oi20 広島ドラゴンフライズCS決勝進出について
春が終わり夏が訪れようとしている日本列島に、一足早く真夏日が訪れた。一体何を考えているのかと、そもそも考えなどありはしない地球に文句の一つも言いたくなるほどの気温だ。
でもこれぐらいならまだ服を脱いで対処可能なので、渡海雄と悠宇はますます肌を露出させた格好で太陽に白い素肌を晒しながら通学路をずいずい進んでいた。
「しかしこうも光り輝く太陽とは対照的に、カープの打撃は相変わらず湿りきってるね」
「五月だけでも完封負けが何度目か。でも投手陣は引き続き好調をキープしているんだから、今はもうこの環境を自明のものとした上でどう戦うかを考えないといけなさそうよね。それで言うとこの貧弱な打線を擁しながら先日の巨人戦に三連勝で二位浮上は大健闘なんてレベルじゃないわ。いや冷静に考えて去年も二位だったんだから順当と胸を張っても良さそうだけど、正直実力的にはかなり疑わしいとしか思えないしね」
「本当にピッチャーはみんなよく頑張ってるよね。まず先発だと、もはや床田はリーグを代表するエース級の数字だね」
「しかもバッティングも気合いっぱいで頑張ってる。もはや安定勢力として、一昨年みたいな事にならないよう怪我にだけは気をつけてね。森下も良い、大瀬良も被ホームランがかなり減っているようで安定している、アドゥワもしっかりローテを回せている、さっき初勝利したばかりの九里だってその数字ほど悪い内容じゃない。後は新外国人のハッチだけど、これもボール自体はそんなに駄目って感じじゃないからね。微調整ときっかけによってはバシッと花開くんじゃないかなとは思うけど、もうしばらくはチャンスを与えられるでしょうしその時の内容次第よね」
「仮に駄目だった場合は、黒原あたりがまた先発に来るのかな」
「今はリリーフに回っているけど内容自体は十分だからね。筆頭候補だと思うけど案外今年は後ろに徹する可能性もあるかも。二軍ではまず玉村が防御率一点台と高い安定感でローテを回していて、それから遠藤森あたりもいる。まだ計算するには早いけど常廣あたりも。ここから怪我人続出でもしない限り先発要員はとりあえず不足しないんじゃないかしら」
「リリーフに関しても抑えの栗林を筆頭に勝ちパターンは盤石だしね」
「島内もようやく本来の実力を取り戻してきたし、それに矢崎や塹江、森浦も頑張ってる。ロングリリーフをこなせる黒原がなかなか出番ないぐらいだしね。ただ勝つも負けるも接戦ばかりなので疲労は気になるところ。二軍成績を見るとある程度投げてて結構抑えてるなって選手はまず新外国人のハーン。これはそのうち上がってくるんじゃないかしら。河野が先日再昇格を果たしたみたいにね。それと長谷部もなかなかの数字。二年目とは言え大卒社会人出身だからね、早いところ結果を出してほしい選手の一人よ」
「一方で大道が二軍でも今ひとつなのが心配」
「去年の疲れもあるのかも知れないけど、とにかく本来の実力を出せれば十分やれる事は示せたんだからしっかり再調整してくれれば。とにかく投手陣はこのまま好調を維持するならそれが一番ってところで、問題は打線。ここに尽きるわ」
「本当にどうするんだろうね。四番小園とかいう明らかな苦肉の策だし」
「なぜか得点圏でよく打ててるから格好はついてるけど、こんなのがシーズン通して続くはずがない。でもじゃあ打線の軸は誰なのかと問われると、長打の迫力という点においては末包が現状では筆頭となるでしょうね」
「去年のブレイクから今年も早速ホームランを放って実力は確かだよね。ただ怪我から復帰したばかりの選手にいきなり期待しすぎる怖さも多少ある」
「未だにチーム最多ホームランがあんまり警戒されていなかった時期にボカスカと固め打ちした宇草ってのもいささか情けない話なので本音を言うとガッツリ使いまくれとは思うんだけどね。この宇草や中村健人、林、石原といった面々は一時的なカンフル剤の役割を果たせれば御の字であって、実際そのぐらいの働きは現時点でも出来ているので今後もあれこれ組み合わせながら続けていければ」
「主力の不振という意味で一番気になるのが坂倉だよね。あれは良くない」
「キャッチャーとしての能力が特別に高いわけじゃないんだから、打たなきゃ厳しく言われるのも仕方ないわね。それで少し話は変わるけど走塁に関して、カープはさすがに無駄に走らせすぎなのはどうかと思うわ。無論チャレンジする姿勢そのものを重視したい気持ちは分かるけど、成功率五割未満はいくらなんでも低すぎる。もうちょっと慎重にやってもバチは当たらないんじゃないかしら」
「走るのがバレバレすぎてガッツリ外されたのに走って案の定アウトになってたけど、ああいうのはさすがにね」
「それで坂倉だけど、とは言え結局ファンとしては復調を祈る以外に道はなさそう。お陰でようやく本調子に戻りつつあるのは幸いだけどこれが続くか。會澤みたいな近年の衰退著しいベテラン頼りにも限度があるからね。菊池にしても年を取れば衰えるのは当然の話」
「守備はまだまださすがってプレーを見せているけど、三十代後半に突入するとまあ厳しくなってくるのは当然だもんね」
「こうして三連覇が次第に歴史となりつつある中で、昔は良かったと懐かしむより新しい選手の魅力をいっぱい語りたいものだから、若い選手よ伸びよと心から祈るわ。ただ守備に関しては現状でも矢野という後継者を得られた。打撃はまだまだ非力だけど、人間って成長するものだからね。野間だって上本だって打撃はまるで期待出来ないと散々叩かれまくった中で、気付いたらかなり使える選手になった。矢野に関しても別に中軸を担うような強打者になれとは言わない。ただ悪い時も悪いなりに最低限をこなせるような選手になれれば道は大いに開けるものだから、日々を無駄にせず学び糧を得てくれれば」
「投手と守備でどうにか踏ん張ってる今のカープにおいてこういう選手の成長は喜ばしいけど、でも今の苦境を打開するほどのパワーの持ち主はいないものか」
「二軍成績を見ると目立つのは育成の佐藤啓介と一度昇格済みの中村奨成ってところだけど、この辺にしてもいきなり一軍チームを変えるような救世主枠を担わせるには荷が重い。やはりシャイナーとレイノルズの両外国人しかないと言いたいところだけどねえ」
「いち早く実戦復帰したシャイナーの二軍成績があまりにも……」
「まあ二軍で大事なのはトータルの成績ではなく直近がどうかって部分ではあるんだけど、その点においてもあまりにも弱い。昨日ようやくホームラン打って光を見出しつつあるけど、これがもう少し安定しない事にはおいそれと一軍に推薦は出来ないでしょうね。レイノルズはまず復帰してきてね。彼らも厳しいとなると補強しかなくなるけど、トレードにせよ新外国人獲得にせよ近年は極めて消極的なのでどうなるか」
「とても二位だとは思えないほど悩みは尽きないね」
「そこは去年もずっとそんな感じだったし。逆に言うとそういう問題だらけな状況の中で監督以下よく戦えているものよ。現場は最大限努力している。ではそれを支えるにはどうすれば良いか。ここから先はフロントの努力にかかっているわ。交流戦も迫っている。首位から最下位まで比較的圧縮されているセリーグとは反対にパリーグは現在ソフトバンクが独走し二番手の日本ハムも大きな貯金持ち、最下位西武は早くも自力優勝消滅という格差リーグとなっている。セリーグも最終的にはこういうふうに広がっていくはずだけど、その時上側についていけるかはまさにこの交流戦の戦いが鍵になってくるはず。まあ最終的には五割を目指せという毎年恒例の一言に尽きるわけだけど」
「実際それすら満足にこなせてこなかった歴史があるからね。頑張ってほしいよね。本当にね。真面目にね」
「とりあえずカープはこれぐらいとして、次はサンフレッチェだけどここも連敗を喫するなど今はかなり調子を落としている。いや、負ける時は負けるものなので連敗という事象そのものに関しては別にいいんだけどそれ以前の数試合、札幌川崎新潟といった面々を相手に勝つべき試合をことごとく落としてきた不甲斐なさは看過しがたいものがあったわ」
「でもサッカー自体が悪化したわけでもないし、怪我人もむしろ戻ってきつつある。昨日は京都を叩いたしここから本来のサッカーを取り戻してくれればいいんだけど」
「実際方向性に間違いはないんだから、後は自分達のやろうとしているサッカーを信じてくれれば自ずと結果はついてくる、はずなんだけどね。ただそれを実行した結果として圧倒的に攻めていながら全然ゴールが生まれない一連の流れは今年だけの問題じゃない。ファン程度では窺い知れないもっと決定的な欠陥とかあるのかないのか。とにかく悪い時期はそれほど続くものでもないはずだと信じながら見つめるだけよ」
「リーグ全体の流れを見ると去年優勝の神戸とまだまだ走ってる町田が上位に入っているね」
「町田は言うまでもないとして、同じく昇格組の磐田とヴェルディもしっかり戦えているのが混戦ムードを高めているわね。特に基本的には一年であっさりJ2へ逆戻りしがちなプレーオフ上がりのヴェルディの大健闘は喜ばしいものよ。そこで敗れた清水も今のところ快走中だし、去年のJ2ってかなりレベル高かったのかしらね。ともあれ復活の古豪、後半終了間際に何かが起きがちな盛り上げ上手っぷりも、あえて狙ってるわけじゃないんでしょうけどその諦めない姿勢はエンターテインメントとしてハイクオリティで存在感を放っている。観客動員が凄まじいペースで跳ね上がってるのはJリーグが一番注目されていた時代の、その中心に君臨していた存在いよいよ復活というインパクトが第一義かと思われるけど、それだけにとどまらない魅力を秘めたチームになっているわ」
「全盛期には生まれてすらいなかった多くの選手達はもちろんの事、経営陣も首脳陣も当時の面影は皆無だもんね」
「つまり城福監督はよくやってるって事よ。そういう新鋭の波に、サンフレッチェとて今のペースのままうかうかしているとあっさり呑まれかねない。今こそ勝利のために全力で戦い抜く時よ。後はバスケやラグビーは今プレーオフの時期でこの戦いも興味深い展開となっているけど、注目はドラゴンフライズ。詳しくない人間がざっと見ただけでバスケを語るのもどうかと思うけど、その上で言うととにかく点がよく入って十点以上差をつけられても流れによっては案外どうにかなる感じがスリリングよね。ブザービーターとか、それにチャレンジする機会も思ったより多いし、見どころの多さはさすがアメスポと思わせる」
「それまで知らなかった世界にもそこならではの感動というものは確実に潜んでいるものだし、アンテナは常に高くありたいものだよね」
「まったくよね。とは言え見さえすればいつでもポジティブな感情を得られるものではない。悔しさに遭遇する時もある。嬉しい日もある。痺れるような焦燥感もある。虚無もある。その繰り返しの中で心の中に定着するか一過性のものとしてまた何となく離れていくかは自分でも分からないからこそすでに定番のもので終わらせたりもするけど、チャレンジする日々の積み重ねが心を豊かにするものだと信じて生きていきたいものよ」
このような事を語っていると敵襲を告げる合図が光り輝いたので、二人はすかさず変身して敵が出現したポイントへと急いだ。
「フハハハハハハ、私はグラゲ軍攻撃部隊のクマタカ女。この星の雑魚どもを狩り尽くしてやろう」
一般的に同じ鳥の仲間でも大きいのが鷲、小さいのが鷹と呼ばれる中で鷹と名付けられてはいるが鷲と呼ばれてもおかしくないほど大型の、日本の森林の生態系の頂点に位置するため森の王者とも称される冠羽が格好良い鳥の姿を模した侵略者が山間の道に出現した。クマタカのクマとは大きくて強いから熊というだけでなく、頭部の形状から角鷹と記されたりもしていたそうだが、ともあれ勝手に侵略されても困る地球はすぐに返事を送った。
「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」
「うわあ格好良いルックス。でもだからって好き勝手に暴れないでね」
「愚か者どもがのこのこやってきたか。死んでもらおう。行け、雑兵ども!」
クマタカ女の冷酷な指令にただ従うだけの感情なき殺戮マシーン達を、全身に血の通う二人が情熱を込めて撃破していった。
「よしこれで雑兵は尽きた。後はお前だけだクマタカ女」
「その大いなる翼を広げて本来いるべき星へ帰ってくれればいいんだけど」
「あいにくこれも仕事なのでな。貴様らの抹殺を果たすまではな!」
クマタカ女はそう言い放つと、懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。猛禽類って基本的に格好良いけどその中でもトップクラスじゃないかという堂々たる威容を前に、二人は恐怖心を必死に押し殺して戦い抜く覚悟を改めて決め、合体した。
「ヴィクター!!」
「エメラルディア!!」
より高く、より青く輝く空の彼方でこの星の明日の空の色を決める戦いが繰り広げられている。もし地球人類が負けたら二度と青い空は拝めなくなるだろう。そして悠宇は持ち前の反射神経を駆使して敵の強烈な攻撃を回避すると、隙を見て接近してカウンターを決めた。
「よし今よとみお君!」
「分かったよゆうちゃん! 今回の敵は強いからここは大技のミラクルエクストリームで勝負だ!」
渡海雄はそう叫ぶと同時に紫色のボタンを叩いた。勇気を示すエメラルド色の炎を全身に纏っての体当たりが敵に直撃した。
「おのれ忌々しい。この私を退かせるとはな」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によって、クマタカ女は宇宙へと帰っていった。明日の空の色も紫ではなく青だ。そんな日がいつまでも続くようにと二人は願いながら帰路についた。
そして今さっき終了した試合だが、チャンピオンシップ準決勝第三戦で広島ドラゴンフライズが名古屋ダイヤモンドドルフィンズに勝利したようだ。これで通算二勝一敗で勝ち抜け、決勝進出を果たした。凄い。今はとりあえずそれだけ。
だからってさすがに今回のタイトルは羊頭狗肉にも程がある詐欺同然の行為だが、それぐらいはしゃいでるって事でどうか大目に見ていただきたい。
五月二十八日追記。勝った。ドラゴンフライズがチャンピオンシップファイナルにおいて王者琉球ゴールデンキングスと対戦し、初戦は落とすも二戦目に勝利し、本日行われた第三戦、最終戦でも勝利して優勝を決めた。日本一だ日本一! 二〇一五年のサンフレッチェ以来! カープなんて四十年やれてないぞ!
最初は二部リーグだったし、昇格最初のシーズンはひたすら負けまくったし、こんな光景が見られるとは思わなかった。本当に凄い。選手のフロントのたゆまぬ努力の成果に他ならない。おめでとうございます。
今回のまとめ
・打撃がさすがに弱すぎる中で粘り強く戦えてるのは評価したい
・投手陣は試してほしい選手の枠が開かなくて逆にもったいない
・今Jリーグで一番熱いチームはヴェルディじゃないかと真面目に思う
・多方面への興味を持続出来るスペックの大きい人でありたいものだ




