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rm02 広島野手陣について

 爽やかな朝、新しい一日の始まりを告げる朝日をいつしか渡海雄と悠宇は恐れるようになった。もし学校で勉強している途中にグラゲ軍が襲来したらと思うととても安心して勉強も出来ないし、楽しい水泳の授業もただ単に心のそこから水と戯れるだけではいられなくなった。放課後になってようやく「今日は来なくて良かった」と安堵できるのだ。そして今日もまた放課後は訪れた。


「あ、ゆうちゃん。一緒に帰ろう!」

「とみお君ね。うん、途中までは同じ道だしそうしましょう」


 校門を出たところで出会った二人は夏空を歩きながら、この間のお話の続きを語り合っていた。


「昨日、僕もカープの試合見たけど、負けたね」


「まあそんな日もあるわ。現状大きく負け越してるんだし、つまり試合を見たけど負けたって事のほうが多いって事なんだから。でもまあ昨日に関しては色々と酷かったわ。期待してるって言った中崎が先発としての仕事をこなせず、五回なんかももうまったく最悪の展開で七点も取られるし、それからもズルズルと失点失点得点でしまりのない試合だった上に負けるんだから。同じ頃やってたサンフレッチェ対川崎フロンターレも点の取り合いだったし、暑さで肉体も精神も疲労がたまりつつあるのかしらね。まああっちは勝てたから良かったけど」


「そうなの? そう言えば前は投手までしか聞いてなかったよね。カープの野手ってどうなの?」


「野手はねえ、昨日は相手や試合展開に恵まれた事もあって珍しくあんなに得点を奪ったけど基本的にはかなり弱いわ。投手が以前と比べて揃ってきたけど打撃は弱点と言って差し支えないわね。九十年代はむしろ逆で強力な打線と脆弱な投手陣だったと言うけど、その残り香は今のチームにまるでないように思えるわ」


「ふうん、苦労しているんだなあ。でも何でそうなったの?」


「選手は入れ替わるものだし、それと球場が変わったのも一つあるでしょうね。昔の広島市民球場は本当に狭かったけど今は広くなって、環境が変われば野球だって変わる。横浜の投手陣が弱いのは球場のせいって声もあるくらいなんだから」


「それは前回聞いたね。で、球場が広くなったから投手は良くなったけどバッターは苦戦って事なの?」


「まあそんな単純な話だけでもないんだけど。とりあえず、まずは捕手から行くわよ。ここに関しては現有戦力はそれなりに揃っているとは思うわ。まず正捕手は石原。まあ打撃に関しては色々言われているけど捕手としてレギュラーを任せるに十分な能力を持っているわ。一応二割台は打てるんだし十分よ。二番手以降には四十歳近くのベテラン倉と若くて打撃に定評のある會澤で年齢的にもまあ釣り合いが取れているわ。倉が引退する数年後を見据えて将来の正捕手を會澤と競う捕手を獲得すべきとは思うけど。捕手はリードとか色々やる事があるし、いい選手を獲得して即一軍レベルってものでもないから」


「リードってどんな事するの?」


「投手に次の球は何を投げると指示したり、そういう仕事よ。無論、試合全体の流れを見ないといけないから大変よ。巨人の阿部の若い頃なんかリードに関してそれはもう散々叩かれまくっていたそうだけどそれでも使い続けたからリードだって成長したし、それは中日の谷繁が横浜にいた頃も同じだったと言うわ。捕手は十年単位で考えるポジションだからあまり軽々しい言動は出来ないものよ。ファンはあれこれ言うけど向こうだってプロなんだから、色々考えた結果がそれなんでしょう」


「大変そうだね。プロテクターとかもしてるし」


「捕手に関しては本当に大変そうよ。次に内野手。まず全体的な傾向を言うと、そもそも絶対数が不足しているわ。その上で今年は東出がシーズン絶望の怪我をしているし、とにかく物理的に足りていないから不満はあっても『それでも使うしかない』というちょっと後ろ向きな情熱を傾けざるを得ないと言うのかしらね」


「ふうむ。そうなのか」


「具体的には、まずはファーストは本来栗原で盤石だったけど怪我で去年から酷い成績なの。今年も開幕頃は一軍だったけどまるでパワーを感じさせない打撃で二軍落ちして、しかも二軍でも格の違いを見せ付けるどころか平凡な成績に終始して、今季はこのままずっと二軍でも不思議ではないわ」


「どうしてそんなに悪くなったの?」


「やっぱり怪我、なのかしらね。力感がまったくないのは致命的よ。もちろん球団としてもこの穴を見て見ぬふりは出来ないもので、だから外国人で栗原の穴を埋めようとしているの。まずは去年の途中に獲得したエルドレッド。長身でパワー抜群、ツボにはまれば凄まじい飛距離のホームランをかっ飛ばすわ。でもあんまり当たらないの。現状は二軍落ち。ニックって外国人もいたけどこれは去年負った大怪我なんかもあってエルドレッド以下の成績よ」


「駄目じゃない。せっかく獲得した外国人なのに」


「そこで今年もシーズン途中に新外国人を獲得したわ。その名はキラ・カアイフエ。タイプとしてはやっぱり長打期待なんだけど、選球眼も良いって噂よ。実際デビューのDeNA戦では四球二つにホームラン一本と期待通りの活躍を見せたわ。これからどうなるか分からないけどこのキラが頑張ってくれたら一応穴は埋まる事になるわね」


「じゃあキラには頑張ってほしいね。他のポジションはどうなの?」


「次はセカンドね。今は二年目の菊池がレギュラーとなっているわ。この菊池、爆発的な身体能力があって守備範囲は広く、走塁も面白いものがあるわ。でも全体的に荒削りでミスも多くて、打撃もアベレージが低いのが弱点ね。もちろん将来的にはかなりの大物に育つ可能性はあるけど今の数字はまだまだ物足りないわ。本来はチーム内で競い合った上でポジションを奪ってほしかったけど、前述の通りそれまでセカンドのレギュラーだった東出は怪我で不在だし、ダイナミックなプレーを見せる菊池には彼の分まで頑張ってもらうしかないのよ。現状はね」


「サードは、堂林だよね?」


「ええ、そうね。でも彼もまた今の成績はまったく悲惨で本来なら二軍落ちしても不思議ではない数字よ。でもそれは出来ない。なぜなら現状カープには堂林以外にサードの適任者が存在しないからよ」


「へえ、サードってそこまで足りてないの?」


「随分長い間穴になってなかなか埋まる気配ないのよね。ただそれは本職に限った話で、二遊間の選手をサードに回すって手もあるわ。実際今からでもそれをしてほしいけど、小窪なんかはもっと打撃力が向上してミスの少ない嫌らしい選手になれたらいいんだけど現状そうではないし、木村も控えとしては便利だけどスタメンだと力不足」


「それは厳しいね」


「ならば将来性とかいうものにすがって多少無理をしてでも堂林でって考えも間違いじゃなくなってくるわ。使うも地獄、外すも地獄。首脳陣は前者の地獄を選んでいるわ。ただファン人気はかなりのものでオールスターのプラスワン投票にも選ばれてしまったの。顔もいいし華とかそう言うのもまたプロとしては必要な要素ではあるけど」


「なんか凄い言い方だね。嫌いなの? 堂林の事」


「そうじゃないのよ。堂林には長打もあるし、下手だと言われる守備だって一応は成長しているし将来的にはかなり大きな存在となり得る選手よ。でも今はまだレギュラー確定の力はないわ。問題はアンバランスな編成よ。堂林が現状試合に出ている以上は頑張ってほしいけど、もっと直接的に競い合える選手がいたらなって思う事はあるわ」


「新しい選手を取るとかそういう感じで?」


「そうね。新人も高校生ではなくて大学や社会人のいきなり一軍入り出来るようなのがいいわ。いっそ外国人でもって思ったけど実際獲得したのはファースト専任のキラだった。逆に言うと今シーズンの栗原はもう見切ったわけだし、これでキラが活躍して来シーズン残留ってなったら栗原はどうするのかしらね。まあ先の話をしても鬼に笑われるだけね。次行きましょうか」


「うん。後は内野は、ショートだっけ」


「そうね。ショートストップ。正岡子規なんかはこれを直訳で短遮者って訳したけど、今は中馬庚さんって、そもそもベースボールという競技を野球と訳した人が遊撃手ってうまく訳して、それが一般的になってるわ。で、カープのショートは実力的には梵一択だけどフルシーズン出場できる肉体じゃないから今は若い安部なんかも併用されているわ。もちろん若い選手はもっと成長して、それこそ実力で梵のポジションを窺えるぐらいになるといいけれど。個人的には来年あたりショートは菊池で梵にはサードにでも回して堂林に刺激を与えるとかしてほしかったりするんだけど、まあ少なくとも今シーズンはそれもないわね。膝が万全だったら余計な事を考える必要もない選手なんだけどね」


「今後はどうなるんだろうね。じゃあ外野はどうなの?」


「外野はある意味では内野と逆ね。つまり一軍を窺える選手の数はそこそこ揃っているの。でもレギュラーをずっと任せられるほど力のある選手はいないのよ。春先は好調でも六月には二軍落ちとか、それと入れ替わりで上がってきたけど夏場に息切れとか。去年の今頃は天谷と岩本がスタメンだったけど途中で息切れして今年はほとんど活躍できていないし、今年も中東が突如打ちまくってレギュラーになったと思ったら今では二軍落ちしてるし、そういうちょっと中途半端な選手たちをその時その時の調子によって使い分ける必要があるの」


「じゃあ今は誰が出てるの?」


「まずは丸。この選手は比較的順調に伸びてきた選手で、今年は初めて規定打席に到達しそうなの。目下盗塁王、パワーもあっていい選手だと思うわ。それにルイス。新外国人で開幕当初は悪かったけど二軍調整のお陰である程度適応してきたわ。そして松山ね。恵まれた体格からミート重視のバッティングを見せる選手だけどそろそろピークも終わりつつあるみたい。それに四球が異常に少ないし守備や走塁でも使えないし、そろそろスタメン落ちの頃合かも知れないわ」


「四球が少ないとまずいの?」


「四球でもヒットでも出塁は出塁よ。そして打撃は水物と言うわ。つまり好不調の波が必ず出るものなの。そこで四球が多ければ不調でヒットが出ない時も悪いなりに出塁は出来るけど少ない選手は単なるアウト製造機と化してしまう。カープでは松山と岩本が極端に四球が少なくて、そういう選手は何にでも食いつくお魚の名前からダボハゼって言われるわ。基本的に悪口としてね。関係ないけど太った見た目で印象も似てるわこの二人」


「同じような選手が複数いるのか」


「打つ時はいいんだけど、守備や走塁に関しても特筆すべきものはない選手だし打てないなら一軍にいる意味がなくなるのよね。廣瀬なんかは能力を見るとスタメン定着レベルだけど怪我が多くてなかなか定着し切れなかったり、決定的な選手が少ないのよ。その中で丸は選球眼はあるし守備走塁もいけるしで久々に定着の可能性を大いに秘めた選手だから頑張ってほしいわ」


「ううん、聞いていると選手がなかなか揃ってないと言うか、なかなか監督も大変そうだね」


「そりゃあ大変よ。金も出さない編成はいびつって中で結果を残すのはね。まあその中でも采配なんかに関して『それはどうなの』って言いたい事はよくあるけど、その辺を除いてもチームとしての改善点は色々あるわ。でもそれをまとめてなるべく短い言葉で表すと『もっと金出せ』ってところに尽きるんじゃないかしら。何も他球団から大物を引き抜けとは言わないわ。もう少し流動的にしてそれなりに使える選手をうまく補強したり出来れば今とは変わってくるでしょうし。コーチ含めて。新井宏昌招聘はナイスだったけど、もっともっとね」


 ここで仮面の目が鋭く光った。またも敵襲の知らせである。二人は人目につかないところへ移動して変身し、グラゲ軍の反応があった川沿いの土手へと走った。


「この俺様こそがグラゲ軍攻撃部隊のブルーギル男だ! この星の地形をめちゃくちゃに破壊してやるぜ!」


 いかにも獰猛な魚類の顔が残忍に歪み、侵略の影を河原に長々と伸ばしていた。まったく、ブルーギルを日本に持ち込んだ戦犯は即刻処刑すべきやね。謝罪だけじゃすまへんで。


「そうはさせないぞグラゲ軍!」


「また現れたわね! これ以上私たちの星を破壊するならちょっとばかし痛い目にあってもらうわよ!」


「ほう、貴様らが我らの邪魔ばかりするという例の二人か。痛い目にあうのはそっちだ! 行け、雑兵どもよ!」


 例の如く繰り出された数十の雑兵に、渡海雄と悠宇は目にも止まらぬ速さで殴る蹴るの暴行を加えて次々と破壊していった。


「よし、雑兵は全て倒したぞ!」


「国へ帰りなさいブルーギル! このままだと次はあなたの番よ」


「ふん、まだまだ戦いは終わってないわ!」


 軍属なので当然ではあるが、上官からの指令に対して忠実であり続けるのはブルーギル男も同様である。撤退を勧告する声にも耳を貸さずに懐から取り出したボタンを押して巨大化した。


「ゆうちゃん、僕らも合体して対抗しよう」


「ええ!」


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 足元に流れる川は彼らにとって水溜りと同じようなものである。巨体同士が対峙して、取っ組み合いになった。パワーとパワーの鬩ぎ合いは一分以上続いたが、ついにメガロボットの右手はブルーギルロボットの左手を握りつぶした。バランスを崩したブルーギルロボットは河原に倒れ伏した。


「よし、とどめだ! これでも食らえ!!」


 渡海雄はすかさず青いボタンを押した。するとメガロボットは空高くジャンプして両足に備え付けられたドリルを前面にして勢いよく敵に突っ込んだ。ブルーギルロボットは回避する暇も無いまま胴体に風穴を開けられた。


「おのれええい!! この俺様が敗れるなどと!!」


 ブルーギル男の絶叫は猛烈な爆発音にかき消された。その炎が身を焼く前に脱出装置が作動して宇宙へと逃げ帰った。

今回のまとめ

・昨日の試合は投手も守備も酷かった

・内野手はそもそも編成がまずいせいで絶対数が少ない

・帯に短し襷に長しな外野手が山盛りだが丸はこの現状を打ち破れるかも

・ブルーギルは持ってきた人より勝手に放流した人たちのほうが実際はまずい

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