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hg33 Spotifyについて

 せっかくのゴールデンウィークにも自粛の日々を送っている。せっかくのツツジの花もどこか色あせて見えるのは心が閉じこもっているからだ。気温だけはすくすく高まっても、胸の高鳴りがなければなにもないだろう。


「それでついにSpotifyに手を出すに至ったんだよ」


「ああ、あの音楽聴き放題の。というか遅くない? なんで今さら?」


「まずこれまで手を出してこなかった理由としては、どうせ光GENJIもチャゲアスも解禁されてないからってのがあった。一種の審美眼とでも言おうかな、僕がそういう解禁されてない歌手を好きになるようなセンスの持ち主だから、手を出したところであんまりメリットないんじゃないかって疑念を拭いきれずにいたんだ」


「何が審美眼よしゃらくさい。で、それを拭えるようになった原因は?」


「平たく言うと暇だから。ちょっと格好つけて言うと、昨今の時間だけは余る中でより冷静に考えられたからだよ。そもそも光GENJIもチャゲアスもとっくに音源なら概ねコンプリートしてるわけだし、個人で楽しむ分にはむしろ正しい使い道は他にあると気付いたんだよ」


「正しい使い道?」


「それが何かは後で話すとして、やっぱり未解禁と知ってても真っ先に検索したのが光GENJIとかチャゲアス関連なのは当然だよね。それでまずは光GENJI、オフィシャルな音源は当然皆無と思いきや千住明によってオーケストラアレンジが施された、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団演奏、マリオ・クレメンス指揮の『2001 classics』は全曲配信されていた!」


「へええ! でも本人の歌声があるわけじゃないオーケストラバージョンってオフィシャルと認定していいの?」


「確かに歌声は入ってないしジャケットはおろかブックレットにも一切写真が使われてないからどうなのってのはあるけど、ジャニーズネットで内海と佐藤敦啓のディスコグラフィには掲載されているからオフィシャルと判断した。なお八十年代にオリジナルカラオケと称して歌抜きの音源をまとめたり、九十年代にはマーチコレクションと称する運動会で使えるアレンジがなされたアルバムが出てるけど、これらはディスコグラフィに掲載されていないし配信もされていない」


「ジャケットだけ見るとそれらのほうがまだオフィシャルっぽいのにね。あの『パラダイス銀河』アニメPVの絵が使われてたり」


「改めて見ても下手だよね。マーチコレクションのほうは当時オフィシャルグッズにも使われていたイラストレーターの人が担当している。それで『2001 classics』に戻るけど、改めて聴いてみると『パラダイス銀河』の強さにほとほと感心する。良い悪いとか好き嫌いじゃなくて強い。Spotifyにおいてもアルバム名が『パラダイス銀河:オーケストラ・バージョン』という名義になってるぐらい圧倒的だ。また諸星と赤坂がジャニーズ離脱後に発表した楽曲は一部配信されている」


「なんだ、ちゃんとあるんじゃない」


「ただ今まで語った分のアルバムじゃなくて、それ以降の活動についてだからね。特に諸星はかなり数が多くて網羅はきついと思ってただけにありがたい。その中でおすすめは二〇一五年に発売された『あさきゆめみし』。作詞は氣志團の綾小路翔。彼が育った八十年代文化をリスペクトする一環で光GENJIも愛していて、例えばテレビ番組のトークで青春の一曲がテーマだった時、他のメンバーがBOOWYだのユニコーンだの挙げてる中で堂々『サマースクール』だからね。しかもそれは今年の話だけど、軽く調べた中では二〇〇二年にはすでに同曲をラジオで流すなど極めて一貫している」


「アルバム曲ってのがまだ男気よね」


「光GENJIはアルバムもいい曲が多いから仕方ないね。それで『あさきゆめみし』、そういうガチ勢が手掛けただけあって光GENJIの楽曲のエッセンスがふんだんに盛り込まれているのが特徴。『天使が天へ帰る日』みたいな。作曲は鶴久政治で、軽めのポップス風。自作曲だと大抵重たくなりすぎるから、かえっていい塩梅になっている」


「他にもつんくが手掛けた曲とか吉幾三の替え歌とかあるみたいで、芸能界でのコネクションはさすがよね」


「後は一九九七年に公開された、史実に基づいた日本とロシアの友好を描いた文部省推薦のアニメ映画『幕末のスパシーボ』の主題歌に使われた迫真のバラード『終わりのない夢~スパシーボ~』、独特なシャウトや歌詞センスが一部ネット上でネタにされた『Nine Ball』あたりが著名なところかな。一方で赤坂、二〇一八年に音楽活動を再開したのは言ったっけ言ってなかったっけ」


「しかしなんだかんだ言っても結局戻ってくるものなのね」


「一応宮古島でお店をやりながらタイミングを見計らってライブ開催したりという活動スタイルみたいだけど、どっちにしてもコロナ直撃なお仕事だけにとっても不安だったり。ともかく五曲ほど配信された楽曲があって、その中では『夢のつづき』『SUNNY DAY』あたりの爽やかな曲調が好み」


「歌声自体はあんまり変わってないみたいでそこは一安心かな」


「とにかく日々の積み重ねこそが最大の宝物だからね。とりあえず本人関連はこれぐらいとして、他に楽曲提供者のセルフカバーという形で尾崎亜美『最後のGood Night』、村田和人『MY DEAR~親愛なる君へ』も配信あり。例えば尾崎とかね、クールで安定した歌唱は佐藤敦啓とは比べるのもおこがましい程なんだけど、その分引っかかりなく通り過ぎてしまう部分も否めない。という事で案外普通な出来だった」


「そりゃあれだけガタガタな歌唱だと逆に引っかかりもいっぱいだもんね」


「まあ実は尾崎のアルバムは持ってて『幾千の涙を贈りたい』とか格好良いよ。後はセルフ以外のカバーだと、謎のオルゴールバージョンとかそういうのがメインな中でSHUUBI with 古川昌義が『PLEASE』を歌っている。ただこれは光GENJIのカバーというよりセルフカバーしたASKAバージョンを改めてカバーしましたってニュアンスが強い」


「複雑な経緯を辿ってるわね」


「そもそもSHUUBIという女性歌手もギタリストの古川も飛鳥ソロコンサートのバックバンドやってた経歴があるからね。だからその繋がりで飛鳥ソロ曲『晴天を誉めるなら夕暮れを待て』のカバーもやってる。という事で今度はチャゲアスの話になるけど、実はChage、この表記あんまり好きじゃないんだけど、とにかくチャゲの曲は割と配信されているんだよ。最新リリースが水谷千重子ことお笑い芸人の友近とデュエットした『浪花恋しぐれ』なのはひたすら脱力するけど」


「ええ、何その演歌みたいなタイトルは」


「みたいな、じゃなくて完全に演歌。元々は都はるみと作曲家岡千秋が歌う、桂春団治という有名な落語家とその妻の夫婦愛を描いた一九八三年のヒット曲で、間奏に台詞が入るような臭い代物だけど……。『今日は…こんなに元気です』でチャゲが台詞入れる予定だったけどやめたという話あったけど、それは賢明だったなと納得出来る仕上がりになっている」


「取って付けたような関西弁とか、確かに何か笑っちゃうわね」


「お笑い芸人が関わっているとは言えギャグの要素はなく、真剣だからこそ笑わずにはいられない。またセルフカバーという形で『終章』『ロマンシングヤード』など、ライブ盤で『東京DOLL』『CRIMSON』なども聴ける」


「一応チャゲアス聴こうと思えばチャゲが孤塁を守ってるのか」


「ただそれ以上に重要なのが提供曲の数々で、特に八十年代のアイドルに提供した楽曲が数多く配信されているのはありがたいの一言。ただ例えば芳本美代子はシングル集のみ配信されているので『サカナ跳ねた』『真冬のウサギ』はあるけど『オンリーロンリー』などアルバムやカップリング限定の曲は現状聞けないとか、歌手によって事情は異なっている。無論全然配信なしのケースも多い」


「でもアルバム曲も全部配信されてる人もいるんでしょ?」


「それはもちろんね。それで新しく聴けたのが早見優の『麗彩Night』。これでレーザーナイトと読ませるセンスも素敵だけど、『ふたりの愛ランド』直系の能天気な曲調も良い。それと西田ひかるに提供した『プンプンプン』はアレンジ軽くてしょぼいと思いきや、そのチープさが癖になりかねない危険な曲。でも『ROLLING DAYS』の歌詞を変えた『月夜に機関銃』はやっぱり無理があった」


「チャゲ曲でも案外あるものね」


「むしろガッツリ狙えるのはチャゲの強みだから、もっとガンガン提供しても良かった。さて続いては飛鳥曲。もう持ってるものは割愛するとして、まず歌い方があんまり好きじゃないので敬遠していた工藤静香の『Step』『夢』。バラードの『夢』はまさに敬遠した理由そのもののちょっといらっとする安い歌唱がしんどかったけど『Step』はなかなか。イントロのコーラスが一瞬飛鳥っぽいけどだんだん別人になるのが面白い」


「曲自体は爽やかな感じで、しかも八十年代の提供曲とはまた違う質感のリズムが楽しいわね」


「それと伊藤麻衣子、現在はいとうまい子という名義になってるけど、彼女に提供した『夏の封印』は拾い物だった。一九八四年と提供曲の中でもかなり初期でしかもアルバム曲だからなかなか手に入らなかったけど、うねりあるメロディーを包み込むような柔らかいサウンドは珠玉。他に南野陽子『MARIA』はやたらと壮大かつ七分超えと長い。この曲が収録されたアルバムは南野が暴走を始めたと評判悪かったから手を出せずにいたけど、曲単体ならなんとか。渡辺満里奈『星に気づいて』、曲はともかく歌が汚いのがもったいない」


「そうやっていまいちそうな曲を聴いてやっぱりいまいちだったって軽く割り切れるのもサブスクの強みよね」


「中古CD屋を巡って決意して金払って『星に気づいて』だったらよっぽどがっかりだっただろうからね。また高橋真梨子やテレサ・テンに提供した『十六夜』『エレジー』辺りの、いかにも都会に生きる女って雰囲気全開のクールなサウンドも格好良い。二十一世紀突入後の鈴木雅之『No credits』も、曲自体は『NOT AT ALL』にありそうなコクのなさだけどサウンドと歌唱でしっかり雰囲気を作り出している」


「ここ二十年ほどはほとんど提供もなくなってるのね」


「人間には旬もあるし格もある。そこは仕方ないかと思う。ついでにカバー曲だと、九十年代にコーラスとして参加してくれた14カラットソウルがチャゲアスの楽曲をカバーしたやつとか、知らない中華系歌手による現地語版『夢から夢へ』『夢を見ましょうか』とか海外勢が印象的。日本人だと猿岩石の『モーニングムーン』が、原曲とは全然違うけどこれはこれで意外と格好良く仕上がってて不覚にも好印象だった」


「猿岩石って言うとあの有吉がいたお笑いの?」


「当時はお笑いとしてはろくに評価されず歌手活動で生き延びたようなものだからね。猿岩石の歌手活動も、いずれまとめられたらいいね。という事でチャゲアス関連もようやく終わり、ここに至ってようやく本題に入るけど、Spotifyの本領はそこまで好きでもない歌手からピンポイントで楽曲を収集する時だったね。具体的には山本コウタローとウィークエンド『岬めぐり』、Mr.Children『innocent world』、狩人『ブラックサンシャイン』など」


「なんかチョイスおかしくない?」


「個人の感想だからあんまり気にしないで。また由紀さおり安田祥子姉妹の『トルコ行進曲』や上田正樹『悲しい色やね』など、いくつかバリエーションがある中で聴き比べて一番好みに合うものを探し出せるのもありがたかった。それで『悲しい色やね』、近年は変なアドリブ加えたりメロディー崩しすぎって評判悪いけど、むしろ崩したバージョンを探す中だと二〇一〇年のアルバム『SMOOTH ASIA』収録バージョンが個人的には一番良かった。ピアノ一本のシンプルなアレンジでも引き込まれるし笑える」


「いや笑っちゃいけないでしょ」


「発表されたサウンドをどう受け取るかは自分が決める事だから。それと真面目に言うとカルロストシキ&オメガトライブの『DOWN TOWN MYSTERY』のDAYLIGHT VERSIONの配信はナイス」


「カセットでしか出てなかったやつだっけ」


「そう。ミックス変更によって強調される音が変わってるから『あれこんな音鳴ってたっけ』ってなった時に比較が容易なのもありがたかった。今後はカップリング曲など、配信されているかは人によるって部分をもっと少なくしていって配信=全曲配信ってなればより便利になるよね」


 このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いた。敵は休日も平日も関係ない。敵が出たからには叩かねばならぬと二人は素早く戦闘態勢に移行した。


挿絵(By みてみん)


「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のカブトハナムグリ男だ! この汚い色の惑星を浄化してやろう」


 カブトムシのように長い角を持ったカリマンタン島に住むコガネムシの仲間が万緑の森に出現した。メタリックなグリーンのボディが太陽の光をギラギラと反射させて攻撃的な妖気を放っている。こんな危険な男に地球は任せられないと、二人の使者は間もなく出現した。


「出たなグラゲ軍……、うわっ、格好良い!」


「でも戦うなら容赦はない。戦わないならそのまま何もしない。さあどうする?」


「無論、戦う。わざわざこんな辺境惑星まで観光に来たわけでもないのだからな。行け、雑兵ども! 奴らを皆殺しにするのだ!」


 次々と襲いかかってきた雑兵たちを渡海雄と悠宇は次々と叩きのめして、ついに残るのは敵指揮官一人だけとなった。


「よし、雑兵は片付いた。後はお前だけだカブトハナムグリ」


「その美しいボディに見合う心を見せてほしいものだけど」


「これが美しい? 意味不明だ。やはり価値観が違いすぎる種族は滅するしかないな」


 カブトハナムグリ男はそう言うと懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり話し合いは物別れに終わったので、二人は覚悟を決めて合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 ゴールデンウィークの真っ最中に人類の命運をかけた争いが空の上で繰り広げられていると一体誰が予想するだろうか。しかしこれに負ければコロナより確実に人類は全滅されてしまう。その責任感において職業軍人をも凌ぐ二人は連携してジリジリ追い詰めていき、ついにカウンターのパンチを決めた。


「よし、今よとみお君!」


「素敵な見た目だったけど仕方ない。メルティングフィストで装甲を打ち砕く!」


 渡海雄はチャンスを見逃さず、ここしかないというタイミングで朱色のボタンを押した。プラズマ超高熱線によって極限までヒートした右の拳が、光り輝くカブトハナムグリロボットの胴体を貫いた。


「くうっ、これまでか! 無念だが撤退する以外にない!」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってカブトハナムグリ男は宇宙へと帰っていった。そしてなんでもない五月上旬の一日に戻った。太陽より眩しい輝きを胸に秘めて。

今回のまとめ

・正直もうちょっと早く導入してれば良かった

・ジャニーズも飛鳥も少し心を柔らかくするだけで相当捗るのに

・チャゲのほうが言動は理解出来るけど実際の音楽活動はどうだろうか

・カブトハナムグリとかいう虫今まで知らなかったけど凄いなこのビジュアル

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