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am08 ウィンキースパロボの終焉について

 台風は雨や風だけでなく寒気も連れてきたらしく、急に寒くなった。さすがにもう半袖では通じない。まあ秋らしくて良いとでも言えばいいか。


 さて、渡海雄は前日の放課後に交わした約束を果たすべく、自分の家のリビングにて悠宇を待ち構えていた。ここ一ヶ月溜めに溜めている話題を終わらせんがためにである。しばらくして予定通りの呼び鈴が鳴り響くと、渡海雄は静かにプレイステーションのスイッチを入れた。


「ゆうちゃん? 入って、どうぞ。今、僕しかいないから」


「はーい、お邪魔しまーす!」


「来たね。ふふっ、今日ゆうちゃんを呼んだのは他でもない、ウィンキー時代のスパロボについて長々とお話してきたけどここらで終わりにしようと思ってね。もう準備してるし早速行くよ。ああ、そうだ。ジュースもお菓子もあるから手を汚さない程度にはどんどん食べて」


「至れり尽せりね。ああ、ホワイトロリータ。でさ、本当に今回で終わるの?」


「終わらせるんだよ。まず前回までのおさらいをすると、第4次をもって一連のストーリーは終わった。それとSFCより進化したゲームハードであるPSとかに足を踏み入れた。そして一九九六年の暮れ、最初からPS用に作られた今までとはまったく異なる新作が満を持して登場したんだ。その名もずばり『新スーパーロボット大戦』」


「おお、まさに新作らしい名前ね。で、具体的にはどこら辺が新なの?」


「そりゃあもう、画面を見れば一目瞭然だよ。ほら、見てこのグラフィックを!」


「おお! 気持ち悪いほどに足が長い!」


「そう。新スパロボはユニットがこれまでのSD体型ではなくて実際ロボットアニメとして放送されてた頃と同じような体型、足がスラリと長くて顔が小さいリアルな頭身で表現されてるんだ。ついでにパイロットの顔グラフィックも全員新たに書き換えられたんだ。第4次Sみたいな中途半端な手法ではなく、戦闘時には一般兵士含めて全てのキャラクターが喋るようになったのも決定的進化。これまたそれまでのものから一新されたちょっとチープな音色のBGMに合わせて『機体をズタズタにしてくれる!』とか癖になる台詞多数で、非常に大きな特徴となっているんだ」


「いやあ、本当にみんな喋ってるわね。シナリオはどうなの?」


「ああ。まず序盤いくつかのシナリオを過ぎると選択肢が出て、一見そんなに重要そうに見えないけどこれでがっつりと地上編と宇宙編にルートが分かれるんだ。まず地上編はGガンダムが中心かな。Gガンダムは相変わらず『写真の男を知らないか』とか師匠とかキョウジとかゲルマン忍者とか。ああ、そうだ。前回Gガンダムの話しようとしたら敵が来たよね」


「ああ、そう言えばそんな事もあったわね」


「まあ要はその時その時のイメージ、ガンダムならちょっと小難しい話をしないととか、そういう呪縛を解いたエポックメイキング的な名作がGガンダムだよ」


「それがゲルマン忍者?」


「何かよく分からないけどとりあえず凄そうでしょ? それだよ、大事なのは。既存の壁を破壊するには意味不明なまでの勢いがないとね。まあ多少真面目に解説すると、ガンダムに異種格闘技をやらせたのがGガンダムなんだ。ガンダムファイトなる大会が開催されて主人公のドモンは日本代表として毎週個性的なガンダムと戦ったりしつつ、全体のストーリーを引っ張る存在としてデビルガンダムって、これまたハッタリの効いた名前のブツがあるんだ。DG細胞とかいう進化するナノマシンみたいなもので出来てるから放っておくとガンガン凶悪になるろくでもない敵で、これをドモンの兄であるキョウジが持ち逃げしたからドモンには兄を止めるという使命もあるんだ。まあ実際は色々事情があるんだけど、この新スパロボでもその辺はあんまり説明されないんだ。黒幕の人とか新スパロボでは出てこないし」


「ガンダムファイトねえ。それはどんなルールなの?」


「これ以上説明すると今回のタイトルが『Gガンダムについて』になるなあ。ガンダム同士でタイマンバトルするんだけどスパロボのシステムとはいまいち噛み合わないからか、あんまり再現されないね。新ではイベントバトルでシャイニングガンダム対ウイングガンダムとかやったけど、あくまで『やってみました』程度のものでしかないし。まあとにかく、地上編はGガンダムがストーリーとしても戦力としても中心だよ。もう強いんだよね、このドモンが。そして宇宙編はVガンダムが中心。戦闘BGMの『STAND UP TO THE VICTORY』は聞き飽きるよ。そしてダンクーガが高い攻撃力で頼りになるのなんの。断空光牙剣とかリアル頭身にカットインも気合入ってて格好良い事この上ない。それとオリジナルキャラも一新されて、SRXなるスーパーロボットが新登場したんだ。それと敵のバルマー帝国も」


「SRXって何だか無機質な名前ね」


「軍属だからね。三体のリアルロボットが合体して一体のスーパーロボットに、みたいな色々なものを包括するコンセプトだったかな。合体ロボットであるSRXは見た目もださい上にウルトラマンばりに活動制限三分ってあるからちょっと使いにくいけど、合体しなくても十分強いよ。それと巷ではリュウセイというキャラクターの性格について色々言われてるけど本作における彼はせいぜい三枚目の脇役だしこんなもんじゃないかな。それと敵は変なデザインのロボット山盛りで面白いよ」


「ふうん、楽しそうじゃない」


「でも問題点もいくらかあってね。まずシナリオの人が今までと違って、正直評判もあんまり良くないね。特にネタにされてるのが東方不敗に付け加えられた原作にもない突飛な設定だけど、実際プレイしてそのイベントに出くわした時は本当にびっくりしたよ。それと地上編でいきなり出てきたCG少女とかも気合入ってる割にあんまり意味がなくて何だったんだろうって感じだし。宇宙編はちまちました作戦が多くて微妙。その分普段は二軍落ちするようなマイナーキャラを使う必要があり、そういう意味ではマニアックな愛し方が出来るんだけど」


「原作知ってないときつい感じ?」


「そこまででもないけど、知らなかったらいかにも地味なキャラに愛着を持つってのは簡単じゃないかもね。それぞれの個性もはっきりしてないし。シュラク隊とか言ってもケーラ含めて全員強気なお姉さんでしかないし。まとめると、今までのスパロボ的なものから色々変わろうとしてるけどその結果は成功したとは言い切れず、結局続編なども作られなかったからさらに浮いた存在となってるのが新スパロボなんだ。独自の統一感があってそれがB級寄りと言うか、本当に独特な雰囲気の作品だね。まあSRXとかバルマー帝国はその後リサイクルされるけどその頃にはもうウィンキーはバンプレストと切れてるから、話すにしても別の機会になるね。それとBGMは音色がややチープなだけで何気に名曲揃い。『鉄の薔薇』とか『銀色の風』とか」


「今までずっと組んでたのに切れるんだ。やっぱり新の評判が今ひとつだったから?」


「いやあ、やっぱり問題はそれ以降じゃないかな。という訳で翌年の一九九七年、当時PSのライバルだったセガサターンで出たのが『スーパーロボット大戦F』。まあすぐにPSでも出たけど。シナリオ的には第4次のリメイクらしいけど、割と別物だよ。この頃ブームを巻き起こしてた『新世紀エヴァンゲリオン』という作品が参戦するって事もあって注目度は抜群だったんだけど開発は苦労したらしくて元々一枚のはずが前後編に分割されたり、シナリオやゲームバランスも後半ほどズタボロで、思い出そうとするとΖガンダムの辛気臭い戦闘曲が頭に浮かんでまたげんなりするんだよね。あの曲は本当に、好きじゃないよ」


「ギリギリのところでそれ以上の暴言を抑えたわね。それで、このゲームは具体的にどの辺が問題にされてるの?」


「まずは使えるユニットやパイロットとそうでないものの格差が酷いんだよね。使えないキャラはどうあがいても使えないってのはウィンキーソフトにありがちだけど、これはその極北。シナリオもね、ガンダム系の出番は多いけど特にスーパーロボットの皆さんはどうでもよさげな扱いだし、せっかくの主人公も雑でねえ。シナリオライターが途中で倒れたからって話だけど、まあ酷い出来だよ」


「結構全方面に課題があるのね」


「さらにこれは声が入るようになってからの課題だけど読み込みに時間がかかるしテンポが大幅に悪化してるのはかなりきつい。ハードの進化によってより本格的な表現が可能になるにつれてボロが出てきた感じだね。キャラクターについてもね、元は本家のパロディであるSDガンダムの流れだと思うけどプルツーやクェスの性格は凄くはっちゃけてたけど、そういう原作にないネタ化みたいなのは昔ほど許容されなくなったという部分もあるし。原作準拠って流れはもはや止まらなくなっていたから。それにしてもなまじ知名度が高い分、今でもウィンキー時代のスパロボ=F完結編みたいに見られる機会も多い。特に『ウィンキー時代は酷かった』みたいな話だと七割ぐらいはF完結編の批判になる印象。新の場合はちゃんと『新は酷かった』って言われるんだけど。良くも悪くもウィンキースパロボの代名詞がこのF完結編で、そのバランスははっきり言って劣悪」


「全体的に見ると時代の流れにウィンキーソフトは追いつけなかったみたいな部分もあるのかしらね」


「そうなるのかな。そして一九九九年に出した、ウィンキーソフトとしては一旦ラストとなる作品が『スーパーロボット大戦コンプリートボックス』。これは第2次、第3次、EXをリメイクしたものだけどよりによってFのゲームバランスでリメイクされてるという曲者。第3次とか元々ユニットとパイロットの攻撃力合計して威力を算出してたのにパイロットの攻撃力って概念が消えた結果ユニットの攻撃力だけ残って威力ひょろひょろになったりとかもうちょっと考えてほしかったな。マップ兵器の範囲も狭いし、精神コマンドも時代によって有用なものは変わってるのに昔のままで使い勝手が悪かったり」


「へえ、それはどういう事?」


「例えば第3次の頃はある程度ダメージを受けるの前提だからHP回復させる根性ド根性を皆覚えてたけど回避や防御の性能変化、HP回復手段の増加などでバランスの異なるF仕様でも精神だけは同じままだから無用の長物だよ。EXのカミーユが熱血抹消とか嫌がらせにしかなってない仕様も。相変わらず戦闘のテンポは悪いしロード長いしでだれる。そりゃあグラフィックはSFCより綺麗だけどその分システムの古臭さが浮き彫りになると言うのか、基本棒立ちでアニメーションとかはほとんどないしあんまり進化してないなあって実感が強くなるんだよね。まあここらが潮時と考えたバンプレストの気持ちもよく分かる出来だよ」


「ううん、湯島さんの次ぐらいにボロボロな評価ね。何かもっと褒める部分とかはないの?」


「ああ、オプションの部分に特化したDISC2はそこそこ楽しいよ。そう言えば新スパロボも続編の代わりにスペシャルディスクなるオプションを拡張したような作品が出てたけど、フリーバトルモードとかいい暇つぶしになるんじゃないかな。でもこれはあくまでおまけ。本体が明らかにバランスを失ってるんじゃいくら枝葉が充実しててもね」


「一度崩れたバランスを取り戻すのはとても難しい事だから仕方ないのかしらね」


「結局のところウィンキーソフトはSFCまでの会社だったんじゃないかな。元は小さなシリーズだったものを大きくした功績はあるけど最後の方はゲームバランスにしてもシナリオにしても変になってたし。自分たちが作った『スパロボとはこういうものだ』という定義もそろそろ通用しない部分も出てきて、Gガンダム作った頃のガンダムシリーズ程じゃないにしてもそろそろ大いなる変革が必要な時期に来ていたけど対応できる開発力はなかったようだね。そう言えばこの頃スパロボオリジナルとして登場したサイバスターがアニメ化されたけどこれが原作と全然違う上にそれを無視しても作画、声優、脚本などどれをとっても絶望の大駄作という悲しい事故もあった。それからニンテンドウ64だのワンダースワンだので牽制を挟みつつ本命となる作品が二〇〇〇年には発売されて」


 ここで敵襲を告げるグリーンライトが部屋を染めた。渡海雄としてはもう少し語れる事はあったがとりあえず今回のノルマはクリア出来たのでやっかいな敵襲にもむしろ不敵な笑みを持って対処した。「敵は海のほうだって。さあ行こうか!」といつになく気迫に満ちた声で呼びかけたが、お菓子をボリボリ食べていた悠宇は「そうね」と返事はしたもののいつもより声に力がなかった。


「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のカブトガニ男だ! この星の人類を絶滅危惧種にしてやるわ!」


「甘いぞカブトガニ男! この星からいなくなるべきなのはお前たちの方だ!」


「走ったお陰でやっと私にも戦意が戻ってきたわ。でも戦わなければそれに越した事はないんだから」


「ふん、やはり現れたか逆臣ネイの走狗め。今日こそ誅してくれるわ! さあ行け、雑兵ども!」


 海に入るには冷えすぎた砂浜が急に隆起したかと思うと数十の雑兵が二人を取り囲むように出現した。しかしすでに気力十分の二人を相手にするには力不足は否めず、ものの数分の間に雑兵たちは壊滅した。そう言えば新スパロボだけ気力の代わりに戦意という呼び方をしていたがこれも一作だけで廃れたな。それはともかく、すでに殴る蹴るの音が失せて波の音だけが響き渡る海岸線、二人は最後の説得を試みた。


「もはや雑兵もない。後はお前だけだぞカブトガニ男」


「私だって絶滅する瞬間なんて見たくないわ。早く泥のように深い暗黒の宇宙に戻ればいいのに」


「馬鹿にするなよ。戦いはまだ始まったばかりだ!」


 やはり功を奏しなかった。カブトガニ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化したのだ。あくまでも抵抗をやめないグラゲ軍に対抗するにはこちらも巨大化しかない。渡海雄と悠宇は素早く一つになった。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 天気もそれほど良くないので通行人もいない砂浜には波が打ち寄せても倒れないような超巨大モニュメントが二つ屹立していた。そして両者は一気に距離を詰めて殴り合いを始めた。ドーム状の装甲が強固なカブトガニロボットには苦戦したものの、メガロボットはなおも間合いを詰めて一気に必殺技を繰り出した。


「奴の装甲を撃ち貫くにはこれしかない! メルティングフィスト!!」


 渡海雄が朱色のボタンを押すとメガロボットの右拳に備え付けられたプラズマ超高熱線が作動し、悠宇はその状態からパンチを繰り出した。極限まで熱された拳は数多のハードパンチに耐えてきた強固なカブトガニロボットの装甲さえも融解し、相手に致命的なダメージを与える事に成功した。


「この私の装甲を打ち破るとは、まったくやっかいな奴を敵に回したものだ。脱出するしかないか」


 爆散する直前に作動した脱出装置によってカブトガニ男は本拠地へと舞い戻った。攻防ともに強力な敵であったが勝てたならそれで良いのだ。そしてこれからも負けるわけにはいかない。銀色の海を見つめながら二人は改めていつ果てるとも知れぬ戦いを互いに生き抜こうと無言のうちに誓い合った。

今回のまとめ

・タイトルのせいか妙に閲覧者多いけど大した事は書いてません

・ウィンキースパロボはSFC時代が華

・この時期は過渡期と言うか正直きついのが多い中でおすすめは新

・それと魔装機神ってのもあったけどこれはまた別物かなあって

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