hg05 Hello…I Love Youについて
いきなり連休が挟み込まれる一月。どうせ年末年始もあるし六月あたりに持ってくればいいのにとか思わないでもないが、今年の今はどうにも寒すぎるのでちょうど連休があってもしかするとラッキーだったのかも知れない。もっとも渡海雄と悠宇にとっては絶好のトレーニング日和であり、今日もまた肉体を鍛えた。
「ふう、お腹すいたなあ。晩ごはん何だろうな。まあ作ってもらってる分際だから偉そうなことは言えないけどササミじゃなきゃいいな」
「あれ、とみお君はササミ嫌いなの?」
「嫌いって言うかね、味が淡白でしょ。あんまり美味しいなってもんでもないし、肉の中では正直外れみたいな印象」
「まあ言いたいことは分かるけどね、あんまりそんな事言ってると本当に小さいままで終わるわよ」
「むうっ、それは困るなあ。まあそりゃあ食べられないわけじゃないからね、夕食がササミでもくじけないようにするよ! ところで今日は光GENJI四枚目のアルバム『Hello…I Love You』だけどね、いやあ、最近光GENJI関連で身の毛もよだつようなニュースがあったねえ」
「ああ、あの大沢の子供がどうって奴ね。結局あれは誰が悪いの?」
「当事者でもないし全てを知ってるわけじゃないから気軽に結論は言えないけど報道を見る限り女のほうがあくどい印象はあるね。この辺はまだまだ叩けば色々な情報が出てくるだろうけどそれで誰が幸せになるかって話になるからね。どんな結果でも傷ばかりが増えていくような内容だし、そっとしておくのがきっと一番いい事だよ」
「そうね。じゃあ、四枚目のアルバムはどんなもんなの?」
「うん、まず発売は一九八九年の十月。ジャケットでいきなりカウボーイ風の黒い衣装を身にまとってる事からも察しがつくように、比較的ファンタジー色の強い曲が入ってるアルバムだよ」
「サイドラインのひらひらが黄色いのが光で赤いのがGENJIね。それにしても赤坂大きくなったわね物理的に」
「もう光と同じくらいだからね。それと佐藤寛之のルックスがかなり見れるようになってきてるのもトピックス。それと裏ジャケットに曲のタイトルが書いてなくて、代わりにミュージシャンの名前が初めて掲載されてるんだ。楽器ごとに一括だから誰がどの曲とか分からないけどね。それも今作からアレンジャーが佐藤準だけじゃなくなったのも原因だろうね」
「それにしてもそれにしてもブックレットの裏のメンバーが手を伸ばしてサボテンみたいになってるポーズは何か笑えるわね。じゃあ曲に行くけど、まずは『Sha-La-La』って曲。作詞は真名杏樹、作曲は関根安里、編曲は佐藤準」
「真名はこれ以降もそれなりに提供してるけど関根はこれだけ。ちょっともったいないかな、これも軽快でいい曲だと思うし。それとアレンジャーとしてもあの金属的な感じはいいよね。そして間奏で鳴り響く電子ヴァイオリン、みたいなあの流れとか美意識を感じるんだ。TAO、EUROXというバンドに所属していた関根だけど、そこでもやっぱりこのヴァイオリンが鮮やかでね。かなり格好良いよ」
「それはともかく、歌詞も明るく前向きで一曲目としてはなかなかいい滑り出しじゃない。サビはもう一歩だけど。次は『B.C.物語』。作詞森田由美、作曲和泉常寛、編曲新川博。やっと佐藤準以外のアレンジャーが登場ね」
「新川は主に八十年代に活躍した、デジタルサウンドにも長けたアレンジャーで今後も大いに活躍する人だけどアルバム曲が多く、光GENJI的にはやや不遇な印象。楽曲としては、まずB.C.とは言うまでもなく紀元前。それに物語を『ロマン』と読ませるんだ。曲もあえてテンポを早くしないことでそういう雰囲気を出してるね。ただアレンジがちょっと軽い。もっとこう生の楽器をガンガン投入して、いっそアダムスの『旧約聖書』ばりにやっちゃうとか。でもアルバム曲にそこまでする事もないと考えるとこんなもんかとも思うし」
「何の話? でもイントロはそれなりに雰囲気出てるじゃない。それでいきなりメンバーがそれぞれソロパートあるのね。えっと、順番は」
「諸星→赤坂→内海→山本→大沢→敦啓→寛之の順かな。この頃の諸星と佐藤寛之の声はやや似てるから一瞬迷ったけど、多分問題ないはず。それと歌詞も凄いよね。いきなり旧約聖書の天地創造の場面が歌われる壮大さ。でも曲が進むにつれてA.D.つまり紀元後の物語と称して君と僕との色恋沙汰みたいな物凄く小さなところに収縮していって竜頭蛇尾と言うか、あらまあとは思うけど独自の味ともなってるね。そう考えるとこのアレンジも相応だったのかも知れないし」
「次は『二人だけの旅』。作詞篠原仁志、作曲根本要、編曲佐藤準。あれっ、根本要ってあの根本要?」
「音楽業界で他の根本要がいるのかな。ただ正直この曲で一番インパクトのある部分が作曲者の名前という貧相な現実が横たわってるわけで、曲自体はあんまりフックがなくて普通って感じ。アレンジも軽く控え目でささやかな雰囲気を醸し出してて、間違ってもシングル候補にはならないような曲。ただそれが独自の魅力になってるんだよね。歌詞はタイトル通り二人で旅に出ようって事だけど、個人的には男と女の色恋沙汰と決めてかからなくてもいいんじゃないかと勝手に思ってるんだ。ちょっとしょぼい銀河鉄道の夜みたいな。全体的に言うと力不足なのが情緒になってる曲」
「正直しょっぱい感じもするけど。次は『IF WORLDは信じない』。作詞森田由美、作曲石田正人、編曲米光亮。また別の編曲者が出たわね」
「石田はかなり後に一曲提供してるだけだけど、米光はかなり重要な名前だよ。佐藤・新川・米光が光GENJI三大アレンジャーみたいな印象があって、ある時期まではほとんどの曲をこの三人で賄ってるからね。歌詞はまず白雪姫や赤ずきんという童話を例示しながら結局君と僕という小さな関係になだれ込む構成は『B.C.物語』と似てるね。センスが新しい米光による音作りは今までよりやんちゃな感じでそこが新しいパワーになってるけど、五分超えはちょっと長いかな」
「確かに五分を優に超えてるわね。次の五曲目は『俺の手にSay Goodbye』。作詞松井五郎、作曲山本英美、編曲新川博」
「松井も山本もこれが最初だったかな。松井は今後いっぱいシングルの歌詞を書くし、山本はシンガーソングライターで、今後も作詞作曲万能にこなしつつ色々と提供してる重要な作家だよ。そして聴けばわかるけどこれは諸星のソロ曲なんだ。諸星は明るいキャラクターで知られていたけどあえてそういう路線じゃなくて、素直になれない男の不器用な愛し方とかそんな感じの真顔で歌わせるバラードで勝負。これも諸星のキャラが確立していたからこその逆張りで、悪くはないよ」
「次は『NARITAI-NARENAI』。作詞三浦徳子、作曲都志見隆、編曲新川博。これはイントロのサックスからしてまったりとした雰囲気ね」
「佐藤寛之のソロ曲だからね。当時の彼は個性がまだ薄かったってのを反映してかこの曲もフワフワとしててあんまり感じるものはないんだけど、秋になるとそこはかとなく聴きたくなったりする時もあるね。出たのが秋だからだろうけど、このアルバムには秋を舞台とする曲がちらほら見られるんだ。次の『ふたりの宝物』もそうだけどさ」
「作詞許瑛子、作曲富山光弘、編曲武部聡志って初めて聞いた人ばかりね」
「この中では武部は割と有名かもね。光GENJIにおける年少二人、赤坂と佐藤敦啓のデュエット曲なんだけど、いやあ、これはねえ、率直に言って凄い好きな曲なんだよねえ。もっと言うとこのアルバムにおいて一番の名曲だとさえ確信しているんだ。一言で言うと可愛くてねえ、ははっ。この時点においても赤坂と佐藤敦啓の歌唱力の違いは歴然なんだけど、そんな二人による陽気なハーモニーがハートのピュアな部分にクリーンヒットしてくるし。光GENJIには照れの先に良さがある曲ってのも割とあって、これもその一つだと言えるかもね。こっ恥ずかしい曲なんだけどこっ恥ずかしいってのは褒め言葉なんだと悟ったのはこういう曲があったからこそ。無理だって人は一生無理だと思うからあえて他人には勧めないけどはまる人ははまるはず」
「そう。次は『PENTHOUSE WEDDING』という曲ね。作詞亜伊林、作曲大堀かおる、編曲佐藤準」
「作詞者は三浦徳子の変名らしい。そうなるとこのアルバムには三浦名義の曲もあるけど両者の使い分けはどうなってるのって話になるけど、詳細は不明。それはともかくこれは年長二人、光の曲だから歌詞も夜が舞台の大人びた路線。短いイントロからいきなり英語詞って展開はスリリングで格好良いけど、全体的にメロディーが詰まってないのがまずいのか案外そこまでの曲じゃない感じが惜しいね」
「最後のサビのカタカナ英語とかなかなかインパクトはあるけど。次は『夢のティンカーベル』って、タイトルだけでもファンタジーって分かるわね。作詞佐藤ありす、作曲都志見隆、編曲新川博」
「ピーターパンの妖精の名前を使ってるのは伊達じゃないって、まあお察しの通りの曲調だよ。スティールパンみたいなピンピンした音が陽気でいいんじゃない。次は『風の大地』」
「ゴルフ漫画?」
「違う。それと一応あっちよりこっちのほうが先に出たわけだし。作詞原真弓、作曲和泉一弥、編曲佐藤準。ストレートなメロディーにうねったギターの音とピシピシしたシンセ音が合わさって怒涛のようなパワーで強引に押し進んでいくような曲だよ。最後もぶった切るようにダン! ダン! ダン! って感じで終わるし」
「歌詞は、つまり泣いていいって事なのかしら。それにしてはかなり大きく出てるけど。そしてようやくラストの『最後のGood Night』ね。作詞作曲尾崎亜美、編曲佐藤準」
「これは、ある意味凄いよ。静かなイントロは名曲っぽい雰囲気を出してるけどそれを即座に破壊する佐藤敦啓の豪快な歌唱。Aメロの時点でもうお腹いっぱいになるけど、恐ろしい事にこれは佐藤敦啓のソロ曲。つまりこんなズタボロな歌唱のまま最後まで歌いきっちゃうんだ」
「ううん、聴いてて辛くなるわね。あまりにも下手でバッドトリップしそう。曲はそれなりにいいのにこんなのでアルバムを終えていいわけ?」
「ただこれもそれなりの意図あってのものだろうからね。元々はGENJIの曲だったって話も聞くし。歌詞を見るにこれもまあ不器用な愛し方ってところになるんだろうけど、佐藤敦啓の圧倒的に心許ない歌唱は聴く人をハラハラさせっぱなしであっさりと楽曲の世界に没頭させて、最後のサビは感動さえ覚える。これはこれで一つの力だよ。と言うかねえ、尾崎亜美がセルフカバーしてて佐藤敦啓とは比較にならない歌唱力であっさり歌いこなしてるけど、じゃあそっちのほうがいいかって言うと案外微妙な問題だったりするからね。あのアルバムで一番良かったのは『幾千の涙を贈りたい』だなあ」
「それは光GENJIと何か関係あるの?」
「うん、尾崎亜美は優秀だなあって。で、まとめると、このアルバムからソロ曲も出てきたし全体的な質は前作に及ぶところじゃないかな。ソロ曲とはいわばキャラソン、ましてや歌唱力もご存知の通りだから声を重ねてごまかす事もできず、純粋な楽曲のクオリティとしては全員で歌うものよりも落ちる可能性が大きいんだ。それに全体的に中心となりそうな曲がないのもね。『二人だけの旅』は中心に据えるには心許ないし『風の大地』も勢いだけみたいなところあるし。当時のテレビ番組では『Sha-La-La』がよく歌われてたらしいけど、確かにこれが一番全体向きかなあ。ただ断言しておくけど一番の名曲は『ふたりの宝物』。これだけは譲れない。なお中古で割と見かける機会は比較的多い気がするし、Amazonでも堂々の¥1より。まあ気が向いたらどうぞって感じかな」
こんな事を語っていると不意に敵襲を告げるサイレンが鳴り響いた。二〇一四年においては初のグラゲ軍襲来である。内心では今日の訓練がもう徒労に終わる事を望んでいたのだが、やはりそうはいかないようだ。覚悟を決めた二人は即座に変身すると敵の出現した山岳地帯へ急いだ。
「ふはは、私はグラゲ軍攻撃部隊のビクーニャ女! この星の生物を塵一つ残さず絶滅させてやるわ!」
年は明けてもグラゲ軍には関係ない。寒波の横切る日本列島さえも環境変化に強い特殊スーツを着込んだビクーニャ女は関係ない。そしてそれのもっと強いスーツを着込んでいる二人にとっても。
「今年は来ないってちらとでも思った僕が間違いだった! やっぱり侵略を続けるんだね!」
「それならば私たちだって決して容赦しないわよ!」
「ふん、元より容赦してほしいと頼んだ事はないわ! 雑兵ども、かかれ!」
急峻な谷の底には冷たい風が吹き荒れているが、その風がひと吹きする間に渡海雄と悠宇の拳が次々と雑兵を突き刺し、数分の後には多くの塵と三人だけが残った。
「後はお前だけだなビクーニャ女!」
「成人の日も近いんだしあなたも自分の星に戻ればいいのに」
「甘いわ! 私に課せられた任務を遂行するまでは退けるものか!」
こう言うとビクーニャ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。いつもの展開に対して渡海雄と悠宇もいつもの対応、合体を行った。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
巨体VS巨体の一戦はまず取っ組み合いから始まった。パワーは五分と五分。しかし地の利が生来の地球人である二人に味方した。巨大なパワーの均衡に耐えられなくなった大地が砕け、岩雪崩となってビクーニャロボットに降り注いだのだ。「ええい、邪魔をするな!」とばかりに岩を振り払うビクーニャ女に生まれた隙を見逃さなかった。
「今だ! くらえ、メガロソード!」
渡海雄はすかさず赤いボタンを押した。左手より投げつけられた輝く剣はビクーニャロボットの胴体の中央を貫いた。
「ぬうっ、これまでか! まあいい、奇跡に守られた薄氷の勝利をせいぜい大事にするのだな!」
負け惜しみとともに爆散したビクーニャロボット。その直前に作動した脱出装置によってビクーニャ女は宇宙に彼方に戻り、今日もまた地球は一応の安穏を得た。寒い冬はいつまで続くのだろうか。
今回のまとめ
・大沢に限らず家庭の問題は簡単に解決するものでもないしどうなるのか
・悪くない曲が続くも一番いいのが「ふたりの宝物」なのは痛し痒し
・佐藤敦啓の歌唱力は凄いけどソロにゴーサイン出した人はもっと凄い
・入手は簡単だが先に一枚目や三枚目聴いてからのほうがいいかも




