pr71 ルイスがとにかく凄かった2008年について
メリークリスマス! 雨だけど。
終業式も少し前に終えてフリーの身分を得た渡海雄と悠宇は有意義な歳末を過ごすべく今日もまた研究所に集まってトレーニングをこなしていた。
「そして今回は昔話。いよいよ二〇〇八年まで来たわ」
「前年はただでさえ弱かった上にエースと四番まで抜けて絶望的だよね。どうするの?」
「どうもこうもないわ。いなくなったなら誰がで埋めるしかない。とはいえ相変わらずFAで動く事はありえない球団なので、外国人で賄う事となった。まずピッチャーは三人。前年みたいにナックルボーラーなんて色物でお茶を濁すような手抜きは許されない中で、駐米スカウトの真価が問われるチョイスとなった」
「というかそれが許されたのがまず問題では」
「そこの文句は今は言うまいと努力して、まずはコルビー・ルイス。メジャーで二桁勝利を上げた事もある実力者で、黒田離脱後のエースと期待、というより彼が駄目なら即終了ぐらいの存在だった。そして左腕のベン・コズロースキーと長身右腕のマイク・シュルツも獲得。更にシーズン途中にはシーズン八十九試合登板をこなした事もあるリリーフのジム・ブラウワーも加えた。野手は新井の代役たるスコット・シーボル一本で勝負」
「背番号も新井のものをそのまま受け継いでるのか。黒田の番号は欠番のままなのに」
「黒田は敵にはならなかったし、フロントともずっと連絡を取り合っており関係は良好だった。本当に戻って来るとは誰も思ってなかったけどね。新井は同じリーグに移籍して直接的に勝敗を争う相手となったわけだから完全決別と見られても仕方なかった。本当に戻って来るとは誰も思ってなかったけどね。それと新井FAに伴う人的補償として赤松真人を獲得した。二軍ではタイトル常連も不動のセンター赤星がいる中で出番に恵まれなかった外野手。ファン目線だととにかくピッチャー特に左腕獲れって声が大きかっただけに疑問視する声もあったけど球団の視野はもっと広かったし、実際その守備走塁は間違いなく戦力となった」
「下手に左にこだわるよりはトータルでは成功か」
「またトレードも敢行。実績十分な三十代の小山田を放出して横浜から速球派の岸本秀樹とユーティリティの木村昇吾という二十代の選手二人を加えた。またシーズン途中には佐竹で楽天の牧野塁を獲得。三十四歳だけど力のあるボールを投げるタイプで、基本リリーフだけど先発でも使われた。結果的には大した仕事出来なかったけど」
「今もこれぐらいトレードに動いたらいいのに」
「そしてドラフトだけど、忌まわしい一連の制度が完全消滅した事で今までだととっくに囲われていた人材にも手を出せるようになった。それで高校生ドラフトはまず唐川侑己に入札するもロッテのくじ運には敵わず、ただ外れ一位で安部友裕、三巡目では丸佳浩を指名した。また大社ドラフトでも最初は大場加藤長谷部というこの年のビッグスリーと呼ばれた大学生投手の中から長谷部を指名したけど五球団はさすがに厳しい。でも外れでは彼らに続く人材と目された日大の左腕篠田純平を、巨人オリックスとの競合を制して獲得に成功した。続いて青山学院大の小窪哲也と九州国際大の松山竜平も指名。どう? 知ってる名前多いでしょ」
「はっきり言うと大成功ドラフトだね」
「結果的にこの年の大卒ビッグスリーは全滅で終わったほど逸材が少なく難しいドラフトになると見られていた。その中でこの立ち回りだからなおさら見事な目利きよ。ドラフト正常化した途端これだから今まではどれほどの……。ともあれこれらの戦力を加えたカープ、まず打線を見ると栗原が四番定着しかなりの高打率をマーク。アレックス東出も三割で東出はベストナインに輝いた。非力なままでよくやったものよ。キャッチャーは引き続き打撃好調の石原が規定到達で倉とのレギュラー争いを制した。また赤松と天谷宗一郎、ともにスピードに定評ある外野手が一気に台頭。落ちる一方だった嶋も恩師たる内田コーチ復帰が好影響を与えたようで規定未満ながら三割復帰と立ち直った。一方前田はスタメン陥落し、コーチ兼任になった緒方も苦しい」
「でも見方を変えると着実に世代交代は果たされつつあるのか」
「そしてシーボルだけど、今ひとつ迫力不足で六番が定位置だったけど終盤戦で数字上の帳尻をある程度合わせた。ショートは梵が酷い成績でレギュラー陥落し、その穴をルーキー小窪が埋めた。走攻守特別に抜けた部分はないためドラフト時の評判は良くなかったけど実戦では案外使えたってタイプ。木村も早速持ち味を発揮して代走守備要員として百試合近くに出場した。トータルで言うとチーム打率はリーグトップだけど長打力が足りず、機動力もなかったため得点力は低かった。次に投手陣だけど、何を置いてもルイスよ。とにかく凄い。レベルが違う。剛球をコーナーにビシバシ投げ込みあっさり三球三振を奪う姿の勇ましさたるや。十五勝に防御率もリーグ二位、最多奪三振とまさにエース、大黒柱の働きを見せた」
「コケたら即死だったけどそれは免れたか」
「やれば出来る! だからもっとやって。また大竹は防御率三点台、不惑間近の高橋建も頑張った。後半戦からは若手も大いに伸びて、二年目の前田健太は勢いよく九勝、篠田や齊藤もローテに入ってきた。制球力重視とか言って球威をなくしてノーコンも解消されなかった宮崎はこの年を最後に一軍から姿を消した。リリーフは復調した抑え永川を軸に梅津とシュルツが支えた。横山もさすがの内容。コズロースキーは当初リリーフ想定だったけどもう一歩な数字だったので先発転向して、青木高広も微妙な立ち位置。岸本や上野はそれなりに出番を得たけど粗い。林は骨折で離脱し、ブラウワーはそれなりに頑張ってくれたけどアメリカで消耗しすぎてたかな。軸はあるけどそれ以外の層が薄い感じ。そして成績だけど、ルイス獅子奮迅の活躍で交流戦を勝ち越すなど比較的安定した戦いを披露し、終盤はAクラス争いに堂々参戦し九月半ばに単独三位に立った瞬間もあったけど最後の伸びが足りず一つ負け越し、四位に終わった」
「でも前年末の絶望感を思うと大健闘だよね」
「それはそう。だからこそどうにかしてもう少し、もう一歩といきかったけどね。優勝は巨人。序盤かなりもたついて終盤爆伸びで大逆転と無駄に劇的に決めた。打点王とMVPのラミレスを筆頭にグライシンガー最多勝クルーン最多セーブと補強も効果的だったけど、怪我とつまらない不祥事で急に使い物にならなくなった愚かな二岡に代わって二年目の坂本勇人がショートを守り抜き、リリーフでは育成出身の山口鉄也が新人王獲得など若手の台頭も見逃せない。ここに逆転されたのが『Vやねん! タイガース』でお馴染み阪神。ちょうどこの年開催されたオリンピックに選出された新井が腰を痛めたり色々あったけど、四月からずっと首位を走り一時は十ゲーム差以上つけながらこの結果は残酷よね。三位は中日。ここも終始勢いがなくあわやBクラスだったけど最後は地力を見せた。ただ西武からFAで加入の和田一浩や吉見一起チェン・ウェインといった若手投手の台頭など新たな流れも生まれていた。でもチーム最多勝は四十三歳の山本昌」
「四位がカープで五位はヤクルトか」
「ここもエースと四番が消えた割には健闘したほうよ。高田繁監督の下、西武から移籍の福地が盗塁王に輝くなど大砲不在ながらも機動力主体で得点力を確保し、投手陣も石川館山の二本柱と韓国人クローザー林昌勇は頑張ったし若手も出てきつつある。九月に連敗するまではAクラス争いやれてたし許容範囲内の五位って感じ。そして許容範囲外の最下位に終わったのが横浜。四月からひたすら落ちる一方。交流戦であわやルイス一人の勝利数に及ばないのではって事でベイスなる蔑称も誕生した。最終的には横浜六勝ルイス五勝でどうにか面目を保って……、はないか。普通に酷い成績だわ。内川が首位打者、村田が二年連続ホームラン王など個々の頑張りはあれど、特に投手陣は壊滅的だった。数少ない三点台だった小山田は健闘したほう」
「確かにクルーンを抜かれたけど状況はカープやヤクルトよりましかと思ってたのに」
「元々腐敗の兆候は見られたけどいよいよとめどなくなり、ここから横浜は暗黒中の暗黒を彷徨う事となる。続いてパリーグだけど、優勝は西武。中村剛也がホームラン王、片岡易之が盗塁王と若手が飛躍。G.G.佐藤も三割打ったり確かに西武では良好な成績だったのよね。だからこそオリンピックの代表に選出されたわけだし。投手陣は涌井岸に左腕の帆足とヤクルトからFAで加入の石井一久もローテを支えた。二位はオリックス。コリンズ監督はシーズン途中で退団するも代行の大石大二郎がよくまとめた。ローズカブレラというベテラン外国人が軸となった打線とは対照的に投手陣は新人王の小松聖や金子千尋など若手が奮闘」
「いずれも前年下位の球団が出てきていい事だね」
「三位はヒルマン帰国に伴い近鉄最後の指揮官だった梨田昌孝が監督就任した日本ハム。エースダルビッシュを除くとやや迫力不足の中でもしっかり貯金確保しただけで御の字か。色々と大注目だったルーキー多田野数人も七勝と頑張った。六月に最下位突入も終盤に快進撃を見せるなど不安定な戦いぶりだったロッテは四位。野手は西岡今江に加えて大松尚逸が和製大砲として飛躍。リリーフでは川崎雄介荻野忠寛といった新星が活躍した。五位は楽天。岩隈が防御率一点台二十一勝と凄まじいエースぶりでMVP獲得。リリーフは抑え不在の中で必死にやりくりし、佐竹もぼちぼち頑張った。ところでカープを戦力外になり楽天に拾われた木村一喜が登録名変更した木村考壱朗って何だったんだろう」
「そして最下位は……、あれ、ソフトバンク?」
「八月終了時点では二位にいたんだけどね、そこから信じられない落ち方をして、もはや最下位確実かと思えた楽天をも最終戦、延長十二回のチャンスで四番松中が相手投手佐竹の投じたど真ん中の平凡なストレートを打ち損じて併殺打からのサヨナラ負けという劇的な敗北で抜き去った。オリンピックもあって離脱者続出とか外国人が全体的に外れとか色々あるけど、だからってここまで行くかという異常な結果を以て王監督はユニフォームを脱いだ。それでも松田宣浩がサード定着したり、ただ負けただけじゃないんだけどね」
「しかし全体的に見るとオリンピックが結構各球団の運命を歪めてる感じがするね」
「シーズン中に主力が抜けて、万一怪我しても何の補償もないからね。しかも当時の日本代表監督は星野仙一。割と世間からの好感度が高い人だったけど暴力的なイメージや、実際はそれすらも熱血漢を装う自己演出の賜物に過ぎないという計算高さゆえに嫌いな人も多い指揮官だった。その上で結果はメダルを逃す惨敗。元々嫌いな人からするとようやく尻尾を出したってところよね。それでもう、監督が筆頭だったけど実際に不甲斐ない姿を晒した選手達もまた鬼のように叩かれまくった。エラー連発したG.G.佐藤とかね。それでメンタルがやられかけた選手も多かったとか」
「あらまあ。ナショナリズムも絡むし、もはやこうなると叩きは制御不能の領域まで突入するのは必定か」
「なお星野が勝手知ったる阪神や中日から多く選ばれた一方でカープはというと、コーチ陣には山本浩二や大野など有力OBが加わってた割に選手の選出はゼロ。良くも悪くも荒波に揉まれる事なくプレー出来た。Aクラス争いにはそういうカラクリもあったわけだけど、やはりもっと地力を高めなきゃね。なおこの年は旧広島市民球場本拠地でやる最後の年でもあった」
「えっそれ結構重要なトピックスじゃない?」
「だからこそ新球場建設については別の機会にいっぱい語ろうかと考えてるの」
そんな事を語っていると、敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので、二人はすかさず変身して敵が出現したポイントへと急いだ。
「フハハハハハハ、私はグラゲ軍攻撃部隊のウラギンシジミ女だ。この星に死という幸いをもたらしてやろう」
翅の裏面が銀色に見立てられる白色をしている蝶の姿を模した侵略者が、雨の降る路上に出現した。しかし勝手に暴れさせてなるものかという地球の意思はすかさず二つの影をその場へと送り込んだ。
「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」
「よくもまあこんな日に来てくれたものね」
「むっ貴様らが噂に名高い反逆者どもか。死んでもらうぞ。行け、雑兵ども!」
降りしきる雨のように次々と出現した血の通わぬ雑兵の群れを、二人は情熱を込めた肉体を躍動させて撃破していった。そして指揮官を除いて全滅させた。
「よしこれで雑兵は尽きた。後はお前だけだウラギンシジミ女」
「退きなさい。せっかくのサイレントナイトをサイレンが鳴り響く夜にはしたくないから」
「黙れ下郎の群れが!」
もはや問答無用。そう言わんばかりにウラギンシジミ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかないようだ。二人はそんな覚悟とともに合体して、大いなる力を得た。
「ヴィクター!!」
「エメラルディア!!」
どんよりとしたブルークリスマスを遥かに見下ろす上空にて、この星の未来を決める戦いの火蓋は切られた。そして悠宇は持ち前の反射神経を駆使して相手の攻撃を回避しつつ間合いを詰めると、カウンターを決めた。
「よし今よとみお君!」
「分かったよゆうちゃん。ここはレインボービームで勝負をつける!」
一瞬だけ生じた隙を逃さず、渡海雄は白色のボタンを叩いた。胸部から放たれる波長の異なる七色の光線が敵を貫く。
「おのれえ! 今に後悔するがよいわ!」
そんな負け惜しみだけを残して、機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってウラギンシジミ女は本来いるべき場所へと戻っていった。
そしてタイミング的に今回が今年最後の更新となる。今年もどうにか生き延びられた事をまずは喜ばしく思おう。来年はもっとタフに精力的に更新、といきたいが現実的にはそろそろネタが尽きようかとしている。実際今回の話なんかも来年中には終わるわけだし。何かこう、決定的に長くやれるお話とかあれば良いのだが。とにかく来年も頑張りましょう。
今回のまとめ
・前年の絶望感からするとよくここまで巻き返したものだ
・何とか三位に入ってほしかったがパワー不足は否めず
・ドラフトも正常化したしここから巻き返しの時間だ
・ルイスは体感では歴代ナンバーワン投手だと思っている




