hg04 Hey! Say!について
冬は一段と厳しくなったが街中が赤と緑のクリスマスカラーで包まれているのを見るとなぜか少しだけ暖かさを感じるものだ。渡海雄と悠宇の二人もまたそろそろ終業式と言うことで心は浮き足立っている。そろそろ今年も終わる。
「ふわあ、寒い寒い。いっそ雪でも降ればいいのに中途半端にも雨だからね、かえって寒さ倍増だよ」
「息も白くて怪獣になった気分ね」
「コートの袖を合わせれば気分は中国人だし、冬は楽しめるからまだいいよね。夏なんかはひたすら暑いだけだし、変な虫も多いし」
「私は夏の方がいいって思うけどな。はしゃげるし、暑ければ脱げばいいんだし。厚ぼったく着膨れるのはあんまり趣味じゃないの」
「思えば出会ったのは夏で、秋を経てもう冬になったんだよね。そして二〇一三年もそろそろ終わる」
「本当にね。思い起こしてみるとここ半年は命があっただけで儲けものの人生を送ってきたようにさえ思うわ」
「確かにね。そして元号で言うと来年は平成二十六年になってしまうね。もう四半世紀も平成の世の中が続いているんだ。じゃあ平成が始まった頃には何があったかって言うと、光GENJI三枚目のアルバムが発売されたんだ。その名も『Hey! Say!』」
「JUMPじゃなくて?」
「解散して久しい頃にまさかこの名前を使い回すとはよっぽど愛着があったのかなあ。今のグループとは全然関係ないよ。むしろメンバー生まれてないし。まず今の天皇の前の昭和天皇が崩御、つまり亡くなったのは一九八九年一月七日。それで昭和は終わって平成になったけど、このアルバムの発売はその年の二月だから、まあさっと決めたものだね。他に候補だったって言う修文や正化、あるいは他の元号が採用されてたらどんなアルバムタイトルになってたんだろうね」
「帯にいわく『Hi! につづく今年の合言葉Hey! Say!』って、そりゃあいっぱい言われたでしょうね」
「そんな駄洒落タイトルでも結構売れたみたいで年間アルバム売り上げ八位。僕が持ってるのは光が赤、GENJIが青いスーツを着てるジャケットだけど初回盤は色が逆になってるみたい。写真は、特に若かったメンバーに変化が見られるよ。佐藤敦啓はちょっと大人に、そして赤坂は身長がかなり成長してGENJIの中で明らかに頭一つ抜け出してきた。山本は前作の悲惨な髪型から脱出、佐藤寛之はルックスがちょっと洗練されたようなそうでもないような感じかな」
「内海と大沢、それに諸星はあんまり変わらないわね。まあもうキャラクター確立してるから変わる必要もないんでしょうけど。楽曲はまず『青春にはまだ早い』からスタート。作詞は高柳恋、作曲は全曲の編曲もこなす佐藤準」
「軽やかな打ち込みが特徴で勢いのある曲だよ。また、都会が舞台のアーバンな雰囲気は今までの楽曲にはなかった特徴。曲の世界観はウエスト・サイド物語を下敷きにしていて硬派、不良っぽい雰囲気が漂う。冷静に考えるとメロディーも歌詞もそんなに良いわけじゃないんだけどアレンジの軽快さが全部持っていく感じかな」
「次は『あ・き・す・と・ぜ・ね・こ』。作詞作曲飛鳥涼」
「『パラダイス銀河』の次のシングルとして書かれた曲らしいよ。シャッフルのリズムで軽快だけどシングルってほどでもないと思う。初めての告白に向かうべく花を買って電車に乗って、その道中で色々な事を考えてドキドキしてるってシチュエーションのかわいい歌詞。そういえばタイトルも、知らないけどあきすとぜねこって簡単な占いみたいなものがあって、当時でもレトロな代物だったけどあえてそれを押し出す意図があったみたい。と言うか、この曲に関しては歌詞のほうが好みかな。そういえば同名のビデオもあったけど、これもまあ内容はあってないようなもので色々と見ててきつい部分はあるね。やっぱりね、そういう目で見てないから」
「まあアイドルのビデオはそんなもんでしょ。次は『クリスタル・ユニヴァース』。作詞三浦徳子、作曲都志見隆」
「曲自体はバラードだけどね、イントロのストリングスから歌い出しの歌詞、サビの英語から間奏のコーラスまで異様に気障。それでこのタイトルだからむしろ絶妙だよ。三浦は八十年代を中心に様々な歌手に提供してる実力派で、今後も気障な歌詞をいっぱい提供してくれるよ。好き嫌いはあれど、個人的にはここまで行くとむしろ有りって歌詞が多くて結構好きだよ。この曲なんかも逆に熱いでしょ。変に荘厳で荒木姫野みたいなイメージ。そう考えるとタイトルも聖闘士星矢の必殺技みたいなノリに思えてくるし。ちょっと恥ずかしいけど悪くないよ」
「次は『冬のライオン』。作詞康珍化、そして作曲羽田一郎」
「ライオンだけあって全体的にワイルドな雰囲気で、ドラムやベースの音が他の曲より強調されてるダンスナンバーだよ。ステージでは歌の部分以上にそこが本番だったんだろうなと思わせる長い間奏が印象的。曲は基本的にドコドコしてるけどいきなりメロディアスな部分が現れて、しかもその部分は一度しか出なかったりと比較的凝った構成になってるよ。最初はあまり好きじゃなかったけどね、今は普通に聴けるし好きな曲」
「次は『いつかきっと…』。作詞作曲飛鳥涼」
「当時光GENJI主演の映画があって、これがその主題歌だったんだ。曲を包むどこか浮遊感のある幻想的な雰囲気もいいけどさすが飛鳥、歌詞もビシッと来るよね。例えば一番のサビ前とかやけに大きな事を言ってるけど棒読みな歌い方からも分かるようにこれはあくまで将来の努力目標。現実の世界にはままならない、悲しい出来事はいっぱいあるしそれを今すぐ解決は出来ないけどあくまでもタイトルは『いつかきっと…』だからね。『簡単にはうまくいかないよね』とどこか諦観さえ漂わせつつも、それでも諦めずに明日を待ってみようじゃないかという空気感は独特。大きい事を言うにしてもまずは君と僕からって、チャゲアス的には『ripple ring』と共通する世界にも思える」
「いやいや待って待って。『ripple ring』ってどんな曲なの?」
「どんなって、まったりしててじっくりはまる感じの佳曲だよ。チャゲアスに関しては本分じゃないからここまでにしておくけど。ただ最後の子供の声のコーラスはなくても良かったかな」
「何だかはぐらかされたみたいね。次は『TOUCH ME』。作詞篠原仁志、作曲和泉一弥」
「篠原はともかく和泉は今後も割と出番多いから覚えておいてね。実力のある作曲家で、今後もいい曲が連発するから。と言うか今年AKB48に提供してると知ってびっくりしたなあ。まあそれはともかく、この曲はスピード感があってマイナー調ながらもなかなかに情熱的で格好良い曲だけど、最後のサビに入るタイトル連呼のコーラスがまずいね。これさえなけりゃこのアルバムで一番好きって言えたかも知れないのに。『いつかきっと…』も『TOUCH ME』もそれがあってもいい曲なんだけどね、だからこそもったいない」
「ああ、確かにこれはちょっと唐突に聞こえるわね。一定のスピードで繰り返してるんだけどわざと音を外してるみたい。そして次は『MY DEAR~親愛なる君へ』。作詞森本抄夜子、作曲村田和人」
「アコースティックな雰囲気が漂う卒業ソング。卒業ソングと言えば『Graduation』ってあったけど、感動的なあれとちがってこっちは暖かい春風が通り過ぎるような曲で雰囲気は結構違うね。そこは二番煎じにならないよう意図的に差別化を図ったんだろうけど成功している。割と短くてスッと入ってそのまま出ていくような爽やかさがあって、地味かも知れないけどこれもいいね」
「次は『セレナーデの時間』。作詞三浦徳子作曲都志見隆」
「Hikaru's Songと書かれてるように内海と大沢の二人だけが歌ってる曲だよ。ただ二人とも歌唱力に問題があるってのは理解できるけど、特にサビはコーラスが入りまくって本当の声が不明になってるのはやりすぎ。と言うか歌声だけじゃなくて歌詞も曲も意味不明でねえ。マイケル・ジャクソン風の奇声入るしメロディーよりリズム重視の洋楽的雰囲気を狙ったのかなとは思うけど。ただこの路線で佐藤準編曲だと『BAD BOY』もそうだったけどもったりしすぎるからね。もっとシャープで本格的な編曲のほうが良かった気がするな」
「本当に意味不明というか最初からノリ一発って感じで整合性は考えてなかったみたいね。次は『出逢い』。作詞作曲大江千里」
「大江は当時人気だった眼鏡がトレードマークのシンガーソングライターで、歌はとてつもなく下手だけどいい曲を作るんだ。そしてこれはGenji's Songという事で諸星から佐藤敦啓までも五人による歌唱だよ。静かだけど決意を感じるバラードで二番以降のサビで赤坂が別のメロディーを歌い始めるあたりが肝」
「そして十曲目が『新生紀』。作詞有川正沙子、作曲林哲司」
「オメガトライブっぽいコンビだけどこの歌詞は強いよ。ドラクエとかああいうファンタジーの世界。曲の盛り上がりもアニメソングっぽくて、実はこのアルバムで一番好きな曲なんだ。勇者にでもなった気分で高らかに歌うと気持ちいいんだよね。それにしても最近立ち読みして知ったけど有川正沙子って一般公募でタイガースの『白夜の騎士』を作詞した有川正子さんとは別だったんだね。もしかすると今年で一番驚いたかも」
「それは知らないけど確かにこの歌詞は攻撃力が高いわね。ただ言うほど新世紀かしら。むしろ異世界トリップ的な雰囲気さえあるけど」
「なろうの流行りじゃないんだから。流行りといえば八十年代まではソ連も生きてたし核戦争が起こって人類滅亡かそれに近い状態にってのはそれなりに現実的な恐怖だったと聞く。それとノストラダムス。十六世紀のフランス人だけどこの人が残したポエムをノストラダムスの予言と称してやりたい放題にやった人たちがいるんだ。一九九九年七の月に人類滅亡とかぶち上げたりね。ご存知の通り、そんな予言は外れたから今となっては哀れ稀代の嘘つき扱いだけど本当の詐欺師はノストラダムスじゃなくて人々の未来への不安につけこんで好き勝手言ってくれた現代の作家たちだからね。とにかく、まとめると世紀末に壊滅的なカタストロフが起こってから訪れた新世紀、廃墟と荒野の中をそれでも若者たちはたくましく生き抜くって歌詞世界だよ。新世紀じゃなくて新生紀だもんね。季節が冬なのも単なる季節と言うより核の冬的な何かっぽいし。それと『冬のライオン』と魂が繋がってる印象もある。どっちも歌詞があんまり現実的じゃないからかな」
「確かに単なる恋愛の曲としては処理しきれない程に勇壮な単語が連発するのは共通してるわね。そして次が最後の『青春にはまだ早い~翼~』って、確か一曲目もこんなタイトルだったような。作詞高柳作曲佐藤も同様ね。でも曲の感じは結構違うみたい」
「短くて爽やかなバラードだね。いかにもエピローグって感じで、これ単独でどうってものでもないかな。これと一曲目が合体したような『New! 青春にはまだ早い』って曲が元々シングル候補だったけど土壇場でカップリングに回されたって事もあって、あれは確かにパワーアップしたけど元来の魅力である軽やかさが減退したのがね。だからNewより何もついてないものが個人的には一番。と言うわけで、まとめるとこのアルバムはいい曲が多いよ。全アルバムで順位をつけたら二番目となる」
「結構な高評価ね」
「一般的にはファーストアルバムの評判が高いけど曲数とかも考えると個人的にはこっちかな、みたいな。しかもインターネット上でも結構安価で買えるし中古CD屋でも見かける機会はそれなりに多い。まあどんなに見積もっても五百円以下で入手可能だし、それ以上の価値は確実にあると断言してもいいよ」
ここで敵襲を告げる緑色の光線が二人の視線を集めた。またもグラゲ軍は地球を支配下に置こうと邪悪なるその手を伸ばしたらしい。先人たちが恋焦がれた新世紀に生まれ、新世紀を生きる渡海雄と悠宇は今日もまた勇気を奮い立たせて変身し、敵の群れへと突入していった。
「ぐわははは、この俺こそがグラゲ軍攻撃部隊のティラピア男だ! 迅速に征服してやるわ!」
寒風吹きすさぶ山中の道路沿いにある小さな池のほとりに現れたティラピア男は道行く人間を片っ端から殺害する腹積もりであった。しかし最初に現れたのは一般人ではなかった。
「まだ被害は出てないみたいだな。良かった。でもお前たちは許さないぞ!」
「師走だけに今が一番忙しい時期なのに少しは迷惑も考えなさい!」
「ふん、俺の最初の餌食となるのがお前たちか。雑兵ども、かかれい!!」
アスファルトから生み出されたかのように十重二十重に渡海雄と悠宇を囲む雑兵たちであったが、実力差はいかんともしがたく次々と消滅していってついにはティラピア男を残すのみとなった。
「雑兵は片付いたな。後はお前だけだティラピア男!」
「あなただってさっさと家に帰りたいでしょう。何も戦う必要なんてないでしょう」
「まったく、俺が家に帰るのは任務を終えてからだ。そう、お前たちを殺すと言うな!」
そう言い終えるとティラピア男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。またも徒労に終わった説得だがこれをしない事には軍人と同じになってしまうのではないかという恐れから言わずにはいられないのだ。しかしこうなった以上は戦いをすぐ終えるため、渡海雄と悠宇も合体した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
霧雨が巨体を湿らせる中、一瞬の隙も見逃すまいと対峙している。沈黙を破り先に動いたのはメガロボットのほうであった。
「行くぞ! エンジェルブーメランだ!!」
渡海雄は桃色のボタンを押した。背中から飛び出した二枚のボードを素早く組み立てると、それをティラピアロボットに向かって思いっきり投げつけた。ブーメランの変則的な動きにティラピアロボットは対応できず、その身は真っ二つに切り裂かれた。
「くっ、圧倒的な力ではないか。どうやら撤退するしかなさそうだ。おのれ」
ティラピアロボットが爆散して仄暗い空に消える刹那、作動した脱出装置はティラピア男を宇宙の彼方へ連れ去った。何とか二〇一四年を迎えられそうである。しかしそんな地球人類の習慣をグラゲ軍は気にしない。今年中にまた敵が現れる可能性はまだまだある。そうならないようにとは願えど、敵が現れればやるしかない。
「何があっても僕ら一緒だよ」
「ええ。これからもきっとね」
指を凍えさせる風の中、二人は改めて友情と闘士を小さな胸に誓い合った。
今回のまとめ
・大荷物抱えて帰宅中の小学生を見て学期末の到来を悟った
・このアルバムは見かけたら買ってあげてどうせ安いし
・三浦徳子や和泉一弥など重要な作家が参加してくる
・それにしても平成ももう四半世紀を超えようとしてるんだなあ




