ca25 NOT AT ALLについて
二月もそろそろ終わりに近づき、週末にはJリーグも開幕した。大型補強した神戸が相変わらず神戸だとか昇格組がよくやってるとか色々あるが、それはまたその時となるだろう。サンフレッチェはまず引き分け。凄いゴールだった。
「それで今月は『NOT AT ALL』。二十一世紀の始まりとなる二〇〇一年に発売されたアルバムだよ」
「世紀末の前作から二年ぶりになるわけか」
「まず前作『no doubt』発売後には『CHAGE&ASKA VERY BEST ROLL OVER 20TH』というベストアルバムが発売された。いわゆるオールタイム・ベストで、それまでの二十年の活動における全シングルを網羅してるわけじゃないけど『終章』『PRIDE』といった認知度高いアルバム曲も収録されている。チャゲ曲少ないのはやや気になるものの基本的には王道の選曲だけど、『安息の日々』はそこまで有名な曲でもなかったのに収録されたのは驚きを持って受け止められた」
「『黄昏の騎士』からか。収録曲見るに『男と女』から『MOON LIGHT BLUES』までごっそり空いてるからそこの穴埋めって考えかな」
「それならタイミング的にも『21世紀』とかぶっこんだら良かったのに。まあ単なる最大公約数的なベストよりこういうのが入ってたほうが人間味があっていいんじゃないの。なお売上に関してはミリオンのそのまた半分ぐらいってところ」
「この選曲でそんなものか」
「すでにスーパーベストなんかで一連のヒット曲は膾炙していただろうし、あえて今これを買うかってのもあったんじゃない。ともあれこの時代には宇多田ヒカルが台頭したり、CDバブルだった九十年代の最後を飾るに相応しい過剰な売上バトルが繰り広げられていたけど、その熱狂からは一歩退いた形になった。いや、むしろ『群れ』なんか出してマスを振り切った後にしてはよくついてきてくれてると言うべきなのかな。これを出した後にレコード会社移籍したし、一つの区切りとなったのは間違いない」
「それでどこに移籍したの?」
「この辺がまたごちゃごちゃしててね、まずそもそも前作はポニーキャニオンから東芝EMIに移籍して出したんだけど、二〇〇〇年の五月にはヤマハミュージックコミュニケーションズという新たに設立されたレーベルに移った。元々チャゲアスはヤマハの大会で活躍してプロになったし、彼らの音楽の権利に関してもずっとヤマハが持っていたのは周知の事実。それで移籍してソロシングルを出したけどそこは新設の弱みかプロモーションなんかがあんまり良くなかったらしい。それで翌年には早くもユニバーサルに移籍する事になった」
「うーん、そんな毎年のようにコロコロしてたわけか。というかヤマハとの関係は大丈夫なの?」
「デビューからユニバーサル移籍までの楽曲の権利はまだヤマハにあって、それでこの時期にそれまでのオリジナルアルバムがヤマハのほうで再発売されているから完全に切れたって事はないみたい。ともかくこれからユニバーサル期に突入するわけだけど、終わってみるとオリジナルアルバムはわずか二枚だからねえ」
「少なっ!」
「だからここでチャゲアスについて語るのももはや秒読みで次どうしようかってとてつもなく悩んでるんだけど、とにかく時計は前に進むものだから流れに棹さすしかなかろうよ。それでユニバーサル移籍したんだけど、そこでCHAGE & ASKAからCHAGE and ASKAへと微妙な表記の変更がなされた。ついでに飛鳥涼って名義もASKAになった。でも面倒だし本文中でそういう変更は反映されないからよろしくね」
「喋ってる分には何も変わらないんだけどね」
「ここまでダラダラ説明してようやくアルバム本編に入るけどね、まずぶっちゃけるとこのアルバム、リアルタイムではあまり評判がよくなかった。というのも、この二〇〇一年、チャゲアスは前年とは打って変わって精力的にシングルを発売して、なんと四枚もリリースしたんだ」
「へえ、それは凄いじゃない」
「でもアルバムは、本来はデビュー記念日である八月二十五日に発売されるはずが十月にずれ込むと発表され、さらにやっぱり十二月まで延期となかなか出てこなかった。それでいざ蓋を開けてみれば既存のシングルやカップリング曲まみれで純然たる新曲が少なかった」
「それはまた。でもシングル出しまくったから仕方ないんじゃない?」
「それはそうなんだけどね、それでもやっぱり期待したいじゃない。それとCD EXTRAというCDの中に音楽とそれ以外のデータを同居されたシステムが採用されていて、それでオリジナルのスクリーンセーバーが配布されていたみたいだけど、これも時代を感じさせるサービスだよね」
「サービスのほうはともかくとして楽曲の一曲目は早速アルバムと同じ『not at all』。作詞A・松井五郎、作曲A、編曲A・鈴川真樹・Richard Cottle・Paul Staveley O'Duffy。何この長ったらしい編曲欄。作詞も松井五郎っていつ以来よ」
「それこそポニーキャニオン移籍前以来だよね。それと編曲者に関して、このアルバムはロンドンレコーディングが行われたので、外国人はそっちの人たちだよ。オダフィーは飛鳥のソロアルバムでも関わってる人だし。鈴川は、この頃のチャゲアスのバックバンドにいたギタリスト」
「なるほどねえ。そうやって多くの人に触れられながら完成したわけか」
「でもサウンドはむしろシンプルで開放感さえ感じさせる。前作のあの澱んだ雰囲気とは大違い。そしてこの曲、歌詞がいいんだよ。説教臭さは皆無なんだけどここで歌われる人生訓のようなものはバシバシと刺さりまくる。当時よく言われていた『チャゲアスはもう終わり』みたいな声に対してこれが全てじゃない、まだまだこれからだぜって意味合いから付けられたタイトルだそうだけど、それだけのものはある」
「次は『ふたりなら』。作詞C&A、作曲C、編曲松本晃彦」
「どっちかと言うと飛鳥曲に多く携わっていた松本がチャゲ曲をアレンジした。全体的にはどちらかというと柔らかい印象が強く残るけどサビではそれなりにサウンドも盛り上がる」
「次は『鏡が映したふたりでも』。作詞作曲A、編曲松本晃彦・A」
「これも穏やかで何となくぼんやりした印象の曲。四分過ぎたぐらいでちょっと盛り上がるけど、そういうタイプの曲ではない」
「次は『アジアンレストランにて』。作詞作曲C、編曲Paul Staveley O'Duffy・村田努」
「村田はチャゲアスのマネージャーとか裏方的仕事をしていた人物で、この頃からディレクターとして特にチャゲ曲にはよく絡んでくるようになる。それでこの曲についてだけど、ちょっとダークな世界観に覆われててこのアルバムにおけるマニアック担当がこれだけど、結構ガツンとしたロックサウンドがなかなか格好良い」
「次は『パラシュートの部屋で』。作詞作曲A、編曲A・鈴川真樹・Richard Cottle・Paul Staveley O'Duffy」
「編曲が『not at all』と同じだけど、確かに楽曲から漂う伸びやかさ、抜けるような開放感は共通している。これはシングルになった曲で、ここまで爽やかなサウンドは今までほとんどなかったんじゃないかなってぐらい突き抜けたポップス。でも歌詞に関しては、まあ結構なもので……」
「なんで照れてんの?」
「外界から隔離された二人だけの空間で過ごす幸せというのかな。非常に多幸感に溢れてて、いいんじゃないの」
「今度はやたらとぶっきらぼうに。ともかく次の曲は『凛』。作詞C、作曲C・Tom Watts。編曲は?」
「まずこの曲最大の特徴は二分未満というその短さにある。しかも二人の声とギターのみというシンプルな編成だからね、余計な編曲など不要だったんでしょ。でもそれは不完全さや未完成を意味しない。ヘッドホンで聴くと右から飛鳥、左からチャゲの声が聞こえる仕掛けも加わってなかなか濃厚な楽曲に仕上がっている」
「次は『C-46』。作詞作曲A、編曲A・鈴川真樹・Richard Cottle・Paul Staveley O'Duffy」
「これもシングルになった曲。しかも前作『パラシュートの部屋で』が八月発売でこれは一ヶ月後の九月にはもう発売というハイペースっぷり。でも粗製乱造とは正反対で、むしろ飛鳥的には渾身の一撃だったらしい。だから後にセルフカバーした際に島耕作シリーズで知られる漫画家弘兼憲史の黄昏流星群という中年や老人にカテゴリーされる男女の色恋沙汰を描いた短編集のシリーズでもこの曲の世界観をイメージした作品が書き下ろされるなど、ちょっと特別な地位を築いている」
「というか黄昏流星群って、そんな世界もあったんだ」
「漫画は子供のものって時代から青年も読むようになって、弘兼は『じゃあ次は中年や老年向けに広がっていくだろう』と目を付けたパイオニアなんだ。だから画期的な作品なんだよ。若い人が読んで面白いかは別にしても。なおC-46モチーフの作品はドラマ化もされてて、主人公の元ミュージシャンで今はサラリーマンの飛鳥ならぬ飛島を、かつて楽曲提供した事もある中村雅俊が演じている」
「そうなんだ。というか結構最近にもドラマ化されてたり、本当に凄い作品みたいね」
「それで楽曲の説明に入るけど、まず偶然昔録音されたカセットテープを見つけて、それを再生してみると昔の自分と付き合ってた女の声が聞こえた。それで昔の事を思い出してしんみりするって世界観で、じんわりといい曲ではあるけどアレンジも何となく軽いしそこまではまるほどでもない。年輪を重ねると違ってくるのかも知れないけどね」
「説明が長かった割にはその程度の評価なのね。次は『夢の飛礫』。作詞C、作曲C・Tom Watts、編曲十川知司」
「これが久々のチャゲ曲シングルで、両A面だのトリプルA面と言いつつ実際は二番手だった『VISION』や『NATURAL』を除くと実に『ロマンシングヤード』以来だから本当に長かった。そして楽曲は、イントロのシンセでいきなり脱力するけど二段階三段階とぐんぐん盛り上がっていくメロディーでなかなか存在感ある楽曲に仕上がっている」
「次は『ロケットの樹の下で』。作詞作曲A、編曲松本晃彦・A」
「これがシングル四連発の最初の曲で、ゴツゴツした質感は男臭さ満載で、ある意味では『群れ』とも共通する部分はあるけどあそこまで閉ざされた空気はない。ノスタルジーと言うのは簡単だけど思い出に耽るだけでなく、過去を思い出させる事でちょっと行き詰まった今を乗り越える力に変えてくれよという不器用なエールが描かれている。男同士、しかもお互いにある程度年を経てそれなりに経験を積み重ねた、あえて言うとおっさんの応援歌」
「そして最後は『告白』。作詞青木せい子、作曲C、編曲Elder Street Boys」
「この編曲者は当時のバックバンドで、もちろん演奏も彼らによるもの。またこの時期は過去の楽曲を今のメンバーでセルフカバーってのもちょくちょくやってて、詳細はまた後に語る事になろうかと思うけど、とにかくこの曲はあの『SAY YES』のカップリングだったんだ。それが今までアルバム未収録だったけどここに来て浮上してきた。楽曲としては非常に純愛ムード漂う無垢な楽曲で、チャゲの柔らかい歌唱も良い。でも何でこのタイミングでアルバムのラストに過去の楽曲なんだろうってのはちょっとあったり」
「これで終わりか。十曲中シングルが四つにセルフカバー一つとはね」
「それに『ふたりなら』と『アジアンレストランにて』はカップリングとしてすでに発表されていたから、新曲は三つのみ。これは確かに少ないと言われても仕方ないね。曲作り、苦労してたのかな。そのくせなぜかアルバム未収録となったカップリング曲もあるけど」
「それが『Born the trap』。作詞作曲C、編曲鈴川真樹」
「歌詞に関してはデビュー前、大会でミスってグランプリを逃したという有名な逸話がモチーフになっているらしい。でも過剰にノスタルジックってわけでもなく、むしろ風が通り抜けるような清々しさが印象的な正統派のポップス」
「アルバムの空気感から全然外れてるようにも見えないし、何でこんな扱いだったんだろうね」
「そこは外部では分からない色々な考え方があったはず。ともかくこの時期のチャゲアスも良いよ。ここからよりリリースは散発的になっていくわけだけど、それでもずっとライブは続けてたりするわけだからね。ついていけない人が続出しても前進をやめない二人だから、ここからまだまだ良くなると思わせるアルバム。まあ結果的に先はほとんどなかったわけだけど」
そんな事を語っていると敵襲を告げるサイレンの音が鳴り響いたので、二人は素早く着替えて敵が出現したポイントへと馳せた。
「ふはははは。俺はグラゲ軍攻撃部隊のラッパムシ男だ! グラゲ皇帝の意志を広められるならこの体朽ち果てようとも惜しくはない」
全身に繊毛という小さな毛をびっしりと生やしており、それを使って移動する繊毛虫の代表格である単細胞生物の姿を模した男が春を待つ野山に出現した。この男はグラゲ軍の存在を心の底から崇高だと信じているので、すぐさま出現した地球側からの使者は単なる敵としか見えていなかった。
「出たなグラゲ軍。お前たちの思い通りにはさせないぞ」
「そろそろ春なんだし、つまらない争いはやめにしましょうよ」
「今グラゲ皇帝様をつまらぬと言ったな! 殺してやる! 行け、雑兵ども!」
まさしく聞く耳を持たないラッパムシ男の指示により繰り出された雑兵を次々と撃破していった。
「よし、これで打ち止めみたいだな。後はお前だけだラッパムシ男!」
「今から退けばこれ以上無駄な争いにはならないのに」
「無駄なのはグラゲ軍に従わぬお前たちの命だ!」
そしてラッパムシ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかない。二人は覚悟を決めて合体してこの暴力に対抗した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
ただでさえ単細胞生物の中では巨大なラッパムシがより巨大化した姿はなかなか壮観であったが、これに負けてはいられない。悠宇は持ち前の反射神経で相手の柔軟な攻撃を回避しつつ、体勢を整えて反撃した。
「よし、今よとみお君!」
「うん。春を告げるレインボービームでとどめだ!」
渡海雄はすかさず白色のボタンを叩いた。胸から放たれる七色の光線がラッパムシロボットを打ち貫いた。
「愚か者め。しかしグラゲ皇帝様の正義は絶対だ。ゆえにお前たちはいずれ滅ぶ! それまではせいぜいあがくが良いわ」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってラッパムシ男は宇宙へと戻っていった。戦いはこうして終わり、そして次の戦いへのインターバルに突入する。近頃暖かくなってきたけど、まだまだコートは手放せない地球であった。
今回のまとめ
・サロモンソンのゴールは格好良かった次は勝利だ
・レコード会社移籍とか正直どうでもいいんだけど
・自分たちがベテランになったのを認めたようなアルバム
・全体的に落ち着いてる中で「not at all」はとても良い