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pr72 MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島について

 新年のお祝いムードはもう終わって、今や日常が戻った中で一月の日々を過ごしている。しっかりとしたコートに身を包み、渡海雄と悠宇は冬枯れの街路樹が立ち並ぶ通学路を並んで歩いていた。


「新年の清々しい気持ちはなるべく長く保っていたいものよね。それで今回は以前もちょっと触れたように、新球場完成までの流れをまとめてみようと思うわ」


「そういえば去年そんな事も言ってたっけね」


「まずはカープの本拠地の歴史だけど、発足当初は観音の広島総合グラウンドにある広島総合球場がメインだった。しかしナイター設備が存在しないなど設備としては当時としても他の球場から見劣りしており、プロの興行として使い続けるには厳しいものがあった。駅からも繁華街からも遠い立地もまずいし。当時のカープは経営が苦しくてやばいエピソードも数知れないんだけど、そこを安定させるためにも観客増は必須だった」


「それで紆余曲折の末に完成したんだよね」


「まだ戦後処理も完全に終わったとは言えない中で、よく作ったものよね。当時からこんなもの作ってる場合かと反対する人がいたりここの土地は譲れないって勢力があったり、そういうのをうまく取りまとめるにはどうしても時間がかかるもの。それにしびれを切らしたカープ後援会の一部会員が市長を吊し上げるなど色々あったけど、その間に着実に交渉を重ねた結果、繁華街にも近い基町の凄くいいところに建設される事になった。そして五十七年の二月に完成、そこからの歴史は今まで散々語ってきた通りよ」


「でも最後の方はかなり老朽化してたんだよね」


「まあ半世紀も使ってたら当然そうなるわね。初優勝を果たし赤ヘルブームを巻き起こしたすぐ後の七十七年には外野スタンドを増設して、そこからも内野席を二層化したり照明灯を鉄塔からポール式にしたり、スコアボードを電光式にしたり、そういった設備の拡充・近代化は出来る限り努力していたので、とりあえず九十年代前半あたりまではそこまで絶望的ではなかった。プロ野球の殿堂たる後楽園すら両翼が九十メートルもない狭い球場だったし、老朽化という点でももっと酷いところは存在していた。川崎とか」


「川崎は本当に凄かったらしいものね」


「それが巨人と日本ハムが後楽園から東京ドーム、南海からの身売りとともに大阪球場を後にしたダイエーが平和台球場から福岡ドーム、阪急が身売りしたオリックスが西宮球場からグリーンスタジアム神戸。ロッテが川崎球場から千葉マリンスタジアム、近鉄が藤井寺球場から大阪ドーム、中日がナゴヤ球場からナゴヤドーム、ついでに西武が西武球場に屋根を付けて西武ドーム。十年ほどでこれらの移転が一気に進んだ。その中で開場当初から狭さが指摘されていた市民球場は、その立地ゆえに拡張にも改修にも限界があった」


「当時の写真を見ると周辺の建物もギリギリまで迫ってて、まさに限界って感じだ」


「設備としても一階席しかなかった内野スタンドに後から二階を追加したからそこへ行くためのルートがゴチャついてたり、小手先の改修ではどうにもならない状態だった。そういうわけでカープとしては八十年代の段階で職員に国内外のスタジアムを視察させるなど、未来に向けての研究を続けてきたというわ。一方で自治体の事情だけど、広島駅の東側に広大な遊休地を抱えていた。以前は国鉄の広島操車場として使われていた事から一般的に貨物ヤード跡地と呼ばれるこの場所に、当時各地で建設ラッシュだったドーム球場を作ろうというアイデアが生まれた。しかし九十年代後半に財政難が襲いかかり、金銭的余裕がないって事で停滞を余儀なくされた。サッカーワールドカップの会場候補だったビッグアーチの改修を拒否した結果選から漏れたのもまさにこの時期よ」


「そうこうしているうちによその自治体は次々と新球場が完成して完全に取り残されたわけか」


「それらの自治体みたいにバブルの勢いでGOサインを出してたら完成はしていたでしょうけどね。どんな金食い虫になっていたかは知らないけど。特に大阪ドームはオリックスが経営に参画するまではとんでもない事になってたからね。ともあれ実際は何も動きがないまま二十世紀が終わる頃、もはや老朽化はとめどない状態となった。アストロビジョンのドット落ちなど表面的な部分だけでなく、冷房施設がないからヤクルトの選手会が大型扇風機を購入して無償で提供といったあまりにも貧相な話も伝えられている程に」


「他球団に迷惑をかける状況はまずいね」


「そういうわけで二千年代に入ってから再び新球場建設のための議論が重ねられる事となり、その中でドーム球場ではなく天然芝によるオープン型球場のほうが良いという流れになった。というのも、ドーム球場は建設費や維持費が高いため広島レベルの自治体で支えきれるかという疑問や、今ほど技術が進んでいなかった人工芝が選手にもたらす負担の大きさといった懸念が出されたからという。またアメリカにおいてドーム球場はすでに時代遅れの施設と見られていたのも大きい」


「あら、そうなの?」


「実際ヒューストンに作られた世界初のドーム球場であるアストロドームは一九九九年を限りに本拠地から外れ、シアトルにあったキングドームは二〇〇〇年に爆破解体、東京ドームのモデルとなったミネアポリスのメトロドームも今は取り壊されている。これらの球場は野球場ではなく野球も出来る多目的施設と呼ぶべきもので、野球観戦という点においては最適ではなかった。根本は六十年代に流行ったアメフトとの兼用施設なんだけど、野球の場合本質的には内野のサイズが定まってさえいれば外野や観客席の形は自由で良いけど、アメフトはフィールド全体のサイズが厳密に決まっているからそれと兼用するからには野球場としても当然左右対称でかっちりした一定の形となる。外見も含めてね。七十八年開場の横浜スタジアムは当時の最新鋭スタイルを採り入れただけあって当初はスタンドが移動してアメフトの試合にも対応するのが売りだったわ。今は改修の結果可動スタンドは固定されてるそうだけど」


「あらまあ。しかし七十年代はアニメとか特撮のモチーフにもアメフトがよく使われてたけど、結局アメリカっぽさをイメージするファッション止まりで本質的に流行る事はなかった感じはあるよね」


「あそこまでアメリカ人によるアメリカ人のための娯楽もないし。また兼用球場のまずいところは他にもあり、例えばアメフトで観客が注視するのはフィールドの中央付近だけど野球はマウンドとバッターボックスの間が一番重要でしょう。アメフトを見るには最適な形状だと野球観戦には不向きって事になる。後は大体円形の決まり切った形になるからファールグラウンドが広くて観客と選手の距離が遠くなるとか。それで九十年代に入るとそれらの兼用スタジアムはクッキーカッター、紋切り型のつまらない球場と見られて、その代わりにボールパークと呼ばれる新古典派のスタイルが好まれるようになった。その特徴は野球専用・天然芝のフィールド・左右非対称で球場ごとに個性の異なる形状・観客と選手との一体感を重視した広すぎないサイズ・広いコンコースといったあたり」


「言われてみると今の球場に繋がるコンセプトそのものだ」


「そして〇二年、コンペを開催してアメリカのサイモン・プロパティ・グループを中心とするチーム・エンティアムによる、天然芝によるオープン球場を中心に商業施設やアミューズメント施設も整備する複合型施設を作るという計画が選ばれた。今見ると五洋建設等が提案した複合型開閉式ドームとかちょっと面白そうだなって思うけど、現実性はどの程度だったのか。下手に夢に走って新国立競技場のザハ案みたいになるのも悲しいしね。翌年には古葉竹識が広島市長選挙に出馬して、新球場に関してはドーム化が公約だったけど結局落選して、やはりオープン球場で決まりと思いきやチームの中核たるサイモン・プロパティ・グループが撤退した事でエンティアム案も消滅してしまった」


「なんとまあ」


「心底残念な話よ。更にここから球界再編問題も絡んで混乱が続いた。その中で市民球場現地建て替えを主張した人達もいた。確かに半世紀の思い入れは深いし繁華街に近い立地も魅力的。ただこれはサッカーの新スタジアム問題でも繰り返されたけど、五十年代の時点でも狭いと評されたあの土地に今魅力的なスタジアムを建てるのは物理的に無理よ。多くの人はその辺の事情を鑑みて内心はともかく納得はしたけど、一部ライターは『試合終了後新球場から駅まで徒歩で二時間かかる』とか妄想ベースに延々と新球場のネガティブキャンペーンに走り顰蹙を買った。彼らは今もいわば反体制派として活動を続けている」


「……まあ色々な考えがあってもいいんじゃないかなとは思うよ」


「実際今の体制の永続こそが一番だとは私だって思ってないしね。ただ現地建て替えは無理筋だったってだけで。それと樽募金と称して新球場建設資金を集めたのもこの時期だった。何も決まってない中でもトータルで一億円以上集まったのは、球団消滅は対岸の火事ではないというファンの危機感ゆえ。そして〇五年に当時の秋葉忠利市長が『貨物ヤード跡地にオープン型球場』という方針を定めて、〇九年に新球場でのオールスターゲーム開催も決定。それに伴い再びコンペが開催されるも、直前に防衛庁施設談合事件という不祥事が発覚、その懲罰として多数のゼネコンに指名停止措置がなされた結果新球場コンペにほとんど参加出来ず、唯一残った案も変なアーチを作るとか今一つな出来で、結局不採用となった」


「すんなり進まないねえ。見切り発車でオールスターまで決めちゃったけど大丈夫?」


「コンペに関しては懲罰が終わってから改めて開催されて、それで決まった案を後は頑張って作るのみよ。金銭的な部分もまずは広島県広島市地元経済界がそれぞれ負担して、国からの補助金、そして樽募金などで賄える事となった。県と市が『新広島市民球場債』という公募地方債を発行した時も想定以上の応募が集まり、企業からの寄付も目標を大きく上回る額が集まるなど、散々待たされただけに誰もがその完成を熱望していたわ。そして〇七年十一月に始まった工事は順調に進み、〇八年には命名権を取得したマツダによってMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島の名称が決定、そして〇九年三月二十八日に完成式が執り行われた」


「どうにか当初の予定には間に合ったか。本当に良かったね」


「とはいえ球場が出来たらそこがゴールではない。自治体としてもただ箱を作りましたってだけじゃなくて駅前再開発とも連動した計画の一つだったからね。実際新球場が出来て数年後、戦後の闇市上がりという愛友市場が解体されて高層ビルが立ったのはまさにこの計画に基づくもの。そして先日、エディオンピースウイング広島の北側にある基町アパートのうち老朽化した中層棟が廃止されると発表された。やっぱりねと思ったわ」


「まさにスタジアムは街作りか」


「計画が停滞している時期はやっぱりイライラするけどね、終わってみてそれで良かった、それが良かったと思える施設になるなら結局はそれで正解かなとも思うわ。一方でカープだけど、新球場という器を手にしてどう動くかが問われる事となった。前年は黒田と新井が抜けてどうするんだって感じだったけど案外健闘して面目を保った。あえて先月は言わずにおいたけど赤松獲得も今までより広くなる新球場に適した選手を狙った結果だしね。広いナゴヤドームでそれまでの売りだったパワフルな打撃が機能せず最下位転落した九十七年の中日の二の舞にならぬよう打たれた布石。これもまた後発ゆえの対策よね」


「歩みの遅さゆえに見えるものもあるか」


 このような事を語っていると敵の出現を知らせる合図が瞬いたので、二人は人目につかない場所へと移動して変身し、敵が出現したポイントへと急いだ。


挿絵(By みてみん)


「フハハハハハハ、俺はグラゲ軍攻撃部隊のツノナシオキアミ男だ。この惑星の蛮族どもを一掃してやるぜ」


 北太平洋においては最も一般的なオキアミの一種で、食用にもされているがそれ以上に鮭やニシンなど数多くの魚類の主要な餌としての役割を果たすため釣りにも多く用いられる小型甲殻類の姿を模した侵略者が浜辺に出現した。しかし勝手に一掃されたくない種族の代表も間もなくそこへ到着した。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「新年早々あんまり迷惑かけないでほしいものよね」


「愚か者が、死ね。行け雑兵ども!」


 指揮官の問答無用な指令にただ従うだけの殺戮マシーンの群れを、二人は情熱込めて次々と撃破していった。


「よしこれで雑兵は尽きた。後はお前だけだツノナシオキアミ男」


「弱肉強食なんて真理を打ち破るだけの理性はあると信じたいものよ」


「蛮族がほざくな。お前達には死しか残されていない!」


 そう言い放つと、ツノナシオキアミ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかないようだ。二人は覚悟を決めると合体して、大いなる力を手にした。


「ヴィクター!!」

「エメラルディア!!」


 年が明けてから今日が一番天気が悪いのではないかという曇り空の遥か上空で、この星の運命が決まろうとしている。二体の巨人の戦いによって。


 そして悠宇は持ち前の反射神経を駆使して敵の攻撃を回避しつつ間合いを詰めていき、カウンターを決めて敵の動きを一瞬だけ止めた。


「よし今よとみお君!」


「分かったよゆうちゃん。ここはサターンミサイルで勝負だ!」


 僅かに生まれた隙を逃さず、渡海雄は橙色のボタンを叩いた。脚部から放たれた木星のような形をした爆弾が不規則な突撃を見せて、炸裂した。


「おのれぇい、ここまでか!!」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってツノナシオキアミ男は宇宙の彼方へと帰っていった。新年に入ってからも松本泰志復帰とか驚いたニュースは色々あったが、それは然るべきタイミングで語ろうと思う。

今回のまとめ

・歩みが遅くてイライラしたけど方向性を間違えなかったからいいか

・結果的に当時としては極めてベストなスタジアムになった

・筆者ももちろん参加した樽募金が未来に繋がって本当に良かった

・でも開閉式の屋根とか今からでも作れるものなら作ってほしい

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