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oi01 ソチオリンピックについて

 先週しばらく、渡海雄は学校を休んでいた。風邪でとても動けそうにないらしい。悠宇はとても心配で授業にも手がつかない、ほどではなかったが「どうしてるんだろうな。早く治るといいな」と心配に思う心が途切れる事はまったくなかった。


「おはようゆうちゃん」


 久々に見た渡海雄は青白い顔をしているという事は全然なく、病気なんてなかったのようにピンピンとしていたので悠宇は深く安心し、完全無欠の笑みを浮かべながら「おはよう」と返した。


「もう風邪は大丈夫なの?」


「うん、すっかり元気。と言うかね、実際苦しかったのは三日ぐらいだから。ただ風邪を引いたその日は本当に辛かった。食べられないもの、全部吐いちゃうから。だからお母さんにはちみつを混ぜたお湯を作ってもらってそれをちびちび飲みながらテレビとか見てたんだけどね、それも寝転がりながらだし、実際どんなポーズをとってても不快な感じはあるからあれこれ動いたところでこれも徒労って奴でねえ。悪寒も凄い」


「あれ、もしかしてそれってノロウイルス?」


「お母さんもノロだって言ってたけど、本物のノロはもっときついって噂もあるからノロっぽい症状の偽物かもね。それにしてもどこで感染したんだろう。ゆうちゃんは大丈夫?」


「今のところはね。ところで、相撲とか見てたの?」


「うん、相撲もね。稀勢の里はやっぱり駄目だったけどその分地味だった鶴竜が頑張ってくれたね。優勝決定戦まで持ち込んだんだから立派だよ」


「最後はやっぱり白鵬だったけどね」


「今はその名前を聞いただけでむかつくんだよね、胃が。吐くほうだけにね。ははっ、だから鶴竜応援してたけどね、まあやっぱり実力のあるほうが勝ったって感じだよね。鶴竜は来場所綱取りって話もあるけどそれはあんまり期待してないから、まずは大関として存在感を見せられたのはありがたいからこれを続ける事が大事だと。稀勢の里の勝ち星は大関として立派なものだけど鶴竜は九勝六敗とかそんなもんだったからね。遠藤や大砂嵐なんて力士も出てきたし、千代丸と千代鳳の兄弟もいるし」


「そうやって寒さを巻き起こして風邪をうつそうとしても無駄よ。それと千代丸と言えばやっぱりカープに昔そんな苗字の選手がいたって話じゃない。ところでもう二月七日からソチオリンピックが開幕となるのね」


「ああ、冬季オリンピックね。それにしてもソチってどこなのって感じはあるよね。夏のオリンピックはロンドン、北京、アテネ、シドニーと有名どころばっかりなのに」


「ロシアのリゾート地らしいわね。実際バンクーバーとかトリノならまだしも、謎の地名連発なのが逆にロマンを誘うのよね。リレハンメルとかコルティナダンペッツォとかガルミッシュパルテンキルヘンとか。今後開催が決定している都市も夏季はリオデジャネイロに東京、冬季は平昌とかいう韓国の知らないところ」


「一発目からしてシャモニーモンブランとかよく分からない場所だもんね。ただ日本も札幌はともかく長野だもんねえ。他国だって東京大阪京都名古屋横浜福岡あたりを差し置いて長野ってレベルの都市が選ばれてると考えるとそりゃあマイナーにもなるよねって話で。要は雪と氷のファンタジーだからねえ、大事なのは人口以上に積雪だと言えるし。きっといいところなんだよ。景色とか綺麗で、知らないけど。そう言えばリレハンメルオリンピックと言えば光」


「ただ逆にそんなマイナーな都市でも開催できるって言い方も出来るわけよね。大型利権と化した夏のオリンピックじゃこうはいかないけど。東京に決まる前に国内でもいくつか手を挙げたがってたところがあったけど福岡でも不足で広島とか論外ってムードだったし」


「でもまあ、広島に関しては本当に論外だったからなあ。ビッグアーチを拡張とか言って馬鹿みたいなイメージ画像あったけど、あんなん無理に決まってるでしょと誰もが突っ込みたくなる有様だったし。もちろん他にも金とかいっぱいかかるけど、それをまあノーベル平和賞がほしいって噂の前市長が平和の一点突破でとんでもないゴリ押ししてて。大体ねえ、漢字じゃなくていちいちカタカナでヒロシマオリンピックとか言い始めるあのセンスがいちいち癪なんだよね。市長が変わった瞬間断念が決まった事に広島人の九割九分が良かったと安堵のため息をつくほどだったってお母さんが言ってた」


「それで今の市長は新しくスタジアム作る金がないからサンフレッチェは二位でいいって言うわけね。やっぱり金よねえ。世知辛いとはまさにこれだけど現実それがないとうまく生きられないものだから」


「そうだよねえ。サンフレッチェは今年も頑張ってほしいよね。当然カープもって、何だかウィンタースポーツから離れたなあ。まあ、冬のオリンピックは基本的にウィンタースポーツだからスキーやスケートにそり、それとスノーボードなんかを使って氷原を滑ったり飛んだり跳ねたり回ったり。正直僕らみたいな雪にそれほど親しくない人間が見ると変な競技が多いのが特徴だよね」


「部外者からするとそれが楽しいのよね。雪や氷が地面だからトラブルも多いし、逆にうまく滑ってるのを見るとスピードなんか凄いし、いいなって思うわよね」


「フィギュアスケートとか? 何か空気読めない人みたいになるけどあれ、よく分からないんだよね」


「ん? フィギュアの何がよく分からないの?」


「ほら、例えば色々ジャンプの種類とかあるけどどれがどう凄いとか採点の基準とか。こけたりあからさまに体勢崩してるのに有力な選手は大抵そうじゃない選手がミスなくやったように見えた演技より余裕で得点が上だったりするでしょ。後、選手も何かメイク濃くてあんまり美人だと思えないし」


「まあジャンプの種類は前を向いてジャンプするのがアクセルでこれが一番難しくて凄いとか、分かりやすいものは分かりやすいけどそうじゃないのもあるわね。その辺は解説がトウループって言ったらトウループなんだなとかその程度の理解でいいんじゃない。ミスに関してはそれによるマイナスは当然あるけど、それ以上に難易度が高い演技に挑戦しようとしたのを評価する得点もあって、昔はミスした時のマイナスが大きかったからミスの少ない演技構成のほうがむしろ得点高かったりしたけどそれはそれで競技としてどうよって話になって、最近はチャレンジ重視の傾向があるみたい。メイクは要は舞台みたいなものだしリンクでの見栄えとテレビでのそれは違ってしかるべきじゃない?」


「どうも採点競技はねえ、ある程度詳しくないと採点が不透明に見えるって部分あるよね。単純に一番速かったからとか一番遠くまで飛んだからって事なら話は早いんだけどね。まあ、日本はメダル有力な人がいるんでしょ? 後関係ないけどキムヨナって凄い悪役顔だよね」


「浅田真央ね。多分取れるんじゃない? 先の事は分からないけど、フィギュアの得点も積み重ねというものがあって今までいい演技を見せてきた選手はいい得点がつきやすいし、それまで無名だったのに突如素晴らしい演技を見せても得点は抑えられる傾向みたいなものはあるって話だから。逆に言うとずっと頑張ってきた浅田なんかはいける可能性が高くなるんじゃない? そもそもね、フィギュアだってあれでもスポーツなんだから何かいっぱいグルグル回りながらジャンプするの凄いなあとか、その程度の心持ちで見るぐらいのほうが気楽でいいんじゃない。特にオリンピックって、知ってる競技よりテレビをつけた時偶然やってた謎競技を何となく見るぐらいのほうが楽しかったりするし、フィギュアに関しても下手に採点がどうとか見るよりね」


「それはそうだね。そう言えば採点と言えばスキージャンプにも飛距離だけじゃなくて何か芸術点みたいなのがあるけど、あれっていらないんじゃないかなって思うんだけどなあ。走り幅跳びとか三段跳びでフォームが汚かかった分の減点で距離がちょっと及ばなかったけど綺麗なジャンプをした選手に逆転されるとかありえないでしょ」


「飛型点ね。言いたいことは分かるけどスキージャンプは飛距離が段違いだから。三段跳びなら私もやった事あるけど、着地の際に少しでも距離を伸ばそうと無理したところでそんなに大きなリスクとかないでしょ。でもスキージャンプで着地に失敗したら、ねえ。後、飛距離を追求したいならフライングヒルってのもあるらしいし」


「ああ、なるほど。あんまり飛距離を追い求め過ぎて度を越して危険な競技にならないようにリミッターをかけてるみたいな部分なのかな。それとショートトラックとか好きだな。何か人がごちゃごちゃしてるのがいいよね。それと曲がる際に手を添えるのがかわいい」


「ああ、あれはなかなかスリルがある競技よね。もはや伝説となっているソルトレークのオーストラリア人ブラッドバリー金メダルとか。そう言えばスノーボードやスキーのクロスってのもなかなか過激でいいわよね。一斉スタートで起伏のあるコースを滑るからちょくちょく転倒が起こってまさにレースって感じ。そういえばこれでもトップ独走だった選手が最後のジャンプで転倒して後続の選手に逆転を許すという出来事があったわね」


「やっぱり何の競技にしてもオリンピックほどのレベルになるとミスは減少するものだけど、足場が不安定な中で行われるウィンタースポーツはその中でも結構転倒とかミスがあって、むしろミスやハプニング前提の中でいかに最善を尽くすかみたいな部分が何とも言えず、熱い」


「他にも燃える競技はいっぱいあるわよね。軍人警官花ざかり、腹ばいになっての射撃が格好良いバイアスロン。壁に向かって滑走して大ジャンプしながらコインのようにクルクル回るエアリアル。練習でメダル候補が負傷したと報道されてる今回から採用のスノーボードスロープスタイル。ほとんど自殺志願者のようなポーズで顔面から突っ込むスケルトン。雁首並べてるのがかわいいボブスレー」


「かわいいって言ったらカーリングもかなりのものだよね。ストーン投げる時の伸びやかな姿勢とかなんか必死にブラシでこすってる姿とか。それでいて見てると結構熱いし。それと意味はわからないけどアルペンスキーのスーパー大回転ってネーミングセンスは素敵だと思うな。名前と言えば出場する選手もドイツ系とかのやけに格好良い名前が多かったりして、そこも無駄にわくわくするよね。まあ選手たちは自分のベストを尽くして頑張ってほしいな。結果的にメダルを取れたらおめでとうだけど」


 このような事を語っていると敵襲を告げる緑色の光が輝いた。ここ一週間ほどずっと渡海雄の体調を気にかけていた悠宇は「病み上がりで大丈夫?」と問いかけたが、渡海雄は無駄にニヒルで不敵な笑みを浮かべて「もちろんだぜ」と親指を空に立てた。そして変身して敵の出現した地点に駆けていった。


「ふはは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のホッキョクグマ男だ! この星に装置を設置してやるぜ!」


 白い毛で覆われたホッキョクグマ男が雪原に吠えた。まったく関係ない事ではあるが、ソチオリンピックのマスコットは三匹の動物だがその中の一匹がもう三十年以上昔のモスクワオリンピックのマスコットと似ているとかいう妙な評判もある。


「またも現れたかグラゲ軍! 病み上がりで元気充満してるから今日はやるぞ!」


「一日遅れの鬼は外ね。ソチオリンピック前に除去しなきゃ」


「ふん、ようやく来たか。しかし除去されるのは俺たちではなくお前たちの方だ! やれ、雑兵ども!」


 山奥の雪原に潜んでいた雑兵たちが次々と破壊される光景はさながらダイヤモンドダストのようであった。その場にいるのは渡海雄と悠宇とホッキョクグマ男だけとなるのにさほど時間はかからなかった。


「もはや雑兵はない。後はお前だけだなホッキョクグマ男!」


「そろそろお祭りが始まるんだから、いっそあなたたちも一緒に見るならそれが一番じゃない?」


「馬鹿め。今から滅ぼす人類の祭りなど興味ないわ。さあ、貴様らも叩き潰してくれる!」


 そう言うとホッキョクグマ男は懐からスイッチを取り出して巨大化した。渡海雄と悠宇も一面を覆う白雪の中で合体し、二つの体はひとつになった。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 雪と氷の世界を舞台にした熱戦は一瞬の油断が命取りになる。ホッキョクグマロボットの強烈なパワーにばかり気を取られていては足元の雪原に掬われる。慎重な操縦を要求された悠宇だがうまくピンチをかわしつつ一瞬の隙を見計らって相手の腹部に一発蹴りを入れた。


「よし今だ! レインボービーム!」


 雪原に倒れたホッキョクグマロボットに向けて。渡海雄はすかさず白色のボタンを押して攻撃した。メガロボットの胸部から放たれた七色の光線はホッキョクグマロボットの胴体を貫き、爆散させた。


「おのれええええ! もはや撤退するしかないのか!」


 ホッキョクグマロボットがこの世から完全に消滅する直前、作動した脱出装置によってホッキョクグマ男は宇宙への脱出に成功した。もう今週末に始まるソチオリンピック。とにかくテロとかには気をつけて、純粋にスポーツの楽しさとか面白さを伝える大会になればいいなと世界中の人がその日を指折り数えながら祈っている。

今回のまとめ

・風邪のお陰で延びまくりで相撲の話とか完全に時期を逸してる

・冬季オリンピックの胆はそこでしか見ない競技が大半という点

・エクストリームスポーツとの境界が曖昧な一部競技も見もの

・どうせ日本弱いし期待しすぎず気楽に見るぐらいが一番いい

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