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hg39 シブがき隊について

 冬の声を聞いた途端に最高気温一桁の日が訪れる律儀さはさすがなものだが、もう少しルーズでも良かったはずだ。そんな歳末の賑わいの中で、渡海雄と悠宇の二人は今日もまた指と指を結んで体と心を温めあっていた。一年の終わりである十二月の訪れとはすなわち新たな一年の到来間近と同義なのだから、どこか心が浮つくのも自明であろう。


「それにしても一気に冬だね。今年のラストスパートだから気合を入れて頑張っていこう」


「そうね。やり残した事があるなら明日でいいやなんて思わず、一日でも早く終わらせておくべきよね、本来は。それで何かあるの?」


「うん。今回はシブがき隊について語ろうかと思う。ちょうど今寒いからね、こういう暑苦しい音楽を聴くのもいいんじゃないかなみたいな考えが少しもないとは言わないけど、とにかく色々と凄い連中だからね」


「えっそれ真面目に語れるの?」


「語れるよ。忍者だってちゃんと語れたみたいにね。というわけでメンバーは、パリッとした美男子で今でも俳優として大いに活躍している本木雅弘通称モックン、元ヤンキーを公言するなど不良っぽい雰囲気を醸し出していたけど解散後は朝の生活情報番組の司会を如才なく務めてうまい上がり方を見せた薬丸裕英通称ヤックン、そして布川敏和通称フックンの三人」


「最後の人はもう少し何かないの?」


「うーん、だって今の活動といえば当時の暴露話がメインなところあるから。ああ、でもフットワークの軽さやコミュニケーション能力の高さは特筆ものかと思う。それとオフィシャルブログのアドレスの攻めっぷりも。ともあれこの三人組、生まれは今からおよそ六十年前となる一九六五年から一九六六年にかけてで、学年は全員同じ。グループ結成のきっかけは2年B組仙八先生という学園ドラマの生徒役としてこの三人が出演していて、その流れでグループを作りましたという形だったそうで、その流れは3年B組金八先生において田原近藤野村、後のたのきんトリオが人気を得た手法を再利用したと言える」


「そんな安易なやり口でも案外通用するものなのね。ドラマのタイトルも含めて」


「後年においては武田鉄矢演じる金八先生だけが集中的に擦られる事になったけど一連の桜中学シリーズにはこれらの作品も含まれてて、当時は高い人気を得ていたという。他に新八先生や貫八先生もいるよ。そしてジャニーズだけど、七十年代後半は郷ひろみに逃げられフォーリーブスは旬が過ぎ、未都由だの赤木さとしだの得体の知れない連中をデビューさせては滑る低迷期だった。そんな時に新たな学園ドラマが始まると聞きつけて、すでに生徒役は決まっていたにも関わらず頼み込んで男子生徒役に加えてもらった。当時すでに高校卒業していた田原など年齢鯖読みしてまでねじ込んだけど、結果としてドラマも彼らも大成功。特にジャニーズ事務所にとってはその後の隆盛の礎となっただけに重視するのは必然だった」


「そういう意味だとかなり期待されていた三人なのか」


「まあ実はドラマにはもう一人出演してて当初は四人組だったけどいつの間にか消えたって流れもあるんだけどね。ともあれこの三人組の名称を雑誌で募集したところ、渋い悪ガキって事でシブがき隊と決まった。実際は元々はシブがきトリオだったけど和風かつ古風な隊に変えたセンスは不良が跋扈していた当時の風潮の反映でもあるのかな。薬丸はドラマで不良役をやっていたらしいし、そのイメージを受け継いでやんちゃなイメージが強いグループでもあった。そしてドラマの翌年である一九八二年にレコードデビュー」


「それがこの『NAI・NAI 16』。作詞森雪之丞、作曲編曲井上大輔」


「森も井上も長らくシブがき隊のメインライターとして活躍するけど、この一発目から基本的なイメージはかなり固まっている。妄想じみた硬派っぽいキャラクター、大袈裟すぎて珍妙な感情の吐露、ロックテイストの骨太なサウンド、そして三人の怪しい歌唱力」


「確かに歌声は物凄くザラザラしてるわね」


「本木はともかく薬丸の巻き舌、布川の情けない高音は極めて癖が強く、トータルでもガタガタになるのは必定。歌唱だけでなく踊りに関してもバク転出来ないとか大技を決めそうで決めないとか今に至るまで散々ネタにされてるし特に布川なんかは本人が率先して自虐ネタにしたりもしてるけど、一般的には実力がない連中だと見られている。確かに加算するタイプの実力は劣っていると思う。ただ綺麗なだけじゃなくて間抜けでみっともない部分も含めた青春そのものといった歌声はむしろ長所だと思うし、それを活かした楽曲に関してももう少し注目されてもいいと思うけど、そうならない理由も分かるだけに難しいところ。具体的には、このシングルのタイトル一覧を見ればまさに一目瞭然」


「おお、これはまた……。変なタイトルがずらりと並んでいるわね」


「先に言っておくけど洋楽カヴァーの『DJ in My Life』や林哲司による『KILL』など癖の少ない楽曲もあるにはある。B面からいい曲って事でメインに昇格した『Gジャンブルース』もそうかな。でも総じて言えばほとんどコミックソングかという楽曲が連発している印象のほうが強く、それが真面目な再評価を妨げている部分はあるかと思う。外面のインパクトに惑わされず敢然と探索していくとそう単純なものではないと気付かされるんだけどね」


「本当に? 『サムライ・ニッポン』『アッパレ! フジヤマ』なんてどうやってもまともな曲になりようがなくない?」


「でも『サムライ・ニッポン』では当時イギリス中心に流行を見せたジャングルビートを採り入れてたり、サウンド的なアプローチは意外と多彩なんだ。ゆえにコンセプトが一貫しすぎて途中でお腹いっぱいになりがちな忍者と違って、意外と飽きずに聴けるのはありがたい。井上が当時自分のラジオ番組で同じ演奏のまま湯川れい子が手掛けた英詞を載せて歌う事で正当な格好良さを誇示した『100%…SOかもね!』、勢いだけで爆走する『処女的衝撃!』、ヘビメタにまで足を踏み入れた『Zokkon命』というロックサウンドが彼らの王道だけど、ラテンを軸に多彩な展開を見せる『月光淑女!』も割と好き。『Hey! Bep-pin』や唯一のオリコン一位がこれかという『喝!』の珍妙なはずなのになぜかぐっと来る熱さも良い。『挑発∞』の臭い台詞、言葉遊びが絶好調過ぎた『男意ッ気』など勇み足じみた曲もあるけど。『アッパレ! フジヤマ』は、何というか全部乗せって感じで凄まじい」


「しかしまあヴァージンショックだのムーンヴィーナスだの、そんなタイトルよく考えついたわね」


「その辺も『まあジャニーズだし』で流されがちな要素だけど、シブがき隊はその中でもトップクラスに狂っており、凄みを感じる。本当にヘラヘラしながらちゃちゃっと作るだけだとこうも続かないはずだから。後輩達もトンチキソングとか言ってたまに変な曲を出すけど、その合間には大多数の真っ当な楽曲がある。でもシブがき隊は変な曲が主で普通な曲が従。ただシングルだけ見るとご覧の体たらくだけど、アルバムの特にソロ曲だと意外とシンガーソングライターの起用が目立ち、有名なのが飛鳥の家に遊びに来た布川にアルバムのソロ曲を作ってくれませんかと頼まれてその場で作曲したとされる『MIDNIGHT 2 CALL』。今となっては後にセルフカバーした飛鳥の持ち歌みたいになってるけど、実は諸星もコンサートで歌ってたりする。他にも沢田研二や田代鈴木のラッツコンビは井上のコネかなと推測出来る部分もあるけど、長渕剛とかハウンド・ドッグは一体どういう感じでオファーが行ったのか気になるところ」


「それと作詞に関しては割と自作も多いのね」


「というわけで布川やバックバンドのシブ楽器隊のメンバーが制作に関与した『スシ食いねェ!』は明確な意図を持ってネタ曲として作られたけど、個人的にはあんまりかな。ただシブがき隊はバラエティ番組で存在感を見せるお笑いが達者なグループとしても知られており、その要素の集大成としては金字塔ではある。基本的に描写の独特さゆえに思わず笑ってしまうだけで本人としては真面目にやってるつもりの曲が多くて、個人的にはそちらを好ましく感じるけど、結局一般的なイメージとしてシブがき隊は歌も踊りもズタボロなお笑い系色物アイドルグループであり、確かにその点で見ると代表曲『スシ食いねェ!』となるのは残念だけど仕方ないのかなとも思っている」


「デビューが八十二年で『スシ食いねェ!』発売が八十六年だから案外後の方の曲なのね」


「この数年前にはチェッカーズが出てきたし、ジャニーズの中でも少年隊が華やかにデビューした時期で、アイドルとしての旬は過ぎつつあった。この曲以降のシングルはかなり知名度が落ちるしね。『め組のひと』っぽいけど井上作曲じゃないのかという『飛んで火に入る夏の令嬢』、井上復帰に加えて鷺巣詩郎の編曲で今まで以上にギットギトに仕上がった『千夜一夜キッス倶楽部』あたりは以前のテンションを維持しようと努力しているけど、さすがにもう二十歳も超えていつまでもこんな事やってる場合じゃないと悟ったか『ドリームラッシュ』『反逆のアジテイション』では普通に格好良い曲を目指している」


「作詞はいずれも秋元康。この人も珍妙な歌詞を多数残してるけど、そっち側は任せなかったのね」


「そしてその判断は圧倒的に正しかった。実際そういうセンスが漏れ出た『演歌なんて歌えない』は面白くないし。そのうちに明確に若い光GENJIまでもが爆発的人気を得た。こうなるといよいよアイドルとしては上がりだし、そういうわけで一九八八年、ついに解隊、解散となる。今更起用されたベテラン阿久悠による青春を回顧する歌詞が印象的な『恋するような友情を』は露骨にその決断を意識させられるけどしんみりするいい曲だよ。そしてラストは溌溂とした『君を忘れない』で笑顔のさよなら。ちゃんとラストコンサートもこなし、解散特番では沖縄の離島に胸像を作りシブがき島と名付けたりして完全燃焼を果たした。それから今に至るまで再結成の話は浮上した事さえない」


「案外クールな関係なのね。でもそれで問題ないだけの活動をそれぞれこなせていると考えると偉い事じゃない?」


「まさしくその通り。犯罪者も出してないし、とかその程度で褒めるのもどうかと思うけど実際問題として現在進行系で惨めな末路を晒しているTOKIOなんかは傍目にも悲しいものがあるからね。八十年代に青春を過ごした特にシブがき隊のファンでもなかった人達が『あいつらって変な曲ばっかりだったな』とその存在を笑って思い出せるのも彼らの生き方あってのもの。本当に多くのグループに見習ってほしかった。大技を決めないネタを転載した動画にあった『三人とも生き残ったのが最大の大技』みたいなコメントはまさしくそうだと思うよ」


「今を生きるアイドル達も気を付けて身を処していけばいいわね」


「とはいえ刹那的な生き方ゆえの閃光もまた芸能人の魅力になりうるものだから難しいものだけど。それにしてもラストシングルに入るはずだったけど昭和天皇の病状悪化による自粛ムードに伴いお蔵入りとなった『サヨナラだってお祭りさ!』ってどんな曲なんだろうね」


 このような事を語っていると敵襲を告げる合図が光り輝いたので、二人はすかさず人のいないところに移動すると、変身して敵が出現したポイントへと急いだ。


挿絵(By みてみん)


「フハハハハハハ、私はグラゲ軍攻撃部隊のシメ女だ。この惑星の汚れた下等生物に終焉を!」


 日本からヨーロッパの端までユーラシア大陸中部を横断する広い地域に生息する小鳥の姿を模した侵略者が、葉を落として寒々とした山林に出現した。しかし勝手に終わらされても困るという地球の意思が形になった二つの影が間もなくこの地に駆けつけた。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「わざわざこんな時期に騒ぎを起こす必要もないものを」


「ほざくなよ蛮族どもが。やはり滅ぼす以外にないな。行け、雑兵ども!」


 シメ女の冷酷な指令に何の疑問も抱かず、ただ実行するのみのプログラムを、熱い血潮が流れる二人は次々と撃破していった。


「これで残ったのはお前だけだなシメ女」


「一年は終わろうとしているけど次に続く前提を忘れてはいけないわ」


「いやお前達はここで終わりだ。私が終わらせるのだ!」


 シメ女はそう言い放つと、懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。来年を迎えるためにはやはり戦うしかないようだ。二人は覚悟を決めると合体して、大いなる力に触れた。


「ヴィクター!!」

「エメラルディア!!」


 いささかどんよりした冬の空の上で、この星の運命を決める熱戦がまさに今繰り広げられている。そして悠宇は持ち前の反射神経を駆使して敵の攻撃を回避しつつ接近すると、カウンターを決めた。


「よし今よとみお君!」


「分かったよゆうちゃん。ここはライトニングボールで勝負だ!」


 一瞬だけ生じた隙を逃さず、渡海雄は黄色いボタンを叩いた。腕から射出された電撃のボールが敵の機体をショートさせた。


「くっここまでか、忌々しい連中だ!」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置でシメ女は宇宙の彼方へと帰っていった。これにて一件落着。最後に基本的には元旦までキープするつもりなスポーツの話題だが、まず日曜日のJ1昇格プレーオフにおける千葉の奇跡的逆転。ついに行くか。そして本日開催された現役ドラフトでカープは大道を出して楽天の辰見を獲得。ファーム盗塁王だそうだ。右の羽月と考えるべきか。内野手は一気に退団させたため割とピンポイントな補強になりうるのではないか。それと元西武のアブレイユ獲得の報道もびっくりした。実際は中日に入団するようだが、基本無風なオフの中に突如吹き荒れるスコールのような一件だった。

今回のまとめ

・メンバーのキャラが濃くつまらない不祥事もない稀有な存在

・歌声含めて高カロリーな楽曲が多いがさっぱりした曲も悪くない

・一曲だけ選べと言われたら悩みつつ傍流的な「恋するような友情を」

・現役ドラフトで獲得した辰見はまずは俊足をアピール出来れば

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