hg12 Dream Passportについて
今年は冷夏になるという予想は何だったのか。やはり夏は夏であり暑いものだった。しかし少年少女は心に火を宿しているかのように、夏の日差しをものともせず今日もまた遊びに出かける。渡海雄と悠宇も同級生と一緒にプールで泳いだが、何より素晴らしかったのはひとしきりはしゃいだ後に飲む冷えた茶の味だった。
「うちの麦茶の味はどう?」
「ううん、ちょうど家が近かったからお邪魔させていただいたけど、たまには人の家のお茶もいいものよね。麦の味が香ばしいわ」
「それは良かった。お菓子もろくにないけど、時間があればゆっくりしていってよ」
「何も起こらなければそうさせてもらうわ。それにしてもやっぱり今年の夏は暑いから、水分補給しないと頭がフラフラになって夢の世界へと旅立ってしまいそうよ」
「本当にね。と言う事で今日は『Dream Passport』。これは一九九二年の十二月に発売されたアルバムなんだ」
「あれ、箱入りなのね」
「初回盤はね、特典としてCDが付いているんだ。箱の裏側にくぼみがあって、そこにはめ込んでる結構無理のある形状だけど。ついでにこの曲の紹介もしておくと、その名も『クリスマス組曲』。作詞原真弓、作曲山口美央子、編曲石田勝範。六分近くある大曲で、敬虔なイントロからメンバーのソロパートが三分以上続くけど、それが終わってからまたイントロのフレーズが演奏されるあたりから一気に盛り上がってクライマックスを迎えるという壮大な構成はまさしく組曲の名にふさわしい」
「参加ミュージシャンもやたらと多いわね。よくあるドラム、ベース、ギター、キーボードにオーケストラを加えたような大人数。盛り上がるまで時間がかかるけどかなり華やかな曲でなかなかのものじゃない。そしてメンバーの写真は、ついに内海の髪型が変わってるのが一番のトピックスね。いつもの右側を開けてる奴じゃなくてまっすぐに髪を下ろしてる」
「本当についにって感じだね。大沢も髪を下ろして元来の美形を惜しみなく振りまいている中で佐藤敦啓は逆に髪を上げてるとか、微妙に変えてきてる。服は、デザイン自体は割とフォーマルだけど色々貼り付けてあるのが装飾過多だけど悪くはない」
「そして曲は、まずは『蒼い夜明け』。作詞作曲上田知華、編曲新川博」
「いきなり勢いのある曲からスタートだね。アップテンポで、歌詞もやけに熱い。二番のサビが終わるかってところで新しいメロディーが繰り出されたりする曲の展開も力強くて、これはなかなかの曲だよ。アルバムの一曲目としてふさわしいパワフルさがあるのが何よりいい」
「次は『DREAM FLIGHT』。作詞佐藤ありす、作曲和泉一弥、編曲佐藤準」
「これは最初聴いた時に何となく『どこかで聴いた事があるんじゃないか?』と思ったほど、ひたすらキャッチーで耳に馴染みやすいメロディーが印象的。歌詞もとにかく前向きで、光GENJIの全曲の中でも一番彼らのイメージそのまんまな曲と言えるかも。それぐらい絶対的に王道。また、二番は省略されて一番から間奏を経てサビで終わりという構成だからちょっと短いのも特徴」
「次は『恋の流星ブギ』。何このタイトル。作詞高柳恋、作曲岸正之、編曲米光亮」
「うん、まあタイトルはね、正直ねえ。そして肝心の曲はイントロから結構飛ばしてきてAメロも順調、Bメロでちょっとあれってなってサビは、トテトテしたリズムが印象的だね。歌詞もピーターパン全開のファンタジー路線。とにかく陽気で結局のところタイトル通りの曲ではあるんだよね。でもタイトルはちょっとなあ」
「ちょっと子供っぽい曲が続いてるわね。次は『水の惑星~Love Balloon~』。作詞三浦徳子、作曲鈴木キサブロー、編曲新川博」
「先に言っておくけどこの曲こそ全光GENJIのアルバム曲において一番の名曲だと思っているんだ。全体でも三本の指に入るぐらいお気に入り。じゃあ何が良いのかと言うと、スケール感とでも言うのかな。まるで宇宙そのもののように本当に壮大でファンタスティックで、まさに光GENJIぐらいしか手をつけてないような世界。伸びやかなイントロだなと思いきやいきなりストップモーションを仕掛けるなどの仕掛けも繊細かつ大胆で、始まる前からもう心を奪われたね。そして歌の部分、出だしはかなり抑えて歌ってるけどだんだん力強さが増して、そしてサビの伸びやかさは抜群に良い。それでね、それでね、落ち着くと言うより勢いを持続させたままさらに加速させているかのような間奏もいいし、二番が終わったところで出現する囁くような早口のCメロと間奏の絡みから決定的なカタルシスを内包する最後のサビへとなだれ込む構成も抜群。もう何もかも、非の打ち所がないとはこれだよ、これ!」
「ふうん、随分ベタ褒めじゃない」
「そりゃあね、大好きだから。まああんまり言葉を連ねるのも押し付けがましくなるからここまでにするけど最後に一言、何でこれをシングルにしなかったかなあ。実際候補だったようだし。佐藤敦啓の本だったか、メンバー七人にいくつかのシングル候補を聴かせて『どれがいい?』みたいな事をやった結果佐藤敦啓以外の六人が『水の惑星』を推したけど結局『CO CO RO』になったって話が書かれていたと記憶しているけど、やっぱりみんな分かってたんだよ、これが名曲だって」
「あれっ、『CO CO RO』って確か一九九〇年の曲じゃなかったっけ? これは一九九二年の曲なのに」
「そうだよ。だから二年ほどはCD音源にならず眠っていた曲なんだ。でもそれは『水の惑星』だけじゃなくてね。次の『星空のメッセージ』を聴いてみるといいよ」
「うん。作詞佐藤ありす、作曲和泉一弥、編曲佐藤準って『DREAM FLIGHT』と同じね。と言うかこの曲は『DREAM FLIGHT』と同じメロディー?」
「スローテンポになって歌詞やアレンジは変わってるけど曲はまさにその通りで、いわばエピローグだね。『DREAM FLIGHT』から『星空のメッセージ』までの四曲はこのアルバムが初出じゃなくて一九九〇年に出たビデオに元々収録されていたんだ。すでにメインから外れつつあったファンタジー路線が突如このアルバムで復活したのは昔の曲を今になってようやく収録したからなんだ。でもやっぱりこの路線こそ光GENJIの王道と言えるよね。僕自身も求めていた姿だし、当然名曲ばかりなんだから。なおビデオ作品に関しては後でまとめて紹介する予定」
「それは楽しみね。次は『モナリザを探せ』。作詞松井五郎、作曲都志見隆、編曲石田勝範」
「変な曲だよ。まずある女がいなくなって、その女をモナリザと例えてるんだ。で、モナリザはどんな人だったかを残った男たちが集まって証言するけどそれがことごとく食い違ってる。じゃあこの女は何者なんだ? って感じの歌詞。それにドラム、ギター、ブラスと無駄に派手な演奏がキッチュな魅力を醸し出していて、さすがに石田は一味違うよ。でもそんな石田の出番もこの曲で終了。思えばたった四曲しか担当してないのにいずれも平凡ならざるオーラを纏っていて、異能の実力者でした」
「それは残念ね。次は『君を守りたい』。作詞山本英美、作曲岸正之、編曲佐藤準」
「このタイトル、重い決意と見るか地味で平凡と見るかは微妙なところだけど、イントロの時点で濃厚に漂ってるシリアスな雰囲気と、同じ言葉を連ねるサビが印象的な曲。そして初期の光GENJIを強力に支えてきた佐藤準が関わる最後の曲でもあるんだ。このアルバムの中でも地味な方の曲ではあるけど、時代の終わりってのは得てしてこんなふうにあっさりと訪れるもの」
「そう言えば前回の『Pocket Album』でも一曲しか担当してなかったし、そろそろ潮時って感じだったのかしらね。さて、次は『勇気を出して』。作詞三浦徳子、作曲清岡千穂、編曲新川博」
「勢いがあって爽やかな曲だよ。最初聴いた時は『蒼い夜明け』と印象被ったけど、あっちはもっと炎のような曲だけどこっちは吹き抜ける風みたいなイメージ。一度演奏が落ち着いて美しいコーラスを響かせるCメロが印象的で、このパートのお陰でただ右から左へ抜けるだけにとどまらず強い印象が残る。歌詞自体は意外と熱くて『GROWING UP』に近いかな。あれをもっとコンパクトに、質を上げたらこうなるみたいな」
「結構短いからすんなりと聴けるわね。そして次は……」
「ちょっと待ってね。ここからの三曲『裸足の旅人』『朝日のあたる街』『…そして未来へ』はいずれも作詞高柳恋、作曲山口美央子、編曲新川博。しかも曲全体とサビの歌詞はまったく同じなんだ。ただし歌うメンバー、サビ以外の歌詞、アレンジはそれぞれ異なっている」
「へえ、何それ?」
「具体的に言うとね、『裸足の旅人』は諸星と山本が歌って、一番王道の爽やかなイメージ。『朝日のあたる街』は両佐藤と赤坂が歌って、間奏でアコーディオンが奏でられたりと可愛らしいイメージ。『…そして未来へ』は内海と大沢が歌って、大人っぽくシリアスなイメージ。こんなふうに歌い手に合わせてイメージを変えているんだ。実は『勇気を出して』以降の曲は一九九二年に発売されたビデオで使われた曲なんだ。そのビデオの中でメンバーが前述の三グループに別れて行動するんだけど、それぞれのグループが活動してる時に流れるのがこの三曲」
「『裸足の旅人』と『…そして未来へ』は大して変わらない気もするけど『朝日のあたる街』はテンポも落ちてて、実験的な曲なのね。そして最後は『And I love you』。作詞三浦徳子、作曲佐藤健、編曲新川博」
「これもそのビデオで使われた曲だよ。一番はバラードだけど間奏で一気にスピードアップ。その激しい勢いのままサビを連発して終了という構成になってるんだ。出だしは綺麗だけど終わってみれば爽やかな余韻が残る、かなりの名曲だよ。それと最後のサビの歌詞が力強くて好きだな」
「終わってみると大多数がビデオ収録曲だったわね」
「確かに純然たる新曲は多くないよね。また本作で初お目見えの作者もなく、ゆえにこれはある種の総括と言えるアルバムかもね。先の話をすると光GENJIの王道とも言えるファンタジー路線はこれ以降ほぼ絶滅するから、その前にこのアルバム序盤に収録されてる曲を、ある意味在庫処理として世に出しておこうという考えがなかったとは思えないよね。石田勝範はともかく佐藤準の退場ってのも今までの光GENJI像からの決別を意図しての事だろうし。メンバーも大きくなったからねえ。曲自体はいい曲ばかりなんだよ。でもいつまでも同じ場所にはいられないからね。この曲たちはそんな雰囲気をおくびにも出してないけど、少年としての光GENJI最後の打ち上げ花火がこのアルバムなんだ」
「もっと大人にならないとって事なのね。内海あたりは結構年齢が出てきた顔してるし、ここらが頃合だったのかも。そう思えばこのドリームパスポートは片道切符だったのね」
「赤坂や佐藤敦啓はまだ十代だったりするんだけどね。とにかく、この時期は過渡期なんだ。八十年代の爆発的な人気はとっくに失せてるけどまだ貯金は残っている。前年デビューのSMAPはまだ軌道に乗り切る前だし格としてはトップアイドルを維持してる。でもこのままではジリ貧だから何らかの手は打たないといけないけど、という感じ。翌年になると楽曲の質が決定的に変化するんだけど、その地ならしとして今までの光GENJIを完全燃焼させたのがこの『Dream Passport』と言えるんじゃないかな。ちなみにAmazonでは案の定一円から出品されてるけど『クリスマス組曲』が付属しているか定かではないし、こればっかりはオークションか中古CD屋で見つけたほうがいいかもね。大丈夫、あるかないかで値段が変わるって事はないから」
CDの価格は大丈夫でも地球は大丈夫ではないようで、敵襲を告げる光が二人の目に届いた。すかさず変身したところうだる暑さを感じなくなったのでこれ幸いと気分よく敵の出現したポイントへと走った。
「ふはは、私はグラゲ軍攻撃部隊のホシズナ女。この惑星において真に良き主人であるグラゲ人を迎え入れるための地ならしをするために現れたものだ」
いかにも硬そうな殻に隠れて素顔が見えないホシズナ女が出現したのは波高いテトラポッドの上だった。足場がいかにも不安定だがしっかりと立っている。そんな彼女を追って、渡海雄と悠宇は間もなく海岸に現れた。
「こんな日にまでも現れたな侵略者グラゲ軍!」
「勝手に人の星を乗っ取ろうなんて画策するのは感心しないわね」
「これが噂の戦士たちか。しかしお前たちの命運はもはや尽きた! 行け、雑兵ども!」
テトラポッドの隙間から続々と現れた雑兵たちを渡海雄と悠宇は次々に海の藻屑へと変えてみせた。
「もう許せないぞ。これ以上僕たちの星を荒らさないでくれ」
「誰もいないんならともかくコミュニケーション取れる間柄なんだからもうちょっと話し合ってみたらどうなの?」
「ふん、グラゲを許容しない民の言葉など聞く耳持たぬわ。そんなものは滅ぼしたほうが身のためだ。このようにしてな!」
根っからの軍人で自らの正当性を信じきっているホシズナ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。相手にも心はあるのに繋ぎ合うのはなかなか難しいものだと痛感しつつも放っておいてはいけないので渡海雄と悠宇も合体して相手に対抗した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
この二体の間とあってはさしものテトラポッドも沖縄名物星の砂と同じようなものである。そもそも星の砂とはホシズナという殻を持った原生生物が死んだ時にその殻だけが残り、それが海岸に堆積されたものを呼ぶらしい。しかしテトラポッドを砂のように軽く砕いてはいけないので、メガロボットはもう少し沖合に出て戦いを始めた。空中戦の末にホシズナロボットを海の中へ叩きつけた。
「よし、チャンス!」
「ここで一気に勝負を決めるぞ! 水中でも変わらず使えるのは、ドリルキックで勝負だ!」
渡海雄はすかさず青いボタンを押した。メガロボットの足が変形したドリルはホシズナロボットの殻を叩き割って胴体までまっすぐに貫いた。
「ここまでか! 忌々しい奴らめ。しかし撤退するしかなさそうだな。残念だ」
自分の任務を果たせない事を悔やみつつ、ホシズナロボットが爆散する直前に作動した脱出装置に乗せられてホシズナ女は宇宙へと帰っていった。
今回のまとめ
・でも今週は雨が続くらしく今日もあまり天気は良くなかった
・内海の髪型は三つありその第二段階に突入した
・楽曲は初期路線の集大成で個々のクオリティは抜群
・それでもやっぱり「水の惑星」はシングルにすべきだった




