ca14 ENERGYについて
今年もまた地球に春が訪れた。麗らかな日差しを受けて元気いっぱい、と思いきや太陽が頑張りすぎて暑いぐらいの日があったかと思えば今度は去ったはずの冬と再会したりとまだ定着には至っていない模様だ。しかしそれもまた春の醍醐味。方向性としては確実に暖かなほうへと進んでいるのは花の香からも明らかだ。
「ううう、今日は寒い日よね、とみお君」
「そうだねゆうちゃん。でも明日はもっと暖かくなるんだってね。まあ春だもんね。大地も冬の間に蓄えたエネルギーをじわじわと開放させていってさ、これからもっと楽しくなるよ。というわけで今回は『ENERGY』。一九八八年の十一月に発売されたアルバムだよ」
「この年は二枚出したのね」
「しかも提供もこなしながらね。まったくもって精力的な活動だけど、当初はロンドンに渡ってレコーディングする予定だったんだ。と言うかこの頃はずっとそれをやりたいって思ってて、前作もロンドン行くよって予定がポシャって、そして今回もやっぱり忙しいので行けなくなった。でもここで発想を転換して、じゃあ逆に自分たちがロンドンへ行くんじゃなくてロンドンからミュージシャンを呼び寄せればいいじゃないか、と思いついたんだ」
「それはまた景気のいい話ね」
「バブルだもんね。それで向こうで活動しているミュージシャン三人が来日した。それがドラムで長髪が格好良いリチャード・スティーブンス、ベースで黒人のデズモンド・フォスター、ギターでQUEENのボーカルみたいなヒゲ男グレン・ナイチンゲール」
「とか名前出されても知らないけど」
「正直僕も彼らの向こうにおける活躍は詳しくないけど、とにかく彼らとのレコーディングがこのアルバム最大のトピックスで、アルバムにも彼らの写真が山盛り。それとこの時期、バブルだから飛鳥が出資者の一人となって音楽スタジオを作ったんだ。その名もバーニッシュストーンレコーディングスタジオ。このアルバムもここでレコーディングが行われたんだ」
「バブルって凄いものね。話の規模がいきなり全然違う」
「それでロンドンのミュージシャン達は日本のスタジオミュージシャンと違って譜面が読めず、まずデモテープを作ってからミュージシャンそれぞれがアイデアを膨らませる形で楽曲を煮詰めていったと言う。そういう作り方の違いもアルバムのニュアンスに影響しているんじゃないかな」
「それは聴いてみないと分からないけど。まず一曲目は『ripple ring』。作詞C&A、作曲C、編曲十川知司」
「で、さっきまで長々と外国人ミュージシャンの説明してたけど、この曲はどうやら外国人が関わってないみたいなんだ」
「はあ」
「まずこれは前作からシングルカットされた『ラプソディ』のカップリングで、ミュージシャン表記見るに編曲の十川らBLACK EYESの面々による演奏だそうで。でもだからと言って悪い曲って事はなく、むしろこのアルバムの中でも屈指の名曲だよ。水面にしずくを落とせば波紋が輪になって広がるでしょう。はごろもフーズ的な。このタイトルはそれで出来た輪の事で、歌詞はそのイメージに準じてまず小さな一歩から始めてそれが大きな広がりになってくれれば素敵じゃないかなって壮大なもの。楽曲も当時に流行に阿る事なく、まったりしているんだけどそれが心にじんわりと染みこむような心地良さを生み出しており、いきなり凡庸なアルバムとは違うぞというオーラを放っている」
「ハーモニーなんかも響かせてて、今までにあんまりないパターンよね。次は『Trip』。作詞作曲A、編曲十川知司」
「これがシングル曲にもなったんだけど、聴いてみて正直どう思う?」
「ううん。ええっと、あんまり?」
「だよね。僕も最初は何これって思ったもの。とは言えそれは本人も自覚していて、それでもなお『今自分たちが良いと思った曲を出したい』という強い希望によってシングルになったんだ。そんな楽曲の特徴は一度聴いただけでも明らかだけど、とにかくスキャットだよ。イントロからいきなり飛鳥が叫び、最後もチャゲと飛鳥が変幻自在に織り成す超絶的なハーモニーで締め。つまりこれは二人の歌声を聴く楽曲だよ」
「ボーカリストとしての実力を世に示した感じ?」
「ちょうど楽曲提供者として注目されてた時期だし、じゃあ自分達がアイドルとの違いを見せられるのはってなるとやっぱり歌唱力の部分だからね。またサウンドとしては全体的にキーボード基調で、夜の都会を舞台にしているだけにキラキラしているけど物淋しげでもある。でもサビでは意外と重いギターが鳴ってたり一筋縄ではいかない。更にこのアルバムバージョンでは最後いきなりサンバみたいなサウンドになって、これはちょっと唐突でやりすぎかも。歌詞は結構抽象的な表現が多くて幻想的な中にも生々しい質感がある。聴けば聴くほど凄いなあってなるけど、やっぱり一番凄いのはこれをシングルに推した判断」
「確かにこれがシングルってのは大胆よね。次は『赤いベッド』。作詞澤地隆、作曲C、編曲国吉良一。この国吉は初めての名前よね」
「うん。キーボーディストで、外国人を招くにあたって英語が出来る人がいいよねって事で抜擢されたみたい。で、この曲自体はまさに後に繋がるチャゲ色というか、マニアック担当みたいな枠」
「次はアルバムタイトルにもなっている『Energy』。作詞作曲A、編曲瀬尾一三」
「ここに来てようやくと言うか、やっとタイトル通りのエネルギッシュな曲が出てきた。とにかくアップテンポでかなりノリの良い曲。外国人が来るけど先方が『デモテープ出来てないの? ないと困るよ』って事になったから来日するまでにささっと作り上げた曲らしく、そういう慌ただしさが楽曲の勢いにも反映されているんだろうね。それでどうにか間に合ったデモテープを来日したばかりのミュージシャンたちに聞かせたところ大はしゃぎだったらしいけど、チャゲアスサイドから見るとファーストコンタクトで上手くいくかという勝負でもあったはずだし、サビの高音に代表されるやたらとテンション高い歌唱はその気合の現れかもね。アレンジで言うと最後のサビでちょっと音が減って失速したみたいになるのは謎」
「次は『Rainy Night』。作詞澤地隆、作曲C、編曲国吉良一」
「頭サビでガツンとしたロックテイストの楽曲なんだけど、どんよりとスモーキーな感じが不健康そうでこの曲の持ち味となっている。ハードボイルドなテイストと言うのか。アウトロにおける演奏の盛り上がりと、ここからどうやって収拾をつけるんだろうと思ったところでぶった切るような終わり方も印象的」
「次は『東京Doll』。作詞澤地隆、作曲C、編曲国吉良一」
「これもまた何というか、アップテンポだけどメロディー自体が割と変と言うか、どうなのって部分は正直あるかな。サウンドも独特な盛り上がり方するけど、でもやっぱりマニアックな雰囲気はかなり漂っている。歌詞はかなりやさぐれた女が出てきて、その女とは一度会ってそれきりなんだけど、都会で荒んでるなあという感じ」
「次は『Love Affair』。作詞作曲A、編曲国吉良一」
「これは当時不良役を得意としていた清水宏次朗という俳優に提供した楽曲をセルフカバーしたもので、清水版は『F』というカーレースを題材にしたアニメのオープニングにもなっていたんだ。だからこのアルバムの中では平易な曲。全体的な雰囲気はちょっとファンキーで『Energy』とどこか似ているけど、サウンドはより軽い感じ。ノリが良くて都会的と言えばそうなのかも知れないけど、個人的にはもうちょっとこうガツンと来るものがあれば良かったかなと思う」
「次は『夢のあとさき』。作詞澤地隆、作曲C、編曲瀬尾一三」
「イントロでスパニッシュギターの物悲しい演奏がしばらく続くけど、曲自体は割とまったりとしてて結局頭に残るのはスパニッシュギターばかり、みたいな曲」
「次は『迷宮のReplicant』。作詞作曲A、編曲十川知司」
「これはアルバムトップの名曲。元々は有名なSF小説を原作にしたブレードランナーってアメリカの映画があって、そこではレプリカントという人造人間が開発されているんだ。作中には自分が普通の人間だと思ってたけど実はレプリカントだったって登場人物が出てくるんだけど、それにインスパイアされたみたいで『自分ももしかするとそうなのかも知れない。今自分がそう思っている好きとか嫌いとかの感情も実は誰かのプログラム通りなのかも』という疑念が歌われている。楽曲としてはまずデジタルな質感の中にもどこか現実離れした幻想的なイントロから早くも別格のオーラが漂っているんだけど、静かな歌い出しからふとした疑念が湧いて、それが次第に頭の中で大きくなっていくうねりが歌になったような楽曲で聴いててゾクゾクする」
「そして最後は『Far Away』。作詞作曲A、編曲瀬尾一三」
「アルバムのラストを飾るにふさわしい熱量のこもった迫真の大バラード。さすが瀬尾一三の職人仕事というパワフルなギターと歌声が混ざり合って、力強いうねりを形作っている。このアルバムで瀬尾とはお別れとなるけど、ひとつの集大成とも言える貫禄ある曲に仕上がっている」
「これで終わりね。全体的にエナジーって言う割には意外と地味な曲が多かったみたい」
「地味というか神秘的、幻想的なイメージが強いのは確かだよね。出だしの『ripple ring』からしてそうだし、シングルに『Trip』を繰り出してきたのもそういう楽曲を今はやりたいと思っている現れだろうしね。そして無論『迷宮のReplicant』も。」
「これは何なの? 当時の流行り?」
「『パラダイス銀河』が年間一位の年にそれはどうだろうね。むしろ当時はバンドブームってのがあって、若さと勢いに任せた楽曲がヒットチャートを賑わせていた時代でもあったんだ。バブルだしね。でもそろそろ二十代を終える時期のチャゲアスにとってそのブームには違和感と言うか本当にそれだけで売れていいものか、何かないがしろにされているものがあるんじゃないかと懐疑的な部分もあったみたい。それはミディアムやバラードを推した前作からも引き続く部分なんだけどね、今回はより夢幻的な路線に進んできた。それはもちろん光GENJIのようなファンタジーとは異なり、『21世紀』みたいな宗教的精神世界とも違う。時代に迎合するのではなくむしろそっと離れて、俯瞰した立ち位置から眺めた都会の景色がこういうものだったのかもね」
このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので、二人はすぐに着替えて敵が出現したポイントへと急いだ。
「ふはははは、私はグラゲ群攻撃部隊のナミアゲハ女! この星に真実の光を届けるのだ」
黄色と黒の翅をひらひらとなびかせた姿の異星人が草原に出現した。蝶々の中でもメジャーな、いわゆるアゲハチョウは大体このナミアゲハの事である。しかし春の草原にひらひらと舞うアゲハチョウと違って地球に大きな害をなす存在なので、横暴を許してはならない。その抑止力はたちまち現れた。
「やはり出たかグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」
「こんないい季節なのによくも出てきたわね。害をなすなら容赦はしないわ」
「容赦などされる必要もない。お前達は今日この瞬間、打ち倒されるのだからな! 行け、雑兵ども!」
現在啓蟄のまっただ中、穴から湧き出る虫の如くぞろぞろと出現した雑兵たちを渡海雄と悠宇は次々と撃破していき、ついには全てを倒した。
「よし、雑兵は全部片付いたみたいだな。後はお前だけだナミアゲハ女!」
「春なんだしもっと仲良くすればいいのに。戦いの中でもね。友を受け入れる心は常に持っているんだから」
「賎民の分際で友などと自惚れるなよ。グラゲの威光に背く貴様らに与えるものは死以外ありえんのだ!」
あくまでも戦いを望むナミアゲハ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。春なのにどうして争わなければならないのか。しかし戦わなければこの地球は終わる。悲しみを押し隠しつつ、二人は決意を秘めて合体した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
空を舞い上がり戦う二つの巨体。今日がもう少しいい天気ならさぞかし青空に映えた事だろう。しかし華やかさの中に闘志をぶつけ合う戦いはまさしく熱戦であった。そして悠宇が一瞬の隙を見て一気に接近して一撃を与えた。
「よし、ここよとみお君!」
「勝負は一瞬。エンジェルブーメランでとどめだ!」
渡海雄はすかさず桃色のボタンを押した。肩から出てきたブレードパーツを素早く組み合わせて、ナミアゲハロボットに投げつけたところその不規則な軌道が敵の機体をバラバラに切り刻んだ。
「この戦いは私の負けかも知れぬ。しかし我々は負けない! 必ず貴様に死を与えよう!」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置に乗せられて、ナミアゲハ女は宇宙へと帰っていった。そしてまた穏やかな春に戻った。
そして今日はJリーグの試合があったが、サンフレッチェがここまで意外にも善戦を続けている。今日の鹿島戦は内容も明らかに良くなっているし、PKを与えるも守り切ったり運もありそう。もちろん失点を防いだのは林のナイスセーブだが、PKってキーパーが最善の動きを見せても相手が完璧なキックしたら決められるものだし、その辺はやはり運の絡む問題だと思っている。そして去年は運はなかったが今年は違うぞと思わせる部分でもある。
去年の今頃は昇格組や下位チーム相手にまるで勝ち点取れず「あれ、これかなりやばいんじゃないか」というムード全開だった。で、その体験を踏まえて今までの対戦相手を見るとルヴァンカップでやったガンバはやばい。一失点目とかサンフレッチェの選手がどいつもこいつもフリーだし、チームとして全然機能していないのでは。しかしまだ始まったばかり。これからいくらでも巻き返しはあるので、弛まず臨んでいってほしい。
今回のまとめ
・先週末やたらと暖かかったのは一体何だったのか
・かなり独特なスタンスのアルバムで曲の出来不出来も激しい
・「ripple ring」や「迷宮のReplicant」が纏う雰囲気は別格
・サンフレッチェこれは本気で期待しちゃっていいのか