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ca21 Snow Mailとかカップリング曲について

 無事にPC復旧して、他に設定なんかをしてようやく安定して使えるまでに戻ってきた。こんなちょっとした物書きですら精神的物理的な安定が欠かせないのだから創作とは繊細なものだが、ともかく戻ったからにはさっさとケリをつけねば。


 九月は嵐とともに去っていき、そして清々しい晴天とともに十月は訪れた。このままずっとこれぐらいの気候が続いてくれれば日本も良い国になるのだが、と思いつつ渡海雄と悠宇は今日もまた集うべき場所へと集っていた。


「ということで、一九九三年はシングルでもアルバムでもガツンと濃厚なのを繰り出して第一人者として文句なしの成績を残したチャゲアスだけど、ここからどう続けるかってのは本当に大変だっただろうね」


「確かに。『YAH YAH YAH』はもう決定版って楽曲だし、いつまでもあんな勢いが続くはずがない」


「そういうわけで九十四年、この年はいつもに増して精力的にライブ活動を行い、人気が高まっていた台湾などでコンサートを行うなどアジア進出も果たしたんだ」


「ひええ、よくやるものね」


「その分オリジナルアルバムはゼロ。その代わりにいくつかのベストアルバムが発売され、まずは前哨戦として前年九十三年の十二月に『CHAGE&ASKA THE LONGEST TOUR MEMORIAL』なるボックスセットが出た」


「内容は?」


「平たく言うとレコード会社移籍した第一弾『モーニングムーン』から『YAH YAH YAH』までのシングルCDをワンパックに収めたものだよ。これでいまいち扱いの悪いカップリング曲も一網打尽ってわけ」


「そう言えばその辺は全部カットされてたわね」


「移籍前みたいにCD特典で収録、なんてしてくれないからね。それとこのボックスも限定生産で実際ほとんど見かけた事ないから、チャゲアスの音源を探そうってなった時鬼門になってきた箇所でもある」


「ではその第一弾として『モーニングムーン』のB面『Gently』。作詞作曲C、編曲栗原正己」


「ピッ! トットットトトトってガラス瓶の中にピンポン球を落としたような効果音がやたらと頭に残る曲。曲自体は柔らかく心地良いんだけど、アレンジが主張しすぎで全部持っていかれてる」


「次は『黄昏を待たずに』のB面『DIAMOND SAND』。作詞M.Takayama、作曲C、編曲古川健次。誰って人ばっかりだけど」


「まず作詞は高山真由美という音楽ライターの女らしい。編曲の古川は、なんかギタリスト。ちょっとチープな打ち込みサウンドは嫌いじゃないよ。歌詞に関しては年号を使い『まさに今起こっているドラマなんだ』という同時代感を高めようとする工夫が興味深い。小室哲哉なんかもよく使ってる手だけど、今となってはそんなにも昔の曲なんだなあとか変な感慨を覚える羽目になるのが玉に瑕」


「次は、あれ、こんなシングルあったっけ?」


「ああ、それはカップリングだけじゃなくてシングル曲のほうもアルバム未収録だからスルーされ続けてたんだよ」


「なんとまあ。そんな哀れなシングルは『Count Down』。作詞澤地隆、作曲C、編曲Light House Project」


「珍しいチャゲ曲シングルで、このアレンジャー特有の『ここで来るだろう』というタイミングを一寸も外さない打ち込みサウンドがゴリゴリ響くワイルドな曲。とは言っても元のシングルバージョンだとややアレンジが安っぽくて、ベストアルバムに収録される際にリミックスされてる。基本勢いだけの曲だし、音に厚みが加わった事で純粋にパワーアップしているのは良いんじゃないかな」


「そのB面が『恋人との別れ方(女の場合、男の場合)』。作詞作曲A、編曲関誠一郎。また見ない名前が。それとタイトルも変だけど何これ」


「当時二十歳そこらの関はシンセのオペレーターとかやっててコンピュータに詳しいから抜擢されたこの頃特有の人事かな。その打ち込みサウンドは、やっぱりかっちりしすぎてて時代を感じるけど、独特の落ち着いた気品を感じる。そして奇抜なタイトルも気になる歌詞は、平たく言うと恋愛指南。一番では女の、二番では男の相談者があれこれ悩みをぶつけててサビではその回答が提示されるという作りとなっている。凝ってるけどあまりにもコンセプト偏重で楽曲としては本懐を遂げられなかった印象」


「次は『やさしさの向こう側』。作詞澤地隆、作曲C、編曲栗原正己」


「肝心なところで何も出来ず道化を演じてしまういい人止まりの男の悲哀を描いた歌詞はいいんだだけど、ぼへっとしたアレンジがださい。でもこんなのでもサビで二人の声が合わさるとハッとさせる力を有しているんだから、本当に強力なボーカリスト達だよ」


「これで八十六年は終了。次は『SAILOR MAN』のB面『わき役でほほえんで』。作詞澤地隆、作曲C、編曲佐藤準」


「男に便利に使われてるだけと気付いていながら本心を隠しつつ都合の良い女を演じてみせる空虚さとか、『やさしさの向こう側』と根は同じで性別を入れ替えたような曲。でも大人の関係特有の刹那的な雰囲気や諦めの境地をそこはかとなく表したかのような軽くてスーッとしたアレンジは割と好きだったりもする」


「次は『恋人はワイン色』のB面『あきらめのBlue Day』。作詞澤地隆、作曲C、編曲村上啓介」


「これは前に触れたような気がする。光GENJIの『BAD BOY』と同じ曲で歌詞とアレンジが別という趣向だけど、出来はこっちのほうが上。村上のシャープなアレンジと飛鳥のコーラスが出色」


「次は『Trip』のB面『ソプラノ』。作詞澤地隆、作曲C、編曲澤近泰輔」


「ひたすら甘い曲を作ろうとしてひたすら甘い曲が完成したそう。これも声の重なりが一番のポイントかな。なかなかムードのある良い曲ではあるけど何か言おうとしても『甘いなあ』で終わるので意外と語りにくい。茫洋としていて、触れようとするとふっと霧散してしまうような。そう考えると曲としては『キャンディ・ラブになりすぎて』が大幅グレードアップしたようなものなんだろうか」


「次は『WALK』のB面『抱いたメモリー -as time goes by-』。作詞澤地隆、作曲C、編曲村上啓介」


「桜の花びらがハラハラと舞い落ちるようなイントロからのアレンジが良いね。別れた女を引きずってたけど街で偶然出会った事で完全に思い出に昇華されたよってドラマがしっかりした歌詞も面白い。『LOVE SONG』のカップリングでアルバムとアレンジが異なる『Break an egg』と違って、九十二年の再発シングルでも差し替えられなかったから入手難易度がかなり低いのも素晴らしい」


「大体こんなもんかな。他は基本アルバムに入ってるっぽいし」


「『太陽と埃の中で』のライブ音源とか、『僕はこの瞳で嘘をつく』の『TREE Digest』はスルーでいいかな。各曲の切り取り方なんかは面白いけど。『SOME DAY』はちょっと考えたけど元々マルチマックスの曲だし、また別の機会もあるだろうしね。とりあえずボックスに関してはこれでいいでしょ。続いて九十四年の八月二十五日、まさにデビュー十五周年のその日に発売されたのが『Yin&Yang』。陰陽なるタイトルを冠した二枚組ベストで、一枚目のYinディスクはバラードなど落ち着いた曲が、二枚目のYangディスクには派手な曲が入ってる」


「でも全体的にマイナーと言うか、アルバム曲ばっかり?」


「しかも曲の合間にDJによるナレーションが入ってたり、単なるベストでは終わらせない工夫がなされている。でも邪魔、なんて言ったらコンセプト全否定だけど正直オリジナルアルバムでいいかなってところもあったり。と、ここで終わらせてもいいけど一曲だけは言わせて。『なぜに君は帰らない』のカップリングで、他のアルバムには未収録だからここぐらいしかタイミングない」


「『Knock』って曲ね。作詞A、作曲C、編曲井上鑑」


「これは良いよ。サウンド自体からしてかなり力強いんだけど、焦燥感と言うか刹那的に生きて一時的な快楽を得たところで根本的な不安は消えないわけだし、そういう煮え切らない心情を歌詞をメロディに半ば強引に詰め込んでるのがやけっぱちなエネルギーの発散を感じさせる。むしゃくしゃしてついやってしまった的な。そして何より歌い出しからシャウト一発で吠えまくる飛鳥の歌唱の強烈さよ。最後のリフレインも真に迫るし、これほどの曲がこの程度の扱いに甘んじているのがとても信じられないとファンの多くが思ってる隠れ名曲筆頭とでも言うべき立ち位置の曲」


「八十年代は正直穴埋めっぽい曲も多かったけど、やはりこの時期のクオリティは違うわね」


「そして年末にまた四枚組のボックス出した。それが『SUPER BEST BOX SINGLE HISTORY 1979-1994 AND Snow Mail』。長い。でもその内容は結局のところシングル集で、一枚目は『SUPER BEST』だけど、かなりリミックスされてる。顕著なのは『放浪人』と『標的』で、コーラスやら楽器が完全消滅してたり声のバランスが全然違ったりともはや別アレンジ状態。『華やかに傷ついて』『オンリーロンリー』あたりも明らかに違う」


 ここで個人的な思い出を述べさせてもらうと、この辺の初期シングルは子供の頃、家にCDはなくてカセットで聴いていたが、そのカセットに入ってたのはこのボックスのバージョンだった。だから「ひとり咲き」とかBメロへのブリッジの際にドラムがバシンバシンと派手な音してないと違和感あるし「放浪人」「標的」も最初に原曲聴いた時は「なんだこの昭和臭いアレンジ! まがい物かよ!」と思ったのを告白させていただく。とにかくそれぐらい違うのだ。 


「そして二枚目はそのまんまⅡ。ならば三枚目はⅢといきたいけどたったの七曲しか入ってない。十五周年を外せなかった心情は分かるけど、もうちょっと貯まってからでも良かったのに」


「楽曲自体は濃厚なのが揃ってるけど、さすがに量がね」


「そして四枚目は『Snow Mail Special』と題して、クリスマスの曲が集まっている。その母体となったのが八十六年にアナログ限定で発売されたミニアルバム『Snow Mail』。これもここまでスルーし続けたけど、ここらで紹介するよ」


「まず一曲目は『シルバーパラダイス』。作詞作曲A、編曲瀬尾一三」


「ボイスパーカッションなどアカペラを駆使したイントロが可愛らしい。スケートで氷の上を滑るようにスーッと通り過ぎて行く。歳末の賑やかな雰囲気を切り取ったような、跳ねるような楽しさにあふれている曲」


「次は『ボニーの白い息』。作詞澤地隆、作曲C、編曲瀬尾一三」


「前曲のアウトロの鈴の音がイントロにつながってて、引き続きクリスマスで騒がしい街を二人で歩いているイメージかな。タイトルは、一瞬馬のイメージ浮かぶんだけどポニーじゃなくてボニーで、これは三十年代のアメリカで強盗を繰り返したボニーとクライドって犯罪者がいたんだけど、様々な理由から英雄視される風潮が生まれて、一種の伝説的な恋人みたいになってるんだ。別にアウトローな世界観は皆無でむしろ暖かさを感じさせる曲なんだけどね」


「次は『WHITE NIGHT,WHITE MOON』。作詞作曲A、編曲瀬尾一三、英訳詞Linda。誰よリンダ」


「この頃の英詞担当として色々な歌手と頻出するリンダ・ヘンリックかなと思うけど、そんな人がクレジットに出ているだけあって全編英語の歌詞が最大の特徴。曲自体は一時期の教会音楽路線にも近い、荘厳ささえ感じさせる静謐なバラード。かなり真面目な作りなんだけど……、次曲へ続く」


「四曲目は『今宵二人でX'mas』。作詞澤地隆、作曲C、編曲瀬尾一三」


「クリスマスパーティーが始まって、本当は二人で過ごしたかった彼女はすっかりエンジョイしてて自分は告白すら出来ずに苦笑い、というオチ担当の楽曲。賑やかで楽しそうなサウンドの中で男が見事にピエロと化している哀れな滑稽味はさすが澤地といったところ」


「起承転結って感じの、よくまとまったミニアルバムになってるわけね」


「元々は盤面にも意匠が凝らしてあったり、遊び心満載のアルバムだったと言う。それにプラスして『なぜに君は帰らない』『You are free』のカップリングに収録されたスタンダードナンバーと『世界にMerry X'mas』のオーケストラバージョンも収録されている」


「一応データとしては『WHITE CHRISTMAS』。作詞作曲Irving Berlin、編曲服部隆之、『星に願いを~WHEN YOU WISH UPON A STAR』。作詞Ned Washington、作曲Leigh Harline、編曲服部隆之。『世界に~』も編曲に服部が加わってる」


「この服部は祖父も父も有名な音楽家というサラブレッドで、オーケストラを用いた正統派の音作りが特徴。どっちかというとドラマなど映像作品で活躍している。そしてこれらの曲に関しては、個々がどうこうってのはないかな。元々クリスマスアルバム作ろうって発想あったけどポシャった名残らしい」


「それにしてもボリュームあるベストアルバム出しまくりだったわね」


「凄いのはこの四枚組アルバムボックスが普通のアルバムを抑えてオリコンの週間一位獲れた事実だけどね。普通ありえないでしょ。ジャケットが特殊だし三十万枚限定生産だからこの時期のアルバムにしては見かけないけど、そこまでレアではないから根気よく探せばあんまり高い金を払う必要もない。とにかく過去の遺産を掘り起こすだけでもこの莫大な埋蔵量だからね。時代を作っただけはある」


 このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので、二人はすぐさま変身して敵が出現したポイントへと馳せ参じた。


「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のオキナワキノボリトカゲ男だ! この宇宙の片田舎にまでも真理の光を広めるのだ」


 その名の通り沖縄や奄美大島などに住む日本固有種のトカゲを模した男が抜けるような秋空の日差しに照らされた路上に出現した。絶滅危惧種のくせに侵入生物として駆除されかねない哀れな存在だが、この男もまた危険な侵略者である。そしてそれを駆除せんとする勢力はすぐに現れた。


「やはり出たかグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「いっそトラブルが起きたとかでずっと出てこないままなら良かったのに。でもこうなったからには戦うわ」


「ふん、出たかエメラルド・アイズ。今日こそ貴様らのような闇を払う時だ。行け、雑兵ども!」


 指揮官の指示に従って無機質なマシンが続々と襲いかかってきたが、渡海雄と悠宇は協力してそれを倒していき、ついに残る敵は一人だけとなった。


「これで雑兵は尽きた。後はお前だけだオキナワキノボリトカゲ男!」


「侵略しなければ拳じゃなくて手を握りあえたはずなのに、そうまでしてなぜ攻める」


「それは貴様ら害虫を駆除するためだ。こうやってな!」


 そう言うとオキナワキノボリトカゲ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり聞く耳持たずか。人間同士がその尊厳を認め合うまでもう少し時間がかかりそうなのが残念だが、今は戦うしかない。二人は合体してその暴力に対抗した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 なかなか素早い動きのオキナワキノボリトカゲロボットに多少手こずりながらも、悠宇は持ち前の反応速度でジリジリと敵を追い詰めていき、ついには組み伏せた。


「よし、今よとみお君!」


「うん。ここは必殺のランサーニードルだ!」


 このチャンスを逃すまいと、渡海雄はすかさず黒色のボタンを押した。胸から腹部にかけて左右にずらりと並んた発射口から放たれた無数の棘が敵を貫きまくった。


「ちいっ、強い! この俺を退かせるとは」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってオキナワキノボリトカゲ男は宇宙へと帰っていった。渡海雄と悠宇はそれがいつまで続くか知らないにせよ、今を包むつかの間の平穏を丘の上に座って眺めていた。今日もまた夕日が落ちる秋の空であった。

今回のまとめ

・スマホはPCの代わりには結局なりえないというものだ

・曲数の割に旨味少ないベスト連発でも売れるあたりが全盛期っぽい

・アルバム未収録曲はそれもやむなしかなというしょっぱい曲が多い

・「Snow Mail」はしっかりした作りの佳作で十分に楽しめる

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