pr17 高橋ユニオンズ解散の1956年について
夏六月に入っていきなり太陽はテンション全開にその存在感を振りまいている。早くも暑いんだけど、これからまだ十度近く気温が高まると思うとオリンピックも大変だ。本来そういうところであれこれ言われてたけどコロナというそれ以上の大問題が現れて、しかし前の問題が解決されたわけでもない。
「という事で今回は一九五六年」
「前年は若手野手を積極的に起用しつつベテランや投手陣の奮闘もあってギリギリ四位だったね」
「もちろん世代交代の流れはこの年も同じ。白石監督はわずか九試合の出場に留まり、この年を限りに指導に専念する事になったし、助監督兼任となった門前も出場機会を減らして同時に現役引退。長持も代打満塁ホームランを放つなどベテランらしい勝負強さを発揮する場面はあったものの全体的にははっきりと退潮傾向」
「いずれも三十代後半の大ベテランだからさすがにもう限界か」
「それより少し若い小鶴と金山は規定にこそ到達したものの、成績的には厳しくなってきた。小鶴はどうにか二桁ホームラン打ったけど打率は二割五分台だし。また守備力も低下してきたようでファーストでの出場がメインとなっている。金山に至っては打率が二割ギリギリで、得意の盗塁でも十八盗塁十七盗塁死はまずいわ」
「これでレギュラー安泰はちょっとしんどいね」
「引き続き打低時代が続いているとは言え限度があるわ。ともあれこうしてベテランが衰えていくのは自然の摂理であり仕方ない。それを補うような若手が台頭してくればいいんだけど、その点でこの年一番ブレイクしたのは高卒三年目の緋本祥好よ。それまで二年の一軍出場はゼロだったけど、新たなフォームや川上哲治を参考にした練習法を試すなど不断の努力が実って一軍昇格した。時代もあって打率は低いしリーグ最多三振ながらもチーム最多の十五ホームランを放ち、生え抜きの大砲として一躍名乗りを上げるに至った」
「おお、やるねえ。そう言えば去年期待されていた藤井は?」
「この年も長く二軍でくすぶっていたけどシーズン終盤にようやく何かを掴んだらしく、九月からは五番ファーストに定着した。打席数は二桁ながらもホームラン四本はかなりのペースで、緋本と合わせて和製大砲候補が揃ってきたというお楽しみな時期に突入したと言えるわ」
「夢が広がるね」
「去年は小谷川原野上と試されたキャッチャーだけど、この中から川原が台頭。二十歳年上の門前と出番を分け合い、打率は門前を上回るなどなかなかの成績を残した」
「それで後継が見つかったって事で門前が引退なわけか」
「それとカープ初年度に加入した生き残りである磯田憲一や長谷部稔もこの年を限りに引退した。磯田は非力な小兵ながらも内外野を器用に守ってチームを支えたし、長谷部は選手としてよりもカープOB会会長や初期カープの語り部としての貢献が大きい」
「そういう選手が去って、次第に黎明期も歴史になっていくんだね」
「さて他の野手陣を見ていきましょう。まずサードは広岡や原田信吉、ショートは米山メインで恵川康太郎や終盤には高卒新人の阿南潤一が守ったけどこんな成績じゃ駄目よね。広岡が辛うじて二割台だけど他は一割台がズラリと並びパワーもスピードもない」
「元名ショートの白石監督からしても苦しかっただろうね。さすがにもう自分が代わる事も出来ないし。この中だと新人ながらもホームラン一本打ってる阿南が一番可能性あるかな」
「そう言えばこの年は新加入選手に関しても正直イマイチ。正随の祖父である三原卓三や約三十年後に航空事故の犠牲となった竹下元章など成績以外の部分で知られる人はいるけど……。移籍選手も大阪から栄屋悦男、東映から小野拓を獲得したけど全然働かず一年で引退だし」
「なんかネガティブな話が続くね」
「ベテランが衰えるスピードと若手が出てくるスピードが釣り合ってないから、まあ苦しいわね。今のカープだとコロナによって抜擢された若手野手はよくやってくれてるけど投手陣は……。昔話に戻るけど、外野陣は平山と先述の緋本に加えて二年目の木下強三が一定の打棒を発揮してレフトに定着した。一方で銭村はかなり成績を落としてこの年限りで故郷へと帰った。元盗塁王の土屋もわずか一盗塁では引退やむなしかな」
「こう見ると全体的には一時的に盗塁を多用する野球は後退して、さりとてホームランなど新たな特徴が芽生えたわけでもないし、率直に言うとかなり後退してるように見えるね」
「打低時代だしさもありなんかな。そして肝心の投手陣だけど、長谷川はやっぱりエースよね。さすがに前年ほど非常識な数字ではないものの二十二勝、太田垣も二桁勝利だけど松山が一気に落ちた。そこで二年目の橋本敬包や三年目の山田清志が多く使われたものの穴を埋めるには至らず。というわけでチーム成績だけど、勝率三割台の五位と残念ながら大幅に後退してしまった」
「あらまあ」
「というわけでセリーグの状況だけど、優勝はやっぱり巨人。与那嶺川上とリーグに二人しかいない三割打者を独占してる上に、藤尾宮本といった若手もレギュラーに加わった。この宮本が六十九打点で打点王ってのも今見ると凄まじいけど。投手陣も中尾は衰えたけど別所は最多勝にMVP獲得し、若手では堀内庄という今となっては同じ名字の別人のほうが有名だから微妙にバッタモンっぽい名前の投手が防御率二位に輝いた。でもそんな巨人以上に強力な投手陣を誇る大阪が八月には首位に立つなどよく争った」
「久々にタイガースが存在感を発揮してきたね」
「チーム防御率一点台は極めて良質。ただ野手が、機動力や守備は良くてもパワーは巨人と比べてはっきりと見劣りしていた。また藤村監督がチーム掌握に失敗していたのも痛いわ。スターゆえに監督になってからも自分が映える事ばかり考えてる姿に反感を持つ選手もいて、それと年俸の不満なども絡まってオフに退陣要求書を突きつけられるという派手なお家騒動が展開されるけど割愛。三位は中日。ここも若い投手が次々と台頭して、野手も中利夫とか出てきたけど中軸を担うべき日本一組の成績が落ち着いてやや迫力不足。この辺をジリ貧と見たか野口監督は退任し、後任には三たび天知俊一が駆り出された。そして四位は国鉄」
「ここ二年ギリギリで持ちこたえてたけどついに抜かれちゃったか」
「この頃からエース金田がいよいよピークの時期に突入したし、それ以外の投手や野手も小粒ながらもそこそこ形になってきた。巨人相手に十一勝十三敗と健闘しているのは巨人から言わば左遷された宇野監督の闘志ゆえと言われているわ。まあ結局上位三球団とはかなり離されてるんだけど」
「それでカープが五位って事は、最下位はやっぱり大洋」
「とは言え前年の成績を見てさすがにやばいとフロントも反省したか、戦力補強に本気を見せた。そのためにまず明治大学の指導者だった迫畑正巳を招聘し、それと同時に教え子五人が一挙に加わった」
「さすが捕鯨球団だけあって豪快な一本釣りだね」
「特にエースの秋山登はいきなり二十五勝を挙げて新人王に輝き、岩岡内野手と沖山外野手も早速規定到達。それに加えて青田がまたもホームラン王獲得。選手に戻った藤井勇も四十歳とは思えない好成績を残した」
「それでもドベなのか」
「所詮は前年九十九敗の球団だからね。これでも勝率一割跳ね上げたんだから大健闘よ。そしてパリーグだけど、西鉄が黄金時代を迎えた。かねてから的確な選手強化で中西豊田など力強い野手が揃っていた上に、稲尾和久という無名の高卒新人がいきなり防御率ほぼ一点と大暴れするわ前年石本秀一コーチの助言でサイドスローに変更した効果で島原幸雄が五年目にして二十五勝と台頭するわ、それに河村久文や西村貞朗も好成績で投手陣も一気に強化された。しかも彼らは軒並み若い。その勢いが洗練された野球の南海を食い、日本シリーズでは巨人をも飲み込んだ」
「いやあお見事だねえ」
「南海も強かったんだけどね。強いて言うなら盗塁は多くともホームランは西鉄に大きく及ばず、投手陣も層は厚いけど二十勝はなしと、チームの完成度は高いけど爆発力が足りなかったのかな。でも九十六勝で二位じゃもう仕方ないわ。相手が悪かった。そしてそんなシーズンに高卒三年目の野村克也がレギュラーを奪った」
「言わずと知れた人がこうやって出てくるのか。まだ成績は平凡だけど」
「それは後の活躍を知っているから言える言葉で、打低時代にキャッチャーが二割五分の七本塁打なんて他にそういないからね。三位は南海より盗塁の多い阪急。投手も梶本隆夫がベストナイン、大阪と争奪戦の末に辛うじて入団が認められた米田哲也も早速二百イニングを投げるなど途中まで優勝争いを繰り広げた。そう言えばこの時代は仁義なき選手獲得競争が毎年繰り広げられてて、米田以外にも穴吹とか井崎とか各球団色々過激な話があるんだけどカープが絡みにくい話だから触れにくいわ。四位の毎日も気付いたら山内和弘、榎本喜八、葛城隆雄と随分フレッシュな好打者が揃ってきた」
「こう見るとパリーグのほうが若くて優秀な人材が揃ってるみたいだね」
「実際日本シリーズでもそういう結果になったしね。そしてパリーグの下位だけど、五位は近鉄、六位は四十四歳の岩本義行が選手兼任監督として舞い戻ってきた東映、七位は林って投手が四人いるのが気になる大映、そして最下位はトンボがスポンサーから撤退したので元の名前に戻った高橋。なお高橋はこのシーズンを最後に解散となる」
「悲しいね。無理やり作ったのにあっという間に最期を迎えてしまった」
「それでもこの年はようやくプロらしい陣容になったという評判で、実際シーズン試合出場や新人最多安打の記録を持つ佐々木信也ら優秀な選手が入って成績も多少は向上してるからね。とは言え弱体は弱体。佐々木の回想だと自分のサヨナラエラーで負けた試合でも先輩方は一様に優しく、その時は『いいチームだな』と感じたけど引退後振り返ると『だから弱かったんだな』と思い至ったとか」
「まずチーム内の激烈な競争に勝ち残った選手だからこそ相手との戦いにも勝てるものなのかもね」
「でも仮に高橋が歴史を重ねられていたらそれも黎明期の一コマとなっていたはず。カープの選手がステージで歌って金を稼いでたとかと同じようなね。しかし高橋はその時代が全てとなってしまった。エクスパンションという崇高な行為をその場の思いつき程度のレベルに貶めた当時のパリーグのビジョンのなさゆえに」
「生まれ落ちた後に大した支援もないんじゃこうなるのが普通だよね」
「とは言えカープだってこうなっても不思議じゃなかったけど運とかタイミングに恵まれたのもあるし、地元ファンを得られたのも幸いだった。高橋は川崎が本拠地だったけど、地元球団と認識していた神奈川県民は果たして存在したのか。だからって例えば東北や北海道など当時プロ野球未進出の土地へ打って出るにしても交通機関の未整備など多くの障害が待ち受けていたんだけど」
「結局どうすれば良かったんだろうね」
「球団単位での努力と言うより、組織的に守り立てるしかなかったと思うわ。今以上にリーグ間の仲が悪かったから球界全体で、とはいかないにせよせめてパリーグは責任を持ってチームを育てるべきだった。高橋球団の顛末は典型だけど、場当たり的な運営のツケはそのうち『優秀な選手を抱えているにも関わらず人気低迷』という形でその身に降りかかる事となるわ。加えて高橋から楽天までの五十年、実に半世紀も新球団誕生がなかったのもこれを前例としてエクスパンションを躊躇させたかと思うとその罪深さは計り知れないわ」
「成績から見ると高橋が良くない前例なのは間違いないもんね」
「こうして徒花として散っていった高橋だけど、そこから球界は一体何を学んだのか。『やっぱり球団を増やすのは駄目だな』じゃあまりにも虚しいじゃない。しかし時代は何か大きな渦に飲み込まれるように一つの完成に向かって形作られていく。来年と再来年あたりはそんな感じの話になるはず」
そんな事を語っていると敵襲を告げる合図が点滅したので、二人は人目をはばかってから変身し、戦場へと馳せた。
「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のアフリカオオノガン男だ。」
アフリカのサバンナに住む、飛べる中では世界一重たいという特徴を持つ鳥の姿を模した侵略者が草原に出現した。この鳥は、あまりにも大きすぎるため猛禽類からは狙われず、逃げる際は飛ぶので大型哺乳類からもあまり狙われないという非常に強力な種なのだが勝手に地球を荒らされても困るのですぐに対抗勢力が訪れた。
「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」
「走って逃げても飛んで逃げてもいいけど、とにかく地球の邪魔はしない事ね」
「ふうむ、これがグラゲに歯向かう愚者の顔か。哀れな奴らめ。死ぬがよい。行け、雑兵ども」
偉大なる太陽の光に照らされてにょきにょきと萌え出る草木のように湧いてきた漆黒の殺戮エージェント達を、二人は次々と破壊していってついには全滅させた。
「よし、これで雑兵は打ち止めか。ならば後はお前だけだアフリカオオノガン男」
「これまで宇宙に天敵もなく伸び伸びと侵略してきたみたいだけど、それもここまでよ」
「何を言うかと思えばたわけな。今までも邪魔者は数多くいたが全て平定された。グラゲこそ正義だからだ」
アフリカオオノガン男はそう言うと懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。ただでさえ巨大なものがさらに大きくなってしまってはもはや交渉の段階ではない。二人は覚悟を決めて合体し、目の前の暴力に対抗した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
メタリックなボディが強い日差しを集めて白く乱反射している二つの巨体が、今まさに空の彼方で炸裂した。さすがは巨大な鳥だけあってパワーは抜群だが、飛行自体は不得手でもあるので細かい機動力に欠けるのが反射神経に優れた悠宇を相手には致命的だった。悠宇は細かく動き回って攻撃を回避しつつ背中を取った。
「よし、今よとみお君」
「分かった。この巨体を崩すにはエメラルドビームで勝負だ」
一瞬の隙を逃さず、渡海雄は緑色のボタンを叩いた。瞳から溢れ出すエネルギーが敵を焼き払った。
「なるほどこれは確かに強いな。しかし仁義なき戦いをいつまで続けるつもりかな」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってアフリカオオノガン男は宇宙の彼方へと帰っていった。
今回のまとめ
・老兵が去りゆく中で次への流れがまだ弱いので低迷もやむなしか
・その一方で他球団は超大物が続々出てきてその格差がしんどい
・巨人も南海も強力だけどそれ以上に西鉄の若さと勢いが圧倒的
・新球団たかが三年で何が出来るものか永田雅一は無責任すぎる




