rm05 CSとカープの戦いについて
秋風は涼しく三連休。そしてようやくクライマックスシリーズが始まった。パリーグは楽天が球団創立以来初めてとなる優勝を決めた一方で昨年優勝の日本ハムが最下位に沈むという波乱のシーズンとなった。
CS争いもなかなかの波乱で、もはや四位不可避かと思われた西武が土壇場で怒涛の巻き返しを見せてAクラスどころか二位まで跳ね上がった。そして三位には直前でかわされたロッテ。しかしこのロッテはCS大好きなチームなので逆に面白い。
そしてセリーグは巨人優勝という誰もが「きっとそうなるんだろうな」と思っていた展開に終わった。シーズン最大のサプライズは横浜がついに最下位脱出した事だろうか。ここ数年の横浜は球史に残る大暗黒時代だったが補強もありようやく最悪から脱却しつつあるようだ。
そしてついに広島がAクラスに入った。あまりにも待たせすぎたが、とにかくめでたい。そしてCSはまず二位の阪神と対戦したが、連勝して第一ステージを突破した。
「いやあ、意外意外! CS阪神戦、割とあっさり決まったね!」
「ううん、そりゃあ阪神がこのCSを苦手にしているって事は知ってたけどまさかここまでとはね。展開を見てもカープにとってはいい流れ、阪神にとっては悪い流れで抗えない運命のようでさえあったわ。やっぱり九月からそういう勢いの差みたいなのはあったし、それがここでも出ちゃったって事なのかしらね。まあ結果として理想的と言えばまさしく理想的だったけど、ここまでうまく行くと逆に戸惑うものね」
「そうだよね。でも最後の阪神の攻撃、桧山の引退打席でホームラン! これもびっくりしたなあ!」
「桧山が前にホームラン打ったのはどうやら二〇一一年らしいから、それが最後の最後という場面で、しかも本拠地甲子園で出るってのは桧山本人にとってとても幸せな事でしょうね。しかもツーアウトから放たれたこの一撃によって優勝したいがために広島から阪神に移籍した新井に打席が回って、その新井を三振にして勝ち上がるという流れはまさに筋書きのないドラマ。今でも思い出すと興奮するけどリアルタイムだともっとわやだったわ。笑いが止まらなかったもの」
「あのホームランの時点でもう大量リードだったし、ある意味安心して見られたよ。それで桧山がホームラン打ったら何となく試合も終わった雰囲気が漂ってて、やっぱり次のバッターがあっさり三振だったし」
「やっぱり投手をうまく攻略できたのが勝因よね。まず第一戦、広島の先発はエース前田健太とまさに王道を征く起用だったけど阪神は藤浪で、正直これは意外だったわ。まあ藤浪自体は成績も良かったし冷静に考えるとそれほど奇策って程でもなかったかも知れないけど結果的には五回、キラのスリーランホームランで勝負ありだったわね」
「やっぱりホームラン打てる選手がいるっていいね。丸と岩本が打った九回の攻撃も見事だったね」
「相手のエラーもあったけど、それを得点に結び付けられたのは良かったわね。逆にピンチと言えば七回にちょっと危ない場面があったわね。あそこで桧山が出てきたものの凡退に終わったけど、昨日のホームランがここで出ていたら危なかったわね。それと第二戦においてはエルドレッドのファインプレーね。あれが抜けていたら試合の流れもまた変わっていて、多分負けていたわ」
「あのプレーも驚いたなあ。守備の選手じゃないのに突如ナイスキャッチ。それとどっちの試合でも試合の終盤に広島が効果的に追加点を加えられたのが大きかったよね」
「その辺もうまく行きすぎって思わせる要因だったわ。第一戦では岩本のホームラン、第二戦では小窪が走者一掃のタイムリーを放って。しかもどちらも代打だったし、監督の采配もいつになく当たってたわ」
「もっと投手戦になるかなって思ってたけど、最終的には八点に七点といっぱい点を取れたから広島ファンからするとかなり愉快な展開だったね。うん、CSってのもいいもんだなあ」
「CSの楽しさは知ったけど怖さは知らないからまだまだね。次は巨人だけどこれに関してはまあ勝てると思わないほうがいいわね。希望を言うとすんなりと一位のチームが勝ち抜いてほしいとはリーグを問わずに願ってはいるけど。いくらカープと言えどもね。でもそれを含めての制度だから、万が一勝ったらそりゃあ不平不満を言わずに応援するわ。多分巨人が勝つけど。まあお互い恨みは無しでパシッと戦って出た目に従う他にないわね」
「冷静に考えてシーズン負け越してるもんね。それがセリーグ代表でございますみたいな顔をするのもね」
「そこよ。だからこれからはちょっとシーズン全般の趨勢に関して話すわね。何がどうなって久々のAクラスに入れたかと言うと、まずは投手陣ね。開幕前から前田、バリントン、大竹、野村の四人に関してはやってくれると思っていたけど、まあ基本的に彼らは期待通りの活躍を見せてくれたわね。一番不安だったのが二年目と実績の少ない野村で、しかも序盤は炎上続きで二軍落ちとかしてたけど終わってみれば防御率こそ増加したものの大きく勝ち越せたし、何より規定まで行けたのが良かったわね」
「前田健太もエースとしてすごくいいピッチングを続けてたよね。この間のCSも含めて」
「まあ彼に関してはもはやそういうレベルじゃないから。大竹とバリントンも含めて二桁勝利の投手が四人と、ここを長年かかって整備したのが確実にプラスになったわね。それ以外の先発は今井がいきなり骨折したり中村恭平や中崎はまだまだだったり、今後の課題となるけど」
「リリーフだと永川や横山がCSでも活躍してたよね。それにミコライオ」
「シーズン全般で言うと久本も先発からリリーフから色々な使われ方がなされて、とても便利な選手だったわね。こういう優秀な選手でもチームの色々な事情から戦力外として転がってたりするものなのよね。シーズン序盤には河内がワンポイント中心によく抑えていたし、夏場の苦しい時期にはソコロビッチが頑張ってくれたわ。逆に今村は不安定だったし福井に至っては期待外れもいいところだったわね。中田廉ももっと出番が多くなるかと期待してたけど。それに篠田もこの程度ではいけないし、岩見とか武内あたりもね。リリーフに関してはもう少し層を厚くしないと常に失速の危険性はつきまとうでしょうね」
「まあそりゃあ誤算がないわけじゃないにしても、こう見るとやっぱり投手陣に関しては想定通りとか想定以上ってポイントが多かったんだね」
「特にリリーフはね、シーズン序盤の横山は不安定だったし永川もいきなり怪我でいなくなったりして、こんな形になるとは予想できなかったわ。一方野手はと言うと、まずキャッチャーは石原を中心に倉もぼちぼちで、それ以降はまだまだだけど大体順当だったわね。移籍とかがない限り石原で五年ぐらいは任せるだろうからその間に後継者の目処を付ける必要があるわね。今年のドラフトでは一人ぐらい指名されるでしょうし、磯村に會澤にその他ってところから誰が出てくるか。まあキャッチャーはどんな優秀な素質があってもしばらく叩かれるの込で育成をするものだから。石原だってそうだったし、簡単じゃないポジションよね」
「そうなるとやっぱり今石原がいるのはありがたい事だよね。そしてファーストは、キラが入って安定したよね」
「そうね。元々実績十分の栗原が入ってたけどこれがまた悲しくなるほど打球を飛ばせなくて、結局開幕から一ヶ月とちょっとで二軍落ちしてそのまま浮上しなかったわ。二軍成績も平凡なのが侘しいけど戦力としても純粋にマイナスで誤算だったわ。エルドレッドや岩本もパワーはあっても安定しないし、松山はファースト守備下手だしでなかなか固定できなかった中、キラはまさに救世主の働きだったわ。あの打撃、そう、この打撃よ! 私たちが四番打者に待ち望んでいたのは!」
「本当頼りになったもんね! それと菊池のセカンド守備も」
「菊池はルーキーだった去年からあの躍動感に目を奪われていたけど、今年も大いに成長してるわね。打撃に関しては『とりあえず.250打ってくれれば』と思っていたら大体そんな数字だったし、個人的には及第点だと思ってるわ。来年はもう少し上げてくれればいいんだけど。菊池にはそういう期待をしたくなるのよね。やっぱり爆発的な動きを見せるから、ワクワクするわ。キャンプで怪我した東出は残念ながら復帰しなかったけど、補って余りあるとはまさにこの事よね。ただ東出に関しては仮に怪我がなかったとしても今シーズンはリザーブメインだったと思うけど菊池がここまでやると、来年以降はどうなるのかしらね。そしてサードは、堂林がねえ」
「なかなか数字が伸びなかったよね」
「八月になってようやくまともになったかというタイミングで怪我。しかもその付近からチームが上昇して代役の木村もなぜか三割とか打って『堂林がいなくなってから勝ち始めた』などと誤解されたり。打線に関してはキラがまず第一の鍵で、さらに九月からエルドレッドと並立した事で打線にパワーが増して勝てるようになったって流れだから。ただ夏までの堂林重点起用がなければもっと勝てたかもってのは今となってはあるけど。やっぱり使うにしてももう少し入れ替えながらのほうがいいわね。来年からも」
「エルドレッドはレフトだったよね。ファインプレーあったし」
「まああれはまぐれみたいなものだけど、あそこであれを起こされるとそりゃあ流れだって変わるものよ。外野に関してはまずは丸。最終的には割と落ち着いたけど出塁率は高いままだったしなかなかの貢献度だったわ。それに松山も打撃では去年の轍を踏まずによくやってくれたわね。シーズン序盤には廣瀬や中東、中盤にはルイスで終盤はエルドレッドあたりがなかなか頼りになったわ。特に松山と廣瀬は相手先発によって使い分けてたり、上手くやれてたわ」
「実力にあんまり差がないのが幸いしたのかな」
「皮肉めいた見方だけどね。逆に誤算気味だったのは天谷かしらね。ルイスは全体的にはもうちょっとだったけど良くなったところで落とされた部分もあるし、ただそこで昇格したエルドレッドがかなり良かったから仕方ないわ。順番がずれたけどショートは梵がやってくれたわね。ただ彼は膝の問題もあるから序盤から中盤にかけては安部が定期的に使われてたけど、同級生の菊池と違って信頼を勝ち取れなかったわね。菊池みたいに色々と派手ならいいってもんじゃないけど地味にミスが多かったのがね」
「内野手はそれに小窪とか上本も出てきたよね」
「レギュラーとなるといささか心許ないけど、ルーキーの鈴木や外野では下水流も含めて各地で競争が激しくなるならそれは良い事よ。どうせ確固たるレギュラーが少ないんだから、競い合う中から一番いい選手を臨機応変に使い分けるのがチームの実情にも合ってるし、首脳陣がそれをこなせたからAクラスにも入れたってものよ。負け越したと言っても随分長い閒それすら出来なかったという現実の前ではノイズにすらならないわ。それと前田智徳引退。シーズン序盤は代打として頑張ってたけど選手としては一度シーズン全休した時に引退したようなものだから、チームがCS進出した今年はいい引き際だったんじゃない?」
「そうかもね。でも出る人がいれば入る人もいるわけで、そろそろドラフトだよね」
「去年は野手中心だったから普通に考えると今年は投手が多いはずなんだけど。実際退団選手も投手のほうが多いし。普通に考えるとまずは先発ね。候補が多ければそれに越したことはないんだから。リリーフも横山や永川といったベテランが中心になってるけど、やっぱり若い選手ももっと頑張ってほしいからここにも即戦力クラスが入るといいわね。叶うなら左投手がいいけど、まあそんなにこだわらなくてもいいわ。左だろうが右だろうが、要は実力が一番大事なんだから。とにかく投手よ。即戦力でまかないやすいのも投手なんだから」
ここで敵襲を告げる緑色のライトが二人のいる部屋を染めた。安らかな休日とは今の二人にとってもっとも縁遠い言葉であると自覚する間もなく、変身して敵の出現地点へと身を躍らせた。
「おうおうおう! ワイはグラゲ軍攻撃部隊のトラ男や! 何や知らんけどむしゃくしゃするし一発暴れたるで!」
極めて危険な男が登場したのは河川敷の野球場であった。せっかくの休日、好きなスポーツを満喫しようと集った老若男女に危害を加えるようなことがあってはならない。地球を守ると言うが、地球さえ守れればいいという訳ではない。地球が生み出して地球で暮らす人類という種が彼らの思うように生きられなければそれは滅びたと変わらないからだ。そして幸い、トラ男が暴れる前に二人はその場にたどり着いた。
「感情を抑えろトラ男! 暴れるなんて絶対に許さないぞ!」
「禍福はあざなえる縄の如しって言うけど、今の悪い感情だってそのうち収まるんだから、変な考えをするようなら実力行使をしてでも抑えてみせるわ!」
「やかましいわ! ええい雑兵ども、奴らをいてまえ!」
トラ男の胡散臭い関西弁、正確に言うとやはりグラゲ星の言語にも地域によって方言のようなものがあって、その中でもトラ男は日本に置き換えると関西地方にあたる地域特有の訛りが強く出ている喋り方をするので自動翻訳装置にかかっても訛りがこのような形で出現しているのだ。それはともかく、雑兵は瞬く間に倒されて戦えるのは二人とトラ男の三人だけになった。
「もはや残るはお前だけだなトラ男!」
「暴れるなら他のところでやりなさいよ。迷惑になるような感情の発露なんて最低よ!」
「はっ! ワイがこの程度で引っ込むとでも思うたんか? アホぬかせ! これからが本番やろが!」
そう怒鳴りつけると、トラ男は懐からスイッチを取り出して巨大化した。凛々しい顔がいかにも強そうだ。しかし恐れてはならない。渡海雄と悠宇は勇気を振り絞って合体した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
河川を横切っての巨体対決は激しい肉弾戦を経て、トラロボットの動きがいい加減鈍ってきたところでメガロボットが一気に勝負を決めた。
「この勝負もこれで決まりだ! 当たれ! フィンガーレーザーカッター!」
渡海雄が群青色のスイッチを押すと、両手の指から高熱線レーザーが吹き出してトラロボットをその縞模様と同じように細く切り刻んだ。
「ふう、まあええわ! 気分も晴れたしここらが潮時やろ。ほな、また来るで!!」
脱出の際もトラ男はあくまで余裕綽々であったが、この戦いにおいて地球人類がひとまずの勝利を収めた事は間違いなく事実である。カープの戦いはもう少しだけ続く。しかし渡海雄と悠宇、そして地球人類に課せられた戦いが終わる気配は今のところ、ない。
今回のまとめ
・突破したのはいいけど今回はうまくいきすぎた
・投手も打線も一定の形を作れたのが良かった
・ドラフトまで後十日とかびびる
・CSにおける阪神の弱さはもはや呪いか体質か




