am01 アタックNo.1について
指折り数える夏休みへのカウントダウン。渡海雄の心も悠宇の心も数日先より開かれる輝かしい響きを持つこの日々に魅入られて、今か今かとその到来を待ち遠しく思っている。高まる期待はまるで潮が満ちるようだ。海へ山へと希望膨らむが、実際に待っているのは激しい戦いの日々である事は火を見るより明らかであった。
「(小説家になろうにおける歌詞転載の規定に引っかかるので自主規制)」
「おはよ、って何歌ってるのとみお君」
「ああ、ゆうちゃんおはよう。これはね、『バン・ボ・ボン』って言ってアタックNo.1のエンディングテーマだよ」
「へえ。それってあの(例の台詞。これも歌詞に入るので自主規制)って奴でしょ」
「そうそう。それが次の土曜日、七月二十日の二十二時から日テレG+で放送されるんだ。だから歌ってたの」
「そうなんだ。でもさ、アタックNo.1ってとみお君が生まれるどころかお父さんとかお母さんの世代でもギリギリじゃない? どうやって知ったの?」
「確かに作品自体は古いよ。原作開始は一九六八年でアニメ放送開始は翌年。で、終わったのが原作は一九七十年でアニメは翌年だから。四十年以上も昔昔、大昔だよ。でも、ゆうちゃんだって主題歌は知ってるほど有名な作品でしょ。ましてや現在はCS放送やネット配信なんかもあって見ようと思ったらそれなりに手段はあるからね。世代が違うからまったく見るあてがないって時代じゃないよ。大事なのは見ようとするきっかけだよ」
「それもそうね」
「でさ、最近GyaO! で半年ぐらいかけて全話を配信してたの。まあ僕にとってはタイミングよく、配信された直後あたりにこの作品は結構面白い、はまるって噂を耳にしたから見る事にしたけどまあ聞きしに勝ると言うのかな、あっと言う間に好きになっちゃったからこうして布教なんかもしてみようかなって思ったわけ」
「ふうん。じゃあとみお君はどういうところが面白いって思ったの?」
「うん。まず第一に、キャラクターがかわいいところかな」
「えっ、そこ!?」
「そりゃそうでしょ。だってアニメだし見てくれは大事だよ。古い作品だとその時代の癖と言うのかな、当時としてはそんなもんだと思って描写したつもりが今となってはちょっと違和感あったりする部分もないとは言えないけど。鮎原こずえの顔とか」
「鮎原こずえって言ったらあの目が凄い大きくてキラキラしてる人でしょう」
「それは作中でも揶揄されてるからね。まず原作の絵からして何と言うのかな、古い少女漫画のさらに一世代前の絵って感じで今となっては結構凄いからね。あの目はつまり美人だと強調する記号みたいなものだから。大きいだけじゃなくて二重に睫毛びっしり、目の色も黒とかじゃなくて緑だし目の中の星も色々詰まってる。これも全ては鮎原が美人だから、それを表現するためにあれもこれもマシマシで取ってつけた結果今となってはちょっと装飾過多に見えない事もないけど、美人と思えばそれでちゃんと思えるんだ。で、ここからが本番だけどアニメにおいては鮎原以外は原作のキラキラした絵と違って割と普通の描写なんだけど、それが今の目からすると逆に結構いけると思うんだ。特に中学編はね」
「中学編? そう言えばストーリーはどうなってるの?」
「それはね、原作とアニメで細部は結構違ったりするから基本アニメ基準で言うね。とは言っても中学編はまだ共通する部分多いけど。まあ俗に言うスポ根って奴だし特訓して勝って負けて、中学で全国大会に出て世界大会に出て、高校で全国大会に出て世界大会に出てって感じだよ。まず二十日には第一話から第四話までが放送されるからその辺の設定を説明すると、主人公の鮎原こずえは中学二年生。静岡県にある富士見学園に転校して来たけどかわいらしい見た目に反して割と騒動の嵐を自分から巻き起こすタイプなんだ。転校前はバレー部にいたけど富士見学園のバレー部はあまりにもレベルが低いから入る気がしないってバレー部員の先輩の前で言ったからキャプテンが怒って『バレーで決着をつけよう』って展開になるんだ。鮎原は同級生の不良五人と即席チームを組んで戦うってのが第三話までの流れ」
「へえ」
「で、このバレー部キャプテンの桂城由美を個人的には作中で一番気に入ってるの。まず髪型がいいよ。右側に寄せたサイドテール。きりりとした目つきとか少し黒っぽい肌も好みだし、それに性格もね。まあストーリーを言うと鮎原たちとバレーした結果やっぱり主人公には敵わないもので桂城さんたちのバレー部は負けるんだけど、そこで素直に自分の負けを認める姿はまさに聖人。それまでは意地悪とかもしてたけど敗北以降は人が変わった様にキャプテンの地位を譲った鮎原を常に信頼して支えつつも先輩らしく決める時は決めるって感じで第七話にて卒業するまで頑張るんだ。肝心なバレーの実力はまあそこそこって所で、不良グループとの試合ではレシーブミス連発だし、その後就任した本郷先生による厳しい特訓に体がついていかず練習中地面に倒れ伏しながら『もう無理。助けて』みたいな目でまだ立っている鮎原たちのほうを見るシーンとかリアル感のあるしょぼさがまたかわいいんだよね」
「でも卒業するんでしょ。その後はどうなるの?」
「ちゃんと鮎原が高校進学してからも登場するよ。でも先輩にいびられてバレー部は辞めてバスケ部に入っているんだ。入学式で出会った鮎原たちにバレー部の酷さを伝えるんだけど、当然主人公たる鮎原は自ら死地に飛び込むんだ。そこから鮎原と先輩とのバトル展開になるんだけど、原作ではかなり長く対立してるけどアニメでは三話ですませてるんだ。そしてその三話が桂城さんの出番とも一致するの。この高校時代は髪型が変わって、特徴だったサイドテールじゃなくて普通に後ろでまとめた髪型になってるんだ。輪郭も丸っこかったものが成長したし、それに声もクリーンになったと言うのかな、中学時代はもう少しざらついた感触の声だったのに。声優の人は変わってないけど演じ方は変えてる気がするよ。原作では中学でも高校でも見た目は変わってなかったものが何でアニメでは変えたのか知らないけど、総じて大人びた、美人になった印象だね」
「それ以降は出番あるの?」
「もう実質ないようなものだけど一応はね。それから遠く離れて八十八話、モブキャラとしてちらりと出てくるけど声なしで別に桂城さんじゃなくてもいいような役回りだし実は別人かも知れないとさえ思える程度でしかないからね。作画微妙だし。まあこの人が桂城さんと仮定した場合はこれが最後の出番となるね。まあ長々と語ってきたところを総括すると、ストーリー上では物語の導入を司る人物として割と重要な働きをしてはいるもののそこは脇役の悲しさで本編ではすぐに出番がなくなるんだよね。でもOPでは中学時代のサイドテールをなびかせながら走り続けているしEDではチームメイトと団結を誓い合ってるんだ。これが最終回まで続くから淋しくなんてないぞ。まあEDの六人で組んだ試合は桂城さんとの騒動の直後に加入した早川みどりのせいで団結できずボロ負けに終わるんだけどね。だから桂城さんがいるって事は物語的にはいわばプロローグで、卒業後に浜紀中四天王と呼ばれる人たちが出て来てからが中学編も本番になるんだ」
「四天王ねえ。それで桂城さんの他にはどんな人が出てくるの?」
「まずは最初から出てくる不良グループから言うとリーダー格の柏木はウルトラセブンのアンヌ隊員みたいなショートカットの美人かつ性格もしっかりしてる。中沢は輪郭とか全体的な印象は少年っぽいけど右側に三つ編み一本というヘアスタイルが独特な個性になってる。第一話では鮎原より先にしゃべるし、他のメンバーは中学までで別れたのに高校でも鮎原と一緒だからかなり長い付き合いになる人物でもあるんだ。池崎は顔のパーツの作りは幼い感じだけど結構切れやすくて過激な発言もしてるんだ。髪型はサンディベルみたいな感じだけど靴下を左右履き間違えてるって事はないよ」
「あれはそういうファッションでしょ」
「でも絶対流行らないおしゃれだよね。それと福田。この子は最近ランクが急上昇中なんだ。特徴を箇条書きで抜き出すと長身に細く鋭い目つきと桂城さん以上に黒い肌って感じで一見怖そうだけどね、実際はそうじゃないんだ。まず髪型は前髪ぱっつんにツインテールで女の子らしいし、目つきは確かにきついけど眉毛が垂れ下がってるから普通にしてるとちょっと困ったような表情を浮かべてるみたいに見えるんだ。犬っぽいかわいさがあるね。それに案外快活な声で結構おしゃべりだし、本当はかわいい子なんだよ。しかも、これは本当に理由が不明なんだけど最終回の回想シーンでは本編での存在感からすると異常なくらいに出番が多いんだ。何と言っても世界を制した鮎原が長く苦しかった日々を思い浮かべるしょっぱながこの福田がサーブを打つ場面だからね。そんな重要なキャラじゃないのに。もう一人大木って肌がピンクで喋り方が幼い子がいるけど、福田と大木の二人は原作には出てこないから本編でも出番があったりなかったりでちょっと扱いが雑なんだ」
「ふうん。じゃあ早川みどりってのは?」
「平たく言うと準主役的な存在だよ。桂城さんなんかよりもよっぽど重要なね。第三話の終わり、全身黒タイツに見える謎のファッションで登場して凄まじいインパクトを与えるんだ。本性を表すのは次の回で、いきなり凄まじい陰謀を張り巡らせるけど鮎原と和解した後は何事もなかったかのように頼りになる右腕として大活躍するんだ。髪の色は独特、目の描き方も他と違って二色も使ってる外国人っぽい美人でファンも多い。そして木の葉落としって必殺サーブがあるけどまあこれは強力な変化球サーブって程度だから。中学編から登場の技だけにオカルト指数はそんなに高くないよ。高校編に入ると三位一体攻撃だの大ボールスパイクだの怪しげな技が次々と出てきて、最後の世界大会に至っては魔球魔球また魔球みたいな大味な展開と化すけど、個人的に一番好きなのは中学時代って結論になるかな。ライバルも含めてかわいい子多いし。もちろん高校でも色々いるんだけどね。大沼さんとか。最後の世界大会はその点で言うときついし、何より湯島よ。申し訳ないがあれは登場人物の中で最悪だと断言するね」
「そんなにまずいのその人って?」
「まあろくでもない人間だよ。二股かけて修羅場になったら海外逃亡する原作も大概だけど、アニメでもあの手この手で鮎原のかなり不安定な精神状態を揺さぶるばかりで見てるこっちも気分が悪くなるよ。顔はそこそこいいからうっかり鮎原は惚れてしまうけど『会わないほうがいい』とかあっさり振って、その直後に『会いたい』と電話をかけてまた振り回すし。しかもそんなの断るべきところを惚れた弱みでほいほい出向いた鮎原に向かって浴びせるのは容赦ない罵声ばかり。そう言えば最初出会った頃に『(鮎原は)死んだ妹に似ている』みたいに言ってたけどこの手口を鮎原以外にも使ってそうな不誠実さが漂ってるんだよね。そもそも鮎原のライバル校のコーチなのに使命も忘れて本来は敵であるはずの鮎原にばっかり絡んでくるのもどうかしてるよ。会うたびに『新たな魔球を完成させなければ勝てない』とかもう煽る煽る。そのくせ自分も男子バレーの日本代表なのに自分用の魔球なり秘策はろくすっぽ考えず、相手のソ連にはとっくに見破られてる攻撃パターンに固執した結果案の定全然通用せず惨敗するし。その後新魔球をなかなか完成させられず苦悩する鮎原に向かって『魔球がなくてもいいんだ』みたいに心の中で言い始めてもう本当にこいつだけは度し難いよ。作品世界に行って一人だけ○していいって言われたら速攻でこいつを○すよ。そりゃあ作中において憎まれ役となったキャラクターだって何人かいるよ。例えば四天王の筆頭でありながら怪我でバレーを断念せざるを得なかった悔しさから身を持ち崩してスパイ行為に走る泉、は和解したからまだいいか。富士見高校で後輩をいびる神田須賀中原とか、データを取るため鮎原を夜道で拉致させる飛垣とかね。でも湯島の不快感に比べるとこいつらのほうがよっぽどましだね」
とめどなく渡海雄の口から溢れる悪口の大洪水に血の気が引いた悠宇であったが、その時光り輝いた敵襲来の知らせには内心でほっとする部分もあった。これで話も切り上げられるからだ。
「しまったぁ!! 湯島なんかに気をとられて本当はもっと話したいことを話しきれなかった!! 湯島の野郎、絶対に許さないからな!!」
「そ、その話は日テレG+の放送に沿って後から話してくれればいいし、今はこの怒りをグラゲ軍にぶつけましょう!」
「そうだねゆうちゃん。後、土曜日に放送される四話だけど第一話はコンパクトで合図を送るときのシャーンシャーンってシンバルっぽいSEと鮎原の過激で電波な人間性、第二話はへたれだけど好戦的な池崎、第三話は桂城さんのありえない豹変ぶり、第四話は早川の華麗なファッションあたりが見所だよ! よし、変身しよう!」
「え、ええ!」
素早く戦闘態勢を整えた二人は敵が現れた地点である高原付近へと走った。
「ふふふふふ、グラゲ軍攻撃部隊のムクドリ女とはこの私の事よ。さあ覚悟なさい噂の二人組!」
全身黒タイツに顔鳥のような顔を被せたような女が後ろを振り向くと、案の定渡海雄と悠宇が腕を組んで立っていた。
「呼ばれて飛び出てただ今参上! でも容赦はしないぞ!」
「またも地球に騒動の嵐を巻き起こそうとするのねグラゲ軍!」
「ふん。笑わせるな。それがこの私に課せられた命令なのだからな。さあ行け雑兵ども!!」
二人を取り囲むように出現した雑兵の登場にも慌てず、近くにいた者から容赦なくパンチキックの嵐を浴びせて瞬く間に撃破した。
「もうお前以外の味方はいなくなったぞムクドリ女」
「今すぐここから立ち去りなさい。軍人とて命あってこそ上官の命令を聞けるってものでしょう」
「ふん。甘いわ。この私が最後まで戦わずして逃げ帰れるものか」
悠宇の忠告を聞き入れるはずもなく、ムクドリ女は懐に忍ばせておいたスイッチを入れて巨大ロボットと化した。
「よし、僕たちも合体して対抗だ!」
「もちろんよ! さあ行くわよ!」
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
ムクドリロボットが出現して間もなく、高原にはもう一つの巨大な物体が屹立した。
「一気に行くぞ! これでも食らえ!」
メガロボットの武器担当である渡海雄は即座に黄色のボタンを押した。すると右手首の周辺が光り輝いたかと思うとボール上の物体は発射された。この輝くボールがムクドリロボットの体に接触すると激しいプラズマでメカニックを破壊し尽くした。
「おのれええい!! もはや撤退するしかないとは!!」
ムクドリロボットが爆散する寸前に脱出装置が作動してムクドリ女は本拠地へと逃げ帰った。これで今週末、人類は安心してテレビを見られる。しかし二人の戦いを知る者はこの地球においてさえもそう多くはない。
今回のまとめ
・なろうは歌詞転載NG
・古い絵柄だって慣れれば問題ない
・慣れた上で言うとアタックNo.1は桂城さんを筆頭にかわいい登場人物が山盛り
・ちょっと言い過ぎたかも知れないけど湯島だけはアカン