vm04 ブラジルワールドカップについて
梅雨入りしたのでジメジメした天気が続くが、渡海雄にはそれ以上に気がかりな問題があった。それはカープが交流戦でまったく勝てていないという事である。しかもその負け方がまた悪い。不甲斐ない敗戦をした翌日の悠宇は明らかにがっくり来ているので、渡海雄はそれをいつも心配に思っているのだ。
しかし今は二十一世紀、スポーツは何もプロ野球だけではない。特に今は、地球の裏側で起ころうとする四年に一度の祭典を目前に控えているのだから。休日である今日も訓練のため研究所で出会うが、その出会い頭にそんな挨拶をした。
「昨日勝ったね、日本代表」
「うん。これで目下五連勝中という事だし、守備は怪しいけど攻撃はなかなか機能しているようだから上等よ」
「そうだね。昨日のザンビア戦もいきなり二失点した時はどうするのと思ったけど」
「まず前半のうちに本田がPKで一点を返しておいて、後半は香川のクロスみたいなのが直接ゴールに吸い込まれたかと思うと一分後には森重の攻め上がりから最後は本田が叩き込んで一気に逆転まで持ち込むという勢い」
「でも後半も残りわずかってところでミドルシュート食らって同点に追いつかれた時はさすがに肝を冷やしたよ」
「でも直後に投入された青山がロングフィードを蹴り込んで大久保がトラップからの見事なゴール! 本番でこんなゴールが出てたら伝説になってたところよ。結果的には四対三という、まあとんでもない試合だったわ。まさにエンターテインメント」
「本当にねえ。二点目からの三点目とか、ザンビアに追いつかれた直後に大久保の決勝ゴールとか、あの辺のテンポの良さが愉快な試合だったなあ。ただ守備はもっとしっかりしないと」
「GKは西川だったけど、この直前の試合で三失点はねえ。ストロングポイントであるキックの精度も披露する出番があまりなかったし」
「やっぱり本番では川島かなあ。その川島もザンビアの前、コスタリカ戦では先制点を取られてたけど」
「コスタリカ戦は前半はアレだったけど後半、遠藤長友岡崎あたりの常連組が入るとかなり良くなったわね。これこそ四年間の成果よ。逆に言うと四年間やって守備がこのレベルなんだからもうこのまま行くしかないのよね。センターバックは今野を絡めるより吉田と森重で組んだほうがうまくいくような雰囲気。控えには今野と伊野波となりそうね」
「サイドバックは左が長友に右は内田でいいのかな」
「今のところはそんな感じかしらね。特に長友はチームの主軸となる選手だから期待したいわ。ドイツで活躍する酒井もいるし。ボランチは山口が多分確定として、一番読めないのは怪我の長谷部よね。ぶっつけ本番で出すという話もあるけど、無理をしてまで出さなければならない、他に代わりはいないってクラスの選手でもないし。コスタリカ戦みたいにスタメン青山から後半遠藤というのもなかなか効果的なオプションだったからそこは柔軟な起用を望みたいところ」
「青山に出番あるといいなあ。そして二列目はやっぱり岡崎、本田、香川の三人かな」
「実力的にも今更いじる場所じゃないわ。不調を喧伝された本田だけどザンビア戦では二得点だし、じゃあ本田の代わりになりうる選手はと問われるとねえ。前回の中村俊輔とは訳が違うんだから」
「そしてワントップも難しいよね。柿谷か大迫、それに大久保もいいアピールしてる」
「大久保は後半から投入のスーパーサブ的な起用だと思うけど。アグレッシブに動ける選手だから、疲れがたまって足が動かなくなる時間帯に投入されると相手にとって嫌な存在となりうるでしょうし。柿谷か大迫かって部分は、本番をお楽しみにって事にしておきましょう」
「ふうむ、しかしこう見ると層が厚いポジションとそうでもないポジションってあるねえ。そしてこのメンバーでグループリーグは突破できるのかなあ」
「まず初戦はアフリカのコートジボワール。前線のポジションに世界的な選手を擁するアフリカの雄。ただ今までにグループリーグ突破した事がないのよね、意外と。アフリカと言えば前回の南アフリカワールドカップで日本と対戦したカメルーンは事前に『どうやら内紛が起きているらしい』みたいな話があって、いざ初戦のスタメンが発表されると本来いるべき選手がいなくてごたつきが傍目にも明らかだったけど、コートジボワールはアフリカではまとまってるほうって話だからそういう幸運は期待しないほうが良さそうね」
「優秀な選手がいても組織として一枚岩に近づかないと安定した勝利は望めないものだからねえ。アフリカは国家に関してもなかなかうまく統一されてなかったりするし、簡単にはいかないよね。やっぱり無理に国境線を引かれたのが、とか話大きくなるのもアレだから控えるけど」
「毎度毎度アフリカ勢が前評判の割に苦戦するのもそこよね。その点第二戦で当たるギリシャは固いと評判よ。高さとパワーのある選手が揃っていて堅守速攻。やる事がはっきりしてるとやっぱり強いものよ」
「ハーフナーや豊田みたいな背の高い前線の選手は入らなかったからねえ。俊敏な動きでうまく相手を翻弄できるか」
「高さは諦めて大久保とか斎藤学を選出ってのは日本代表の現状を反映したチョイスだったわね。ハーフナーとか代表ではいまいち生かせてなかったし。細貝落選もクラブではともかく代表ではずっとフィットしてない部分があったから落ちたところで驚きはなかったわ。ボランチの競争で青山が細貝に勝ったとか、そういう単純な判断じゃないのは言うまでもないし、そこは私たち以上にサッカーを知ってて選手を見てきた人間の決めた事だから、それを信じるしかないわね」
「そうだね。ところでJリーグのほうはこのワールドカップに合わせて中断となってるけど、広島は今のところ六位。これはどうなの?」
「まあ、こんなもんよね。最後の数試合で勝ち点をこぼしたのはもったいなかったけど、ACLと合わせての疲労もあったでしょうし及第点よ。しかしACL、あまりにも脆い結果に終わってどうにも消化不良だったけど終わった以上は仕方ないしこれからはリーグに全力を尽くして、結果を残してほしいわ」
「そして目下首位を走るのは浦和」
「さすがよね。数字を見ても非常に守備が頑張ってるし、やはり西川獲得は大きかったようね」
「でも代表に選ばれたのはその西川だけか。それが意外なくらい有名な選手は多いよね。原口がドイツへ移籍するって言うから、今後それがどう出るかも気になるよね」
「ただ幸い、原口のいないチームとして立て直せる時間を与えられているからそこでうまく再建出来ればいい結果が出るでしょうね。そして二位は鳥栖。ううむ、去年の後半戦はかなり順調だったけどここまで順調さが続くとは思わなかったわ」
「鳥栖からは代表いないのか。でも長らくJ2だったとは思えない好成績だよね」
「豊田に、林もいいGKよ。去年途中海外から磐田に入団したもののJ2降格の運命を止められなかった安田を獲得して、厳しいと評判のキャンプで鍛え直してしっかり戦力にしたりとかそういうのがうまいクラブよね。経営危機で消滅秒読みだった時期もあったけど今では十分に予算を確保出来ていると言うし、このまま勢いよく勝ち進んで優勝でもしてみせたら格好良いわよね」
「そして三位は神戸。ここも意外だったなあ。戦前はむしろガンバ大阪のほうが期待されてた気がするのに」
「外国人がよく評価されてるわね。そしてガンバはねえ、チームの中心として期待していた宇佐美が開幕前に怪我したのが痛かったわね。今は復帰しているけど、得点力はそれほどでもないし、かと言って守備が強いわけでもないという現状。長らく強豪だったとは思えないほど弱いけどどうやって立て直すのか、注目ね」
「そのガンバより下にいるのが大宮と徳島で、この三つが現在降格圏内」
「徳島はもうどうこう言うような数字じゃないわね。十四試合で三得点では、むしろよく勝ち点四も取れてると褒めないと。最終的にどんな数字になるのかしらね。終盤優勝争ってるチームに勝つとか一発爪痕を残せたらいいんだけど。そして大宮は、ここほど胡散臭いクラブもないわ。このまま落ちる可能性も立て直して浮上する可能性もあるけど、よりサプライズに近いのは前者でしょうね。伊達に十年生き残ってないわ」
「仙台は序盤かなりきつくて監督交代というカンフル剤を打ったけどこれがはまったみたいだね」
「今のところは監督解任によってうまくいってるけど、それが最後まで続くかはまだ分からないわ。まあ少なくともアーノルド時代より明らかに上向きだから、このまま行っても全然不思議じゃないけど。そしてJ2。ワールドカップで中断してるのはJ1だけで、J2は毎週末やってるのよね。昨日も試合があって山形が栃木にディエゴのハットトリック含む六対一で勝ったりしてるわ」
「J2は、湘南が凄い事になってるよね」
「本当にね、独走も独走。ここまで十七試合で十六勝一敗、得点四十四で失点はわずか七。降格した去年なんかもサッカー自体はいいみたいに言われてはいたけど、見事としか言い様のない成績よ」
「伊野波が代表に選ばれた磐田もちゃんと二位につけてるけど、それでも勝ち点が十四も離れてるから凄まじい。もうこれは自動昇格決定的と見てもいい?」
「ここから非現実的なまでの連敗をしないとプレーオフ圏内に到達する事はない、まだ半分も終わってないとは言ってもほぼ確定じゃないかしら。磐田と三位の松本もちょっとだけ抜け出してて、その下はまだ団子状態になってるからプレーオフの六位以内となるとまだまだ全然決まってはいないわね。逆に下位は明らかに経営状態がやばいヴェルディ、昇格したばかりの讃岐、そして富山が現在最下位となってるわ。その他、現在勝ち点が二十に到達していないのが愛媛、群馬、横浜FC」
「独自の戦いってなるね。ここから巻き返しはあるのかな。ぼやぼやしてるとJ3に落ちちゃうんだから」
「そのJ3もやっぱり試合が行われてて、現在首位はかつてJ2に所属していた事のある町田。未だに東京なのか神奈川なのかよく分かってない地域だけど」
「東京だよ。得失点差もダントツでいいし上々の戦果だね。そして二位以下は長野、金沢、相模原、鳥取と続く」
「もしも万が一J2J3ともにこのままの順位で終わったとしたら富山が自動降格で町田が自動昇格、そして讃岐と長野によってホームアンドアウェーの入れ替え戦が実施される事になるわ。もっともようやく夏が到来したばかりという今の段階で考える事じゃないけど。今首位でも失速する事だってあるから。カープみたいにね。と言うか何この不甲斐ない戦いの連続は。だから交流戦は五割でと言ったのに十四試合で借金六とか誠意を疑わざるを得ない数字。大体巨人は交流戦前は三位でゲーム差は確か4.5離れてたのにそれを直接対決なしで逆転されそうって並大抵の事じゃないわ。永川がボコボコ打たれたとか先発が踏ん張りきれず大量失点を献上するイニングを作ったりとか投手陣の問題もあったけど打撃も大概酷いわ。単発的なホームラン頼みではあまりにも苦しい。投手が元気に投げられた四月までならまだしも、暑くなってきたし投手陣は今までの疲れも貯まる頃合なんだからもうちょっと援護してあげないと。それはともかく篠田や新人が炎上するのはまだ仕方ないと寛容でいられるけどエースと称されてそれが当然なレベルの投手が無様に五連打浴びるとかああいうのが一番ダメージ大きいのよね、期待値が違うから。あんな体たらくで本気でメジャー行くわけ? そりゃあエラーみたいなミスはあったけど発端は下位打線だったんだしそこで踏ん張れずして……」
急に雲行きが怪しくなってきたところで話を中断せざるを得ない警報が部屋に鳴り響いた。渡海雄は内心で安堵したのだが、すぐに「僕はなんて歪んだ性根をしているんだ」と自分をたしなめた。スポーツで一喜一憂できるのも平和あっての事。それを守るために今日もまた瞳をエメラルド色に輝かせた戦士となって敵のいる地点へ急いだ。
「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のミツオビアルマジロ女だ。この汚い星を浄化してやろう」
風そよぐ草原に出現したのはミツオビアルマジロ女であった。ブラジルワールドカップのマスコットであるフレコのモチーフになった動物もまたアルマジロである事とは一切関係がない。南アフリカのザクミはかわいくなさがちょっとかわいかったが日韓の時の奴は単純にきもかった気がする。それはともかくミツオビアルマジロ女が今まさに破壊活動を繰り広げようとしたタイミングでそれを制止する声が響いた。
「そう思うように事は運ばないぞグラゲ軍!」
「この地球はこれからが本番なのに勝手に邪魔しないでほしいものね」
「ふっ、現れたなエメラルド色の瞳を持つ戦士たち。しかしこちらもすでに準備は出来ている。雑兵ども、かかれ!」
こうして緑のフィールドに出現した十一人ほどの雑兵たちを次々と破壊していった。そして交代枠は三人、ではなくて草原に立っているのは三人だけとなった。
「よし、雑兵は片付いたか。後はお前だけだな、ミツオビアルマジロ女」
「もはや後半アディショナルタイムを残して二点リードってところかしら。私たちだって何も破壊衝動で戦ってるわけじゃないんだから、いっそあなたたちも一緒にお祭りを楽しまない?」
「下らん誘いだな。そのような茶番は逆臣ネイだけで十分だ。私はお前たちを蹴散らすために来たのだからな!」
そう言うとミツオビアルマジロ女は懐のスイッチを押して巨大化した。渡海雄と悠宇もすかさずお互いの心身を同調させた。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
ミツオビアルマジロロボットはその巨体を折り曲げてボール状になると、猛烈な勢いで転がりメガロボットに向かって突進してきた。そのたびに悠宇は持ち前の反射神経を生かして回避したが何度も続くとしんどい。
かくなる上はと、向かってくる球体を回避するのではなく右足のインサイドでトラップすると、ダイレクトボレーを山麓に叩き込んだ。これで敵の装甲が割れた隙を渡海雄は見逃さなかった。
「敵の防御が緩んだなら、今がチャンスだ。ドリルキックで決めるぞ!」
渡海雄は青いボタンを押した。両足の先がドリルに変化して体制を立て直そうとするミツオビアルマジロロボットの比較的柔らかな胴体を貫いた。
「おのれ、凄まじいまでのパワーだ。残念だが今は諦めるしかないか」
爆散する寸前、発射された脱出装置によってミツオビアルマジロ女は宇宙へと去っていった。本番まで一週間ほど。勝てればとりあえずいいが負けたら駄目ではない。でもドイツの時みたいな負け方はNGで。
今回のまとめ
・ゴールが決まるとやっぱり単純に面白いものだ
・今回はサンフレッチェからも選出されたから余計な感情なく見られる
・浦和は見事だが鳥栖や神戸も上位なあたりがさすがJリーグ
・J3は今日の午後から試合があるようです




