hg02 光GENJIファーストアルバムについて
秋も深まる十一月。渡海雄と悠宇はせっかくの休日、南郷宇宙研究所で訓練をしていた。ここ最近はグラゲ軍も以前より強力になっている雰囲気がある。守るべき対象を考えると「今まではどうにかなってきたからこれからもどうにかなるだろう」という見通しでは甘すぎる。敗北すなわち人類滅亡。これが二人の原則なのだから。
「よし、今日はここらで上がろっか。とみお君!」
「はい!」
「ゆうちゃんも、本日分のメニューは消化したし今日はここまで!」
「分かりました! ふう、今日はさすがにちと堪えたわね」
日々の鍛錬こそが地球を守る第一の鍵となる。今日も今日とて連休を武術のトレーニングに費やした。そもそも二人がスーツを着込んだ状態での攻撃力に関しては適当に手足を振り回しただけでも、いや、パンチやキックが対象に触れずともその風圧だけで雑兵程度なら跡形もなく吹き飛ばせるほどのパワーを秘めている。しかししっかりとした型を身につけたらより強力になるわけであって、「あんまり若くから筋肉付けると身長が伸びなくなるんでしょ? 嫌だよ。僕は180ぐらい行きたいんだから」などと渋る渡海雄をどうにか説き伏せてトレーニングメニューに組み込んだのが武術である。
南郷博士の知り合いと言う、どこやらの島に戦国時代以来伝わるという独自の柔術の先生を招聘したのだが、この先生が推定二十歳大学生と若くて顔も良い上に教え方も丁寧なので渡海雄はすっかり己の肉体を如意に躍動させる武術の真髄にはまってしまい、今では悠宇以上に率先してトレーニングをこなしている。トレーニングは三時間、涼しくなった秋でも汗はたっぷり出るものだ。メニューが終わると二人は風呂に入って疲れを洗い流し、今はコンピュータルームにたむろしている。
「ふふふっ、成長するっていい事だよね!」
「ええ、そうですともね。ああも成長なさった先生の指導を受けて随分お幸せでしょう」
「なっ、ん? どうしたの? そんなつっけんどんな」
「別に。文字通りでしょ。そりゃああの人は肉体的にも人格も素晴らしく美しいけど私だって後十年、いや、五年、いや、やっぱり十年ぐらいは必要かしらね。とにかく私だって、私だってこんなちっぽけなままで終わらないわ。きっともっと成長するはずなんだから。勝負はそれまでお預けよね!」
「は、はあ。まあ、それはともかくとして、野球のシーズンもそろそろ終わりだしちょっと毛色を変えた話題しようと思うんだ。と言う訳で光GENJI。はっきり言って音楽関連では一番好みなのがこの人たちだから暇な時間は彼らの歌について長々と説明したいなって思うんだ」
「はあ、そう言えば前に簡単な説明はしてくれたわね」
「昨日もちょっとだけテレビに映ったからね。普段みたいに約一名、モザイクがかかってたり不自然なカットインを駆使して一見六人グループに、って事もなかったし嬉しいよね。と言う訳でまずはファーストアルバムから。タイトルはグループ名と同じ『光GENJI』。一九八七年のデビューからいきなりトップアイドルに躍り出て翌年一九八八年の一月に発売。そしてアルバムの年間売上トップに立ったんだ」
「すでにあった人気をさらに高めた感じかしら。最先端から加速する、みたいな」
「ははは。でもこのアルバムの帯には『疾走世代のラディカル・ヒーロー』なる意味不明なキャッチフレーズが掲げられてるから人の事言えないよね。まずジャケットは緑色の上着に黒いズボンで、ちょっと短ランっぽいシルエット。上着が緑じゃなくて赤いのもあるけどそれは初回盤で緑のほうは通常盤なんだ。CDの内容は同じだから気にするほどでもないけど、後のアルバムでは曲の構成に違いがあったりするからね。僕が持ってるのはこれ以降もすべて通常盤でルックスの説明などはそれに準じるからそこはよろしくね」
「はいはい。それでメンバーは、前列左から山本、諸星、佐藤敦啓。後列左から内海、赤坂、佐藤寛之、大沢でいいのね」
「そうだね。まあ内海大沢に諸星あたりはすでにこれぞって感じのルックスだね。山本や佐藤敦啓もかな。佐藤寛之はクラスに三人ぐらいいそうな変哲のなさだし。一番違うのはかなり幼くて以降のアルバムと比較してもまるで別人な赤坂かな。ブックレットを開けばピエロみたいな青い服着てたりメダルになってたりするけど、若いメンバーほど表情が固くて慣れてない感じが出てるね」
「特に赤坂は、後にああなるとはとても見えないくらいにささやかな表情をしてるわね。それとみんなやけに肌が焼けてて濃い」
「夏頃に撮ったんじゃないの。さて、楽曲の方で言うとこのアルバムは全曲、図らずも今世間を騒がせているチャゲ&飛鳥が関わってるんだ。古い言い回しになるけどA面が飛鳥パート、B面はチャゲパート四曲ずつの全八曲。アレンジは全曲佐藤準という当時の有力なアレンジャーの人を起用」
「そういえば最初の頃のシングルも彼らの手によるものだったわね。それにしても普通のアルバムで八曲はちょっと少なくない?」
「少ないね。元々は十曲で行くはずがチャゲアスのほうでそんなに曲が作れなくて、それでもジャニーズのほうは他のミュージシャンから提供してもらうという選択をしなかったからこの曲数になったらしいんだ」
「随分実力を買われてるじゃない。曲はまず『THE WINDY』っての。作詞作曲飛鳥涼、編曲佐藤準が四曲続くわけね」
「これはファーストアルバムの一曲目にふさわしい楽曲だよ。まずイントロでコーラスが『ジー! イー! エヌ! ジェイ! アイ!』などと叫んでるけどこれでもうコンサートの出だし、これに合わせてメンバーが登場したんだろうなって容易に想像できる構成でしょ。また全体的に一番はGENJIで二番は光、最後のサビは光GENJI七人って作りになってるんだ」
「確かに歌詞を見ても一番は自由な感じだし、二番は年上っぽいと言うのか、格好良くて頼りになりそうなイメージになってるわね。歌声含めて」
「これもそうだけど光の二人を一番うまく使えてるのは飛鳥の楽曲だからね。この曲とか二番はずっと光のパートだけど、そこそこ長いのにちゃんと格好良いまま持ってるもの。本質的には歌唱力相当怪しいんだけどね、それをまるで感じさせないんだ。『GENJIがある。光もある。そして全てをひっくるめて光GENJIがある』と、つまりそんな曲なんだ。一番が終わったらラップ、じゃないな。早口なパートがあったり台詞が入ったり、全体的にはアイデア満載でにぎやかだけど調和もとれている」
「二曲目は『Hurry Up』という曲」
「バタバタしたテンポで、全体的に見るととてもかわいい曲だよ。特に佐藤敦啓のソロパートで炸裂する全編スタッカート歌唱はこの曲の雰囲気を象徴してるよ。小さな事でも当事者にとっては生きるか死ぬかの大問題みたいに思えてジタバタしてる感じがとてもいい。しかしこの歌唱の存在感は凄いなあ。全部持って行っちゃうみたい」
「確かに凄まじい歌唱力ね。SMAP中居以上じゃないかしら。後、間奏のコンピュータでいじったっぽい変な声はいらない気がするけど」
「次はシングルでも大売れした『ガラスの十代』だけど、LPバージョンと称してシングルとは多少構成が変わってるんだ。具体的には二番のAメロにおける光の合いの手とか最後のサビが一回多くなってたりとか。アウトロも長くなってるよ」
「これは聞いたこともあるわ。やっぱりシングルだけに華やかさというか曲にみなぎるパワーがもう段違いだし、それでいてメロディーもグッと掴んでくるんだから売れるわよね」
「スローな出だしからテンポアップする際のフレーズとかね。当初は光GENJIというグループに関して青春の光と影というテーマもあったそうで、その点ではこれは極北だよね。次は『RAINY GIRL』で、派手な流れから一転して静かな始まり方をする曲だよ」
「イントロの尺八みたいな音がいいわね。それにソロの歌声が今にも消え入りそうでハラハラするわ」
「これも不安定な歌唱を揺れ動く繊細な心情に見立てた技術力の確かさが光る名曲だよ。でもサビではきつめのコーラスが入って比較的派手になるんだ。それと飛鳥の作詞、二番のサビで自分たちがかつて作った曲の宣伝をしてるのもちょっと面白いやり方だね」
「結構盛り上がって終わるのね。それにしても歌詞はすぐに綺麗な情景を浮かべられるしアウトロのフレーズもいいし、案外ここまでではこれが一番かも」
「結構ファンが多い曲らしいからね。これで前半終了。レコードなら表と裏をひっくり返すところだけどCDだからそんな手間は不要。五曲目はデビューシングルの『STAR LIGHT』で、これもLPバージョンとして間奏が長くなってたり二番に合いの手が入ったり、それと最後のサビに新しいメロディーが付け加えられてるね。なお作曲はチャゲ&飛鳥って名義になってるけど大部分はチャゲ作曲らしくて、だから後半戦はチャゲパートと言えるんだ。ちなみに作詞は飛鳥」
「とてもキラキラした曲で凄まじいエネルギーを感じるわ。それと声がかなり高いわね。ヘリウムでも吸ってるみたい」
「確かに他と比べてもちょっと声が高いね。その原因は主に赤坂。当時の赤坂は声変わり以前で、しかもソロパートがあるから実はこそがこの曲最大の聞き所と言えるよ。いやあ、本当にいいものだよ。しかし次の『BAD BOY』では一転、大人びた雰囲気の曲となるんだ。作曲はチャゲ単独で、作詞は当時チャゲとよく組んでいた澤地隆。光メインの曲だけど、ちょっとまどろっこしいかな。ブラックなイメージは分かるんだけど歌声からして難しいし、アレンジももっとシャープなら良かったと思うな」
「歌詞は不良風だけど歌声は高くて洗練されてない雰囲気。無理して背伸びしてるみたい」
「チャゲっぽい曲調と言えばそうだけどね。後に『あきらめのBLUE DAY』ってタイトルで歌詞を変えつつセルフカバーしてるけどそっちのほうが出来がいいもの。シャープな演奏と歌声、そして飛鳥のコーラスが格好良いんだ。テンポもいいし。話を戻すと七曲目は『ほのかに甘くHOLIDAY』って、これは華やかで勢いがある曲だよ」
「作詞澤地作曲チャゲは前曲と同じね。それにしてもサビの歌詞の内容のなさがいいわね。勢いだけでいかにもアイドルって感じで」
「チャゲは本人のキャラクターとも一致する陽気な曲ってレパートリーも自家薬籠中にしてるからね。たまに自分でも歌うけど基本的には提供曲だね。『Newsにならない恋』とか、『ふたりの愛ランド』なんかもかな。そう言う意味では『BAD BOY』がまどろっこしい曲でこれが陽気な曲。そして次の『Graduation』は名曲路線って区分できるんじゃないかな」
「これがもうアルバム最後の曲になるのね。卒業がテーマのバラードで、ああ、繊細な歌ね」
「やっぱりメロディーの部分なんかはか細くて頼りない歌声を卒業という一大イベントに揺れる心情と重ねてて少しでも触れればあっけなく崩れ去ってしまいそうだから聴いているほうの心もまた揺れ動くような、よく出来た曲だと思うよ。総括すると、曲調は色々あっても今この時しか歌えないだろうという儚いきらめきを有しているとても美しい曲が多いよ。曲もそうだけど何より声。光GENJIの七人が実力を振り絞った結果として生まれるこれしかないってところをうまく生かすように構成した結果、良好な楽曲が多く誕生したのがこのアルバムだよ。そんな名盤がamazonでは、あれっ結構高いや」
「中古品が¥1,460より、だって」
「うーん、ぼったくってるなあ。あんまり名盤名盤と言われすぎたのがいけなかったんだろうか。これに関しては中古CD屋を回ったほうがうまく手に入るかもね。それかレコード聞けるならそっちに手を出すとか」
ここで敵襲を告げるサイレンが研究所全体に鳴り響いた。こうなるともはや待機は許されない。渡海雄と悠宇も素早く戦う体制に心身を整えて雨とも曇りともつかない微妙な空の下、敵に向かって一直線に駆けていった。
「ふはは、この俺こそがグラゲ軍攻撃部隊のハクセンシオマネキ男だ。我が右腕をもってこの惑星に住む生命体を断ち切ってやるわ」
男は異様に発達した己の右腕を誇示するように天高く掲げた。確かにこのいかにも重厚なハサミにかかっては肉体は言うまでもなく、地球上に存在するほとんどの金属さえも真っ二つにされるであろう。そんな危険な男がいざ暴れようとするところで二人は到着した。
「何とか間に合ったな。思い通りにはさせないぞグラゲ軍!」
「相変わらず危険な野心を燃やす悪辣な者たち! 今すぐに失せなさい!」
「ふん。やはり現れたか。失せるだと? それはお前たちのほうだ。かかれ、雑兵!」
ハクセンシオマネキ男の出現した山間の路上は幸い普段から通行量が多くなかったので人的被害は今のところ出ていないようであった。しかしすでに雑兵たちを周辺に配置しており、まさに二人を待ち伏せていたのだ。しかし直前までの特訓の成果で今までより素早く雑兵の殲滅に成功した。
「ふふっ、鍛えたから今までより敵の動きがよく見えるようになった気がするな」
「そして的確に相手の弱点を突けるようにもなったわ。あなたもああなりたくなければ速やかに戻りなさい!」
「この俺を雑兵ごときと一緒にしてもらっては困る。そしてこの俺を怒らせた以上お前たちに待っているのは死、ただそれだけだ!」
そう言うとハクセンシオマネキ男は左手で懐にあるスイッチを取り出して巨大化した。ただでさえパワーがあるハサミを有しているのにこのサイズとなると、ビルから山まで全てが伐採されかねない。渡海雄と悠宇はすかさず合体した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
しかし相手のハサミのパワーは強大なので、うかつに接近するとメガロボットとて無事でいられる保証はない。無論、相手もそれを知っているのでフェンシングのような半身の姿勢から無遠慮に距離を詰めてくる。悠宇は神経をすり減らしながら敵の間合いを図りつつ後退していった。
「どうするの? このままじゃ攻め手がないよ」
「分かってるわ! でもうかつな攻撃は死につながるだけに、慎重にやらないと」
「もらった!!」
ハクセンシオマネキロボットは一気にジャンプして間合いを詰め、自慢の右腕でメガロボットに突きを入れてきた。「ええい!!」と叫びつつ悠宇が操縦桿を右へ最大限に倒したため直撃はまぬがれたが、攻撃を受け止めた山にはぽっかりと風穴が空いた。しかしそのためにハクセンシオマネキロボットの動きが一瞬静止したをの見逃さなかった。
「かくなる上は遠距離攻撃だ! レインボービーム!!」
渡海雄が白いボタンを押すと発射された七色のビームは山に挟まったハサミと繋がっている右肩を打ち砕いた。アイデンティティである巨大なハサミを失ったハクセンシオマネキロボットは、重量のバランスが大きく崩れた事で機体のコントロールを失い、自滅するように大破した。
「ふん、後一歩で確実に落とせたものを。撤退する!」
ハクセンシオマネキは絶滅危惧種らしいが渡海雄が今の街に来る前は海辺にいくらでもいたので今日の敵に対しては磯の香りの懐かしさを内心で覚えつつ戦っていた。来年の夏が来たらもっと海に行きたいなと思った。それも戦いを乗り越えないとたどり着けない日々ではあるが。
今回のまとめ
・モザイクがどうとか心配するのもあほらしいけど気にしてしまう
・要はこの時期は声が素晴らしい下手だけど
・楽曲も及第点を軽く超えているようなものが揃っている
・有無を言わせぬ迫力があるシオマネキは格好良い




