ng11 小園獲得記念 2018年ドラフト会議について
雲ひとつない十月二十一日日曜日、渡海雄と悠宇はいつも通りに公園で遭遇していた。ブランコに立ち乗りして隣同士、遠心力とお話を楽しんでいた。
「しかしまあ、良かったよねえ。今年はすんなりクライマックスシリーズ突破出来て」
「本当にねえ。去年はつまらない相手につまらない負け方をして苛立ちマックスだったわ。当たり前をこなす、その大変さよね」
「しかも三連勝だから文句なしだよね」
「去年も一昨年も一つ負けたら後は八百長みたいに負け続けるパターンだったから今年は一つも負けずに終わりましたと。まあ本番でもそれが出来るんならそれでいいんじゃないの」
「そして日本シリーズは、まず相手がどうなるかだよね。西武かソフトバンクか」
「いずれにせよ強い相手だし、まあなるようになれよ。ともかくその前の、今週の木曜日にドラフトがあるでしょう。今はそっちのほうが気がかり」
「ああ、もうそんなに経ったんだね。今年はどうなりそう?」
「まず高校生で注目されているのが今年の甲子園を制覇した大阪桐蔭の根尾内野手や藤原外野手、それに金足農業の吉田投手や報徳学園の小園内野手といったところ。そして大学生では東洋大が誇る甲斐野、梅津、上茶谷の三投手や日体大の松本投手の評価が高いわ」
「即戦力で言うともちろん大学生なんだろうけど」
「そこはどう考えるかよね。当然投手は必要だけど今のうちに将来を担う野手をって声もまた理解出来るもの。現状だと小園、藤原、甲斐野が有力って声もあるけど、もう少し待てばより確信的な記事も出るだろうから待機。全体的には野手中心になるともっぱら」
「去年は投手ばっかりだったしバランス的にはそれが妥当になるのかな。人数はどうなりそう?」
「選手枠があるから来るだけ去る人もいる。それで言うとまず新井と天谷が引退、辻と佐藤と土生が戦力外で五人の退団が確定している。これとプラスでも一人か二人がせいぜいでしょ」
「そうなると五、六人ってところかな。それにしても新井引退なのにCS第二戦でのタイムリーは凄かったね」
「フォークボールに食らいついて見事な千両役者っぷり。しかし入団直後は攻守に粗い大根役者だったんだから、その積み重ねの偉大さよね。とにかく平成最後の日本シリーズなんだし平成最後のドラフトでもあるんだから、華やかに飾ってみたいものよね」
「そうだね。とうっ!」
このような会話の後、渡海雄はブランコから飛び降りて「じゃあそろそろ時間だから」と手を降って別れた。ブランコを飛び降りるようにドラフトも格好良く終わればいいのにと悠宇は思った。なおパリーグのCSはこの日の勝利でソフトバンクが日本シリーズ進出を決めた。
そんな日曜日にさくっとこれを投稿して本番までちょくちょく更新しつつ当日に完成、という形になると思う。もちろん木曜日の日程は空けている。
そして十月二十五日木曜日が訪れた。澄んだ空気が心地良い秋の中の秋の一日だった。今日の授業を終えた二人はいつも通り悠宇の家に集まっていた。
「さあ後一時間ほどで一位指名だね」
「うん。いつもの事だけど、やはり緊張感が高まってきたわ。さて、今年のカープはここまで明言はしていないけど、どうやら小園が最有力らしいわ」
「小園か。どういうタイプの選手?」
「ポジションはショートで、攻守にセンスがあるタイプよ。今のカープの二遊間は菊池と田中で盤石だけど年齢的にはそろそろ三十歳。俊敏さが要求されるこのポジション、それぐらいの年齢で守備能力がガクッと落ちる事はよくあるので今のうちに後継者を、という考えよね」
「投手の可能性はないの?」
「会議ではそれもシミュレーションしたと言うけど、この時点でマスコミ各社の予想は一律で小園だからね。カープはそこから裏をかく球団じゃないし。今年は事前に宣言する球団が多くて、しかもそれが中日巨人ヤクルトが根尾でロッテは藤原など野手ばかり。そして小園はオリックスとソフトバンクが指名確実なので最低三球団の競合となる」
「確率低いねえ」
「ただ外してもそれなりに投手は残る計算になりそうだし、色々な可能性があるからまだまだ全然読めないわ。それにドラフトは一位指名だけで終わるんじゃないし、心を広く持ちましょう」
「うん。そうだね!」
正直小園三球団と甲斐野単独ならどちらがどうかってところもあるが、今は気長に待つしかない。午後五時、いよいよ各球団が入場してきた。五時十五分各球団の一位指名選手が呼ばれる。その結果楽天藤原阪神藤原ロッテ藤原中日根尾オリックス小園DeNA小園日本ハム根尾巨人根尾ソフトバンク小園ヤクルト根尾西武松本広島小園となった。
「凄い! 西武以外本当に野手ばっかり!」
「藤原三球団に根尾と小園が四球団。こういう分かれ方もなかなかないわね。そしてまず藤原は、ロッテか。ここは本当にクジが強いわね。選手は伸びないけど」
「最初から公言していたところが見事に引き当てたわけか。さて次の抽選は根尾か」
「四球団から引き当てたのは、おお、中日!」
「中日かあ。ここも最初から言ってたところだよね。念ずれば花開く、みたいな。そして最後に広島も指名した小園の抽選だけど」
「うおお!!」
「引き当てた!!」
「おおお! これはまた」
一番最後にくじを引いた緒方監督の右腕がゆっくり上がった。かくして広島一位は報徳学園のショート小園海斗に決定した。正直当たるとは思ってなかった。それにしても指名確定した時の小園の笑顔の爽やかさよ。
しかしこれで将来ショート確定確定とは思っていない。ましてや高校生、大事なのはここからの研鑽に他ならない。頑張れ小園。そしてカープの星となれ。
「さあ外れ一位は、楽天阪神巨人ソフトバンクが辰己、DeNAヤクルトが上茶谷、そしてオリックス太田と日本ハム吉田が確定」
「吉田あっさり決まったわね。そして辰己の人気も想像以上だったわ。そして抽選の結果は、楽天が引き当てた」
「抽選がここまで一番最初か一番最後ばっかりだね。そして次の上茶谷も」
「そりゃ二人だからね。そして引き当てたのはDeNA。ここ数年左投手が多かった中、今度は右の実力者を獲得した。本当は野手と行きたかったでしょうけど、即戦力投手として安定感は随一だしね」
そして次の入札で、阪神近本巨人高橋優ソフトバンク甲斐野ヤクルト清水でそれぞれ確定した。いずれも大社の即戦力候補となる。五時四十分にまず一位指名は終了。なんだかんだで去年ほど突飛な名前はなかった。
そして六時五分から始まった二位指名。楽天太田光、阪神小幡、ロッテ東妻、中日梅津、オリックス頓宮、DeNA伊藤、日本ハム野村佑、巨人増田、ソフトバンク杉山、ヤクルト中山、西武渡辺と指名された。
「ここまではどうかな」
「まあ有望な名前ばっかりよね。小幡や増田、中山あたりは残らなかったかって感じ。今の所中日とロッテ、それとソフトバンクも強烈な素材を上位で固めててなかなか華やかな指名になってるかな。そしてカープの二位指名は、島内」
「おお、これはどういう投手?」
「大瀬良の大学の後輩で、150キロを超えるストレートに加えて決め球となる変化球も持っていて、かなり注目されていた投手よ。変化球のバリエーションはやや少ないって話もあるけど、いきなりリリーフとして戦力になるかもね」
「今年のリリーフ編成大変だったしね。毎年フランスアみたいな救世主がポンポン生まれるわけでもないし、助けになるといいよね。そして三位は林」
「智弁和歌山の荒々しいパワーに魅力がある大砲で、ポジションはサード。カープのサードは現在安部や西川が守ってるけど彼らは本来二遊間のところをサードに回してるってニュアンスあるし、ここでガッツリとサード専任で行けそうな選手の獲得は面白いわ」
二位島内颯太郎と三位林晃汰。投打でともに力のある選手を獲得出来た。この二人は二位の最後まで残ってるんじゃないかという雰囲気はあったし、その中では最善に近い。それと小園も含めて、いずれもタイプの異なる選手を幅広く指名出来たのはなかなか良い流れと言える。ここまでは成功に近いぞ。
そして三位と四位指名では楽天引地弓削、阪神木浪斎藤、ロッテ小島山口、中日勝野石橋、オリックス荒西富山、DeNA大貫勝又、日本ハム生田目万波、巨人直江横川、ソフトバンク野村大板東、ヤクルト市川濱田、西武山野辺粟津となった。
「板東残らなかったか。ソフトバンクは個人的に注目していたところを指名してるし、日本ハムは相変わらず派手よね。中日もいい感じ。さて四位は」
「中神。これは?」
「高校生のショートで、小園と違って右打者なのがまずは特徴。パワーがあるとも評判で、また投手も兼任していたから肩もいいらしいけどあんまり映像なんかが出回ってないから『中神ってのは良いらしい』というふんわりとした噂が独り歩きしがちだった選手でもある。同じ枠に未来沖縄の宜保」
「ふうむ。そして五位は田中法彦」
「去年育成枠の岡林を指名した菰野高校出身の投手で、173cmと右投手にしては身長が低いけど球速は150キロを超える。体のサイズを重視しがちなカープのドラフトからすると変則気味ではあるけど、逆に言うと身長という明確なマイナスがあってもなお指名したいという魅力があるって事でもあるし、なかなかの素材なのかも」
「どっちも高校生だし、将来の活躍を期待したいね」
中神拓都と田中法彦。ともに中部地方の逸材として将来性を重視した指名となった。五位六位は楽天佐藤智渡辺佳、阪神川原湯浅、ロッテ中村稔古谷、中日垣越滝野、オリックス宜保左沢、DeNA益子知野、日本ハム柿木田宮、巨人松井戸郷、ソフトバンク水谷泉、ヤクルト坂本鈴木、西武牧野森脇となった。
「西武が同じ埼玉のよしみかレッズみたいな名字の人たちを指名してきたね」
「それとやっぱりソフトバンクが面白いかな。そして広島六位は、正随。今は亜細亜大学の選手だけど広島に生まれて大阪桐蔭高校出身となる。まずカープが桐蔭出身者を指名するのは初めてだから、そういう意味ではトピックスよね」
「選手としてはどんなタイプなの?」
「基本的には恵まれた体格を誇る右のパワーヒッター。四年生になって成績を落としたのは今年戦力外になった土生を彷彿とさせていささか不安だけど、新井引退だし補充が必要なポジションなのは確か。思えば新井と同じ六位指名。背番号25の後継者になるぐらいの奮闘を見せてくれたなら素晴らしいじゃない」
「そうだね。それにしてももう六人目か。そろそろ終わりかな」
「多分」
「と思ってたらまだ指名があった。羽月隆太郎。格好良い名前だね」
「ごめん。あんまり詳しくない。でもポジションはショートらしい。かなり小柄だけど……。スピード系かな。まあパワーヒッターじゃないのは確実にせよ。ごめんなさい、精進し直すわ。それにしても七人目も指名あるとは思わなかったわ。ここまでまだ日本人の退団は五人だから、第二次で複数名に通告されるのかしらね」
「そういうのはあんまり考えたくはないけどね」
「指名された選手のポジションで言うと高校生の野手を四人指名した一方、投手は島内と田中の二人。去年投手いっぱい指名した事もあるからバランスを取ったとも言えるわね。投手陣に関しては現有戦力の成長待ちで。そして二軍の内野手は確かに少なかったからこの大量指名も納得出来る。天谷土生と外野を削った分はコンバートでもするか」
「ところで今度こそ指名は終わり?」
「さすがにこれ以上はないと思うけど」
悠宇の推測が今度は当たって七人で指名終了となった。まずは正随優弥だが、素質は確かなものを持っていると思うのでしっかりトレーニングを積んで大きく育ってくれると良い。そして羽月隆太郎。Twitterではスタンドで凄まじいパフォーマンスを披露している動画が見つかったが選手としても期待したい。
次に育成枠では大盛穂という静岡産業大学の外野手を指名した。春のリーグ戦で首位打者になったらしい。名前だけ見ると山川穂高とかそういうタイプの大柄なホームランバッターみたいだが実際はセンターを守るような選手だそうだ。まずは七十人枠を目指して頑張ってほしい。この八人で指名は終了となった。
「とりあえずここまでか。全体的には良さそうだったね」
「まずクジを当てたらやっぱり嬉しくなるわね。そして全体的には課題に対処した指名になっているとは言える。しかし大事なのはこれから。現在カープは三連覇を達成している。その要因となったのは生え抜き選手の活躍であり、そして今年の八人はその歴史を引き継ぐべき存在。いずれ劣らぬ才能の持ち主だけに、まずはしっかりと鍛えて、その実力をもって球史に名を刻んでほしいわね」
「そして日本シリーズでもいい成績残せるといいね」
「平成最後だし、一回くらいはね。とかやってたらもう八時よ。そろそろ帰らないとまずいんじゃない?」
「そうだね。それじゃ、また!」
すっかり日が暮れた道を渡海雄は走るように帰っていった。明日もまた涼しく過ごしやすい一日になるといいなと願いつつ。
一位 小園海斗 内野手 報徳学園高
二位 島内颯太郎 投手 九州共立大
三位 林晃汰 内野手 智弁和歌山高
四位 中神拓都 内野手 市立岐阜商高
五位 田中法彦 投手 菰野高
六位 正随優弥 外野手 亜細亜大
七位 羽月隆太郎 内野手 神村学園高
育成
一位 大盛穂 外野手 静岡産業大
今回のまとめ
・去年に続いてくじ引きで勝てるとは珍しい事もあるものだ
・特に上位三人はこれだと膝を叩くような指名だった
・下位は印象的な名前の選手が多いので頑張ってほしい
・こう見ると各球団それなりにいい選手がいてなかなか豊作なのかも