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ca02 有事記念 ASKAについて

 五月十七日の正午前、御存知の通りの速報が流れた。NHK正午のニュースの一発目がこれだったりして割と騒ぎになっているが、去年の夏以来の報道もあったので「ああ、やっぱりやってたのか」ぐらいが大多数の本音であったのではないだろうか。


 そんなニュースを見て土曜日を過ごす羽目になった悠宇はげんなりしていた。胸の動悸と、なぜか吐き気がして昼食を食べるのに一苦労であったがどうにか口の中に詰め込んで、それからすぐ昼寝をしたかったがうまく眠れなかった。明日、研究所で訓練があるが、その時チャゲアスに詳しい渡海雄にどんな顔で接するべきかを考えるとどうにもまとまらなかったのだ。


 翌日、ぐったりした状態で悠宇は研究所へ向かった。とりあえず「あんまり凹んでいたらどうにかして慰めよう」ぐらいは決めていたが、内心では「出来るだけ目を合わせないようにしたいな」とも思っていた。しかし渡海雄の様子は意外と普段と変わらなかったので、逆に悠宇のほうが挙動不審となってしまった。


「ああ、とみお君、おはよう。ええと、まあ、何と言うべきか、私にはとても言葉が見つからないけど……」


「ん? 何かあったの?」


「何かって、ねえ。それはその、こう、ほら、最近ニュースとかでよくやってる、あの……」


「ああ、ASKA逮捕か。うん、残念だったね。でも前々からそういう報道もあったんだし、調査って事で言うとそれよりもっと前から行われていた上での結果だろうから、もし本当に使ってなかったって事になったらそっちのほうが警察は何やってんのって話で社会にとって大問題だよ。そりゃあね、警察だって間違える事はあるよ。この間の袴田事件とか。でもだからと言って全てが間違ってるわけじゃない。それを主張するほどアナーキストじゃないよ。それに逮捕という現実がそこに存在する以上は、僕がどう願おうがなるようにしかならないんだし。まな板の鯉だよ」


「ふうん、意外と割り切ってるのね」


「そりゃあ赤坂メンバーとか先輩もいるわけだから。芸能界、覚醒剤の一度ぐらいなら本人にその意思があれば復帰出来る世界だし、実際に大抵が復帰している」


「まあ、それもそうよね。こういう時よくリストにされる『歴代薬で逮捕された芸能人リスト』の類を見ても、結構今でも活躍してるような人の名前があったりするし」


「岩城滉一や槇原敬之あたりは覚醒剤で逮捕されたものの今のところは二回目もなく頑張ってるよね。そう考えると三回逮捕されてなお音楽活動やれてる岡村靖幸って本当に凄いと思うよ。こんな連発してると引退に追い込まれたりする事も少なくないのに。それに大麻だけど、七十年代に起こった芋づる逮捕の面々もなかなかのものだよね」


「井上陽水、内藤やす子、ジョー山中、桑名正博、研ナオコ、美川憲一、上田正樹、にしきのあきらなど六十人余りだってねえ。確かに、知らない人もいるけどむしろ逮捕された後に人気のピークが来た人もいるみたいだし、本人にその意志と才能があればそうなる可能性もあるとは言えるのね」


「まあ復帰しないならしないでそれでも別にいいんだけどね。今まで散々頑張ってくれたんだから。ほら、最新アルバムの『SCRAMBLE』とかいい曲多いよ。薬の力借りてたかも知れないにしても」


「え、ええと。それは、よく分からないけど……」


「ごめん。そもそもASKAのソロ活動に関しては最初のシングルが一九八七年の『MY Mr.LONELY HEART』というバラード。そして一九八八年、光GENJIに提供した曲が売れまくるなどして作家として注目を集めていた頃にファーストアルバム『SCENE』をリリースしたんだ。基本的にバラードばかり、しかもちあきなおみ、中森明菜、少年隊、テレサ・テンなど他人への提供曲をセルフカバーしたものが中心となっているんだ」


「世代が違う私でも名前ぐらいなら聞いたことがあるって大物ばっかりね」


「提供曲と言えば葛城ユキの『ボヘミアン』の作詞が有名だったけど、これはチャゲアスのほうでカバー済みだからね。もちろんもっとマイナーな人への提供もあるよ。個人的にはアルバムのタイトルにもなってる『SCENE』が一番好きかなあ、ピアノの音とか。それと『夢はるか』も。全体的にはまったりした雰囲気の曲が続くから一枚通して聴こうとすると途中でだれて飛ばし飛ばしになったりする事もあるけど。十川知司と澤近泰輔、九十年代のCHAGE&ASKAにおける主力アレンジャーが編曲の加わってるのも特徴かな。と言うか二人が所属していたチャゲアスのバックバンドであるBLACK EYESが中心になって曲作りしたって感じ。八十年代の主力だった瀬尾一三編曲もあるけど」


「曲だけでなく歌い方もまったりとしてるし、同じような曲が続く感じね」


「次の『SCENE Ⅱ』もそんな感じ。今度は作家としてではなく本人が決定的なヒット曲を生み出した一九九一年に出たんだ。これも前作と同じく提供曲のバラードをセルフカバーしたものが中心。光GENJI的には『荒野のメガロポリス』のカップリングである『PLEASE』が唯一入っているよ。まあ、飛鳥曲のバラードはこれぐらいだからねえ」


「他には高橋真梨子、中村雅俊、薬師丸ひろ子などへの提供曲があるのね」


「それと『はじまりはいつも雨』。と言うかこれがヒットしたからこそのアルバムだろうけど、やっぱり売れただけあってハッとするような鮮やかさがあるよね。まあ個人的には『けれど空は青~close friend~』『君が愛を語れ』あたりのほうが好きだけど。アルバムの中においては男らしい世界観」


「私も『けれど空は青』はいいと思うわ」


「そしてシングルだけでなくアルバムも見事にミリオンヒットとなったけど、楽曲的には前作から引き続いてまったりしたバラードが多くて、ちょっと中だるみしがち。これがこんなに売れたのも凄い話だよねえ。そこは『はじまりはいつも雨』という軸があるかどうかの違いなのかも知れないけど。編曲は十川と澤近に、光GENJIでも組んでいたし『モーニングムーン』や『指環が泣いた』でそれまでのフォーク的なイメージを一新する激しいデジタルサウンドを構築した佐藤準の三人が分けあってるんだ」


「でもこのアルバムではデジタルどころかしっとりした質感の編曲となってるわね。特に最後の『止まった時計』とか、さすがにゆったりしすぎでこれはちょっとやりすぎだけど」


「アルバムのカラーに合わせた結果だからね。そしてこれ以降の九十年代前半はブームという大きなうねりの中でグループ活動してたけど、次にソロアルバムを出したのが一九九五年の『NEVER END』。当時は『一人チャゲアス』みたいな事を言ってたらしくて、つまりチャゲアスとして発揮する機会を失われつつあった初期のフォーク的、叙情的なバラードをソロ名義で放出というのが今までの方針だったけど、今回はそういうの抜きでやりたいようにやるよという宣言だね」


「一曲目の『晴天を誉めるなら夕暮れを待て』からしてかなり派手だし、バラードでも『next door』『月が近づけば少しはましだろう』なんかはかなり力強い編曲がなされてて、SCENEシリーズのまったりした雰囲気とはまるで異なるわね」


「ソロならではの世界観と言うより当時のチャゲアスのサウンドに寄せてるのは間違いない。編曲はやはり十川や澤近が多いけど、他に武部聡志や松本晃彦、井上鑑なんかも加わっていて賑やかさもあるし、何より編曲だけでなく曲や歌声の持つパワーが段違いだからね。非常に充実した内容で捨て曲はなし。いやあ、いいもんだよ『NEVER END』」


「でも今だとどうやって手に入れるべきなのか」


「中古なら大抵どこにでもあるから大丈夫。さて、九十年代後半はチャゲアスとしての活動がなくなるからCHAGEも含めてお互いにソロ活動が盛んになるんだ。その中で出たのが一九九七年の『ONE』。イギリスに渡って、現地のミュージシャンと一緒に作ったというアルバムで、編曲者も横文字連発。アルバムの雰囲気はキーボードよりギター、しかもアコースティックな感じ」


「でも後半に入るとまた雰囲気が変わるわね。『ブラックマーケット』とか」


「『ID』も、当時はこれがシングルになったらしいけどかなり不穏な雰囲気で、しかもこれをアルバムのラストに添えてるけどそれまでの雰囲気を一変させるインパクトがあるよ。これと比べると『ブラックマーケット』だって音自体は爽やかなものだから。そして一番の名曲は『共謀者』。バディものって言うのかな、男同士の強い絆を感じさせる迫真のバラード。爽やかでまったりした曲と思いきや途中から一気に引き締まる『草原にソファを置いて』もいいなあ」


「個人的には『ONE』のガヤガヤした雰囲気が結構気に入ったわ。全体的にムラのない、アルバムとして統一した空気があってなかなかいいじゃない」


「そうだね。そして次は一九九八年の『kicks』。曰く『ロックとクラブの融合』で、アコースティックな爽やかさが前面に出ていた前作からまたガラッとカラーが変わってて、機械的で重いシンセや歪んだギターの音が印象的というまったく反対の方向を向いてるんだ。結果、それまでのASKAとはまったく異なる裏的な、毒々しさと言うか、危険な雰囲気を漂わせているよ」


「危険な雰囲気、ねえ……」


「そう、まるで今のようにね。あっ、違った。今は雰囲気と言うか危険を通り過ぎてるか。特に『No Way』とか『Kicks Street』なんかがそれだけど、この辺は昔からそこまででもなくて、フォークっぽい『同じ時代を』とか出だしの歌詞から力強い『花は咲いたか』あたりが好み。結構賛否両論なアルバムだったらしいね。聴いてみると本質的な部分は不変だって分かるものだけど、確かに松本晃彦の編曲はそれまでと方向性が違うからそうなるのも当然か」


「この中では『Girl』がいいわね。叙情的で」


「シングルになったほどだからね。それから一九九九年にはチャゲアスの活動再開して、しばらくはそれでやってたんだ。次に出したのは二〇〇五年で、それが『SCENE Ⅲ』。ただこの時期は曲を提供する事も少なくなってたからバラード中心という点は同じだけど、すべてオリジナルの楽曲となってるんだ。それと『古きよきアメリカ』ってのがコンセプトにあったようで、ジャズっぽい雰囲気も特徴だね。それまでも『DAYS OF DREAM』とか個々の楽曲としてはそういった流れもあったけど、これはそれが全体を覆ってるのが違うところ」


「それと歌詞がかなり大きいところを狙ってるみたいね。『birth』とかまさに生命が誕生する瞬間って感じで神秘的だし」


「悠久の時を感じるとでも言うのかな、『good time』とか『抱き合いし恋人』なんかの時空を飛び越えるようなスケール。この『自分たちが生きている時間も歴史の中ではほんの一瞬。だからこそ大事にしたい』みたいな世界は前作の『同じ時代を』あたりで歌詞として顕在化してずっと抱き続けていたものが遺憾なく発揮されているとは言えるね。でもねえ、さすがにまったりしすぎじゃないって部分も正直あるよ。それと歌詞は松井五郎との共作も多いけど、確かに何となく雰囲気違うかなってのはあるね。編曲は澤近中心で服部隆之とか、佐藤準もあるね。全体的には、もうちょっと大人になってからじゃないとこのアルバムの本質を掴むにはきついかなって感じ」


「確かにかなり大人向けな雰囲気はあるわね。個人的には『背中で聞こえるユーモレスク』が一番かなあって感じだけど、一曲ごとがどうこうじゃなくてもっとこう、アルバム全体の世界観を見るべきと言うのか」


「そうだね。そしてまたチャゲアスとして活動して休止して、二〇一二年に発売されたのが最新のオリジナルアルバムである『SCRAMBLE』。これはイメージ的には『NEVER END』かな。前作みたいなまったりとした編曲って事もなくて、力強い曲も多く含まれてるし、最初聴いた時は『おおっ、復活したなあ』って感じだったね。まあ今となってはアレだけど」


「ああ、割と最近だからそういう話もダイレクトに来るのね」


「まあその辺の話を無視すると、やっぱりいい曲多いなあ。一曲目の『UNI-VERSE』からしていきなり色鮮やかな曲だし『いろんな人が歌ってきたように』『僕の来た道』あたりのバラードは胸を打つ力強さがある。ロック調の『L&R』や『歌の中には不自由がない』あたりも黒い雰囲気がありつつもやっぱり楽曲自体が復調してるよね。陽気な『朝をありがとう』、まったりとした『どんなことがあっても』、昭和の歌謡曲を意識したとされる『SCRAMBLE』もいいし、うん、これは本当にいいアルバムよ。今となってはアレだけど」


「う、ううん。とにかく、今までいい曲をいっぱい作ってきたって事よね」


「そうだねえ。でも最低でもしばらくは、最高では永遠にお別れとなるんだよねえ。悲しいけれど。まあ、もう起こった事は起こったんだし、とりあえず田代まさしや清水健太郎みたいな逮捕芸人にならなければもうそれでいいよ。覚醒剤を自分だけの力で止めるのはとても難しいらしくて、実際赤坂メンバーは二度目の逮捕を食らって執行猶予なしの収監と相成ったわけだし。それで今はもう娑婆に復帰してるらしいけど、二度と芸能界に戻る事はないだろうね」


「前途は決して明るくないわね」


「法律違反だもの。まあそもそも前途って話なら例の報道が出た時点でかなり暗くなっていたわけだし、悪い事をして悪いところに金をつぎ込んでいたとしたら、それを断ち切るにはいい機会だよ。覚醒剤使って逮捕された有名人もみんながみんな二度三度と逮捕されてるわけじゃないんだから。大事なのは本人の意志に加えて周囲の環境って事らしいけど、そこをしっかりして薬の力に頼らずバシっといい曲を作りさえすれば、こうなった以上はそれが一番」


「うまくいくといいわね」


「まったくね」


 渡海雄はずっと微笑んでいた。しかしそれは本心を押し隠す仮面に他ならない、哀れな笑顔であった。事実、振り向きざまに見せたその背中はいつもより小さく見えて、悠宇は思わず涙を流しそうになった。もっと大人のように慰められたらいいのにと思った。二度と味わいたくない一日であった。


 で、それから二年半後の件について。個人的に問題なのはやったかやらなかったか以上に完全に芸人化してるって事だ。しかしこれでほとほと愛想が尽きた……、なんて事になるはずもなく、今は心身の安寧を祈っている。必要なのは反省以上に治療だろう。


 収監でもされたらしばらくは次に逮捕される事もなくなるし、それはそれで良いのかも知れない。正直それでも信じたい気持ちはある。でも仮に白だったとして、じゃあナチュラルでああいう言動なのかと考えるとそれはそれで唸ってしまう。


 とか言ってたら結局不起訴らしい。あのさあ。でもとりあえずは良かった。今度はしっかり治療してください。盗聴盗撮してるのは変な組織じゃなくてマスコミか内偵中の警察か何かでしょう。井上某辺りは一発ぐらい殴りに行っても世間は許してくれると思うよ。

今回のまとめ

・覚醒剤は嘘つきを生み出す薬だ

・事前の報道や赤坂ら先達のお陰で多少耐性ついてたがそれでもショックはあった

・こうなった以上は更生していただく事を願うほかない

・それでも良かった曲が悪くなるわけじゃないんだし普通に聴いていければ

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