇本、中日は遠藤山本、DeNAは飯塚、楽天は伊東、ヤクルトは原を指名した。そして広島は選択終了。投手四人、捕手内野手外野手各一人ずつの計七人指名となった。以降もドラフト指名はしばらく続き、中日が九位で金子投手指名で終了となった。
「七人かあ。それにポジションもバランスよく指名したって印象だね」
「育成ドラフトは、どうかしらね」
育成ドラフトでは一位でMSH医療専門学校の松浦という捕手、二位で常葉橘高校の木村という投手と内野手をこなす選手を指名して終了した。この松浦は広島にある学校出身で、指導者は広島のコーチだった男。まさに隠し球と言える。
「ついに終了。とは言うものの本格的に隠れすぎて誰ってなるわね」
「うん。でも指名したって事は何か光る部分があるはずだから、どれだけやれるか楽しみだね。てなわけで、そろそろ帰るね。じゃあね」
「気をつけてね」
TBSでいつものお涙頂戴番組が流されている。しかも取り上げられているのがちょうど薮田。もっとも大事なのはそんなエピソードではなくやってくれるかくれないかという一点。この番組で「不良から更生しました」みたいに取り上げられていた某選手とか今となっては茶番そのものだし。
それはともかく、広島に入団する選手は頑張ってほしいししない選手も頑張ってほしいものだと心から願っています。
一位 野間峻祥 外野手 中部学院大
二位 薮田和樹 投手 亜細亜大
三位 塹江敦哉 投手 高松北高
四位 藤井皓哉 投手 おかやま山陽高
五位 桑原樹 内野手 常葉菊川高
六位 飯田哲矢 投手 JR東日本
七位 多田大輔 捕手 鳴門渦潮高
育成
一位 松浦耕大 捕手 MSH医療専門学校
二位 木村聡司 内野手 常葉橘高
今回のまとめ
・素材型中心のリスキーなドラフトという印象
・野間は面白い選手だと思うが実績皆無の薮田二位はさすがに絶句
・こうなったら高校生たちにはぐんと成長してもらうしかない
・補強や戦力外含めてどのようなチーム構成にするのかが大事




